2008年2月4日、テアトロ・レアル(マドリード)にて。
Tristan und Isolde Acción en tres actos Musica y libretto: Richard Wagner Director musical: Jesús López Cobos Director de escena: Lluis Pasqual Escenógrafo: Ezio Frigerio Tristan: Robert Dean Smith Isolde: Jeanne-Michèle Charbonnet Brangäne: Mihoko Fujimura Kurwenal: Alan Titus El rey Marke: René Pape Melot: Alejandro Marco-Buhmester Coro y Orquesta Titular del Teatro Real Coro y Orquesta Sinfónica de Madrid Producci”on del Teatro San Carlo de Nápoles ミュンヘンもスカラも切符が取れなかったヴァルトラウト・マイヤーを聴くためにマドリードまでやって来たのに敢えなく振られてしまいました。喉の調子が悪いということで3日も前に降板が発表されていたようです。 しかし代役を務めたダブルキャストのジャンヌ=ミシェル・シャルボンネが圧倒的にすばらしく、また他の歌手も揃って充実した歌唱だったので充分満足しました。 トリスタンを歌ったロバート・ディーン・スミスは過去にROHでマイスタージンガーとローエングリンを聴いているのでこれが3回目の経験です。今回も非常に印象的というわけではないのですが声の質、声量ともまあまあと言える歌唱で合格点。しかし1年前に聴いたペーター・ザイフェルトのすばらしさには及びません。 イゾルデを歌ったシャルボンネは全く初めて聞く人ですが、フランス系の名前にも拘わらずアメリカ人です。若々しく美しい声を大きな声量で響かせる容姿的にも魅力的なソプラノでスタミナも充分。最後の愛の死は直前のマルケ王の独白が圧倒的なこともあってややあっさりしすぎた印象でしたが。ヴィデオで見るマイヤーの歌唱を思い出してやはりちょっと悔しい思いではありました。 ブランゲーネ役の藤村実穂子は良く声が出ていたし歌唱も文句なしで、贔屓目に見るせいもあるかもしれませんが舞台での存在感はとても大きいものがあります。 アラン・タイタスのクルヴェナールはROHでの同役以来2度目の経験ですがこの人も立派な歌唱でした。 ルネ・パーペは実演では初めて接する人ですがヴィデオで聴く通りの立派なマルケ王で、最初はやや声が控え目でしたがだんだん大きくなり最後の独白は胸を打つものがありました。 メロット役は恐らく地元の歌手だろうと思いますが声の良く通るなかなか印象的なテノールでした。 管弦楽はリセウと同様若い団員が多く上手いのですが音がやや明るすぎる印象です。やはりお国柄でしょうか。指揮のヘスス・ロペス・コボスはあまり情念でうねらせるような音楽ではなく美しくまた劇的にまとめ上げるスタイルで違和感なく舞台を楽しめるものでした。最後は終了直前にフライイングの拍手がありコボスが怒って手で制すると共に他の観客も「シーッ」とたしなめて止めさせるシーンがありましたがどこの国もせっかちな人がいるもので腹が立ちます。 しかし今回のヴァーグナーはマイヤーが抜けたためにドイツ人はパーペだけであとの主要な役はアメリカ人3人と日本人という配役になりました。ヴァーグナーではアメリカ人歌手の活躍が目立ちますね。 演出はあまり違和感のない標準的なものでしたが、男性の衣装が幕ごとに新しい時代のものに変化していってあまり一貫性がないのが気になりました。従って第1幕は極めて自然な印象です。舞台も第1幕の大海を航海中の船の舳先が波に揺られるシーンや、第2幕の大木がいろいろな位置関係を形成するところなどは良くできているなぁと思わせるのですが、第3幕で打って変わって簡素な現代オブジェ的な作りはかなり違和感があります。 写真は左からRené Pape、Jeanne-Michèle Charbonnet、Robert Dean Smith、Mihoko Fujimura、Alan Titusです。トップの写真はタイトルロールの二人です。 初めて訪問したテアトロ・レアル(王立劇場)はとても新しい建物で内装はなかなかすばらしく、3階部分では劇場の周りを囲んで豪華な絨毯を敷いた小部屋が連なってレストランとバーに続いていました。このレストランは有名で食事だけのために来ている客もいました。私の座った2階バルコニー最前列から見ると劇場自体はコヴェントガーデン、パリのガルニエ、ヴィーン国立歌劇場、バルセロナのリセウと比べて一回り小さく、とても聴きやすい空間です。座席数は約1700です。舞台の全部が見えない客のためにヴィデオの大きなスクリーンがあちこちに設置してあります。上演中に見てみると全体を映したりズームにしたりパンしたりとちゃんとTVカメラマンのように手動で映しています。外国人客が少ないのか字幕はスペイン語だけでした。インターヴァルに歩き回った限りではアジア系の客は私一人しかいなかったような。 劇場を出たのは12時を回っていましたがまだ開いていた近くのレストランで軽く食事しました。暫くすると他の客がブラヴォー、ブラヴォーと叫んでいるので見ると、ロバート・ディーン・スミスがきちんとした背広姿で食事に入ってきたのでした。もっと来るかなと期待していましたが後はオケの団員だけで歌手は来ず。
by dognorah
| 2008-02-07 01:31
| オペラ
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Comments(8)
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助六
at 2008-02-07 09:53
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欧州中の劇場を訪問され羨ましい限りです。私はスペインの劇場は知りませんので。
キャンセル残念でしたが、私含めこの種の経験は皆してますから、仕方ないんでしょうね。ロンドンにネトレプコ聴きに行って振られてた仏人もおって、彼女は5-6月のバスティーユ出演も多分キャンセルでしょうし、もう踏んだり蹴ったりみたいですわ。小生は最近は追っかけてまで聞きたいほど興味引かれる歌い手さんがいなくなってしまったような感じで、お陰でハラハラさせられることは減ってますけど、痛し痒しと申しますか。 私は幸いマイヤーのイゾルデに振られたことはないんですが、かなり出来不出来のある人で、ザルツとパリでは昇天ものでしたが、バイロイトとスカラはまあまあ、ミュンヘンではガックリでした。 シャルボネはまるで仏名前だけど、ニューオリンズに今も残存する仏殖民(いわゆるケイジャン)家系の米人と聞いてます。昨年アムステルダムでシュレーカーで初めて聴きましたが、堅実な歌い手さんと思いました。今年もパリ・オペラ座の日本公演にもイゾルデで同行するようですね。
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助六
at 2008-02-07 09:55
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スミスは、私はパルジファル聴いただけと思いますが、やはり「無難」以上の印象はないですねぇ。
藤村さんはミュンヘンでもブランゲーネ歌ってて、ヤンヤの喝采浴びてましたし、シャトレのフリッカも仏各紙から絶賛されてました。彼女がストラスブールのヴァーグナー・コンクールで入賞した当時からの並みの独人歌手もかなわないような美しくノーブルなディクションには本当に頭下がるんですが、個人的には彼女の発声と声質とは何故かちょっと相性がない感じです。 パーぺは私の好きなヴァーグナー歌いですけど、期待したマルケ王では独白の深い感動の点ででちょっともの足りなかった記憶があります。でもバスティーユでもう丸10年前のことです。 スペイン・オケのヴァーグナーはやはり明るめですか。でも透明・軽量感のあるラテン・オケのヴァーグナーには独特の魅力がありますよね。
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Sardanapalus
at 2008-02-07 23:53
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今度はどちらへ?と思ったら、マドリッドでしたか。
マイアーにフられてしまったのは残念ですが、代役の歌手も素晴らしかったなんて、運が良いですね。ところで、写真だけだと王様も地味な軍服ですね。実戦向けかなぁ?個人的にはこういう話はもっとファンタジックな世界で演出して欲しいのですが…。 Teatro Realは、確かにビデオスクリーンに驚きました。私は思いっきり恩恵を受ける席でしたが、なかなか見ごたえのあるカメラ割りでしたよ(笑)そのときも、客層にはスペインのオバちゃんが多くて、アジア系はちらほら見かけるだけでした。ちなみに、演目は「ドン・カルロ」でした。
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dognorah at 2008-02-08 09:29
助六さんは既に当代の名をなした歌手達の最高の時を聴いていらっしゃるからもうあまり食指が動かないのでしょう。私はまだまだオペラ初心者ですのでこれからもいろいろな人を聴いていきたいと思っています。英国にはなかなか名歌手が来てくれないので欧州のどこかに住んでいた方が簡単ですね。
ネトレプコは5-6月となると微妙ですよね。6月のヴィーンでのガラ公演は出るようですがオペラは体の負担が重い分ドクターストップがかかるかもと思っています。
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dognorah at 2008-02-08 10:09
Sardanapalusさん、私もファンタジックな世界、賛成です。この写真は第2幕終了後のもので、第3幕ではマルケ王は現代の分厚い冬コート姿です。ちなみにmixiに載せた写真は第1幕終了時です。
Sardanapalusさんがレアルに行かれた話は聞いたことがあるような。で、2005年の記事を読んでみました。いい旅だったようですね。確かにクレディットカードをシュッとやるだけで切符が出てくるシステムは便利でした。
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at 2008-02-08 19:54
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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LEE
at 2008-02-11 23:16
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こんばんは、いつもうらやましいなあ!と思いながら楽しくブログを拝読しています。マドリッドの藤村さんの様子を書いてくれる方がいないかなあと思っていたら、本命のdognorahさんが書いてくださって嬉しい限りです!
マイヤーは2006年の12月にベルリンでイゾルデを聴きましたが、声も演技も緩急自在で、圧倒的な表現力でした。時差ぼけを忘れる素晴らしさでしたよ。やはり一度聴いて頂いて、感想を伺いたいところです。 シャルボネと藤村さんは、ジュネーブで競演しているライブのDVDを観ました。贔屓目もあるかもしれませんが、やっぱり藤村さんのブランゲーネが素晴らしいです。ブランゲーネの曲ってこんなに美しかったのか、と気づかされました。このDVDの方が、その後のドミンゴやシュテンメとの録音よりも声が数段深くて豊かなように思います。調子が悪かったのでしょうか?来年3月に来日されるそうで、リサイタルのチケットを買いました。今からとても楽しみにしています。数年前に吉祥寺のホールでのリサイタルを聴きましたが、ドイツリートが素晴らしかったです。
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dognorah at 2008-02-14 01:19
LEEさん、初めまして。藤村さんのファンでいらっしゃるんですね。私はDVDもCDも未聴ですがCDはシュテンメも批評が芳しくなく食指は動いたのですが購入しませんでした。
マイヤーは既に聴いていらっしゃるんですね。私は今年中に聴ければいいなと思っています。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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