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カンディンスキー展

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テイト・モダンで開催中のものを見てきました。副題として「抽象への道のり」とされているように、ロシアを出てミュンヘンで絵を描き始めた1906年頃から第1次大戦のために帰国していたロシアを革命後の社会と折り合えず、再び出る羽目になった1921年ごろまでの本格的抽象画になる前の作品を時代を追って展示し、彼がいかに抽象への道を歩んで行ったかに焦点を当てた展覧会になっています(上の絵は1910-11年作Cossacks)。油彩画が50点以上、その他が30点程度の規模でバーゼルの近代美術館との共同企画です。絵画は、ロシア、スイス、ドイツ、アメリカ、フランス、イギリスなどから集められたものですが、そのほとんどはイギリス初公開ということです。テイトには何しろたった2枚しかコレクションがないのでほとんど借りてくるしかないのですが、パリのポンピドゥーセンターにはスケッチや資料も含めて1200点以上あるのに比べてなんと貧弱なことでしょう。

彼はモスクワの裕福な家庭で育ち、法律と経済学を学んだものの、あるとき印象派の絵画展を見たことから画家になりたいという思いが募り、1996年、30歳で画家になる決断をし、ミュンヘンに絵の勉強をしに行きます。ミュンヘンに行ったもう一つの理由は同時期にワーグナーの歌劇「ローエングリン」を体験したことで、強くその音楽の影響を受けたことによります。彼は後にシェーンベルクの音楽にも傾倒しますが音楽的に感受性の高い人だったのでしょう。
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上の写真に示した初期の絵、Song (1906)はロシアそのものが色濃く漂うプリミティヴなものですが、まろやかな線と多彩な色使いはとても魅力的で、並々ならぬ個性を感じることが出来ます。この頃はロシアへの郷愁を表現した作品が多くあります。

20世紀初頭にはガブリエレ・ミュンターという絵を教えていた生徒のひとりと愛人関係になり、ミュンヘン郊外のムルナウという村に住み始めますが、その頃のカンディンスキーがドイツ表現主義の推進者である彼女の絵の影響を強く受けていることは前に紹介しました。
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例に挙げた上の絵、Murnau-Castle Courtyard (1908)でもそういう印象を持ちますが、まとめて展示されている作品を見ると、構図や原色の組み合わせ方などやはり独特の叙情性が感じられます。私にとってはとても好ましい絵画達です。

大体1910年前後から次第に作品は変容を遂げていくのですが、ミュンターとの生活に飽きてきて、その影響を脱したいという意思もあったのでしょう、絵画表現上の試行錯誤の試みが精力的になされるようになります。当初は具象的な対象物の姿形を画面上にとどめながら全体を象徴的に表現するようになっていきます。その頃は色も原色に近い派手なものは影を潜め、落ち着いた色使いです。
この頃の彼は自分の作品を次の3種類に分類していました。
(1)Impressions
自然界を観察したそのままを表現。
(2)Improvisations
対象物から受けるムードや感覚をそのまま画面に表現。例えば下の写真に示すImprovisations 11(1910)。
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(3)Compositions
Improvisationsと同様心象表現であるが、よりスケール大きくより野心的な表現。例として下の写真に示すCompositions VII(1913)。
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ImprovisationsやCompositionsを描くときは彼は何枚もの下絵を試みて構想を練りに練って仕上げます。しかし一旦それが決まると後は仕事は早く、例えば上の例で挙げたCompositions VIIは2m x 3mの大作ですが、ミュンターの話によると3日で描き上げたそうです。
第1次大戦の勃発を契機に彼はミュンターと別れてロシアに戻り、絵画からどんどん具象的なものがなくなっていく傾向をさらに強めていきます。そしてロシア革命後の混乱の2年間は空白になりますが、画業を再開した1919年以降は抽象への道をまっしぐらといったところでしょうか。1921年には革命政府に失望した彼はドイツに行き、Bauhausで職を得ますが、再びロシアに帰ることはありませんでした。下の写真は1921年の作品Circles on Blackです。
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私はこれよりずっと後期の作品が好みですが、残念ながら今回の展示では含まれていません。

Kandinsky: The path to abstraction
22 June – 1 October 2006
Tate Modern (http://www.tate.org.uk/modern/)
by dognorah | 2006-07-01 23:24 | 美術
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