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モーツァルトのオペラ「ツァイーデ」(Zaide)

作品:Zaide、二幕構成のジングシュピールの断片、K344/336b
作曲:Wolfgang Amadeus Mozart (1756-91)
台本:Johann Andreas Schachtner (after 'Das Serail' by Franz Josef Sebastiani)

7月6日、バービカンホールにて。semi-staged形式によるコンサートです。ただし、演出家の意思がきちんと反映されている分、ちょっと普通のコンサートとは異なります。バービカンとNYのリンカーンセンターとの共同制作で、今年のWiener Festwochenで公演されたものとオーケストラ以外は全て同じキャストです。

このオペラの背景
1779年、モーツァルトが23歳のときの作品だが未完のまま放置された。ドイツ語の台本に基づいている。政治的な内容で、西洋とムスリムの関係、権力者と奴隷に代表される二極対比を浮き立たせた内容である。同様のテーマで作曲しながらやはり未完に終わった同じ頃の作品に「Thamos, König in Ägypten」があり、今回の制作側はツァイーデの足りない部分をタモスの音楽で補うことで形を整えた。
それに加えて、モーツァルトは奴隷制反対の意志を貫いていたとして、このオペラを反奴隷キャンペーンの一環とし捉える解釈を示した。そのために、オペラの開始前にIntroductionと称して演出家ピーター・セラーズ自身が出てきて解説すると共に、Anti-Slavery InternationalのディレクターとThe POPPY ProjectのChief Executiveも登場させてそれぞれ一席ぶたせたのである。今更なぜ奴隷反対を声高に叫んでいるかというと、現代の西欧社会では貧困国の少女が性奴隷として強制労働させられている現実を何とかしたいということを強調したかったようだ。特にThe POPPY Project(そのような被害女性を救うプロジェクト)の人は如何に少女がイギリスに連れてこられて売春婦として働かされているかの現実を非常に細かい具体例を挙げながら微にいり細にわたり辟易するぐらい説明するものだからこのイントロダクションだけで25分もかかってしまった。オペラを聴きに来たのにそういう演説を聴かされて聴衆も少々うんざりだが、これがピーター・セラーズなんだと納得するしかない。

キャスト
Zaide: Hyunah Yu (soprano)
Gomatz: Norman Shankle (tenor)
Allazim: Alfred Walker (bass-baritone)
Soliman: Russel Thomas (tenor)
Osmin: Terry Cook (baritone)

Conductor: Louis Langrée
Orchestra: Concerto Köln
Director: Peter Sellars

原作のあらすじ
トルコのサルタンに囚われている奴隷のツァイーデとゴマツが恋に陥り、古手奴隷のアラジンの助けを借りて脱走する。彼女を寵愛していたソリマン(サルタン)は奴隷商人のオスミンからいくらでも他の奴隷を補充できるからといわれても承知せず激怒して国中を捜索して二人を捕える。ゴマツに対して殴る蹴るの暴行を加えて憂さを晴らすもツァイーデの服従は得られず途方にくれる。はたして二人を殺してしまうのかそれとも二人の愛に免じて許すのかと逡巡するところでオペラは終わる。

ピーター・セラーズは現代の工場で強制労働させられる従業員と彼らを管理する工場長(ソリマン)という設定にしています。舞台には下の写真のようにミシンが並べられ、従業員が寝るためのシュラーフが置いてあります。左端の事務机がソリマンの机です。
モーツァルトのオペラ「ツァイーデ」(Zaide)_c0057725_2111098.jpg

歌手陣はタイトルロールが韓国生れの人ですが国籍は米国で、男性陣は全て米国籍の黒人です(これも意図的にそうしたのでしょう)。Yuのソプラノは声量がやや小さいけれど声質は甘く、高音までよく伸びる心地よいもの。Thomasのテノールはすごい。艶と張りのある強靭な声で、声量もたっぷり。METでは端役しか出ていない人らしいがぜひROHで歌って欲しい。バスバリトンのWalkerもいい声で歌も上手くすばらしい歌手です。さすがに米国はオペラ歌手も黒人がたくさんいるようです。イギリスではあまり目立たず、有名どころではWillard Whiteぐらいしか知りません。

指揮は派手ではないけれど、きっちりモーツァルトのバロック的要素を表現しています。
1幕目が終わった後かなりの客が帰ってしまいましたが、コンサート形式といえども舞台設定に不満があるのか、あるいはピーター・セラーズのやり方が気に食わなかったのか、ちょっと不可解です。
写真は、左から指揮者、演出家、ユー、シャンクル、ウオーカー、トーマスです。
モーツァルトのオペラ「ツァイーデ」(Zaide)_c0057725_2114484.jpg

by dognorah | 2006-07-07 21:08 | オペラ | Comments(6)
Commented by Sardanapalus` at 2006-07-07 22:56
TBありがとうございました。見ているほうもかなり体力がいる演出でしたよね。なぜかTBできないので名前に私の記事のURLをいれておきました。仰る通り、メインの恋人達以上に準主役級の歌手達がよかったです。
Commented by 助六 at 2006-07-11 09:22
セミ・ステージとは言え、「ツァイーデ」の上演とは貴重ですね。私は3年前位にコープマンが仏国立放送フィル(モダン楽器)を振った演奏会形式を聴いただけです。ピオー、Ch・ゲンツ、サッカ、メルテンスと無料演奏会にしては結構な歌手陣でした。ツァイーデの最初のアリア「ruhe sanft」は日本でもフランスでもTV・CMに使われてたと思うし、ハッとするほど美しい音楽だと思います。私も昔からマティスのレコードで聴いてて大好きです。ただ台詞なしで音楽だけ通してやると未完かつ抜けてる感じの部分が多くなるし、アリアの連続でアンサンブルが少ないから、何だか音楽的にもドラマ的にもスカスカになっちゃいますね。
Commented by 助六 at 2006-07-11 09:23
実際に舞台に掛けるとしたら何らかの形で補わなければならないのは分かりますが、25分もスピーチ聞かされるのは閉口ですね。セラーズが何を喋ったのかは知りませんが、言いたいことがあるのなら演出の形で言うべきですよね。
モーツァルトもザルツブルクでの大司教との確執やフリーメーソン活動を通じて、君主に対する芸術家の自由な地位には敏感な人だったとは思いますが、その人権団体代表の演説は、上演の場を借りたマジメな呼びかけなんでしょうかね。あるいはセラーズはそれを上演の一部と位置づけ、モーツァルトと現代・劇場空間と現代社会の浸透みたいなことを、気取ってる可能性もあるような気がするのですが。
Commented by dognorah at 2006-07-11 23:56
私はこれが初体験ですが、ツァイーデのアリアは仰るとおりなかなかすばらしいところがありますね。管弦楽部分はそれほど感銘しませんでしたが。スカスカの部分をThamosの音楽で埋めたのはいいアイデアと思いました。
イントロダクションでの演説は全く不要と思いました。セラーズはモーツァルトの反奴隷、反権力思想を強調し、さらに西欧とムスリムの融合を試みたことに言及していましたが、それは仰るとおりオペラ内で表現すればいいことです。単に人権団体に演説の機会を与えただけという気がしますが、助六さんが感じられたように「気取ってる可能性」も十分にありえますね。Guardian紙はその部分についてはほとんど無視した上、公演そのものに二つ星という厳しい評価でした。
Commented by hirokkina at 2008-07-17 18:22
おそまきながらコメントさせていただきます。この夏のエクサンプロヴァンスの音楽祭で、セラーズ演出の「ツァイーデ」を観ました。あまり納得できなかったので、検索し、このブログにたどりつきました。とても参考になりました。ありがとうございました。
Commented by dognorah at 2008-07-17 22:49
hirokkinaさん、初めまして。コメントありがとうございます。エクスにいらっしゃったのですね。日記をお読みしましたが気温が低かったとは。私が行った2年前は寒いなんてことは全くありませんでしたよ。今年は欧州全般に冷夏の傾向がありますね。
私もセラーズの演出は気に入りません。モーツァルトのオペラはもっと楽しくなくちゃですね。
ところで、ご覧になった「ツァイーデ」はネットで映像が放送されています。画質も音質もとてもいいので復習に役立つかもです。http://video-direct.france3.fr/zaide/
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