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ドニゼッティ「ドン・セバスティアン」 -9月13日

コンサート形式ではありますが、ロイヤルオペラハウスの今シーズン最初のステージを聴いてきました。2ヶ月ぶりのオペラ開幕のせいか、この馴染みのないしかもコンサート形式だというのに客席はほぼ満席でした。世界的にもめったに上演されない作品で、長い歴史を誇るコヴェントガーデンでも演奏されるのは今シーズンが初めてです。

作品
Paul-Henri Foucherの書いた戯曲「Dom Sebastien de Portugal」をもとにEugene Scribeという人が台本を書いて、それにドニゼッティが作曲した。

あらすじ
物語は16世紀後半のポルトガルを舞台にしたもので、スペインのフェリペ2世(カルロス1世とポルトガル王女の子)がポルトガル併合を狙っているというのに、暢気なポルトガル王ドン・セバスティアンはモロッコ遠征などに熱を上げています。
王を冷ややかに見送るのが、既にスペインと通じている大審問官Dom Juam de Sylva。実際の歴史通り、その目論見は成功してポルトガルは併合されてしまうのですが。

歌手として重要な役に、詩人Camoensがおり、この人は故国および王を賛美する人で、王に従ってモロッコ遠征に参加することにします。

一方、このオペラでただ一人の女性登場人物のZaydaは、これより前に起こったポルトガルとモロッコの戦闘時に捕虜としてリスボンに連れてこられ、キリスト教に改宗して修道院に入っていたのですが、故国の父に会いたい思いを口に出して沈黙の誓約を破り、火刑の判決を受けます。不憫に思った王がその判決を取り消し、モロッコへの追放という処分にしたため、彼女は心からの感謝を捧げ、それがいつしか愛に変わっています。

モロッコでは彼女の父Ben-Selimと婚約者でモロッコ軍指揮官のAbayaldosが彼女を歓迎し、結婚式を挙げようとしますが、ポルトガル王を愛している彼女は苦悩します。そのときにポルトガル軍侵略の知らせを受け、結婚は戦闘勝利後に延期。

戦闘はモロッコ軍の圧勝に終わり、王、副官、詩人はすべて負傷。王のとどめを刺そうとするAbayaldosの目をごまかすため、副官Dom Henriqueが王の振りをして死ぬ。
Zaydaが戦場で王を見つけ、介抱する。死を免れた王は彼女と共に愛を誓う。彼を王とは気付いていないAbayaldosが生存兵は皆殺しと言うのを彼女は必死でなだめ、すぐに結婚してあげるからと言って王の命を救う。

Ayabaldosは両国の和平交渉の使節としてリスボンを妻Zaydaと共に訪問。
一方、王と詩人もリスボンに帰りつくが、王はそこで自分の葬式が執り行われているのを知り、身分を明かす。しかし、Abayaldosが王は自分が殺したはずと証言するや、大審問官は王を詐欺師として逮捕する。この過程でZaydaが王を愛していることもバレ、一緒に逮捕され共に死刑を宣告されてしまう。

スペインのフェリペ2世は穏便にポルトガルを併合するために、Dom Sebastienが王位を譲るという書類にサインしたものを大審問官に求めたため、彼はZaydaと王の間の愛を利用して書類を入手する。
一方、詩人Camoensは王に忠誠心を持っている軍人たちを組織し、王の救出を画策する。二人が幽閉されている塔にアプローチして縄梯子で二人を脱出させようとするが、気付いた大審問官によって縄梯子は切られてしまい、二人は墜死して幕。

主な配役
モロッコの娘Zayda(メゾ・ソプラノ):Vesselina Kasarova
ポルトガル王Dom Sebastien(テノール):Giuseppe Filianoti
大審問官Dom Juam de Sylva(バス):Alastair Miles
モロッコ軍司令官Abayaldos(バリトン):Simon Keenlyside
詩人Camoens(バリトン):Carmelo Corrado Caruso

演奏
指揮:Mark Elder
管弦楽:The Orchestra of the Royal Opera House
合唱:The Royal Opera Chorus

大叙事詩的で複雑な筋ですが最後が唐突だし全体のまとまりもあまりなく、見ているほうもイマイチ納得の行かない台本です。しかし、ドニゼッティのこの音楽はなかなか聴き応えがあり、ヴェルディのような壮大な管弦楽と合唱をバックに美しく親しみやすいドニゼッティらしいアリアも散りばめられ、最後まで飽きることはありません。今回はコンサート形式とはいえCD録音も兼ねた舞台のせいか、いい歌手を集めています。

一番感心したのは、サイモン・キーンリサイド。ど迫力の歌唱で、豊かな声量なのに声も美しい。やや一本調子ではあるものの、その時々の心情を遺漏なく表現していたと思います。
そして、憎々しい声で悪役振りがよく表現されたアラステア・マイルズのバス。
タイトルロールのジュゼッペ・フィリアノーティも美しくよく伸びる高音がとても心地よい。お国の大事に戦ごっこや恋愛沙汰に身を焦がす脳天気な王様にはぴったりでした。
詩人の性格付けおよび存在の必然性がイマイチよくわからないのですが、急遽代役だったのにカルーソーはなかなかいいアリアを聞かせてくれました。
唯一の女声カサローヴァは、ところどころ声がかすれることはありましたが美しい声で、声量もありました。歌唱もとてもうまかったと思います。恋と婚約者との板ばさみ的悩みはあまり感じられませんでしたが、この婚約者同士ちっとも愛情というものが見えない関係なのでこんなものでしょうか。
その他大勢の登場人物がいますが、下手な人はいません。短い登場時間なのにみんな聴き応えがありました。今回の席が舞台のすぐそばだったこともあるかもしれませんが迫力が感じられました。
忘れてはならないのは合唱で、いつもながらすばらしい歌唱でオペラを盛り上げてくれたと思います。
マーク・エルダーの指揮はとても切れがよく、壮大な部分と叙情的な部分をきっちりコントロールして劇的表現を高めていました。合唱の部分など自分も声を出しているのか口を動かして曲に没頭しています。歌手に対する気遣いも細かく、さすがヴェテラン指揮者です。

これは一度ちゃんと演技も入った舞台を見たいと思いますが、果たしていつになるやら。

今回は「ロンドンの椿姫」さんと、そのお友達「カルメン」さん、それに「Sardanapalus」さんと席は違うけれど一緒に聴き、休憩時間にいろいろ感想を話し合って面白かったです。特にSardanapalusさんからは先週の土曜の公演との比較などお聞きし、とても参考になりました。その場で意見を交わせるってのはいいですね。
by dognorah | 2005-09-14 23:02 | オペラ | Comments(6)
Commented by Sardanapalus at 2005-09-15 05:35 x
TBありがとうございました!dognorahさんにキーンリーサイドを褒めてもらえて嬉しいです♪歌手達は本当に実力派揃いでしたね!フィリアノティも声が回復して良かった(^_^;)マイルズの大審問官とキーンリーサイドのアバヤルドスに結託されたら、あののほほんとした王様じゃそりゃ駄目ですよね(笑)


>詩人の性格付けおよび存在の必然性がイマイチよくわからない
同感です!名曲ばっかり歌うけど、結局あんたは何者?という感じでした。あんな怪しい自己紹介で王様もさっさと仲間にしちゃうし(笑)そこは突っ込んじゃいけないのかな?
Commented by dognorah at 2005-09-15 07:32
あらすじからまとめていったのでSardanapalusさんに後れを取ってしまいました。撮った写真もみんなピンボケで残念ながら髭のフィリアノーティをアップできなかったのです。
ROHのsynopseによると、あの詩人は、バスコ・ダ・ガマの航海に参加した人を主人公にしたポルトガル叙事詩を書いているので今回はモロッコ遠征に参加して王の偉業をたたえる叙事詩を書きたい、と言ったようです。でも、彼の代わりに普通の軍人でもいいような気がしますけどね。
Commented by Sardanapalus at 2005-09-15 08:33 x
>撮った写真もみんなピンボケで残念ながら髭のフィリアノーティをアップできなかった
あら、残念!椿姫さんにフィリアノティのマシな写真を見せて差し上げたかったのに。

>バスコ・ダ・ガマの航海に参加した人を主人公にしたポルトガル叙事詩を書いている
え、そんなこといってましたっけ?バスコ・ダ・ガマの名前が出てくれば気づくはずだけどなぁ。あ、でもフランス語発音じゃ分からないわ。本当に、詩人である必要性がないですよねぇ(笑)吟遊詩人なのに不吉な詩を読んじゃうし、実は彼が疫病神なんじゃ…(^_^;)
Commented by dognorah at 2005-09-16 01:29
>実は彼が疫病神なんじゃ…
当たってるかもしれないですね。実はドニゼッティ(脚本家)が言いたいのはそこだったりして。
Commented by 助六 at 2005-09-17 07:15 x
Sardanapalusさんのサイトにもコメントさせて頂きましたが、小生このオペラには多少コダワリがあり、舞台上演があったときボローニャまで観に出掛けたことがあります。オペラ座図書館が所蔵している自筆譜も見せて頂いたことがありますが、速筆のインクの滲みが印象的でした。今回も行けずに残念でしたので、レポート有難いです。
ドニゼッティは、「アンナ・ボレーナ」「マリア・ストゥアルダ」「ポリュート」といった作品では真の天才の輝きを放っていると思います。
フィリアノーティは、6月にパリにもプッチーニの「ラ・ロンディーネ」で登場しました。立派な美声とスタイリッシュな歌唱に感心しました。プッチーニより19世紀前半の伊仏オペラの方が本来的レパートリーでしょうね。
Commented by dognorah at 2005-09-17 08:55
助六さんはこのオペラがここに挙げられた3つと同列のものと考えておられるのですね。私は残念ながらそのどれもまだ聴いたことがないのでなんともコメント出来ませんが、Sardanapalusさんが「これって、ほんとにドニゼッティ?」と言われていたように彼のポピュラーな作品とは違う系統に属するのでしょうね。私はポピュラーなものでもまだ聴いていないものの方が多いのでなかなかそういう深みにはまることはありませんが、心に留めておきたいと思います。いつも一段掘り下げたコメント、ありがとうございます。
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