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チャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」公演

2008年7月13日、バイエルン州立歌劇場にて。
終演後のケント・ナガノと出演者達。
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Conductor: Kent Nagano
Production: Krzysztof Warlikowski
Set and Costumes: Malgorzata Szczesniak
Choreography: Saar Magal
Lighting: Felice Ross
Chorus: Andrés Máspero
Dramaturgy: Miron Hakenbeck, Peter Heilker

CAST
Larina: Iris Vermillion
Tatjana: Tatiana Monogarova
Olga: Elena Maximova
Filipjewna: Elena Zilio
Eugen Onegin: Michael Volle
Lenski: Marius Brenciu
Fürst Gremin / Saretzki: Günther Groissböck
Triquet: Guy de Mey

The Bavarian State Orchestra
The Chorus of the Bavarian State Opera

ヴィーンで見た「ドン・カルロ」でエリザベッタ役を歌ったOlga Guryakovaがタチアナ役で出演するのが決め手になってこのオペラの切符を買ったのですが残念ながら彼女は降板してしまいました。よくあることなのでまたの機会を楽しみにしましょう。

代役はやはりロシア人のTatiana Monogarovaという初めて名前を聞く人です。スタイルのいい人で見栄えがしますし歌も上手なのですが声は非常に魅力的というわけではありません。それでも前半はかなりよかったのでまたいいソプラノを見つけたかな、と思っていたらだんだん声が周波数的に分散するような状態になりそれは時間と共にどんどん増大してかなりがっかりさせられました。グリャコワのキャンセルが痛い。

オルガを歌ったElena Maximovaは特別なキャラクターには欠けるものの無難なメゾソプラノで悪くないです。

今日はレンスキー役に予定されていたChristoph Strehlも急病なのか代役が歌いました。ルーマニア生まれのMarius Brenciuというテノールです。声は美しくて魅力的ですがやはりキャラクターに乏しく、3月にROHで聴いたベチャラなどの一流どころと比べると単に優等生的という印象です。急な代役だから仕方がないかもしれませんが。

タイトルロールを歌ったMichael Volleは水準以上の歌唱ですが特段凄いと言えるわけではありません。アリアなどちょっと一本調子で、聴いていてわくわくするような歌唱ではないのが残念です。プリンス・グレミンを歌ったGünther Groissböckは姿形も若々しく力強い歌唱が印象的で、低音もよく響いていました。

ケント・ナガノ指揮のオケは質の高いいい音を出して「さすが」と思わせる演奏ですが、チャイコフスキーの音楽としてはやや流動感に乏しく、これも3月にROHで聴いたビエロフラーヴェクの指揮にはかないません。

演出は大変変わったものでゲイダンサーを始めカラオケやTV、カセットレコーダーなどが出てくる現代読替ものですが、既に普通の伝統的舞台を見たことがある人には受け入れられる範囲のものと思います。しかし初めてこのオペラを見る人にはあまりお勧めできません。叙情的な味がこのオペラのすばらしい一面だと思うのですがそれが払拭されています。タチアナだって読書シーンはあるものの現代娘的キャラクターで、最初のオルガとの二重唱はマイク片手にクラブで踊りながら歌うものだし、オネーギンへの告白を拒否された後も、「本当に好きなのよ」といわんばかりに脚を彼に絡めてまで追いすがる積極さも見せます。訳の分からない場面も満載で、決闘シーンだって二人でダブルベッドの上で悶々としているし、その部屋のガラス窓の外ではカウボーイ姿の男達が女の人形相手に輪姦シーンを描出しているし、レンスキーが殺された後は彼等が女装してベッドの周りを踊り回るし、どうもいまいち解釈に困るものの特に不愉快でもないです。文句を言いたいのは登場人物達があまりにも頻繁にたばこを吸うことで、最後にタチアナに振られたオネーギンもむしゃくしゃした気持ちを吹っ切るかのようにたばこを吸って幕。スポンサーにたばこ会社が付いているのかと疑ってしまいました。

ホールの音響について高い席だったにも拘わらず不満がありました。今回は1 Rangの中央やや右よりの最前列で、舞台を見るには最高ですが、歌手の歌う場所によってはすぐ後ろの天上と壁の間で共振するらしく、まるでそこにスピーカーがあるがごとくの音になりかなり不愉快でした。歌手が舞台の右端3分の1あたりで歌うとその現象が起きます。席が異なると歌手のポイントも違ってくるのでしょうけれど。翌日座った3 Rangの同様の席ではそういう現象は一切ありませんでしたし、10年ぐらい前に平土間で聴いたときも欠点は感じませんでしたので、1 Rang特有の現象なのでしょう。

10年前にここで「ヴァルキューレ」を見たときのことは仕事の合間だったせいかあまり憶えていないので、今回劇場を始めいろいろ新鮮に見ることが出来ました。観客のおしゃれ度はかなりのものでドレスデン、ヴィーン、パリ、マドリードなどのどこよりも服装に気を使っている感じでした。劇場はロビースペースが広々しているのも気持ちがいいです。インターヴァルには座席出入り口の鍵をかけてしまうので席に貴重品を残しても安心ですね。この日は気温が20度程度だったので多分エアコンは効いていなかったと思いますが、上の方の階に行くにつれて気温が上昇しているのはロンドンのロイヤルアルバートホールと同様でした。最上階はかなり暑いです。

下の写真はカーテンコールのTatiana MonogarovaとMichael Volleです。
チャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」公演_c0057725_0353181.jpg

by dognorah | 2008-07-17 00:40 | オペラ | Comments(11)
Commented by Sardanapalus at 2008-07-17 20:01 x
>Michael Volleは水準以上の歌唱ですが特段凄いと言えるわけではありません
何だかゴツいオネーギンですね(^^)個人的には、もっとなよっちい歌手に歌ってほしい役です。

>決闘シーンだって二人でダブルベッドの上で悶々としているし
!ああ、そういえばミュンヘンの新演出はオネーギンとレンスキーがゲイカップルという設定なんだそうですね。いくらなんでもそりゃないでしょ、と思っていましたが、この写真の2人を見ると余計にアリエナイ~(^_^;)
Commented by dognorah at 2008-07-17 22:32
あ、ゲイカップルという設定ですか。知りませんでした(^^; それでゲイのお兄さん達が沢山登場というわけですね。レンスキーは婚約していたから両刀遣いというわけですか。
フォッレはとても大きい人で、フランケンシュタインを思わせる容貌ですよね(私の撮った写真ではそういうのがあります)。フンメルさんの情報では彼はここの専属になったみたいです。
Commented by フンメル at 2008-07-19 19:18 x
あのレンスキーの役柄は、作曲家自身の「同性愛・自殺説」を意識してますよね。幕をずらして、自殺直後にポロネーズを持ってきたのも、それなりに意味があるかなあと思いましたが、かなり悪評高かったです。(笑)
>Michael Volleは水準以上の歌唱
フォレさんは、「そんなに歌いまくって大丈夫??」というくらいミュンヘンでの貢献度が高いので、私の評価はかなり甘めです。(^_^)
Commented by dognorah at 2008-07-19 23:26
レンスキーは自殺という設定なんですか?でも、ピストルを撃ったのはオネーギンですよね。

フォッレはそんなに出まくって、聴衆から「またか」というような食傷コメントは出ないんでしょうか。ROHの専属達は脇役にしか出ないからいいのですが、主役級がいつも同じ人というのはどうでしょう。
Commented by Sardanapalus at 2008-07-20 21:25 x
>フォッレ
>彼はここの専属
そうなんですか!ドイツの歌劇場の専属歌手と言うことは、今後は主役級の役をどんどん歌うんですね。ミュンヘンの歌劇場は大好きなのですが、フォッレの声は好みで無いので複雑です。ROHの「サロメ」のヨカナーンも、朗々とした大声だったことと、体が大きかったことしか覚えていません。あはは(^_^;)
Commented by dognorah at 2008-07-21 05:09
Sardanapalusさん、フンメルさんのコメントにもあるように既にかなり出まくっているようです。まあ、オペラは一人で演じるものでもないですから。
Commented by 助六 at 2008-07-21 07:45 x
うわっ、今度はミュンヘンですか!やっぱりドイツで一番美しい劇場でしょうね。フンメルさんの貴重なコメントまで読め嬉しかったです。
ワルリコウスキはポーランド出身、仏で勉強した人で、数年前からアヴィニョン演劇祭で注目を引き、モルチエがオペラに起用した人だからパリではもうオペラ3本やってます。
それなりに面白い才能で個人的には嫌いじゃないですけど、今のところ本当に感心したこともありません。無意味なアチャラカ前衛でも、とてつもない切れ味でもなく、挑発としても解釈としても驚くようなものは別にない印象を持ってます。
「イフィジェニー」なんかそれなりに必然性はある解釈だったけど、「空いた空間埋めてるだけの」空転してるアイデアも盛り沢山、「オネーギン」もその気ありそうな。「マクロープロス」も面白いアイデアもあって特にその舞台装置への具象化は巧みですけど、歌手の動かし方なんかちょっとダレてる。一番良かったのは「パルジファル」で、映画「2001年」に重ねるアイデアも無理はないし特に舞台装置はなかなか。帰って読み返すと台本にたいへん忠実でもあるんですね。
Commented by 助六 at 2008-07-21 07:46 x
パリでは3本とも洗面台が登場して揶揄の対象になってましたが、今回はありましたか? 例の「洗顔・髭剃り・化粧=自己確認」の意味だそうですが。

レンスキーとの同性愛説は前からあって、言われてみるとチャイコは決闘前の2人の「ニエット」の音楽にそういう意味をこめてるようにも聞こえます。同性愛説はロドリーゴとカルロとか、昔はアイーダとアムネリスなんてのまでありましたね。
Commented by dognorah at 2008-07-21 19:32
助六さん、ドイツは未だ先月のドレスデンとここしか見たことがありませんが確かにこっちの方が美しいです。これからベルリンなど他の劇場も少しずつ訪問したいと思っています。
ワルリコウスキはパリではお馴染みでしたか。今回の演出は私も嫌いじゃありませんがちょっと戸惑ったのも事実です。洗面台は登場しませんでした。
同性愛説はいろいろあるんですね。近年になって同性愛が広く認められるようになってからは抵抗なくそういう設定が出来ちゃうんでしょうね。
Commented by 守屋 at 2008-07-26 06:27 x
こんばんわ。ロイヤル・オペラのらいシーズンのスケジュールをざっと見直していたら、フォレさん、「ルル」にでる予定ですね。観たことも聞いたこともないオペラなので勝手な思い込みですが、フォレは難解なオペラを得意としているのかな、と。
Commented by dognorah at 2008-07-26 23:51
私も「ルル」は見たことがないオペラですが、フォレと共にクラウス・フローリアン・フォークトも出演するので注目しています。
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