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UK初演ヴァイオリンソロ曲と映画「アンドレイ・リュブレフ」

2007年10月21日、バービカンシネマ2にて。

ソ連時代に共産党政権から弾圧を受けながら名作を作ったとされるAndrei Tarkovsky監督の映画「Andrei Rublev」を見ました。普通だったら見ない映画ですが、急遽映画上演の直前に日本人作曲家がこの映画からインスピレーションを得て作曲したヴァイオリンソロ曲「Rublev’s Door」が演奏されることになったことから行くことにしたのです。しかもそういうイヴェントを企画し推進した人がmixiで親しくさせていただいている山崎スピカさんであり、ヴァイオリニストをその方に紹介したのが私なので。

かいつまんで経緯を述べますと、
・作曲家は日本で活躍されている糀場富美子(こうじば・とみこ)氏。
・山崎さんがちょっと前に友人からその曲「リュブレフの扉」の譜面をプレゼントされた。
・アマチュアながら子供の頃からチェロを弾いていらっしゃる山崎さんはその曲の雰囲気に惹かれた。
・山崎さんはロンドンのどこかでこれを演奏してもらう機会はないかと考えていたところ、糀場さんがインスピレーションを受けた映画が10月21日にバービカンシネマで上映されることを発見。
・山崎さんがバービカン側と連絡を取って映画関連イヴェントとして「リュブレフの扉」を演奏する場を設けたらどうだろうと提案したところ好意的な興味を示してくれた。
・先般日本に一時帰国した折に山崎さんが糀場さんに電話連絡を取ったところ彼女も、是非UK初演を実現させて欲しい、との強いサポートを得た。
・山崎さんから誰か演奏してくれるヴァイオリニストを紹介して欲しいとの依頼が私に来た。
・以前友人宅のパーティで会って以来時々メールをやりとりしていた植田梨沙さんというRAMの学生さんをご紹介。
・時間的余裕が10日もないのに植田さんはRAMの教授とも相談の上演奏を引き受けて下さった。

ということで21日の午後2時45分より滞りなくBarbican Cinema 2の舞台でこの曲のUK初演が植田梨沙さんによってなされたのでした。映画そのものは1967年のソ連時代に作られた白黒の地味なものなので観客は100人程度と少なかったけれど、約7分の演奏後は暖かい拍手がありました。植田さんの演奏は集中力が感じられる立派なもので響きも美しかったと思います。曲は当然現代的な響きながら不協和音が多用されることもなく、思索の内面を表現するような物静かな印象です。所々共感を覚えるようなパッセージもあるのですがその後見た映画との関連性については時間的経過(映画は3時間!)もあってよく分からなかったというのが正直なところです。

映画は15世紀のロシアの実在人物アンドレイ・リュブレフのイコン画家としての活動を絡ませながら当時のロシアの暴力に満ち満ちた世相を表現したものという印象です。白黒の映像が美しい場面がいろいろあり雨のシーン(川とか馬も)が多いのも特徴と言えましょう。体制側の暴力で民衆が苦しむというメッセージが読み取れないこともなく、それが共産政権をして弾圧させたのかも。ただ、この映画をもう一度見ようという気にはなりませんが。
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画像は入場前に配られたパンフレットの表と裏のスキャンです。UK初演のヴァイオリンソロ曲が映画の前に演奏されること、作曲家のこと、演奏者のことなどが紹介されていますが、このままでは読みにくいのでそれぞれの文章だけ活字で紹介いたしましょう。

(表の左下)
+ UK premiere! Rublev's Door
Composed for solo violin by Tomiko Kohjiba, and performed live by Lisa Ueda
Japan 2006 7 mins

(裏の左下)
UK Premiere!
Rublev's Door
Japan 2006 Composer Tomiko Kohjiba 7-8 min
The Barbican is thrilled to present the UK premier of Rublev's Door, created for solo violin by leading Japanese composer Tomiko Kohjiba. Produced for the 20th anniversary of the death of director Andrei Tarkovsky (1932-86), the piece was influenced by his 1967 film Andrei Rublev and designed to expresses the depth of universal existence through the solo violin.
The world premiere was performed by Nobuko Kaiwa at the Exhibition of Contemporary Music 2006 at Tokyo Opera City Recital Hall.
Rublev's Door is now available through Zen-on Music, Japan.

(裏の右上)
Lisa Ueda
Solo violin
Lisa started playing the violin at the age of four, studying with Miyuki Emura and Hisako Tsuji and has subsequently performed all over the world, including Japan, London, Boston Tanglewood, Toronto, Shanghai, Munich, Geneva, and Vienna.
Awarded an ABRSM International Scholarship in 2005, Lisa is currently at the Royal Academy of Music with Richard Deakin and has recently been received an "Upcoming young artist" nomination
Lisa eagerly accepted the opportunity to perform this piece at the Barbican and hopes that through the composer, Tomiko Kohjiba, she can communicate the mood and atmosphere of the forthcoming film.
by dognorah | 2007-10-23 01:24 | コンサート | Comments(9)
Commented by 守屋 at 2007-10-23 03:16 x
日英露の文化交流の要となるなんて、凄いですね。難解な映画を見ることがかっこいい、と思っていた若かりし頃、「ノスタルジア」と「サクリファイス」を観ましたけど、全く理解できませんでした。
Commented by dognorah at 2007-10-23 21:03
タルコフスキーをご覧になっていましたか。私は全く初めての経験でした。
Commented by supikametti at 2007-10-23 22:46 x
ほんとうにありがとうございました。
バービカン・シネマは、サイレント映画と音楽のアカンパニメントをたくさんやっているとはいえ、今回のような持ち込みの企画にもとても好意的で、すばらしい総合芸術施設だなあとつくづく感心しました。
ところで、シネマ2で100人というのは、ずいぶん多いほうだと思います。上映前の植田梨紗さんのヴァイオリンによって、観客はリラックスしてあの長編に臨むことができたのではないでしょうか。
Commented by dognorah at 2007-10-24 09:32
supikamettiさんの企画の勝利ですね。植田さんもとても頑張ってくれました。若い人のエネルギーは凄いと思いました。
Commented by 助六 at 2007-10-27 09:05 x
こうした企画を即座に受け容れるとは、さすがにバービカンは懐が深い。
私は全く無知なのですが、バービカンの運営主体はどこで、音楽・映画など各部門のディレクターは如何なる形で指名されるのでしょう? また各部門を総括する監督的な役職はあるのでしょうか?
タルコフスキは、私も2度観る元気と知性はありませんわ。北野がタルコフスキーとの親近性を指摘され質問を受けたけど、北野はそんな監督知らず、日本に帰ってヴィデオ見たけど遂に最後まで見通すことは出来なかったなんて語ってたのが、彼の本領発揮で愉快でした。
タルコフスキーは83年にアバドの指揮でコヴェント・ガーデンで「ボリス」の演出出してて世界的話題になったものの、映画監督のオペラ演出の常で、評判は芳しくなかったような。何か思い出話とか耳にされたことはありませんか? 同演出は、タルコフスキの死後もアバドがヴィーンに持って行き、日本公演にも持参したと聞きますが。
Commented by dognorah at 2007-10-28 10:06
バービカンの運営主体はかなり特殊だと思うのですがロンドンを構成する多くのCouncilの一つであるCity of Londonです。そこの行政組織はまたユニークな名前でCity of London Corporationといいます。東京都千代田区が運営しているようなものです。まあしかし昔は王室も遠慮するほどの力を持っていた歴史的に由緒あるCityですから他のカウンシルとは格が違いますが。バービカンに隣接して建てられているGuildhall School of Music and Dramaというロンドン3大音楽大学の一つもここの運営です。各部門のディレクターとか役職などはよく分かりません。もし非常にご興味があるなら調べることはできますが?
(続く)
Commented by dognorah at 2007-10-28 10:06
タルコフスキーの「ボリス・ゴドノフ」ですか!凄いなぁと思いながらさて自分の見たものはどうだったのだろうと調べたら2003年9月に見たものがまさしくタルコフスキーでした(汗) もちろん彼は亡くなっているので、Irina Brownという人が実際のステージを監督しているのですがプロダクションはタルコフスキーオリジナルです。ビチコフ指揮トムリンソンのタイトルロールでしたが、私が当時見たオペラの中で唯一楽しめなかった演目で、それ以来ボリス嫌いです。当時はたまにしかオペラを見ず演出がどうのこうのと論じられるレヴェルでは全くなかったので今度同じものが上演されたらまた見てみようと思います。
Commented by amao at 2007-10-28 22:20 x
dognorahさんの記事を見てすぐにバービカンのHPをみたらソールドアウトと出ていましたが…映画「ソラリス」だけは見た事のあるタルコフスキーですが、あの「ボリス・ゴドノフ」の演出も彼だったとは知りませんでした。ポーランド貴族の庭園のシーンとか非常に豪華で印象的でしたが。思いがけずロンドンに居ながらマリインスキー、ボリショイでこのオペラを観ることが出来ましたが、一番の重厚感を与えてくれたのは意外にもROHの方でした。当時知人のパーティに出かけたらROHのこのプロダクションを激賞している女性がいて、「私も観ました!」と話しかけたところ、彼女がROHの「魔笛」で夜の女王の侍女役で出ていた歌手だと判ってビックリしたことがあります。
Commented by dognorah at 2007-10-29 07:59
amaoさんは確実に私より多くROHのオペラを見ていらっしゃいますね。しかもボリスを3種類のプロダクションで経験していらっしゃるとは。
映画はたった一日しか上映されませんでしたので私が記事を書いたときにはもうチャンスはなかったのです。
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