The Miraculous Draught of Fishes: Raffaello Sanzio (1515)
![]() 先日、来月から始まるロンドンの夏の音楽祭PROMSの切符を買いにロイヤル・アルバート・ホールに出向いた帰りにせっかくここまで来たのだからとVictoria & Albert Museum (V&A)に立寄って最近聴いたインド美術のレクチャーの影響でアジアの彫刻群をくまなく見てまわりました。そのときにある部屋に迷い込んだらそこに突然巨大なラファエロの絵が迫ってきたのです。全部で7枚あります。ちょっと壮観です。部屋はRaphael Cartoon Courtという名前です。部屋の写真を下に示します。 ![]() 初めてこういうものの存在を知ったので最初はこれは本物か?と疑ったのでした。説明を読むと、彼が法王レオ10世の依頼で仕上げたタピストリー用の下絵だったのです。縦3.6m、横4mの紙にテンペラで描いたもので、1515年制作ですが、前後数年をかけて全部で10枚用意されました。 そのうち4枚はSt Peterの生涯を描いたもので、以下の題名がついています。 ・The Handing-over of the Keys ・The Miraculous Draught of Fishes ・The Healing of the Lame Man ・The Death of Ananias 6枚はSt Paulの生涯を描いたもので次のものです。 ・The Stoning of St Stephen ・The Conversion of Proconsul ・The Blinding of the Sorcerer, Elymas ・The Sacrifices in Lystra ・St Paul in Prison ・St Paul Preaching in Athens この下絵は当時タピストリーでは高度な技術を持っていたブリュッセルのPieter van Aelst工房に送られて1517年から順次仕上げられ、1521年にすべて完成しヴァティカンのシスティーナ礼拝堂に飾られたのでした。ラファエロは先輩のミケランジェロが描いた天井画と同じ場所に飾られるということでかなり張切って仕事をしたようです。 タピストリーは現在Vatican Museumで公開されているそうですが、私はそこに2回行ったものの絵画しか見なかったのでそういうものの存在さえ知りませんでした。 そしてなぜ下絵がロンドンにあるかというとイギリスの国王Charles I世が1623年にイタリアの業者から保存されていた7枚(上記の題名で太字のもの)を買取ったからです(3枚は行方不明)。意図はヴァティカンにあるのと同じタピストリーをロンドンのMortlake地域で立上がったタピストリー工房に作らせるためでした。タピストリー制作後は下絵はハンプトンコートに保存されていたのですがその後V&Aで展示公開されるようになったのです。 下絵はタピストリー制作時には幅数十センチの短冊状にカットされるのですが、それは元通りにつなぎ合されて展示されています。現物を見ればカットされた後がはっきりわかります。絵はかなり精緻に描かれています。解説によれば、ラファエロはタピストリーの技術を実際以上に優れたものと見ていたようです。この部屋には件のMortlakeで制作されたタピストリーの実物が一枚だけ展示されていますが、下絵と反対側の壁に掲げられているので比較しやすいです。再現性は驚くべきものがあります。ブリュッセルで作られたときから丁度100年たっているわけですが、新興工房の技術はブリュッセル以上だったと解説されています。ということでヴァティカンにあるものより出来がいいそうです。残念ながらこのMortlake製の作品の写真がないので、ヴァティカンのものの写真を掲げます。この写真を見る限り、色がかなり原画と異なっていますがMortlakeのものはそれがもっと忠実に作られています。 ![]() 下絵とタピストリーで絵が反転しているのは制作過程的に必然だそうです。タピストリーはまず木枠に縦の糸を等間隔で張り、それを下絵の上に乗せて縦糸に下絵の通りにカラーのマークをつけていきます。そして横糸を編んでいくのですが、各色の余った糸はこちら側で結んでほどけないようにします。従ってこちら側は見苦しくなり、反対側を表とするために絵が反転してしまうわけです。
by dognorah
| 2007-06-17 10:01
| 美術
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Comments(11)
こんにちは
なるほどこうしてあの大きなものを織っていったんですね、 ということは下絵の段階で反復のイメージを描いていたんでしょうか、 出来上がりのジーザスは右手をかざしボートを漕ぐ人は右利きのような気がしますが、 もっと新しい時代になると洋服の打合わせではっきりしますね。
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Yoshiさんらしい指摘ですね!下絵の段階で多分考えて描いているのでしょう。他の絵でイエスがどちらかの弟子にキーを渡すものがありますが、下絵では左手を使っています。これは考えて描いていることは明白です。
現代では確かに洋服の打ち合せが見るポイントになりますね。
ラファエロの下絵だー!!ここ、V&Aの中でも一番好きな部屋です!涼しいし、人も少ないし、ラファエロだし(^^)写真の奥に見えるセント・ジョージの祭壇も好きなので、ここに入ったら30分くらい出られません。
Sardanapalusさん、さすがにご存じでしたね。私はあまりV&Aに行ったことがないので全く知りませんでした。ほかにおや?と思うようなものはありますか?
>ほかにおや?と思うようなものはありますか?
いろいろありますが、個人的にまずこれ!!というものは、Carlo Crivelliの聖母子ですね。画中の「蠅」の一枚です。 >タピストリーは現在Vatican Museumで公開されているそうですが いくつかの部屋に、ごく自然に架けられています。まあ普通は通り過ぎるだけですね。
Bowlesさんも細かくご覧になっているようですね。今度その蠅を探しに行くことにします。ありがとうございました。
工芸品の中でもタピストリーは地味なものですから、それと知っていなかったらちらっと見るか見ないかというのが普通でしょうね。
今日初めてこのブログの存在を知りました。記事を書かれてから、だいぶたってからのコメントですみません。下絵とタピストリーについての詳しい解説、参考になりました。ロンドン西洋美術史講座でも、このタペストリーのことが話題になりました。ラファエロともあろう人が、なんでタピストリーになるときに左右反対になることを知らなかったのだろう?ダヴィンチだったら下絵から反対に描くであろうと、講師の先生も言っていました。織物をやっている友人が「V&Aでは下絵を切ると言っているが普通はそんなことしない」と私を混乱させるようなことを言っていました。確かにゴブラン織りの工房では下絵は切りません。どうして下絵を切る必要があるのか知っていたら教えてくださいませ。
hirokoさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
ラファエロはちゃんと左右逆に下絵を作っています。上に述べられている他の方のコメントも読んでみてください。その講師は誤解しています。講師ともあろうものはもう少し勉強すべきですね。今度会ったら教えてあげてください。 下絵を切るのはこのように大きい図柄は何人かの職工たちによって並行作業が出来るようにしたからです。タピストリーはそうして出来た各パートを後で縫い合わせるのです。すべてV&Aのサイトに書いてあります。 http://www.vam.ac.uk/collections/paintings/raphael/what/index.html
絵というのは、特に連作の場合、ストーリーは左から右に流れていきます。下絵どおりにタピストリーができていたら、問題ないのですが、逆になってしまっているので、ストーリーが流れない。切れ切れに進んでいきます。だから、やっぱり、そこまで計算してほしかったと講師は言っているのです。
それから大きなタピストリーは横にして織るのをご存知ですか?カーペットと違って、壁に吊るので、縦線が強く、横線は弱くてもいいのです。絵柄にあわせてで作って行き、職工たちも同じ速度で並行作業を行う必要はないのです。 確かに下絵は切ったあとがありますが、作品の方は短冊切りを縫い合わせて繋いだ後はありません。そんなことをしたら壁にかけている間に変形してしまいます。 V&Aのサイトに書いてあるように織ったらああいう作品にはならない、サイトに書いてあることは間違っているというのが、プロの織師の意見です。 ここら辺のことは、V&Aのガイドさんたちにも聞いてみたのですが、ちゃんと説明できる人が誰もいませんでした。
hirokoさん、レスありがとうございます。
ここに掲げた絵でも別の絵でもそうですが、キリストの右手動作がちゃんとタピストリーでは実現されていますよね。ということは作者は最初から逆になることを知っているということであり、意図してキリストが右端に来るように構図を作ったと言えませんか?連作といっても一つ一つは全く別のエピソードを書いているのでそれぞれの絵では完結していると思います。例えばここに掲げた絵では、網を深く入れなさいといったキリストの言葉に従ってみたら2隻の漁船が大漁を得たということに感銘してピーターがあなたの弟子にして下さいと言ったエピソードを表現しているだけで、別に右から左に物語りが進行しているわけではないし、次の絵に続いているわけでもないと思います。 タピストリーの作り方に関しては私は全くV&Aの受け売りですから実際のところはよく知りませんが、いずれにしても講師の方がそこまで考えていらっしゃるならV&Aのしかるべき責任者(ガイドではなく)に文書で意見をぶつけられたらいかがでしょうか?きっと向こうも考え方を詳しく述べてくれると思いますよ。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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