6月11日、バービカンホールにて。
ゲルギエフはショスタコーヴィッチ生誕100年を記念してバービカンホールで複数のオーケストラを振ってショスタコーヴィッチの全交響曲演奏を行っていますが、これはその中の一つです。今回は自分が音楽監督をしているロッテルダム・フィルを連れてきました。 出演 ピアノ:Lang Lang 合唱:London Symphony Chorus 管弦楽:Rotterdam Philharmonic Orchestra 指揮:Valery Gergiev プログラム ショスタコーヴィッチ:交響曲第3番 変ホ長調 作品20“May Day” ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58 ショスタコーヴィッチ:交響曲第15番 イ長調 作品141 第3番は単楽章で演奏時間30分程度と短いながらも最後の5分ぐらいが大合唱付きです。それまでの管弦楽は賑やかな行進曲風の同じリズムのヴァリエーションを繰り返す場面が多く、やや単調ともいえる構成で魅力的な曲とはいえない。合唱部分に入ってやっと音楽らしくなる。合唱団の実力が目立つ演奏でした。合唱団はこれだけだと物足りないというがごとく、そのまま座り続けて次のピアノ協奏曲は観客として参加していました。 初めて聴くラン・ランのピアノはダイナミックな弾き方ではなく、曲の持つニュアンスを丁寧に表現するピアニズムと見ました。第2楽章などそのスタイルにぴったしで、美しい弱音が大活躍します。曲の持つダイナミックな部分はもっぱらゲルギエフが強調して表現しピアノの小さめの音量と対照をなして結構効果的でした。彼は協奏曲が意外にうまい人だと認識しました。今回の演奏が好演であったとすればそれはゲルギエフの寄与もかなりのものです。ラン・ランが全てこういう演奏をする人なのかどうかは知りませんが、細やかな音で音楽的表現を目指している気がします。そのスタイルではベートーヴェンの5曲のうちではこの第4番が最も適しているのでしょう。耳を澄まさないと聞こえないような音が多いけれど、すばらしく叙情的で美しい。特にコンクール歴があるわけでもないのに世界中でもてはやされているのは、そうして表現される豊かな音楽性のせいですね。私自身が好きなピアニズムとはちょっと距離がありますが、これはこれで存在価値のあるスタイルというのは理解できます。 アンコールはよくわかりませんが恐らくモーツァルトの何か。それも同じスタイルで、実に楽しげに体を揺らしながら演奏していました。聴いている方も頬が緩んでくる感じです。 このあとのインターヴァルに結構な人数の聴衆が帰宅しちゃいました。キャンセル待ちの行列が出来ていたぐらいの人気はラン・ランのせいで決してゲルギエフでもショスタコーヴィッチでもないことがよくわかりました。地味な演目に華を添えて客を呼ぶ作戦は大成功というわけです。 ショスタコーヴィッチの15番は1971年作曲で彼の最後の交響曲ですが、晩年で、もうあまりエネルギーを注入できる状態ではなかったのか、あるいは彼の行き着いたところがこういう境地だったのか、音が賑やかに鳴る場面はいっぱいあるものの全体としてはとても枯れた曲という印象です。第1楽章はチンチンという鐘の音で始まり、なぜかロッシーニのウイリアムテルを思わせるメロディーが頻繁に出てきます。実演で聴くのは初めてですが、ちょっと退屈なところもあり、あまりよくわからない曲です。
by dognorah
| 2006-06-13 23:51
| コンサート
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Comments(14)
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ja8cte at 2006-06-14 00:27
ランランは、中学生くらいの時に、確かショパンコンクールか何かで優勝した覚えがありますが、違っていたらごめんなさい。dognorahさん、いつもたくさんのレポートお疲れ様です。
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supikametti
at 2006-06-14 05:56
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このコンサートと同じ日の午後、”Testimony”という、スターリン圧政下に生きるショスタコーヴィチを描いた映画と監督らのトークを楽しみました。交響曲第15番は、7番や8番のような「生としての怒り」のようなものはかんじられず、dognorahさんも書いていらしたように枯れた印象ですね。ラン・ランは私もはじめて生で聴きましたが、思ったより地味な印象で、聴いていて時間の流れがゆるやかになったような気がしました。協奏曲ではとくに、オケがゲルギエフの手指に見事に反応していて視覚的にもおもしろかったです。
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dognorah at 2006-06-14 06:26
ご~けんさん、彼自身が書いている経歴には何もないのでショパンコンクールも出たことがないんじゃないでしょうか。旅行記、少しずつですが読ませていただいています。
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dognorah at 2006-06-14 06:49
supikamettiさん、同じ会場にいらっしゃったのですね。彼は本当にスターリンにいじめられて、独裁者が死んだときは心から喜んでいたようですね。その喜びは第10番に込められているようで、あれは名曲と思います。晩年は「敵」がいなくなっていまいち調子が上がらなかったのかもしれません。
ラン・ランは仰るとおり地味ですね。名前に惹かれてヴィルトゥオーゾを期待したら失望するでしょうね。ゲルギエフは今回は全く指揮棒を使わず、しなやかな手だけの指揮でしたがさすがに手兵はよく反応していましたね。以前、爪楊枝のような指揮棒を指に挟んで指揮している姿を記事にしたことがあります。
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助六
at 2006-06-14 09:51
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3番は短いのに大合唱が要るからめったにやられませんよね。私も実演に接したことはありません。羨ましいです。
15番は真面目なんだかからかわれてるんだか、悲壮味を帯びてるんだか達観してるんだか分からない「軽味」を帯びた不思議な曲ですね。「テル」の引用も子供時代の思い出と言うけど、懐かしんでるんだかバカにしてるんだか分からないし、「指環」の「運命の動機」の引用も真剣なのか茶化してるんだか分からない。いかにも自己・他己嘲笑が噴出するショスタコーヴィチの面目躍如たる曲だけど、名曲ではないかもしれませんね。個人的には8番と特に4番が文句ない名曲だと思っています。
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dognorah at 2006-06-15 00:23
3番は1930年にレニングラードで初演されたときは好評でその後アメリカでも演奏されたそうですが、それ以降さっぱり演奏されない状態のようです。今回もチクルスをやるという意思があるから演奏されたのでしょうね。私はショスタコーヴィッチの交響曲はあまり積極的には聴いてこなかったので生誕100年の今年は少しまじめに聴いてみようと思っています。しかしどの曲も一聴してショスタコーヴィッチだとすぐわかる特徴があり、続けて聴くのはちょっと我慢できないという感じがするのも事実です。
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ja8cte at 2006-06-15 00:24
ランランのコンクール歴、了解しました。半ズボン姿で優勝をさらって行った映像を覚えているのですが、他の場所だったようですね。コンクール歴に頼らない演奏家は本物だと言えるのかもしれません。最近は日本でも演奏することが多いようですが、スイスで行われたフェスティバルで、アルゲリッチなどと共演した映像は、実にイキイキしていたのを覚えています。
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dognorah at 2006-06-15 01:26
ご~けんさん、ランランは映像での露出頻度も高いですね。3月にモーツァルト生誕250年で24時間コンサートが世界的に開催されましたが、北京から彼の弾く24番のピアノ協奏曲がこちらに中継されました。顔の表情が見ていて飽きない面があります。
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らぷそでぃ
at 2006-06-16 17:55
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こんにちは。ベトのピアコン4番は、ちょっと変わっていますものね。きっと記事にかかれてらっしゃる感想どおりの、アプローチを、ピアニストは試みたのでしょう。聴いてみたいものです。でも、そんなに人気があるのですね!?ゲルギエフじゃなくって(^-^;)おどろきでした。
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dognorah at 2006-06-16 19:44
らぷそでぃさん、お久しぶりです。いろいろと大変な時期に来ていただいて感謝です。
ラン・ランはNYやヴィーンでは大人気であることは伝え聞いていたのですがロンドンでもこうだったのです。聴衆は特に中国人が目立ったわけではないのでかなり人気の幅は広そうです。
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らぷそでぃ
at 2006-06-18 14:55
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そうなのですか、来日の際には聴きにいきたいものです。---最近、仕事が忙しいのと、、体力が落ちたの(?)とで、演奏会へいく頻度が下がりまして、コレじゃいけないと思うのですが。。うーむ。
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dognorah at 2006-06-19 01:45
らぷそでぃさん、彼は毎年のように日本にも行っているようです。今年は10月にリサイタルをやるようですよ。
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flautebanker at 2006-06-30 12:36
はじめまして。ランランは一度実演で聞いてみたい演奏家です。N響とのラフマニノフの3番には圧倒されました(TVで)。CDでの演奏も、、、色々と意見はあるでしょうけど、非常に情感溢れる素敵な演奏だと思います。テクニックは申し分ないですしね。それにしても内容の濃いブログですね。また遊びに参ります。
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dognorah at 2006-06-30 19:04
flautebankerさん、はじめまして。ランランに興味がおありのようですね。上の方に書きましたが今年の10月には日本でリサイタルをやるようです。
flautebankerのブログもいろいろ多彩な記事を書いていらっしゃいますね。私もチョコチョコ読ませていただきますね。今後ともよろしくお願いします。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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