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ベリーニのオペラ「カプレティ家とモンテッキ家」

2008年6月8日、パリオペラ座バスティーユにて。
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I Capuleti ed i Montecchi
Opéra en deux actes
Musique: Vincenzo Bellini
Livret: Felice Romani

Direction musicale: Evelino Pidò
Mise en scène: Robert Carsen
Décors et costumes: Michael Levine
Lumières: Davy Cunningham
Orchestre et Chœurs de l'Opéra national de Paris

CAST
Capellio: Giovanni Battista Parodi
Giulietta: Anna Netrebko
Romeo: Joyce DiDonato
Tebaldo: Matthew Polenzani
Lorenzo: Mikhail Petrenko

初めて見るオペラです。ネトレプコが出演するというのでなければわざわざパリまで見に行くこともなかったでしょう。しかしキャンセルのリスクを心配しながらも行ってよかった。予定通り出演したネトレプコの歌唱はそれはそれはすばらしく、いつものあの柔らかく透明な声が全開で第1幕第2場冒頭のアリア“Oh! Quante volte”で早くも涙が出そうになったくらいです。世の中にはネトレプコのことが嫌いで彼女が歌うベルカントオペラを「あんなの、ベルカントじゃないよ」と悪口をたたく人も沢山いることは知っていますし、多分それはある程度的を得ているのでしょうけれど、彼女の歌唱はベルカントがどうのこうのというレヴェルを超えた高みにあると思います。
ベリーニのオペラ「カプレティ家とモンテッキ家」_c0057725_955013.jpgそれに先立つ第1幕第1場でのディドナートの歌唱も文句なしのすばらしさですが、カチッとした輪郭を印象づけられる彼女の声はネトレプコと一緒に聴くと硬い金属を思わせる印象になります。それぐらい声質が違うんですね。彼女は今まで女性役ばかり見てきましたが今回初めてのズボン役でフラットな靴を履いたせいでかなり身長の低い人だということが分かりました。見栄え的には来シーズンのROHで登場するガランチャの方がいいでしょう。それにも拘わらずディドナートの凛々しい姿はなかなか魅力的です(左の写真)。
テバルドを歌ったポレンザーニは昨年ROHのコジ・ファン・トゥッテでフェランド役を歌った人ですが今回もしっかりした歌唱と声で充分満足です。ロレンツォを歌ったペトレンコは声が軽めのバスですがこの役にはふさわしく、きれいに低音が出ていました。もう一人のバス、カペリオ役のパロディは対照的に重めのバスですが特に文句はないです。
指揮のピドは例によって全身を使った派手な指揮振りですが今回はあまりオケがいい反応を示さなかった感じがします。序曲はペラペラの音で、ここで今まで聴いた中では最低の出来でしたが歌手が歌い始めるとかなり持ち直しました。
演出はカーセンお得意のチープ路線ではありますが想像力で充分補える範囲だし、単純な舞台装置も様式的な壁の使い方が上手くてそれなりに納得できるものでした。

次の写真は終演後のもので、左からEvelino Pidò、Anna Netrebko、Matthew Polenzaniです。また、冒頭の写真は第3幕でジュリエッタが死んだと思って嘆き悲しむロメオの場面で、横たわっているのは妊娠中のネトレプコです。パリは美術館同様フラッシュさえ使わなければ公演中でも写真OKですが、今回初めて撮ってみました。
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by dognorah | 2008-06-11 09:14 | オペラ | Comments(11)
Commented by alice at 2008-06-11 16:10 x
妊娠すると声が柔らかくなると聞いてますが、ネトレプコも良かったそうで羨ましいです。4日後にパリで聴くのですが(最終公演)、ネトレプコはこの日は歌わなくて、チョーフィなのです。(涙)
Commented by dognorah at 2008-06-11 23:50
パリオペラ座もずるくてすべての切符が売れてから3公演のキャンセルを発表したような。私は本当にラッキーでした。ネトレプコとチョーフィーじゃ10倍ぐらい満足度が違うでしょう。
Commented by 助六 at 2008-06-12 08:29 x
無事にお聴きになれ本当に良かったです。
音楽の表現力が情緒的内容以上にアジリタやレガートの形式的技術面に集中しているベルカントでは、私も様式的な適合が薄いと楽しめない方です。
小生はネトレプコは02年にザルツでドンナ・アンナ聴いただけだったんですが、ヴェルディはともかくベルカントはどうかなというのが正直なとこでした。それが今回1回目に聴いた時はいやぁ、久しぶりに溜飲が下った気分、ベルカントでこのレヴェルの歌唱を聞かせてくれる歌い手さんとは想像してなかったもんで、最近はめったにないことでしたが、思わず余韻と春の宵空を楽しみながらマレ地区を徒歩で抜けて帰った始末。
ジュリエットには勿体ない気さえする重厚な声で、よく抜ける豊麗な美声、上から下まできれいに均等に出るし、高音・フィオリートの技術も確かです。伊語ディクションも立派なもの。
Commented by 助六 at 2008-06-12 08:32 x
ドンナ・アンナの時はスラヴっぽくない、分厚いヴィブラートもなければこもることもない自然な発声に意外な印象を持ちましたが、ベッリーニ歌うとやはり暗めの発声とやや幅のあるヴィブラートが目立ちスラヴ声であることは明らかなんですが、その限界を突き破るように凛とした旋律線をダイナミックかつスタイリッシュに運んでいく力量にその種のマイナス要因は忘れて思わず我を忘れてしまいましたねぇ。特に1幕フィナーレでアンサンブル全体を支え引っ張る旋律の造形力は圧巻。
ただ2度目に聴いたら、音程上小さなキズがあったこともあって、1回目よりはるかにスラヴっぽく聞こえ、感銘が薄まったのも事実です。1回目はランカトーレなんかの方が余程スラヴっぽい声じゃないなんて思ったのですが。これは座席の違いのせいもあるかも知れません。
「ベルカントの様式感がない」とする仏評も出てます。「ベルカントの歌唱様式」という得体の知れないものを定義することなど不可能だけど、ネトレプコの歌唱には確かに私にも、私が知的・感覚的に理解する「ベルカント様式」を少々はみ出す部分があると思いますし、その種の評価もありうるだろうなとは思います。
Commented by 助六 at 2008-06-12 08:36 x
でもレガートの旋律線の造形と表現性・フィオリートの正確さと表現性というベルカントの基本をなすポイントの達成度は大変高いものだと考えます。この達成度はディドナートでは彼女よりやや落ちるし、ポレンザーニでは大分落ち、パローディではほぼ欠如というのが私の個人的感想です。
ダブルのチョーフィはベルカントをレパートリーの中核に据えている歌い手さんですけど、やはりあの細くスカスカした声では旋律の肉付きが貧血的に貧しくなってしまい、音色感も単調ですから、ネトレプコが与えるインパクトとはレヴェルが違う。素材としての声の格差を差し引いても音色の使い方はネトレプコの方が上ですし、ベルカントの旋律的造形でもネトレプコがはっきり劣るというわけではありません。ただチョーフィは2幕のアリアでネトレプコはやらなかった装飾を加えてて、この辺がネトレプコのベルカンティストとしての限界なのかも知れません。
私見では今回はピドの指揮が彼の平均からすれば卓越した出来で(96年にもこのプロダクションを振ったんですが冴えなかった)、この上演の成功に大きく貢献してると思います。
Commented by 助六 at 2008-06-12 08:39 x
様式感の確かさ、カバレッタの繰り返しもすべて省略せずに実行しかつそれが説得的、ディドナートには1幕のアリアに装飾さえ付加させて万全の体制です。全体として歌に様式的違和感がないのはピドの監視に負うところが大なのではと想像します。
ドンナ・アンナのときは「素材としての声は注目に値する歌手」以上の感想はなかったんですが、今回は音色のニュアンスの使い方、情感の豊かさなど著しい進境を示してくれました。かつての悲しいステューダーのような「DGが無理やりデッチ上げたディーヴァ」で片付けられない歌い手さんであることは明らかと思います。
カールセン演出には特に不満もないけれど、この才能豊かで変幻自在の演出家の仕事の中では最も怠惰に約定的なものと思います。
饒舌お赦し下さい。
Commented by lonevoice at 2008-06-12 18:23 x
ウィーンに住んでいた時に、ネトレブコはかなり聴きましたが、ベルカント歌唱ができているかどうかはともかく、(元々高音を持ってないので限界があるんですね。でもベッリーニは意外に重いのできっと合うんだろうと思います。)彼女は本当に歌うのが、そして演じるのが好きなんだろうなぁという印象をいつも持ちました。もうかなりお腹も大きくなってますが、まだこうして元気に歌っているところをみるときっと産後もすぐ復帰してくれそうですね。彼女が凄いのは元々体操系を小さいときからしていたらしく(そんなとこが露の国の人らしい)本当によく動いてますよね。アリア歌いながらアドリブでダンサーと一緒に踊っちゃったり、どちらかというと「典型的なオペラ歌手」体型の共演者がアワアワしていたのが面白かったりもしました。

ウィーンでよく歌っていたと言えば、ガランチャもそうです。とても背が高いので彼女のズボン役はケルビーノも薔薇騎士のオクタヴィアンもまさに少女漫画の王子様のイメージでしたね。(笑)
ROHに来るとはとても楽しみです。
Commented by dognorah at 2008-06-13 08:05
助六さんもかなり感動されたようですね。バスティーユから自宅まで歩いて帰られたのですか!
それにしても彼女の歌唱をよくこんなに分析的に評論されるなんて全く恐れ入りました。専門用語をいまいち理解していませんでしたので過去に声楽についてTaroさんやkeyakiさんのサイトに書き込まれた助六さんのコメントを参照しながら読ませていただきました。今回の詳細なコメントも本当に勉強になります。ありがとうございました。
チョーフィ出演分も含めて3回もご覧になったというのも驚きです。かつてのマイヤーのイゾルデを3回聴かれたエピソードを思い出しました。
ピドの指揮もそこまで立派だったんですね。全く不明の至りです。
Commented by dognorah at 2008-06-13 08:15
lonevoiceさんはウィーンに住まわれたことがあるのですか。羨ましい!あそこはネトレプコもガランチャもよく出ますよね。ネトレプコは今回は驚異的な元気さですがROHでは最近は休演が多くてファンはかなり泣かされました。産後は元気に出演して欲しいものです。ガランチャのオクタヴィアンは私も昨年秋に見ましたがすばらしいですよね。
Commented by ロンドンの椿姫 at 2008-06-14 04:53 x
ジュリエットが仮死状態で横たわっている写真はdognorahさんがお撮りになったのですね。素晴らしい画質です。これからもどんどん写真撮って、ここで拝見させて下さいね。
しかし、パリのオペラ座は本当に写真に寛大ですね。私もガルニエのカーテンコールでフラッシュが凄かったのでびっくりしました。
Commented by dognorah at 2008-06-14 09:20
普通の人はカメラをデフォルトの状態で使いますから終演後はどこのオペラハウスでもフラッシュだらけでしょう。ヴィーンも凄いです。パリやヴィーンのように観光客の多いところは上演中でもフラッシュをたく人が後を絶ちません。ヴィーンはフラッシュなしでも上演中の撮影は厳禁なんですけど。
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