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作曲家 藤倉大

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今年のPROMSで取り上げられた日本人作曲家は二人います。一人は8月3日に登場した細川俊夫で、演奏された作品は"Circulating Ocean"。もう一人が8月28日に登場した藤倉大で作品は"Crushing Twister"です。
両方とも残念ながら聴きに行けなかったのですが、藤倉大の作品が演奏されたコンサートは録画されており、昨日TVで放送されました。この作品はPROMSで演奏することを前提にBBCによって委嘱されたもので、当然世界初演でした。

演奏
管弦楽:BBC Concert Orchestra
指揮:Charles Hazlewood

この"Crushing Twister"というのはポップミューシックのDJがスタジオで二つのターンテーブルに乗せたレコードを両手で回して両者の音をミックスすることで特殊な効果を出す動作にヒントを得て作曲されたそうです。
舞台上では、弦楽器奏者が左右に二分され、それぞれがターンテーブルを表現するらしい(下の写真参照)。
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演奏開始前に曲の解説が指揮者によってなされたのですが、二つのグループは微妙に異なる時間差で演奏しなければならず、演奏側にとっては非常に難しいと指揮者はこぼしていました。音がずれているからといって、このオーケストラのアンサンブルが悪いなんて思わないで欲しい、と笑を誘ったり、かなり的確にわかりやすく曲の性格を解説したのは聴衆にとってありがたいことです。

で、この曲ですがジャズやポップスの要素も取り入れられているものの、なかなかユニークな音と表現でよく出来た曲と思いました。打楽器も工作室で使う金床を金槌で叩くなど多彩で効果的な使用法です。演奏時間は10分に満たないものですが、音楽としてはかなりエネルギーの凝縮した佳作です。

写真は演奏後、舞台上に顔を見せた作曲家と指揮者です。
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彼がBBCのインタヴューで語っているところによると、オーケストラは当初この作品に非常に戸惑っていたのが、自分の説明を指揮者のヘイズルウッドが理解してくれ、彼が指示すると音が出来ていくことからオケメンバーも彼についていくようになり、最終的には自分の意図したことを全て表現してくれたということで、この指揮者を高く評価しています。

藤倉大さんは1977年生まれですが、15歳のときに単身英国に留学し、そのままこの国で活動しています。すでに輝かしい経歴を持っていますが詳細はWikipediaをご覧ください。
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by dognorah | 2006-08-31 21:12 | コンサート

PROMS:マズア指揮フランス国立管弦楽団

8月29日ロイヤル・アルバート・ホールにて。

プログラム
Hans Werner Henze: Five Messages for the Queen of Sheba
Dmitri Shostakovich: Symphony No.7 in C major “Leningrad”

演奏
Orchestre National de France
Kurt Masur

クルト・マズアは昨年はロンドンフィルとの共演でプロムスに出演したが、今年はフランスの手兵を引き連れて登場。渋いプログラムのせいか観客は4割程度の入り。

ヘンツェの曲は2004-5年の作で、2003年に初演されたオペラ"L'Upupa"から一部を抜粋して組曲にしたものという。先日聴いた"Voices"よりもはるかに楽しめた。演奏も上手かったし、これだったらもう一度聴いてもいいかな。

ショスタコーヴィッチの作品は、第1楽章がラヴェルのボレロやレハールのメリー・ウイドーなどいくつかのテーマやスタイルを借りてくるという彼が良くやる手法満載のもの。バルトークが「管弦楽のための協奏曲」の中で引用して茶化している部分もあったりして、発表当時は結構他の作曲家が物議を醸したらしい。それはともかく、音楽は感情の爆発のような激しいピークを持つもので、第2楽章以降もそういう部分が散見され、さしせまった戦時下の環境が大きく影響したようだ。第3楽章は美しく、第4楽章は壮大な終わり方をする。交響曲としては結構楽しめる。しなやかで力強い演奏だった。

管弦楽団は久しぶりに聴いたので前回との比較は全く出来ない。ロンドンで言えばBBC交響楽団と同じ立場と思うが、技量は高くなかなかすばらしい音を出していた。メンバーは全体に若々しい。弦では東洋人も結構目立つ。マズアとのコンビはもう4年くらいになるらしいが、とても息が合っている感じだ。両曲ともレヴェルの高い演奏で、特にショスタコーヴィッチは名演と思う。写真は聴衆と楽団から拍手を受けるマズア。
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余談ながらこのオーケストラもイギリスの団体と同様にコンサートマスターはメンバーが着席してから単独で出てきて聴衆の拍手を受ける。イギリス以外のオーケストラでは初めて見る光景である。
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by dognorah | 2006-08-30 22:38 | コンサート

PROMS:モーツァルトのレクイエム他

8月27日、ロイヤルアルバートホールにて。

演奏
ソプラノ:キャロリン・サンプソン(Carolyn Sampson)
メゾソプラノ:インゲボルク・ダンツ(Ingeborg Danz)
テノール:マーク・パドモア(Mark Padmore)
バス:アルフレード・ライター(Alfred Reiter)
合唱:Collegium Vocale Gent
管弦楽:Orchestre des Champs-Élysées
指揮:フィリップ・ヘレヴェッヘ(Philippe Herreweghe)

プログラム
モーツァルト:男声合唱と管弦楽のためのMeistermusik
モーツァルト:交響曲第39番ホ長調 K543
モーツァルト:レクイエム ニ短調 K626

ヘレヴェッヘという指揮者は1947年ベルギー生まれで、古楽器演奏とバロックを主体に活動している人である。今回の合唱団はベルギーで彼が創立した団体で、管弦楽はパリで創立したもの。他にも演奏団体を設立して分野に応じて使い分けているらしい。独唱のソプラノとテノールはイギリス人で、メゾとバスがドイツ人である。今日の演奏者は名前からしてパリから来たと思っていたが、それは管弦楽団だけだった。

ヘレヴェッヘのモーツァルトはイギリスや独墺系の演奏に慣れた耳にはちょっと戸惑った。リズムの取り方やフレージングの処理がかなり異なるスタイルである。39番の交響曲では、テンポはやや速めで、旋律をたっぷり鳴らすことなくせかせかと無機的に進めていく。スタイル的にはある程度古楽器の影響を受けていると思われるが、彼の解釈がこうなのだろう。弦弦楽は少人数の割にはそれほど透明感は感じられないが、ウインド系は結構上手い。

レクイエムはジュスマイヤー補筆版。これもこれまで慣れ親しんだ演奏とはずいぶん印象が違う。管弦楽の規模も小さいし、合唱も32人と比較的小規模なので、それに見合った音である。ダイナミックに畳み掛けるような迫力はないが、しっとりとしみじみ歌わせる演奏で、これはこれでなかなかのものと思った。独唱陣と合唱のレヴェルの高さは特筆に値する。ヘレヴェッヘとは何度も共演してきた人たちらしいからお互いに心が通じ合っているのだろう。その中でも特にソプラノのサンプソンが印象的である。声も歌も美しく気品が満ち満ちている。
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写真は終演後挨拶する指揮者と独唱者たち。
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by dognorah | 2006-08-28 22:20 | コンサート

おいしいワイン2種

最近飲んだワインで感心したものを2種類紹介します。

(1)メルロー品種で作った赤ワイン
c0057725_20573541.jpgTarantella Merlot 2004
Morso D’amore
Tarantino IGT

手頃な価格のイタリアワインです。産地はイタリア半島を長靴に例えるならその踵の部分であるプーリア(Puglia)州で、暖かい気候ゆえブドウの糖分が高く、したがってアルコール濃度も上がってこのワインの場合は14%です。この地域はTarantinoと呼ばれ、以前は大量に安いワインを産出していたのですが、近年は若いワインメーカーが品質の改良に取り組み、その結果すばらしいワインがどんどん生れている注目すべき産地です。

色は濃厚なルビー色。
グラスに注いだだけで熟した果物、濃いブラックカラント、オークなど高級赤ワインでお馴染の香りがむわーっと立ち上ります。グラスを回すとさらにトロピカルフルーツ、コーヒーや各種スパイスの香りも加わります。最初に一度にこういう香りが出てきて、時間的な変化は余りありません。
飲むと濃厚な果実味がスムーズに口中に広がります。味はチョコレートをイメージさせるプラムなど干した果実を連想させるもの。文句なくおいしく、リーズナブルな価格(6-7ポンド)がうれしくなりました。


(2)ジンファンデル品種主体の赤ワイン
かなり高級なカリフォルニアワインです。
c0057725_2058279.jpgRidge 2003
California Zinfandel
Pagani Ranch

ジンファンデルはカリフォルニアに昔から自生しているブドウ品種で、ちょっと欧州のメイン品種とは異なるフレーヴァーを持っているので独特の味がします。今までこの品種のものをそれほどたくさん飲んだわけじゃないのですが、そこそこおいしいものは経験しました。しかし今回は過去のイメージを完全に覆してくれました。ボルドーやブルゴーニュの高級ワインに一歩も引けをとらない濃厚で上品な香りと味に仰天した次第です。これぐらいのクラスになると品種の差よりもワインそのものの出来を云々すべきものであることを実感しました。香りは確かに独特のスパイス香があるものの基本的には干した果物の濃厚なもので、時間が経つと葉巻の香りも出てきます。なお、Pagani Ranchというのは畑名らしく、ここに他の畑名が書かれているものも各種出ているようです。
セパージュを詳しく書くと(年によって少々異なりますが)、
90% Zinfandel,
6% Alicante Bouschet,
4% Petite Sirah
で、このボトルの場合アルコールは15.3%です。同じメーカー(Ridge社)でブドウを遅摘みしたものだけで作ったワインがありますが、それは15.8%もの濃度があります。
このワインは日本では5000円前後で販売されているそうです。私はアメリカから来た友人にプレゼントしてもらったのですが、イギリスでも25ポンド前後のようです。
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by dognorah | 2006-08-27 21:08 | ワイン

欧州ドライヴ旅行雑感

旅行記に書かなかったことを備忘録として書いておきます。

・ナヴィゲーションシステムについて
以前の記事でTom Tomという会社のもの購入したことを述べたが、今回の旅行のためにフランスとイタリアの最新地図を入手してPDAに仕込んでいった。ところがUKの地図と同じく恐らく10年ぐらい古い情報しか入っていないことがわかった。例えばミシュランの2000年版フランス道路地図に載っている高速道路でさえ含まれていないこともあった。ひどいソフトだ。フランスは今でもじゃんじゃん高速道路を作っているのに。走行中も度々道に迷ったり、同じところを何度も回らされたり。こいつの指示通り走っていてもいつも疑心暗鬼だ。かと思うと、ピタッと目的の家の前に横付けしたりすることもあったので捨て切れない。

・フランスとイタリアの高速道路の違い
旅行記の中でも書いたが、フランスは道路がゆったりしているのと対照的にイタリアはせせこましい。道路によっては助走路が極端に短いので、合流するときはとても神経を使う。ジェノヴァ付近の山間部ではサーヴィスレーンの用意されていないところも結構多い。トンネルの中で合流したり分岐したりするところもあってこの点は東京の首都高並だ。渋滞も多いし。
フランスからイタリアに入ると道路標識の色が違うのも戸惑う。イギリスやフランスは高速道路の案内標識は全て青地に白抜きの文字であるが、イタリアは緑地に白抜きとなる。イタリアで青地の標識は一般道路を表す。
ドライヴァーはイタリアのほうがスピード狂という印象だ。フランスも以前はかなり飛ばす人が多かったが、最近は取締りが厳しくなったのか制限速度を守る人が多い。

・ガソリンの価格
現在の市場レートで1ユーロは約149円、1ポンドは約220円なので円に換算して比較すると、ガソリン1リットルの値段は、
フランスでは194-206円、
イタリアでは201-216円、
イギリスでは209-216円(ロンドンでの価格)、
というところである。フランスとイギリスの価格差は以前に比べて縮まっている(フランスの値上がり幅が大きい)。イタリアがフランスに比べて高いのは、日本のように全てのスタンドで従業員が給油するサーヴィスをしているからだろう。一般道路よりも高速道路沿いのほうが高いのは万国共通である。

・高速道路通行料金
イギリスと違ってフランスとイタリアは通行料がかかる。これは小刻みに徴収されるので距離に対してどの程度の料金なのかよくわからない。いきなり料金所があって小銭を取るところもあれば、通行券を取ってから目的地で清算する場合もある。合計すると結構高額なので、多分日本並ではないだろうか。

一度イタリアのどこかでゲートが開いていたのでそのまま通過したが、どうやらそこで切符を取らなければいけなかったらしい。普通は切符を取るとゲートが開くシステムなので、先方にも落ち度がある。当然ながら無人出口で引っかかってしまった。スピーカーから係員の声が聞こえたので英語を話したらそれっきり応答しなくなった(^^;
そしてしばらくすると、カードが出てきたので取るとゲートが開いた。やれやれと思ってカードをよく読むと、ペナルティ67.5ユーロを支払えと書いてある。その間の通行料はたったの1.6ユーロだったのに。しかも車の番号が電子的に読み取られて印刷してある。結構ハイテクを使っていることに感心した。もちろんそういう理不尽な罰金は支払うつもりはないが。ロンドンまで追いかけてくることはないだろう。ロンドンでも駐車違反した外国の車は罰金徴収をあきらめるそうだし(新聞が問題視していた)。
しかしスイスは要注意である。10年前に駐車違反して罰金請求を無視していたイギリス人が久しぶりにスイスへ行ったら空港で逮捕されてしまったという。この人はChannel 4というTV局のキャスターだったからニュースになってしまった。
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これで今年の欧州ドライヴ旅行関連の記事はおしまいです。2週間の間、ずっと気温が35度以上でしたので行動がかなり限られてしまったのが残念ですが、大きなトラブルもなく、いつものように旅そのものは大変楽しいものでした。
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by dognorah | 2006-08-24 02:28 | 旅行

欧州ドライヴ旅行:ボーヴェの大聖堂

フォンテーヌブローから最終宿泊地のフォスーズまではパリの環状道路を通るのが最短距離である。しかしあらゆる方面からの道路が複雑に接続されていて標識だけを見ながら間違えずに目的の道路に抜け出すのは至難の業だろうと思って、ここは完全にナヴィゲーションシステムの言いなりになって走った。このシステム、他の場所ではずいぶんドジをやってくれたし、丁度夕方のラッシュ時で各車線とも車で溢れかえっていたので一抹の不安はあったが、ここでは奇跡的に正確に導いてくれた。

宿泊先はB&Bなのだが、下の写真に示すような風格のある16世紀のシャトーで、大きな池もあるだだっ広い敷地に悠然と立っている。経営者はかなりの老夫婦で、奥さんはアイルランド生れの人なので久しぶりに流暢な英語が聞けた。広すぎて手入れが大変なのか、最上階の部屋は全く使っていないようだ。
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翌朝はブーローニュ・スール・メールのフェリー乗り場に行くだけなので、途中通るボーヴェ(Beauvais)で大聖堂を見物した。ボーヴェはかつてタピストリーの生産地として有名だったようだ。街は先の戦争でかなり破壊されたらしいが、この大聖堂は過去に2回も崩壊した歴史があるものの戦災は生き延びたという。
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ステンドグラスは割れてしまったせいか現代作家の作品が多い。
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次の写真は1868年にAuguste Veriteというボーヴェの技術者によって作られた天文時計である。大きくて立派で、一部ディジタル表示もある。もちろんちゃんと動作しており、一日に数回有料で解説が催される。
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次の写真は、1303年製の世界で最も古い時報時計である。こんなに時計をキープしているというのは、いい時計職人を生んだ街でもあるのだろうか。
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この後は高速道路A16をひたすら北上するだけでブーローニュに到着する。フェリーの運航もほぼ予定通りで、予想はしていたがドーヴァーに着いても同じ暑さだった。
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by dognorah | 2006-08-23 03:19 | 旅行

PROMS:オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」

8月20日、ロイヤル・アルバート・ホールでのコンサート形式。
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作品
ショスタコーヴィッチ(Dmitry Shostakovich)作曲(1932)全4幕
リブレット:Alexander Preys & Dmitry Shostakovich
初演:1934年レニングラード

出演(主要人物のみ掲載)
Katerina Izmailova: Larisa Gogolevskaya (soprano)
Boris Izmailova: Sergey Alexashkin (bass)、Vladimir Ognovenkoの代役。
Zinovy Izmailova: Evgeny Akimov (tenor)
Sergey: Viktor Lutsiuk (tenor)
Priest: Mikhail Petrenko (bass)
Sonyetka: Olga Savova (contralto)
Chorus and Orchestra of the Mariinsky Theatre (Kirov Opera)
Conductor: Valery Gergiev

あらすじ
商人イズマイロワ家に嫁いだカテリーナは5年にもなるのに子供が出来ず毎日退屈な日を過ごしている。夫のジノヴィは忙しいし、舅のボリスは口うるさくて辟易だ。そんなある日、夫の留守中に従業員のセルゲイと関係を持ってしまう。それをボリスに見つかり、セルゲイは鞭打ちされた挙句監禁される。憎しみが燃え上がったカテリーナは殺鼠剤入りの茸料理をボリスに食べさせて殺す。みんなには茸中毒と説明する。セルゲイを開放し、毎日愛欲生活を送るが出張から帰ってきた夫に見つかり、セルゲイに彼を絞め殺させる。死体をセラーに隠すが、ワインを盗みに入った従業員がそれを見つけ、結婚披露パーティの最中に二人は警察に逮捕される。囚人として移送される途中で、セルゲイ絡みで彼女を馬鹿にした囚人仲間の女性を河に突き落として殺し、自分も身を投げて自殺する。

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このオペラは映画版をヴィデオで見たことがあるので筋はよく知っているが舞台は見たことがない。2年前のロイヤルオペラのプレミエを見逃してしまい、この秋に再演されるのを見る予定である。

ゲルギエフ3連荘となったこの週末は、日を追うごとに観客の数は減っていったがそれでも今日の入りは7割程度か。しかし、出来は今日が一番である。コンサート形式とはいえ、キーロフ・オペラの実力をまざまざと見せてくれた完璧な上演だった。ゲルギエフの指揮がリズム、テンポ、ダイナミズム、旋律の歌わせ方、どれをとってもすばらしいの一言。

歌手陣も総じて上手いが、主役のカテリーナを歌ったラリサ・ゴゴレフスカヤは特筆に価する声と歌唱だ。背はあまり高くないのに横幅がえらくあってウエストなどない立派な体だが、それにふさわしいヴォリュームで美しい声を響かせる。最も歌う時間が長い役だから、それがしっかりしていないと成り立たないオペラなのだ。セルゲイを歌ったテノールも上手かったが、ちょっとしか出番のないジノヴィを歌った人も注目すべきいい声をしている。ボリスを歌ったバスは代役だったせいか最初は緊張してあまり声が出なかったが、落ち着いてくると迫力ある低音が出るようになった。この人自身が、昨日は急病で降板したのだが、あまり大したことはなかったらしい。警察官など脇役も全て水準が高い。下の写真は、ゲルギエフの向かって右が主役二人のゴゴレフスカヤとルチューク。
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このオペラは音楽的にはショスタコーヴィッチ会心の作といえる。美しいメロディ、彼特有のユーモア、劇的な構成など音楽を聴いているだけでも楽しめる作品である。
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by dognorah | 2006-08-22 02:44 | オペラ

PROMS:ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団

8月19日、ロイヤル・アルバート・ホールにて。

出演
ヴァイオリン:ワディム・レーピン(Vadim Repin)
バス:ミハイル・ペトレンコ(Mikhail Petrenko)(Sergey Alexashkinの代役)
合唱:マリインスキー劇場合唱団(Mariinsky Theatre Chorus)
指揮:ワレリー・ゲルギエフ(Valery Gergiev)

プログラム
リャードフ(Anatoly Lyadov):From the Apocalypse
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ショスタコーヴィッチ:交響曲第13番 変ロ短調 作品113 “Babi Yar”

リャードフ(1855-1914)という作曲家の名前は初めて知った。リムスキーコルサコフの門下で、当時の多くの人から将来を嘱望される才能があったらしいが生まれつきのサボり癖のために演奏時間10分以上の作品は残さなかったという。
今日の作品も約10分程度のものだが、さすがにリムスキーコルサコフの薫陶を受けてオーケストレーションはなかなかすばらしい。そして、管弦楽団もかなりの実力を持っていることもわかった。完全にゲルギエフの手足となっている感じでもある。

ヴァイオリンのレーピンは1971年生れ。演奏を聴くのは昨年4月以来。あまり派手な動作をしないで、とてもノーブルな音色を出す人だ。演奏も中庸を得た模範的とも思えるスタイルである。伴奏とともに特に面白味は感じられないものの、格調の高い演奏であった。実演ではもっとエキサイトする方が私の好みではあるが。今日はTV中継もされていたので写真は録画したものからキャプチャーした。
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メインのショスタコーヴィッチ13番は初めて聴く曲だ。エフゲニー・エフトゥシェンコの詩に基づいて1962年に作曲された。内容はBabi Yarという場所でナチスがユダヤ人を虐殺した事実を悼んだものであるが、スターリン共産党も同様のことをしていたことを糾弾する内容となっている。当時は雪解けのフルシチョフ時代であったが、既に旧守派の圧力に抗し切れない事態になっていた彼は、第1楽章で使われている歌詞を書き換える命令を下した。にも拘らず、今回内容を見るとかなり刺激的な言葉がそのまま残っており、よく演奏が許可されたものだと思う。ショスタコーヴィッチも取引が上手く、10月革命を讃えた交響曲第12番を発表する褒美として、交響曲第4番の初演、オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の再演、およびこの第13番の初演を許可することを当局から引き出した。

曲は冒頭から最後までバス独唱とバス合唱団が歌う形式が取られている。第1楽章は印象としてはレクイエムで、ことのほか充実した音楽を感じる。第2楽章は彼によくあるちょっと陽気なリズムであるが歌詞的にはかなり深刻である。第3楽章以降は暗い雰囲気がずっと持続する。政治的メッセージを別にしても、虐殺された人々を悼む強い意思が音楽から感じられる。

バスのペトレンコはやや明るい声質で、ちょっと曲にそぐわない面もあったが、代役としては十分な歌唱であった。ちなみにこの人はえらくもてはやされる存在で、このPROMSでは翌日も予定されているので都合4回も出演する。
ゲルギエフの指揮はまず文句のつけようがない。かなりレヴェルの高いものであろう。
写真は、終演後のペトレンコとゲルギエフ。
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by dognorah | 2006-08-21 08:00 | コンサート

PROMS:ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団

8月18日、ロイヤル・アルバート・ホールにて。

出演
ヴィオラ:ユーリ・バシュメット(Yuri Bashmet)
指揮:ワレリー・ゲルギエフ(Valery Gergiev)

プログラム
ショスタコーヴィッチ:バレー音楽 “The Golden Age” 作品22 抜粋
シュニトゥケ:ヴィオラ協奏曲
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 「悲愴」

9月よりロンドン交響楽団(LSO)の音楽監督を務めるゲルギエフのPROMSお披露目。
最初の曲は、演奏されることが珍しいショスタコーヴィッチのバレー音楽からの抜粋。1929-30年に作曲されたもの。内容はソヴィエトのフットボールチームが絡むお話らしい。活き活きとした音楽ながら、ミュージカル、ジャズ、ダンス音楽とあらゆる要素が取り入れられたもの。ガーシュインやコープランドを思わせるような部分もある。例によって当時の共産党機関紙「プラウダ」からは「音楽というより単なる混乱」と酷評されたらしい。
演奏はさすがにロシア人ゲルギエフ、すばらしい。LSOがよくついていったな、と感心するくらい乗りに乗っていた。本日の演奏はショスタコーヴィッチ自身が管弦楽用に組曲として作った作品22aではなく、オリジナルのバレー音楽から抜粋したもの。

2曲目のヴィオラ協奏曲はシュニトゥケがバシュメットのために1985年に作曲したものである。ピアノ、チェンバロ、チェレスタの鍵盤楽器と各種打楽器が並び、弦楽器は少な目の楽器構成であるのが目を引く。
しかし、曲も演奏もあまり面白くなかった。小さなホールでじっくり聴けば渋さの中に光るものを見つけられるかもしれないが、ヴァイオリンやチェロに比べて派手さの少ないヴィオラはこのホールではほんとに地味な存在である。写真は演奏終了後のもの。
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最期の「悲壮」は、さすがにゲルギエフは暗譜で指揮をする。驚いたのはものすごい派手なアクションで指揮をすること。ジャンプしたりしゃがんだり指揮台狭しと左右に忙しく動き回る。大体いつも譜面をめくりながら指揮しているのでめったに見られない光景だ。

第1楽章は深みがある表現で、間を十分とって悲劇的な感情をたっぷり含ませたとても美しい演奏であった。しかし楽章が進むにつれてオケのアンサンブルの荒さが目立ち始める。弦も硬直化していく感じだ。あまりLSOらしくない。指揮者が派手に動き回るほどその傾向が強くなる。特に第3楽章以降。全体としてはスケールの大きい迫力のある演奏ではあったけれど、聴く方はちょっと集中力が萎えてしまったのも事実。

思うに、手馴れた曲ゆえリハーサルで手抜きしたか。前半の2曲のリハーサルでかなり時間を使っただろうし、ゲルギエフはこの後マリンスキーの手兵を使って連日大曲を演奏しなければならず、かなり時間的制約があったはず。来期からのLSO、超多忙なこの人の指導下で大丈夫かなと心配になってしまう。

しかし、ロンドンの聴衆もいい加減この曲の第3楽章終了時に拍手するのをやめて欲しいものだ。声まで出す人がいる。ゲルギエフは嫌がって直ちに第4楽章に進んで拍手をやめさせたが。以前はこんなことはなかったのに最近はひどい。
この「悲愴」、2-3年前にロイヤル・フェスティヴァル・ホールで聴いた小沢指揮サイトウキネンが私の中では最高の経験である。
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by dognorah | 2006-08-20 00:12 | コンサート

PROMS:アンドラーシュ・シフのピアノ

8月17日、ロイヤル・アルバート・ホールにて。
このホールで開催されるPROMSでピアノ独奏というのは珍しいことですが、本日は夜10時から遅番のプログラムとして用意されました。
シフ(András Schiff)は1953年ハンガリー生まれで、ロンドン在住のピアニストです。夫人はヴァイオリニストの塩川悠子さん。シフは頻繁にウイグモア・ホールでリサイタルやワークショップを開催していますが、切符の入手は困難なくらいの人気があります。今夜も遅い時間にも拘らず、ストールやボックス席は8割以上埋まっていました。
ピアノは彼自身が40年間使っているベーゼンドルファーを持ち込んだものらしい。

オールモーツァルトプログラム
ロンド イ短調 K511
ソナタ イ長調 K331

ファンタジア ニ短調 K397
アダージョ ロ短調 K540
ロンド ニ長調 K485

ソナタ イ短調 K310

このように3つのグループに分け、2回の小休止をはさんで、それぞれ連続して演奏されました。かなり考えられたプログラミングでしょうか。イ短調に始まってイ短調に終わる。彼はモーツァルトの悲劇的な感情を抱かせるイ短調には特別な思い入れがあるようです。また、彼はモーツァルトの全音楽で最高のものはピアノ協奏曲である、とも言っています。オペラのテーマも全てその中に出てくるそうです。しかし、敢えてオペラの中から1曲選べといわれるなら、コジ・ファン・トゥッテだ。それを2001年のエディンバラ音楽祭で指揮した後は、少なからず自分のピアニズムに影響を与えた、ということです。

シフは舞台に出てくるときも演奏中もいかにも温厚そうな印象を与えます。演奏中は曲に合わせて表情をいろいろ変えますが、動作も含めて控えめながら、K331の第3楽章のトルコ行進曲では弾きながら聴衆を見渡して「どうです、楽しいでしょう?」みたいな表情を浮かべるのでとても親しみを覚えてしまいます。こういうリラックした雰囲気だと、少々会場内がざわめいていてもほとんど気にならなくなるのが不思議です。

演奏は特に自己主張しないで淡々と音を紡ぐように見えますが、とてもこなれていて味わい深く、安心して音に浸れるものです。なんと心が落ち着くことか。落ち着きすぎた人もいるらしく、後方から安らかな寝息が聞こえてきましたが。
プログラム最後のソナタへの集中力はすごく、速めのテンポで、悲壮感を漂わせたモーツァルトを髣髴とさせる迫力がありました。

アンコールは小品を2曲演奏。1曲目はEine Kleine Gigueと聞こえましたが、2曲目はわかりません。この人は丁寧に会場の3方向に向かってお辞儀をします。
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by dognorah | 2006-08-19 00:22 | コンサート