人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!

2009年10月15日、ROHにて。
Nina Stemme and Ben Heppner
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_756562.jpg


Richard Wagner: Tristan und Isolde

Director: Christof Loy
Conductor: Antonio Pappano

Tristan: Lars Cleveman (Ben Heppnerは口パク)
Isolde: Nina Stemme
Kurwenal: Michael Volle
Brangäne: Sophie Koch
King Marke: Matti Salminen
Melot: Richard Berkeley Steele
Sailor: Ji-Min Park
Steersman: Dawid Kimberg
Shepherd: Ryland Davies

近年聴いたイゾルデでは最高の歌唱でした。ビロードのような美しい声、求められている全ての音程でびくともしない確かさ、オーケストラに負けない声量、情感溢れる歌唱で圧倒されました。最後の愛の死では感動のあまり涙ぽろぽろでした。このオペラで泣いたのは久し振りです。ニーナ・シュテンメの歌唱を聴くのは、「仮面舞踏会」のアメリア、 「さまよえるオランダ人」のゼンタ、「運命の力」のレオノーラ に次いで4回目ですが、仮面舞踏会こそプレミエ時のカリタ・マッティラに及ばないと感じたものの、後は全て大きな満足感を与えてくれる歌唱でした。今年46歳、イゾルデを歌うには脂の乗り切った状態でしょうか。今後彼女がこの役をやるときは要チェックです。
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_85037.jpg

トリスタン役は9月29日の初演時からメロメロの歌唱でさんざんの評判だったベン・ヘプナーが遂に歌うのをあきらめたため、スェーデン人テノールのLars Clevemanが急遽呼ばれて舞台袖で譜面台を前に歌いました。ヘプナーは口パクで演技。このテノールは北欧などではトリスタンを始めあらゆる有名な主役を歌っている売れっ子らしい。近々バイロイトでタンホイザーを歌うとのこと。1958年生まれ。特に抜きん出ている声という印象ではありませんが歌唱は手堅く、代役としては十分の出来でした。声量的には大きいというわけではありませんが、時にはオケと張り合う声も出していました。
Lars Cleveman as Tristan's voice
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_82375.jpg


ブランゲーネ役のソフィー・コッシュもすばらしい歌唱でした。この人もいつ聴いても安定しているという印象です。過去には「ファウスト」のシエベル、「偽女庭師」のラミロ、「フィガロの結婚」のケルビーノと3回聴いていますが最初に魅力をアピールしてくれたのは「偽女庭師」でした。イゾルデ共々デブじゃないコンビは視覚的にもいいですね。
Sophie Koch as Brangäne
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_8125116.jpg


クルヴェナールを歌ったミヒャエル・フォレもいつも通りの安心して聴ける歌唱で、同役としては過去最高の配役と思いました。声はカチッと締まっていて気持ちがいい。
Michael Volle as Kurwenal
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_89635.jpg


マルケ王のマッティ・サルミネンはいつものように低音がよく出ていましたが、声全体の輪郭がややぼけているときもあって今年2月にミラノで聴いたときに比べるとやや不調でした。カーテンコールではブーも聞こえました。杖をついて歩きにくそうな体調が影響しているのかも知れません。
Matti Salminen as King Marke
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_8101263.jpg

その他の歌手は全て特に問題なしです。

パッパーノ指揮のオケですが、大変すばらしい。前奏曲が始まった途端にこのオペラの世界に引き込まれる弦の音で、溜息が出そう。第2幕以降でやや音が荒れた場面もありましたが全体としては歌手との融合も申し分なく、感動的舞台の原動力となっています。
Antonio Pappano and Nina Stemme
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_8114588.jpg


演出は最近の「ルル」と同じクリストフ・ロイで、また期待できないだろうなと覚悟していたら案の定初日はブーの嵐だったようです。しかし友人や他のブログでちょっと好意的なコメントもあり、これは見てみないと分からんぞ、という気持ちで臨みました。結果としてはそれほど悪くはないと思いました。舞台はモノトーンながら、奥の部分はカーテンで仕切られ、常にディナーテーブルが3つ置かれています。手前の劇の進行に合わせてその奥の間が垣間見えるのですが、心象イメージであったり、別の空間を表現したりしているようです。手前の舞台は椅子が1-2客置かれていたり、時にはテーブルもあったりしますが家具はそれだけ。人物は白または黒の現代服を着ています。歌手達の動きはほぼコンサート形式で代用できる代物で、演出全体としてはかなり観念的なものです。しかし、第3幕のトリスタンの延々と歌う場面ではいつもやや退屈するのですが、今日はトリスタンによって作られる凝縮された演劇空間に惹かれてあっという間に時間が経過した印象です。これは感心しました。もし初日に見に行っていたとしても私はブーを唱えなかったでしょう。
舞台全体。合唱隊の立っているところがカーテンで仕切られて普段は奥の部屋が見えない。
ニーナ・シュテンメのイゾルデに感動!_c0057725_822525.jpg


----------------------------------------------------
余談ですが、昨年バイロイトに行ったときに空港で知り合った85歳(当時)の婦人と今日はROH内のロビーでばったり会いました。今年はこういう偶然が2回も起こって不思議な気がします。
by dognorah | 2009-10-17 08:26 | オペラ | Comments(11)
Commented by 助六 at 2009-10-18 08:39
さすがロンドンはガランチャの「カルメン」、ステメ+コッシュの「トリスタン」とヨダレが出る公演が続いてますね。皆さんお忙しく過ごされてることと思います。私もステメのイゾルデには本気で興味引かれましたが、先シーズンのチューリッヒに続き今回も都合がつかずアウト。縁ないみたいです(笑)。現代のイゾルデ歌いとしては完全にマイヤーから彼女にバトンタッチになったようですね。
彼女のヴァーグナーは07年にジークリンデ、今年は「ジークフリート」のブリュンヒルデを聴きましたが、前者はもちろん良いけど期待したほどではなく、ヴィブラートもちょっと気になりました。後者はなかなか良かった。のけぞるほどではなかった以上2役に比べると、今年7月に聴いたサロメが声楽的にもドラマ的にも大変素晴らしく、7年前彼女を名前も知らず初めてツェムリンスキー「カンダウレス王」で聴いた時と同じ思わず我を忘れて引き付けられてしまう呪縛的歌唱を再現してくれました。
Commented by 助六 at 2009-10-18 08:40
そうですか。ヘプナーももう終わってしまいましたか。05年にバスティーユでマイヤーと一緒にトリスタン歌った時には、有無を言わせぬ見事な出来だったんですけどね。強靭で正確、品に加えニュアンスさえあるトリスタン歌唱は、私は舞台では後にも先にもこの時にしか出会った覚えがありません。そう言えば彼の06年のオケ伴ヴァーグナー・リサイタル、07年のローエングリンは、ちょっと「あれー」という感じでしたね。
歌い手さんのキャリアは時として短くほんとに難しい商売ですね。ステメもケルンの座付きなんかやっててスターダムに乗るのがちょっと遅れた分、ここ数年はムリを慎重に避け、なおかつ存分に歌いたいものを歌って楽しませて頂きたいものです。聞く側の勝手な希望ですが。
ttp://www.youtube.com/watch?v=fdXLCy8QBgo
Commented by dognorah at 2009-10-18 23:27
やはり彼女の出演したものをいろいろご覧になっていますね。サロメも俄然興味が湧いてきました。ツェムリンスキーのヴィデオ、ありがとうございました。もっと見たいものです。
ヘプナーは年齢的には終わってしまうような年ではないのでしょうが本当に不調のようで、ここ数年病気で降板したり、出演してもいまいちだったりですね。昔は聴いていなかったので好調の時を知らないのですが、やはりトリスタンはよかったんですね。
Commented by zerbinetta at 2009-10-19 03:53
トリスタンとイゾルデ、大好きなのに聴きそびれてしまいました。残念。オペラは高いのと、ヘップナーさんは前にメトでトリスタンを歌ったときへろへろだったことがあったので、躊躇しているうちに機を逸してしまいました。演出はルルをした人だったんですね。わたしはあのルルはとてもステキに感じて、こんな感じで動きの少ないトリスタンを観たいなと思っていたのですが、なんと実現していたのに見逃してしまうとは。これからは無理をしてでも行かなくちゃデスね。
Commented by dognorah at 2009-10-20 08:41
zerbinettaさん、私もなんでベン・ヘプナーなんだよーと不満だったのですが、ROHでは7年半振りの上演だったし、イゾルデ役への期待もあって必死になって切符を入手しました。逃されたのは残念ですね。
Commented by ロビン at 2009-10-23 17:21
はじめまして。私も倫敦の音楽オペラ好きです。同じくシュテンメに大変感動し、こちらにたどり着きました。拝読してあらためて彼女の素晴らしさを思い出しているところです。
初日ふくめ、2回観にいきましたが、シュテメの完成度には驚くばかりでした。
演出をこきおろしている人もいるようですが、私は好印象をもちました。心理劇みたいでしたし、奥のカーテンの後ろのストップモーション。ちょっとした動きにも意味があるようで感心しました。トリスタンは、私が行った両日ともヘップナーで、しまいには気の毒なくらいでしたが、最終日は口パクになったのですね。はじめから他歌手をもってくればよかったと思うのですが、誰かいなかったのでしょうか。それにしても、ポラスキ、マイヤーのイゾルデを数度観てきたなかで、今回、新しいイゾルデに出会えてうれしい限りです。初めてなのについ長くなりました。失礼いたしました。
Commented by dognorah at 2009-10-23 21:14
ロビンさん、初めまして。同じ感動を体験された方に出会えて嬉しいです。2回も行かれたのですね。私もそうしようと思ったものの切符は入手できませんでした。私は過去にリサ・ガスティーン、デボラ・ポラスキー、ジャンヌ=ミシェル・シャルボネ、イレーネ・テオリン、ヴァルトラウト・マイヤー(2度)と聴いて参りましたが最初から最後まで完璧という歌唱は今回初めて体験しました。第2幕までは大変よかったのに第3幕で満足できないということが度々でしたが、ニーナ・シュテンメは言うことなしです。
今回の演出は事前に見た写真から判断してかなりがっかりしていたのですが、実際に舞台を見てこの演出家の才能の一端を窺い知ることが出来てよかったです。
今後ともよろしくお願いいたします。
Commented by ロビン at 2009-10-24 00:23
お返事ありがとうございます。感動を共有させていただきこちらこそ感謝しております。たくさんのイゾルデをご覧になってらっしゃるのですね。その上でシュテンメが最高ということなら、私もますます自信もって、よかったと申せます。(私のイゾルデ体験は、ポラスキ一回と、マイヤーを3回です)
初日があまりに素晴らしく、ついまたチケットを買ってしまいました。ワーグナーはこうなるから困ったものですね。
チケット、そうでらっしゃいましたか・・・。平日の分は、だいたいどの日も一週間前に数十枚はキャンセル券がでていて、ちょっとびっくり。最終的には満席になるのですが。最終日の日曜はさすがに数枚しかキャンセルがでませんでしたね。思わず行こうかと思いましたが、理性をとりもどして我慢しました(笑)またコメントさせていただくこともあるかもしれませんがよろしくお願いいたします。(過去のものでもよろしいでしょうか。)
Commented by dognorah at 2009-10-24 04:56
ロビンさん、切符は確かにキャンセルが出ていましたが私の場合は「安い席」という条件がつくので買えなかったわけです(^^;
過去の記事へのコメントでも大歓迎です。よろしくお願いします。
Commented by ロンドンの椿姫 at 2009-10-24 23:23
後半はきっと力尽きてヘップナーはキャンセルするだろうと思ったのですが、都合がつかず、結局ヘップナーしか聴けませんでした。
こちら側から観る席でよかったですね。左側だったら怒りますよ(お金は少し払い戻されたそうですが)。私は最初左側の席を持っていたのですが、初日の様子を聞いてすぐ右側の席に乗り換えました。ストールサークルにリターンが出てたのはラッキーでした。でも、そうしたら公演日の3日ほど前になって、「貴女の買った席からでは見えないので、逆側の席に変えてあげます」という電話がROHから掛かってきて、ストールサークルの当日券をオファーされました。二重にラッキーだったわけですが、あそこまで偏った舞台には、普段はヘンテコなプロダクションには寛大な私も怒りがこみ上げました。
でも、シュテンメが歌っている間だけはそれも忘れてうっとり聞惚れました。
Commented by dognorah at 2009-10-25 09:23
そういう事情で左側の席はガラガラでしたね。でもwebページを見てもそれらの席は空席表示されていなかったので再販売しないことにしたようです。
こういう興行的には致命的なプロダクションは例え中身がよくても再演はしないでしょうね。
<< Jette Parker Yo... カルメン公演 >>