ティッチアーティ指揮LSO演奏会

2012年3月15日、バービカンホールにて。

Strauss: Tod und Verklärung
Mahler: Kindertotenlieder
Brahms: Symphony No.2

Robin Ticciati: conductor
Christopher Maltman: baritone
London Symphony Orchestra

この指揮者は2年前のプロムスでグラインドボーンオペラの演目「ヘンゼルとグレーテル」を指揮したときが私の初体験で、そのときにえらく感心したので今回のLSO定期演奏会の切符を買ったのでした。グラインドボーンでの活躍は多くの人たちが評価したののでしょう、昨年ウラディミール・ユーロフスキーの後任としてグラインドボーン音楽祭の音楽監督に選任されました。1983年生まれなのでまだ弱冠29歳です。

最初の曲「死と変容」は過去に聴いたときはそれほど惹かれなかった曲ですが、今回も曲自体はあまり好きになれないものの、演奏はさすがと思わせる出来で、改めてティッチアーティの実力を思い知りました。哲学的な深遠ささえ感じられます。テンポはゆっくりめで各楽器をたっぷり鳴らし、大変ダイナミックレンジの広い音量でした。オケを大音量で操る技術はなかなか凄いものです。今日は3曲とも弦は両翼配置で、そのために低弦群が私の座っている左側に集中したっぷりと低音を聞けたのも好ましかった。

次の「無き子を偲ぶ歌」を歌ったモルトマンはやや明るめの美しい声で感情豊かに歌い上げ、大変楽しませてくれました。最近よくウイグモアホールなどで歌曲のリサイタルをしているだけに上手いものです。

最後のプログラムはブラームスの交響曲第2番。この曲だけは暗譜指揮でした。やはりテンポを遅めにとって旋律を豊かに歌わせる指揮で、全く私の好みです。驚いたことにシュトラウスの「死と変容」で8挺だったコントラバスを9挺に増強していました。それだけ低音を強調したかったのでしょう。各楽章とも単にテンポが遅めなだけでなくエスプリの効いた豊かな知性を感じることが出来ます。田舎の野暮ったさではなく洗練された響きです。いい演奏でした。これからも頻繁にロンドンのオケを演奏して欲しい人です。

Robin Ticciati
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# by dognorah | 2012-03-19 22:35 | コンサート

16歳のピアニストJan Lisieckiの感動的演奏

2012年3月9日、バービカンホールにて。

Jan Lisiecki: piano
Jiří Bělohlávek: conductor
BBC Symphony Orchestra

Mozart: Piano Concerto No.20
Mahler; Symphony No.7

最初の曲のピアニストについては事前に何の調査もせずに臨んだ演奏会でした。
舞台に出てきた長身の人を見て「ああ、随分若い人なんだ」ぐらいにしか思わなかったのですが、演奏が始まると「この人はいったい何者?」と思わせるすばらしい響きに完全に引き込まれてしまいました。音の一音一音がとても美しい上、まるで細いガラス細工のように繊細な表現が心の襞に染みこむような感触を覚えます。第1楽章や第3楽章のカデンツァにも心を捉える説得力と美しさがあります。ビエロフラーヴェクの指揮するオケは序奏部のテンポがやや速過ぎるのが気になったもののピアノとのコンビはすばらしく、小編成故の美しいアンサンブルと相俟って密度の高い演奏でした。ピアニストにはブラヴォーを進呈。この曲は何度も聴いたことがありますがこんなに感動したのは久しぶりです。
家に戻ってからこのジャン・リシエッキ(と読むのでしょうか)というピアニストを検索したら1995年生まれの16歳という事実が現れ、驚愕しました。ポーランド人両親のもと、カナダで生まれて教育を受けた人でした。アンコールに呼び戻されて演奏する前に聴衆に話しかける落ち着いた態度から度胸の据わった人でもあるようです。なお、アンコールはモーツァルトのソナタ第11番の第3楽章「トルコ行進曲」でした。
こういうことがあるから生の演奏会は楽しい、ということを再発見したのでした。

Jan Lisiecki & BBC Symphony Orchestra conducted by Jiří Bělohlávek
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2曲目のマーラー7番がまたすばらしい演奏で、今日は密度の高いコンサートでした。
ビエロフラーヴェクは強弱を特別に強調せず、むしろサラッとメロディを流していくだけのように思えましたが、それがツボにはまった感じで、終始聴き惚れました。この曲は豊富な楽想がぎっしり詰まったような構成ですが、こういうスタイルの演奏は自然体でマーラーを歌わせるような印象受けます。それが功を奏しているのでしょうね。尤も、過去に聴いた様々な演奏はすべて名演でしたから、どういうスタイルでも聴かせてしまうポテンシャルが曲自体にあるのでしょうけど。私のなかでは第6番と共に最も好みの曲です。
BBC交響楽団の音の響きもなかなかのもので、よいアンサンブルでした。なお、第2楽章のカウベルのうち舞台裏で鳴らされるものはパイプオルガン並びにある小窓の内側に据えられて演奏時は窓を少し開放して音量を調節していました。またマンドリンやギターは通常の楽器のなかに目立たないように配置されていましたが、音はどうしても目立ってしまいますね。
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# by dognorah | 2012-03-13 06:45 | コンサート

ECOのコンサート

2012年3月7日、カドガンホールにて。

Anna Hashimoto (橋本杏奈): clarinet
Paul Watkins: conductor
English Chamber Orchestra

Schubert: Symphony No.8
Mozart: Quintet for clarinet and strings
Wolf: Italian Serenade
Weber: Clarinet Concerto No.1 in F minor, Op.73

1曲目の未完成交響曲、第1楽章の解釈はごく標準的なものでおもしろみが全くありません。私の好みは思い入れたっぷりな演奏でこの曲の持つデモーニッシュな側面を強調したものです。オケ自体は室内管なので仕方がないかも知れませんが弦と木管の音量バランスに難があり、もう少し弦に厚みが欲しいところです。第2楽章はこれらの点がやや解消されていますが、全体としては満足度の点で物足りない演奏でした。

2曲目はオケの弦楽奏者と橋本さんの協演です。彼女は以前同じホールの聴衆としていらしていたときにお会いして少し話したことがありますが大変小柄な人です。それにしてもクラリネットがやけに大きく見えたので、これは普通のものじゃないんだなと思いました。結構低い音が出ていましたし。インターヴァルに会った友人のKさんがあれはbasset clarinetというもので、モーツァルトのこの曲はそれ用に作られたものとの解説をいただきました。橋本さんは敢えてそれを使用し、しかもヴィブラート無しで演奏したとのことです。道理でCDなどで聴いたものとは印象が違って随分地味に聞こえたのでした。どちらかといえば私は現代楽器で派手に演奏されたものが好みですが。

3曲目のヴォルフのイタリアセレナードはオーボエの独奏(独奏者はオケの団員)付きの曲で、短いものながら颯爽としてなかなか魅力的な作品です。演奏も軽快で佳演。

最後のヴェーバーのクラリネット協奏曲は本日一番楽しめた曲で、今回は通常のクラリネットを使用した演奏です。これを聴いて彼女が高い評価を受けている理由がよくわかりました。柔軟で美しい音色は大変魅力的で、オケの演奏も大変立派で見事な協奏でした。ブラヴォーです。

basset clarinetでの演奏を終えた橋本さん
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通常クラリネットで協演のECOと
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# by dognorah | 2012-03-09 02:31 | コンサート

バレー「ロメオとジュリエット」

2012年3月3日、ROHにて。

Choreography: Kenneth MacMillan
Music: Sergey Prokofiev
Conductor: Barry Worsworth
Orchestra of the Royal Opera House

Juliet: Alina Cojocaru
Romeo: Johan Kobborg
Mercutio: Ricardo Cervera
Tybalt: Bennet Gartside
Benvolio: Kenta Kura
Paris: Johannes Stepanek

この演目を見るのは久しぶりならコジョカルを見るのも久しぶりです。2007年に「オネーギン」「Mayerling」「La Bayadère」「Jewels」と4演目を見て以来なので4年半前になります。2008年に怪我をして暫く舞台から遠ざかっていましたが相変わらず細やかな表現はすばらしいし少女っぽさの演技は上手いです。今年5月に31歳になるのでもうヴェテランの域ですね。昨年コボルグがプロポーズしたそうなので間もなく正式に結婚するのでしょう。バレーを見始めてすぐ好きになったダンサーの一人なので、これからもいろいろな演目で見てみたいです。
今日の指揮者はワーズワース、ヴェテランのROHバレー専門指揮者ですが作る音楽は非の打ち所のないものでプロコフィエフを堪能しました。

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Ricardo Cervera, Bennet Gartside & Kenta Kura
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Barry Worsworth
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# by dognorah | 2012-03-07 01:41 | バレー

ドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」

2012年2月27日、ROHにて。

Antonin Dvorák: Rusalka

Directors: Jossi Wieler & Sergio Morabito
Conductor: Yannick Nézet-Séguin

Rusalka: Camilla Nylund
Foreign Princess: Petra Lang
Prince: Bryan Hymel
Ježibaba: Agnes Zwierko
Vodník: Alan Held
Huntsman: Daniel Grice§
Gamekeeper: Gyula Orendt
Kitchen Boy: Ilse Eerens
Wood Nymphs: Anna Devin, Justina Gringyte & Madeleine Pierard
Royal Opera Chorus
Orchestra of the Royal Opera House

ROHでこの演目をやるのは久しぶりらしいです。過去に2回上演した記録が残されていますが、いつなのかは知りません。今回のはザルツブルグの2008年の新作を貰ってきたもので、今日が初日です。私の方はと言えば、このオペラを体験するのはこれが2回目で、前回はグラインドボーンでした。演出は随分違うのは当然としても、今回のは室内楽的な舞台で、グラインドボーンのスペクタクルなグランドオペラを思わせるスケール感は全くありません。演出全体を比べてもどうも納得できないところがままあり、グラインドボーンの方が遙かにいい演出です。大体ルサルカがナイフを腹に突き立てて自殺するというのは原作とも違うし、黒猫のぬいぐるみ姿が出てきたりするのもなんだかねぇ。魔女と黒猫の組み合わせという陳腐な発想が大体いけない。案の定カーテンコールで出てきた演出家には盛大なブーが飛んでいました。猫ついでにいえば、魔女が座っているソファーに本物の黒猫が出演していて驚きました。まるで訓練をしっかり受けたように逃げたり嫌がったりせずに、魔女のちょっかいに反応していたし、最後は猫の脇腹あたりを魔女が何かすると、さっと舞台袖に引っ込みましたし。

歌手の方ですが、ROHデビューのフィンランド人ソプラノ、カミーラ・ニュールントは第1幕ではきれいな声ながらもやや線が細く、「月に寄せる歌」もあまり印象的ではありません。しかし第3幕では声が力強くなり、大満足の歌唱でした。第1幕はセーヴしていたのか、デビューで緊張していたのか。
王子役のアメリカ人テノール、ブライアン・ハイメルは、過去に聴いた「トロイ人」ではよい印象でしたが「カルメン」ではどうもねぇという半々の経験をしていますが、この人も第1幕では声が上滑り的でカルメンに近く、第3幕では力強い歌唱で合格。
外国の王女役、ドイツ人メゾ、ペトラ・ラングはよく声が出ていて、演技も得意の憎まれ役が堂に入っていました。ヴォドニク役のアメリカ人バスバリトン、アラン・ヘルドも立派な歌唱で、気持ちよく聴けました。魔女役のポーランド人メゾ、アグネス・ツヴィールコもなかなかすばらしい。3人の妖精達はすべてROH若手歌手養成コースの人たちですが、皆さんスタイルがいいし上手かった。しかし主要役には一人もチェコ人がいませんね。

指揮者ですが、もう最高!ドヴォルザークの美しく劇的な音楽を余すところ無く伝えてくれた感じです。この人のオペラ指揮を聴くのはは昨年のバーデンバーデンの「ドン・ジョヴァンニ」に次いで2回目ですが両方ともとてもいい印象で、これからの登場も待ち遠しいです。なお、音楽監督のパッパーノは今日は客席にいました。

Camilla Nylund、終演直後の独りカーテンコール
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Bryan Hymel
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Agnes Zwierko
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Alan Held
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Petra Lang
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Anna Devin, Madeleine Pierard & Justina Gringyte
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Yannick Nézet-Séguin
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# by dognorah | 2012-02-29 02:13 | オペラ

モーツァルト「皇帝ティートの慈悲」コンサート形式

2012年2月22日、バービカンホールにて。

Mozart La Clemenza di Tito

Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
Louis Langrée conductor
Michael Schade Titus
Alice Coote Sextus(エリーナ・ガランチャの代役)
Rosa Feola Servilia
Malin Hartelius Vitellia
Christina Daletska Annius
Brindley Sheratt Publius

このオペラのコンサート形式は3年半前に同じバービカンホールで聴きましたが、セスト役はそのときもアリス・クートでした。今回はガランチャが出産直後でツアーは無理ということでキャンセルとなったのですが代役のクートは前回の出来を凌ぐ絶好調の歌唱でした。音程はしっかり、声は深みがあり各アリアの表現も納得のいくものでした。まるで「ガランチャでなくてもいいでしょうがー」と言わんばかり。でも容姿がちょっと違うんですけどー。
ティート役のミヒャエル・シャーデもそれに劣らないすばらしい出来で大変楽しめました。コンサート形式とはいえ、演技のうまさがもろ感じられる迫力もありました。
ヴィテリア役のマーリン・ハルテリウスも悪くはありませんが声は全面的に好きだというわけではないです。
セルヴィリア役のローザ・フェオラは美しい声の持ち主で、こちらは私の好み。この役はアリアが少ないのが恨めしい。
アンニオ役のクリスティーナ・ダレツカはまあまあの出来。
プブリス役のブリンドリー・シェラットはROHでお馴染みのバスですがよく声が出ていて歌も上手かった。
ルイ・ラングレー指揮のDeutsche Kammerphilharmonie Bremenは音がよくて切れのいい演奏、序曲を聴いて今日は来てよかったと思ったものでした。実はガランチャがキャンセルしたとき切符を返そうかどうしようかと迷ったのです。ラングレーは過去に何度か聴いていますがいつも印象はいいです。特に昨年4月の「ペレアスとメリザンド」には私は最上級の賛辞を送っています。
特筆に値するのは管弦楽で、ドイツの小編成オケの実力を余すところ無く伝えてくれました。木管も弦もアンサンブルがすばらしく隣にいた友人は普段聴くLPOとは何という違いと感嘆していました。

Michael Schade as Titus
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Alice Coote as Sextus
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Malin Hartelius as Vitellia
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Brindley Sheratt as Publius & Rosa Feola as Servilia
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Christina Daletska as Annius
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Louis Langrée & concert master
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# by dognorah | 2012-02-24 22:42 | オペラ

ピアノとピアノ五重奏のコンサート

2012年2月19日、Conway Hallにて。

Hiro Takenouchi: piano
Maggini Quartet

Franz Schubert: Fantasie in C major, Op. 15 (D. 760), ( Wanderer Fantasy)
Benjamin Britten: 3 Divertiment (March, Wartz, Burleske)
Franz Schubert: Quartettsatz in C minor D703
Felix Mendelssohn: Quartet in E minor
Edward Elgar: Piano Quintet in A minor Op.84

最初の曲はPre Concert Performanceとしてメインの演奏会の前に演奏されました。ピアニストの竹ノ内博明は1978年生まれ、Royal College of Music卒業、ザルツブルグ音楽祭などにも出演するなどソロや室内楽などで主に欧州で活躍している人です。
この日は実はラフマニノフのソナタを演奏する予定でしたが、これより前の一ヶ月ぐらい病気を患っていたため準備できず、過去に演奏したことのあるシューベルトの「さすらい人」に変更されたのでした。開始前には各楽章のテーマ演奏も交えて曲の解説もされました。
演奏はすばらしく、難曲といわれるこの曲を淀みなく弾いて感銘を与えてくれました。第4楽章が特に凄かった。ピアノはホール付属のベーゼンドルファーコンサートグランドでした。久しぶりにこのピアノの音を聴きましたが、やはり好きです。

Maggini Quartetはイギリスの四重奏団ですが、第2ヴァイオリン奏者が使っている16世紀のイタリア製楽器の製造者名をこの団体の名前にしているのでイタリア風になっています。本日はヴィオラ奏者が指に怪我をしたことから臨時の奏者を雇い、プログラムを変更しての公演です。
最初の2曲はいまいち乗れませんでしたが、メンデルスゾーンのものは聴き応えがありました。いいアンサンブルです。最後のエルガーは竹ノ内さんがピアノパートを担当です。美しい曲で、演奏もすばらしく大変楽しめました。特に第2楽章。

このホールは地下鉄ホルボーン駅の近くにあり、基本的に毎週日曜日の6時半から室内楽コンサートがあります。終演後このプログラムを持参すれば食べ物を20%引きにしてくれるレストランが駅近くに3カ所あり、本日はその中から韓国系の寿司屋に行って恩恵を受けたのでした。味はまあまあ。
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# by dognorah | 2012-02-24 09:01 | コンサート

NYフィル演奏会

2012年2月16日、バービカンホールにて。

Alan Gilbert
New York Philharmonic
Mahler: Symphony No.9

このオケを聴くのはいったい何年ぶりか、とにかく90年代にロンドンとニューヨークで聴いたことがあるという記憶はあるのですが、どうもその後はチャンスがなかったようです。多分今世紀に入ってからもロンドンには何度か来ていたのでしょうけれど。
90年代からの時間の経過を考えると楽団員は大幅に入れ替わっているでしょうから、初めて聴く団体と言っても過言ではないですね。指揮者も初めて体験する人です。シカゴ交響楽団と同様東洋人奏者の数が多いことに驚きます。名簿から拾うと日系人も5人ぐらいいます。大体、音楽監督のアラン・ギルバート自身お母さんが日本人ですし。

それはともかく、今日の演奏はすばらしいものでした。今まで何度も聴いたこの曲は一回も感動しなかったと言えるほど、名演奏にはお目にかかっていなかったのですが、今日は違います。オケの各パートの音は金管も木管もまろやかで、弦も魅力的な音色だし、アンサンブルもすこぶるよろしい。第1楽章最後のコンサートマスターとホルンのやりとりは本当に美しかった。
ギルバートの指揮振りは精力的で、大きな体によるジェスチャーは聴いていてもわかりやすそうで、オケを完全に掌握している様子が感じられます。第1楽章から第4楽章まで有機的につながっている印象がしっかり刻まれたのも感動を大きくしてくれました。好感度大です。

Alan Gilbert
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# by dognorah | 2012-02-17 23:05 | コンサート

オペラ「フィガロの結婚」

2012年2月14日、ROHにて。

Wolfgang Amadeus Mozart: Le nozze di Figaro

Director: David McVicar
Conductor: Antonio Pappano

Figaro: Ildebrando D'Arcangelo
Susanna: Aleksandra Kurzak
Count Almaviva: Lucas Meachem
Countess Almaviva: Rachel Willis-Sørensen
Cherubino: Anna Bonitatibus
Don Basilio: Bonaventura Bottone
Marcellina: Ann Murray
Bartolo: Carlo Lepore
Antonio: Jeremy White
Barbarina: Susana Gaspar
Don Curzio: Harry Nicoll
Royal Opera Chorus
Orchestra of the Royal Opera House

このオペラを見るのは多分これが6回目ですが、フィガロ役は3人しか経験していません。シュロットがヴィーンでの公演も含めて3回、ダルカンジェロがこれで2回目、残りの一人は2003年に見たグラインドボーンのモルトマンです。沢山バリトンがいるのにちょっと偏りすぎな感じがします。しかも今回のダルカンジェロとスザンナ役のクジャアクは2008年7月の時と同じ組み合わせでした。
フィガロ役のダルカンジェロは今回もすばらしい声で、演技的にも2008年の時よりもおどけた感じがよく出ていて大変楽しめました。しかし本当にこの人の歌唱は安定していますね。今まで何度も聴いていますが一度も不満に思ったことがありません。今回の各アリアも聴き惚れました。
スザンナ役のクジャアクは演技は大変よいものの、声は好みじゃないこともあって歌唱の方はまあまあ。
キンリーサイドが降りてしまった伯爵役はルーカス・ミーチェムが歌いましたが以前に「ダイドーとイニーアス」をここで歌ったときと同様スムーズな明るい声で上手かった。この役にはもう少し威厳のある声がふさわしいと思いますが。演技はあまり上手くなく今まで見たフィンリーやマッテイに比べると見劣りします。
伯爵夫人は大柄なラシェル・ウィリス=ソレンセンが歌いましたが品のよい声がすばらしく大変楽しめました。
ケルビーノ役のアンナ・ボニタティブスもなかなかよかった。バルトロ役のバス、カルロ・レポレにも感心。
パッパーノの指揮もいつものごとくすばらしく、全体としては水準の高い出来でした。

Rachel Willis-Sørensen & Ildebrando D'Arcangelo
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Antonio Pappanoに労われるIldebrando D'Arcangelo
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Aleksandra Kurzak
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Rachel Willis-Sørensen
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Lucas Meachem
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Anna Bonitatibus & Carlo Lepore
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# by dognorah | 2012-02-17 00:01 | オペラ

日本映画「それでもボクはやっていない」

2012年2月11日、ICAにて。
周防 正行監督2007年作品
英語題名: I Just Didn't Do It

ロンドンの海外交流基金(Japan Foundation)の企画で9本の現代日本映画がロンドンを始めイギリスのあちこちを巡回します。今回はその中から周防 正行監督と坂口香津美監督も来英し、対談と質疑応答のイヴェントも開催されました。周防さんの対談イヴェントに出席し、今回映画も見ましたので感想を述べたいと思います。彼は映画の上演に際しても来館し挨拶と質疑応答をこなしました。この人の過去のヒット作には「Shall we ダンス?」というのがあり、私もDVDで見たことがあります。
今回の作品は過去の娯楽的映画と違って、かなり深刻な日本の裁判の問題点を描いて、これでいいのか?と見る人に訴えるものになっています。映画開始前に監督が、これは日本の現実であり、決してコメディではない、と強調していました。映画制作まで3年かかって日本の司法制度を勉強し、多くの人にインタヴューして自分でシナリオを書いたそうです。
上映開始時に監督から「日本的な儀式を行いたい」というアナウンスがあり、観客は何が起こるのかと緊張して見ていたら彼はやおらポケットからカメラを取り出して「May I take a photo?」といいながら壇上に上がって我々の姿を撮ったのでした。館内は大爆笑。

ストーリーは、超混雑の朝の通勤電車内の出来事。主人公は痴漢行為をされた女子中学生から誤認逮捕され、警察で否認し続けた結果起訴され裁判にかけられる。無実を訴え続け、彼はやっていないという他の女性証人もいたにもかかわらず有罪になってしまう。その課程を逐一映像にしたものですが、最初から有罪という心証で公判を続ける裁判官や被告に有利な証拠は隠滅するという警察や検事の姿が明らかにされます。全く不愉快な事実ですが日本では本当なんでしょう。深刻な内容にもかかわらず家族や友人達の挙動で笑いを誘う場面も結構あり、映画としては見応えのあるものになっています。

上映後、場内から多くの質問が寄せられ、監督から淀みなくコメントが引き出されてこれも興味深いシーンでした(すべて通訳を介してのやりとりです)。なぜこういう映画を作ったのかという質問がありましたが、ある日新聞で、一審で有罪になった痴漢事件が二審で無罪になったという報道があり、冤罪事件はかなり多いんではないかと興味を持ったのがきっかけだそうです。日本では痴漢行為が多いという事実はここロンドンでも有名で、監督からも一日に何千件とあるでしょうという裏付けコメントが出されて更に有名になった感じです。会場からのコメントでは、こういうひどい裁判は別に日本だけに限った訳じゃない、世界中で横行している、というのがありましたが、権力側のやり口はどこでも一緒ということでしょう。監督はこの映画の後政府内に設けられた新しい司法のあり方を検討する会議の委員に任命されたそうですが、権力にたてつく人を権力側に取り込む作戦でしょうか。彼自身も懐柔されないように気をつけたいという発言がありました。なかなかユーモアもある人で、この映画を作る前は娯楽映画を作る監督という印象を持たれていたために、警察や検事あるいは裁判所などインタヴューが非常にやりやすかった、といって笑わせてくれました。今はもう警戒されて本音は聞けないでしょう。

日本の映画は里帰りのために乗る長距離便でしか見ないので、なかなか貴重な経験でした。監督の話が聞けたのもよかった。こういう企画は大変ありがたく、海外交流基金に感謝したいと思います。
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# by dognorah | 2012-02-14 22:49 | 観劇