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アドリアナ・ルクヴルール初日

2010年11月18日、ROHにて。

Adriana Lecourvreur: Opera in four acts
Music: Francesco Cilea
Libretto: Arturo Colautti

Director: David McVicar
Conductor: Mark Elder
Royal Opera Chorus
Orchestra of the Royal Opera House

Adriana Lecouvreur: Angela Gheorghiu
Maurizio: Jonas Kaufmann
Prince de Bouillon: Maurizio Muraro
Princesse de Bouillon: Michaela Schuster
Michonnet: Alessandro Corbelli
Abbé de Chazeuil: Bonaventura Bottone
Poisson: Iain Paton
Quinault: David Soar
Madame Jouvenot: Janis Kelly
Madame Dangeville: Sarah Castle
Mademoiselle Duclos: Barbara Rhodes

15日のリハーサルでは字幕を読んで会話の内容を把握するようにしましたが、今日は舞台と音楽に集中して聴きました。 その結果、このプロダクションは非常に完成度の高い内容の濃いものであることがわかりました。
まず、デイヴィッド・マクヴィカーの演出が凄い! 音楽なしの演劇として見ても耐えられるくらいよくできています。 5劇場相乗りで通常より予算が豊富だったのか、舞台装置にも結構お金がかかっている風に見えます。 第3幕のPrince de Bouillonの私邸内の小劇場も非常に美しく作られているのでリハーサルの時には拍手が湧き起こったくらいです。 特に感銘したのは第4幕最後にアドリアナが息を引き取るシーンで、それまで斜めになっていたコメディ・フランセーズの舞台が静かに正面を向き、アドリアナの同僚達が奥から横一列で登場し、帽子を取って死者への弔いを表現するとともにこのオペラの幕切れを表現するやり方です。 心にジーンと来ました。
このマクヴィカーの演出に加えてアンジェラ・ゲオルギューの演技がすばらしく見応えのあるものになっています。 特に第3幕でラシーヌの『フェードル』の一節を朗詠することで恋敵をやっつけるところなどど迫力で、マーク・エルダーのこれまたすばらしい管弦楽で増幅されてどきどきするような緊張感が醸し出されました。 カーテンコールで出てきたマクヴィカーは真っ先にゲオルギューのところに駆け寄って彼女をひしと抱きしめていましたが、それだけ彼の演技付けを忠実にこなして演劇としての完成度を高めてくれたということでしょう。 ちなみに今日のマクヴィカーは過去に見たことのないほどの上機嫌で、手をつないで観客に挨拶しているときもしつこくゲオルギューの手にキスをしていました。

歌唱の方はアドリアナの恋敵役Princesse de Bouillonを歌ったミヒャエラ・シュスターがリハーサル時に比べてややスムーズさに欠ける部分があるほかはすべての人がリハーサルとほぼ同じ万全の歌唱でした。 特にゲオルギューは声量こそ控えめながら微妙な心の綾を表現する歌唱が絶品で感動ものです。 恋人Maurizio役のヨナス・カウフマンも歌唱はうまく、各アリアともブラヴォー続出でしたが、この人の声がどんどんバリトン的になっていくのが気になります。 6年前に初めてコヴェントガーデンでゲオルギューと共演したプッチーニのLa Rondineではイタリアオペラにふさわしい輝かしいテノールでしたが、年を経るに従い声質はどんどん暗くなっていって最近の「カルメン」、「椿姫」、「トスカ」あるいは「ドン・カルロ」でも私はいまいちその声自体には魅力を感じなくなりました。 今回も同じで往年の片鱗は感じられるものの、かすれ声の多い様には少々がっかりします。 先日もウイグモアホールでやったリサイタル(超人気のため切符は入手できませんでしたが)の放送を聴いた限り、「美しき水車屋の娘」はユニークな歌い回しで感動的名唱ではありましたがバリトンによる歌唱といっても大げさではないでしょう。 インタビューでヴァーグナーをどんどんやっていきたいと言っていることからそっちの方向に向かって声質を変えていっているのかもしれません。
それはともかく第1幕や第4幕のゲオルギューとの二重唱もすばらしく歌唱的には堪能しました。

今日のマーク・エルダーの指揮ですが全般にリハーサル時より遙かによく、空気の襞を表現するがごとく美しいアンサンブルと精緻な表現で各場面の情景を心憎いばかりに描出するすばらしい演奏でした。 劇的なインパクトも凄い迫力です。 このように、オペラ自体はあまり上演されないことからわかるように非常に魅力的とはいえないにしても、今回のプロダクションは管弦楽、歌唱、演出、演技が高いレヴェルで噛み合った類い希な出来となりました。 DVDを作るのかどうか気になるところです。

カーテンコールの写真
Angela Gheorghiu、後ろはBonaventura Bottone
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Jonas Kaufmann
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Michaela Schusterとは同じドイツ人同士で話が弾むようです
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Maurizio Muraro
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Michaela Schuster
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Alessandro Corbelli
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Angela Gheorghiu, David McVicar and Mark Elder
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by dognorah | 2010-11-20 09:48 | オペラ | Comments(8)
Commented by Sardanapalus at 2010-11-20 11:02 x
初日レポートありがとうございます!マクヴィカー演出も素晴らしいとのこと、ぜひDVDにしてもらいたいです。写真で見られる衣装だけでも十分美しくて魅力的ですが、実際に劇場で見たいです~~。

>今日のマクヴィカーは過去に見たことのないほどの上機嫌
おおっ、こんな笑顔珍しいですね。よっぽど満足のいく出来だったのでしょう。しかしもう少しマシなネクタイないのかしら…。
Commented by ご~けん at 2010-11-20 11:14 x
こんにちは。ゲオルギュは来日できずにがっかりさせられましたが、ご本人の病気ではなかったので元気そうですね。
カウフマン、そうでしたか・・・、ドミンゴのようなテナー歌手を目指すより、もしかしたらワーグナー歌手寄りに向かっていくかもしれませんね。彼のワーグナーも聴いてみたいものです。
Commented by dognorah at 2010-11-20 21:55
Sardanapalusさん、これからあちこちで上演されるので見るチャンスはあると思いますよ。
彼、インターヴァルにもホールに出てきましたがネクタイは演出家らしくよく似合っていると思いましたよー。
Commented by dognorah at 2010-11-20 22:01
ご~けんさん、日本公演では残念でしたがネトレプコ出演のおまけがあったので喜んでいる人もいらっしゃったようですね。
カウフマンは本人の希望もあるのでこれから少しずつレパートリーを増やしていくのでしょう。
Commented by 守屋 at 2010-11-21 06:11 x
こんばんわ。カウフマンは、僕もそのリサイタル本番、さらにラジオの放送で再び聞いても、前半はまるでバリトンかと思いました。イギリスによく来てくれる見栄えも実力もあるドイツ人テノールが減ってしまうことになっては困ります。

 昨日のイヴニング・スタンダードの付録雑誌にアンジェらのインタヴューがありました。曰く、離婚はしないことにしたけどロベルトとはもう一緒の舞台にはたたないらしいです。良くも悪くもオペラ・ワールドを彩ってくれる女性だと思います。
Commented by dognorah at 2010-11-21 08:12
守屋さん、この人以外ではクラウス・フローリアン・フォークトが見栄えも実力もあるテノールでしょうか。

そのインタヴュー記事は友人もレポートしてくれましたが、ロベルトは苦々しく思っているでしょうね。
Commented by じゅびり at 2010-11-23 09:59 x
はじめまして。
ここ数年のにわかオペラファンです。
一度だけロンドンに行ったことがあります。その時は残念ながらオペラはやっていなかった…。
ですので、ブログにお邪魔して、ロイヤルオペラの気分を味わせていただいてます。
ロイヤルオペラ日本公演、ゲオルギューのキャンセルの影響をもろに受けた私です。代役2人のヴィオレッタには本当にわが耳をうたがいました。

いつか、ロンドンに再訪し、コベントガーデンでオペラをと思ってます。
これからも楽しみにしておりますので、公演のレポ、よろしくお願いします!
Commented by dognorah at 2010-11-24 00:39
じゅびりさん、初めまして。 ゲオルギューは残念でしたね。彼女はちょっと我儘なところがあり、こちらでも頻繁にキャンセルする人なんです。 今回は2回とも彼女が聴けてラッキーでした。
これからもよろしくお願いいたします。
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