ロイヤルオペラの舞台です。
Music: Alban Berg Libretto: Alban Berg(after the play by Georg Büchner) Conductor: Daniel Harding Director: Keith Warner Sets: Stefanos Lazaridis Costumes: Marie-Jeanne Lecca Lighting: Rick Fisher Wozzeck: Johan Reuter Captain: Graham Clark Marie: Susan Bullock Doctor: Kurt Rydl Drum Major: Jorma Silvesti Andres: Peter Bronder Margaret: Claire Powell このプロダクションは4年前の2002年がプレミエだったのですがそのときは見逃しています。したがって実演を見るのはこれが初めてですが、衝撃の舞台でした。2003年にOlivier Award(ロンドン劇場協会賞)を受賞していますが、さもありなんと思いました。 キース・ウォーナーの演出とダニエル・ハーディングの指揮する音楽がぴったり同期し、歌手たちのすばらしい歌唱と演技とも相俟って非常に密度の濃い舞台となっています。今回がROHでは50回目の上演ですが、プッチーニのマイナーなオペラよりはるかに上演回数が多いというのは納得できます。音楽が始まる前は舞台奥に左の写真に示すように人体頭部の解剖図の幕がかかっていて、ヴォツェックの子供が机でなにやら紙細工のようなことをしています。ちなみにこの子供は最初から最後までずっと舞台にい続けます。 いったん照明が消えて、その前にこっそり指揮台に上がっていたハーディングが指揮棒を振るとその幕が上がり青白い照明の舞台全景が現れます。格子状の模様の入った壁で囲まれた空間ですが、舞台奥に行くにつれて遠近法のように小さくなり、奥の壁はときどき物語の進行に合わせて窓のように上がり、その向こうに据え付けられた全面鏡によって地下の部屋が映されます(右の写真参照)。地下の部屋の風景はいろいろ変わるのですが、恐らくヴォツェックの心の中を象徴しているのでしょう。例えば、第1幕最初の方で彼がキャプテンに侮辱されている場面では愛するマリーの姿が現れるなど。舞台の左手前の3角形のスペースがマリーの家を表し、ピアノ、ベッド、机と椅子が配されています。家の中が主題になるときは斜めにカットした壁が動いてきてドアや窓がセットされます。ドラムメージャーとマリーの最初のセックスもここで行われるのですが、子供がじっと見ている前でやるというのはちょっと違和感があります。上に述べたように、この子供はほとんど舞台にいて大人のすることを観察しているのですが、神のような存在を象徴させているのでしょうか。マリーが聖書を読み上げて、マグダラのマリアがキリストの足元にひざ間づいて涙でキリストの足を濡らす、というくだりでは彼は洗面器をマリーの足元に持っていって水に濡らしたスポンジのようなもので彼女の足をぬぐいます。浮気をして懺悔する心の様子を表現しているのでしょうか。 物語はヴォツェックの心理を描写しながら必然的に淡々と進んでいきます。場面転換の間も音楽が鳴り続ける作品ですが、この演出ではその間も登場人物は何らかの動作をしており、舞台上の動きが止まることはほとんどありません。 最後のヴォツェックが溺れ死ぬ場面はまたすごい演出で、実際に水を張った水槽の中に全身を沈ませるのです(左の写真参照)。そこからオペラ終了までの10分近い間ずっと沈んでいます。歌手はその間ビニールのホースで息をつないでいるわけですが水中で微動だにしないで水死状態を表すというのもつらいものでしょう。カーテンコールに出てくるまでずいぶん時間がかかりましたが、体を拭いていたに違いありません。爽やかに登場しました。とにかくすばらしい音楽とすばらしい舞台、堪能しました。もう一度見たいと思いましたが残念ながら今日が今回の公演の最終日。これから最終日に行くのはやめます。 下の写真は、ハーディングを挟んでタイトルロールのヨハン・ロイターとマリー役のスーザン・バロックです。二人とも今回がROHデビューだそうです。 ![]() あらすじ ヴォツェックはオリジナルでは一兵卒で兵舎で上官のキャプテンに仕える身ですが、この舞台では貧乏な彼が身なりのいい紳士(キャプテン)の身の回りの世話をして小遣いを稼ぐ設定になっています。 キャプテンはヴォツェックの生活態度についてあれこれ批判し、けちをつける。一方ドクターは自分の理論を実証すべくヴォツェックに金を払って人体実験まがいの薬物投与をしている。ヴォツェックはそうして稼いだ金を愛人であるマリーと、彼女のとの間に儲けた息子の生活費に当てている。彼女はそうした生活に飽き足らず、ある日家の前を行進した軍楽隊のドラム長に惚れこんで関係を持つようになる。その一方ではヴォツェックに悪いと思って罪の意識に苛まれる。浮気の事実がキャプテンやドクターのほのめかし、およびドラム長の台詞でヴォツェックの知るところとなり、裏切りに絶望した彼はナイフで彼女を殺す。証拠のナイフを池に投げ込むが浅瀬ではばれると思い、もっと深いところにと思ってナイフを拾おうとするが誤って自身も溺れてしまう。
by dognorah
| 2006-03-15 03:29
| オペラ
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Comments(4)
入水の演出、失礼ですが笑ってしまいました。ヴォツェックが良く立小便をする脚本をベルクが良く咳きをするに変えたようですが、ザルツブルグの演出では立小便に戻したらしいです。ベルクでいえばルルなんか一番観たいオペラです。但しヒロインに美貌がないといけませんが。
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今回も立ち小便する場面はあって、ドクターからねちねちと厭味を言われていました。舞台ではその格好をするだけで実際におしっこするわけじゃないですが。ルルはROHでは來シーズン以降になります。
この《ヴォツェック》、全体的になかなか良い舞台でしたね。何度か観たうちで、アッバード/ヴィーン国立歌劇場の次くらいに印象的な音楽が聴けました。構成が透けてみえるようなハーディングの指揮が良かった。この前日(《マクベス》)のひどいオケとうって変わった音を聴かせていましたね。スーザン・ブロックって日本では呼んでいますが、彼女日本ではキース・ウォーナー演出のトーキョー・リングの後半のBキャストのブリュンヒルデなんです。この2,3年、成長の著しい歌手ですね。《神々の黄昏》では、はっきり言って、Aキャストのシュナウトよりよく演出家の意図をくんで、好ましいブリュンヒルデ像をつくりあげていました。またロイター、美声ですね。彼のリートを聴いてみたい...。
私は他にはMussbachのDVDしか見ていないのですが、今回のは演出がそれよりはるかにいいと思います。マクベスは2回見ましたが、オケは特に不満はなかったです。Bowlesさんのときは何が悪かったのでしょう。
ヴォツェックはROHデビューの二人が共によかったのも成功した要因でしたね。ロンドンではブロックは露出度が高いですが、ロイターはなかなか聴けないかなぁと思っています。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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