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フランスとイタリアのドライヴ旅行

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ロンドンの自宅から自分の車で欧州ドライヴ旅行を企画し、7月中旬から2週間走り回ってきました。フランスのエクスでセザンヌ展を見ることとイタリアのヴェローナで野外オペラを見ることがメインの目的でした。本当はアドリア海に面したラヴェンナにも行きたかったのですが、日程を2週間に抑えた場合、無理でしたので次回のお楽しみとしました。

ルートは、
(1)London⇒Dover⇒Boulogne sur Mer⇒Compiegne⇒St Juan aux Bois(泊)
コンピエーヌの森の中にある小さな村で、ホテルはグルメ料理が売り。

(2)St Juan aux Bois⇒Reims⇒Dijon⇒Beaune⇒Chalon sur Saône(泊)
ここはエクスへ行く旅程の中ほどです。

(3)Chalon sur Saône⇒Grenoble⇒Aix en Provence⇒Peynier(泊)
(4)Peynier(泊)
エクスのかなり郊外にあるB&B。

(5)Peynier⇒St Maximin⇒Nice⇒St Jean Cap Ferrat⇒Eze⇒Monaco⇒Roquebrune(泊)
エクスから一気にヴェローナへ行くのはちょっとつらいので、間で一泊。地中海を見下ろすホテル。

(6)Roquebrune⇒Menton⇒San Remo⇒Savona⇒Genova⇒La Spezia⇒Parma⇒Modena⇒Mantova⇒Verona(泊)
(7)Verona(泊)
今回の旅行で唯一泊まった都市型ホテル。

(8)Verona⇒Lago di Garda(湖一周)⇒Lago di Como⇒Cascina Motto(泊)
(9)Cascina Motto(泊)
マッジョーレ湖に近いB&B。

(10)Cascina Motto⇒Aosta⇒Chamonix⇒Samoëns(泊)
シャモニーに近いスキーリゾートの山小屋。

(11)Samoëns⇒Cluses⇒Nantua⇒Bourg en Bresse⇒Cuisseaux⇒Dole⇒Auxonne⇒Flammerans(泊)
(12)Flammerans(泊)
ディジョンに近いシャトーホテル。

(13)Flammerans⇒Dijon⇒Auxerre⇒Nemours⇒Fontainebleau⇒Melun⇒Paris⇒Fosseuse (Oise)(泊)
翌日のフェリーに余裕で乗れるようにパリの北側で一泊。16世紀のシャトーを使ったB&B。

(14)Fosseuse⇒Beauvais⇒Boulogne sur Mer⇒Dover⇒London

欧州人のように一箇所に長期逗留というのは余り肌に合わず、いつも走り回るパターンなのですが今回は特に遠方に出かけるということでいつも以上に走ってしまった感じです。13泊14日の旅で走行距離は4800kmでした。途中、イタリアのマッジョーレ湖を一周したときにスイス領にも入ったので、イギリスを含めて4カ国を走ったことになります。
しかし、丁度欧州全体に熱波が襲来していた時期と同期してしまって、とにかく暑い旅行となりした。出発前は、寒くなることもあろうかと上着とかサマーセーターや長袖シャツも鞄に詰めていたのに一切使わず。車の外気温度測定値を見ていたら、イタリアのどこかで38度を記録。しかし夜は25度以下に下がるところがほとんどなので寝苦しいということはありませんでした。

既にヴェローナとエクスのメインイヴェントについては記事にしていますので、これから少しずつ他のことも記事にしていく予定です。
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by dognorah | 2006-07-31 01:51 | 旅行

Cézanne en Provence 2006展

セザンヌ(1839-1906)の没後100年を記念してエクス(Aix)周辺で制作された絵画を中心とする回顧展がAix-en-Provenceで開催されていますので見てきました。油絵と水彩画を合わせて約70点です。
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特別な年ですので米国やロシアなどからも多くの作品が集められて大変見応えのある展覧会になっています。先般開催されたピサロとセザンヌの交友関係に焦点をあてた展覧会もなかなかすばらしかったのですが、今回は年代的にも幅が広くてその分多彩なセザンヌを見れる分迫力がありました。普段はなかなかお目にかかれないアメリカに散らばっている作品や個人蔵のものを見ることが出来たのも大収穫です。改めて彼の偉大な画業を実感した次第です。やはり故郷で落ち着いて描く絵には凝縮したエネルギーが感じられます。迫力がありました。特に十数点に及ぶサント・ヴィクトワールを描いた作品は芸術的価値はどうであれ圧巻です。上の絵は、Montagne Sainte-Victoire (1902-06 - Oil on canvas, 65.1 x 85 cm Private collection)です。

今回学んだことは、
・同じ場所を繰り返し描くことの意味。自然が提示する対象は時間的に一つとして同じものはありえず、時々刻々変化する自然を描くことこそが自然の本質に迫ることである、との彼の言葉の意味が少しわかったこと。
・風景画に人物を描き入れることをしないのは、人間の作った構築物を描くことで人間の存在を示しているからである。
・カンヴァスの空白は塗り残しではなく、あえて塗らずに空気を描こうとしたかららしい。
・対象の建物が傾いていたり、静物のりんごが転げ落ちそうなのはヴィデオのようなダイナミックな動きを表現したかったのでは。
・彼の描く道はたいてい画面のどこかで途切れていて先が見えないのは、不確定性を表現したかったのでは。
Maison au toit rouge (Jas de Bouffan)
R603 - 1885-1886 - Huile sur toile, 73 x 92 cm
Collection privée
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・1906年に死なずにさらに画業を続けていたらカンディンスキーを待たずとも抽象への道をもっと明確に提示していたのでは?死ぬ直前に描いた次の絵を見てそう思いました。
Le Jardin des Lauves
R926 - c.1906 - Huile sur toile, 65,5 x 81,3 cm
The Phillips Collection, Washington, D.C.
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・彼の人物画というものをそれほど注目していなかったけれど、次の農夫を描いたものはカード遊びをする場面の絵と同様に人物の内面を描き切っている感じがして感銘を受けました。
Le Paysan
R704 - 1890-1892 - Huile sur toile, 55 x 46 cm
Collection privée
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今回の絵で特に気に入ったものを挙げるとすれば、上の抽象画的なものと、次の初めて見た個人蔵の絵です。この絵は真ん中に木があるという彼が良く用いる手法のものであまり愉快な構図ではないですが、木の両側で別世界を描きながら、さらに水による鏡面で第3の世界を付け加え、すごく惹かれる色の配合によってそれらを有機的に繋げている絵がなんともいえない魅力を放っています。
Le bassin du Jas de Bouffan en hiver
R350 - c. 1878 - Huile sur toile, 52,5 x 56 cm
Collection privée
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とても暑い日でした。11時入場の切符を持っていったら少々早くても入れてもらえるだろう(5月のオルセーでのセザンヌとピサロ展ではそうだった)という甘い考えは見事に打ち砕かれて炎天下できっちり行列。前後の客を見るとみんな私と同じ時間の予約客でした。でも、中に入るとそれほど混雑はしていなくてまあまあ自分のペースで鑑賞できました。日本語のオーディオ解説機器が用意されていたのも便利でした。

美術館の中で、どこかで見たことのある日本人女性がいました。考えたら昨日のオペラの合唱隊にいた人です。声をかけたらやはりそうで、今日は公演がないので美術館に来ていたようです。ヴィーン在住で、ドイツ人のご主人ともどもこの魔笛はヴィーンとエクスの両方で出演しているとのこと。ひとしきり話して名詞を交換させていただきました。こういう出会いは楽しいことです。

約2時間ぐらい鑑賞した後、大汗を掻きながら近くのレストランで昼食を取り、家内の買い物に付き合ってゆっくり宿に帰ろうとしたら突然雷雨に襲われました。昨日に続いて夕立です。雨が降る前に地下駐車場に飛び込み、走り出したらものすごい豪雨。しばらく邪魔にならない路上で様子を見ていましたが、お陰で汚れ放題だった車はすっかりきれいに洗車されてしまいました。夕食時にはすっかり雨が上がったので再びセンターに戻り、歩道に張り出したレストランのテーブルで夕食を取りました。Romaniというどうやらイタリア系のチェーン店で、牛肉のカルパッチョの食べ放題というのをやっていました。私には一皿で十分でしたが、現地人がどれだけ食べるか興味があったので観察していたらみんな3皿で降参でした。薄切り肉だからたいしたことはないと思うけれど結構な量なんですね。味は前菜も含めてまあまあ良かった。

Cézanne en Provence
9 June – 17 September 2006
Musee Granet
Place Saint-Jean de Malte、Aix-en-Provence
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by dognorah | 2006-07-30 00:19 | 美術

エクス・フェスティヴァルの「魔笛」公演

7月14日、Aix-en-ProvenceのThéâtre de l’Archevêchéにて。
オリジナルは今年のヴィーン芸術週間で公演されたもので、Theater an der Wien他いくつかの劇場の共同制作です。
以下のキャスト、面倒なのでフランス語のプログラムから丸写しです。

Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
La Flûte enchantée (Die Zauberflöte)

Direction musicale: Daniel Harding
Mise en scène, décors, lumière: Krystian Lupa
Costumes: Piotr Skiba
Vidéo: Zbigniew Bzymek

Sarastro: Gunther Groissböck
Tamino: Pavol Breslik
Récitant / Second Prêtre: Olaf Bär
Premier Prêtre: Andreas Conrad
Reine de la nuit: L’ubica Vargicová
Pamina: Helena Juntunen
Première Dame: Sabina Cvilak
Deuxième Dame: Barbara Heising
Troisième Dame: Julia Oesch
Une vieille femme: Margit Gara
Papagena: Malin Christensson
Papageno: Adrian Eröd
Monostatos: Loïc Félix
Premier Homme d’armes: Roman Sadnik
Second Homme d’armes: Tijl Faveyts
Trois garçons: St. Florianer Sängerknaben

Chœur: Arnold Schönberg Chor
Directeur artistique: Erwin Ortner
Chef de chœur: Jordi Casals
Orchstre: Mahler Chamber Orchestra

歌手
c0057725_13994.jpg歌手の中では、夜の女王を歌ったヴァルジコヴァ(左の写真)が抜群の出来。コロラトゥーラの声がとても美しく、あの高音が続く有名なアリアも全く澱みなく清澄な声が余裕で出て歌唱もすばらしい。至福の時間でした。容姿端麗すぎて、娘のパミーナより若く見えるのが難点か。3人の侍女もなかなかの歌手揃いです。タミーノとパミーナは並みの歌手で、演技もあまり上手くない。パパゲーノは歌も演技もなかなか上手かった。他の男性歌手もザラストロをはじめ水準が高い。パパゲーナもまあまあ。合唱はヴィーンから来ていますが非常に上手い。


指揮と管弦楽
ハーディングの指揮するオーケストラは美しい音色で流れるような音楽を奏で、うっとりと聴いていられました。屋外とはいえあまり広いスペースではないし、かなり周りを建物に囲まれているので室内とあまり違わない良い響きでした。

演出
歌手たちは概ね伝統的な衣装ですが、タミーノはTシャツにカジュアルパンツ、パミーナは白い下着姿なのはどういう意味かあまりよくわかりません。パパゲーノは笑いを取りながらも結構大きな顔をしてタミーノを馬鹿にした演技です。
舞台はシンプルながらもいろいろ手の込んだメカニズムを使いこなしています。時折ヴィデオ映像やPAを使った音響を織り交ぜます。人物の顔とか現代的な風景など。俳優たちが現代的ないでたちで現れることもありますが、舞台は基本的にエジプトを思わせる造形です。動物たちが登場する場面は、マイクロソフトの宣伝のように頭だけ動物の姿で女性は上半身ヌードにして、もともと退屈な場面をちょっと魅力的にしています。人物もメカも結構動きがよくて楽しめる舞台です。
最後は、タミーノ+パミーナ、パパゲーノ+パパゲーナのカップルだけでなく、ザラストロ+夜の女王のカップルも出来て3組が幸せそうにめでたしめでたしで終わりました。こういう結末は、今まで見た舞台でもDVDでも初めての経験です。でも、すっきりして納得できます。モノスタトスがどうなるのかはよくわかりませんが。例によって字幕がフランス語なので何か従来とは変えていても私にはわかりませんでした。わからないといえば、第2幕冒頭でザラストロが坊主たちを集めてタミーノたちに試練を与える話をするところで、男女2体の死体(たぶん作り物)が並んだ台車が運び込まれます。プログラムの中に演出家によるスケッチが紹介されているのですが、それは全裸の男女です。しかし舞台では下半身は布で隠されていました。これを基にザラストロがどういう説教をしたのか。
プログラムに演出家のコメントが英語で掲載されていたのを読むと、
・タミーノとパパゲーノは人間の両面をあらわすためにカップルで行動するようになっていて、モーツァルトはより人間的なパパゲーノを重視している。
・パパゲーノは権威に服従する野心家のタミーノを内心軽蔑している。
・欧州人は欧州以外の社会に住む者を人間として認めず、彼らを奴隷として取引してきたほどである。モーツァルトはパパゲーノにそういう人種をも代表させて自分の人間観を表現している。

最後のくだりは、最近見た「ツァイーデ」で取り上げられたテーマなので、なるほどと思いました。パパゲーノが伝統的な、全身を鳥の羽だらけの姿にしている反面、タミーノがTシャツ姿なのもこの辺りを表現しているのかも。
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写真は、カーテンコールのものです。向かって左から、夜の女王、タミーノ、パミーナ、指揮者、パパゲーノ、ザラストロ、3人の侍女。バックにいるのは合唱隊です(クリックするともう少し拡大します)。

その他
エクスにはセザンヌ展を見る目的で行きましたが、あわよくばこの魔笛も見てやろうぐらいのスタンスでした。出発前には切符は既に売り切れだったので、開演1時間前に会場に行き、リターンを狙うつもりでいましたが、運良く手持ちの切符2枚を売り捌きたい婦人にめぐり会いました。リターンの列はあまり長くはなく、全員入れたようです。劇場への道順を聞いたイタリア人が追いかけてきて、この公演は見る価値があるか?と尋ねて来ました。ハーディングの指揮だし、いいと思うよ、と答えたら彼も並んで入場したようです。オペラは好きだけど魔笛は以前にも見たので躊躇していたらしい。この後ヴェローナに行くんだといったら、「あれはいいよー。マイクなしですばらしい歌声が聴けるんだよ」とコメントしてくれました。

エクスも非常に暑いものの夕立があるようで、この日も降ったので公演中のことが心配でしたが開始の9時半には晴れる方向でした。第1幕終了時には星も出ていたので一安心。
終演は午前1時ごろ。その後近くのレストランで軽く食事をしたので、宿に帰って寝たのは午前3時でした。翌日のセザンヌ展の鑑賞時間が11時指定だったのでちょっときつい感じです。このスケジュールで二晩連続は老体にこたえそうだったので翌日夜の「アルジェのイタリア人」は割愛しました。
ここでも観客の服装はとてもおしゃれなものでした。
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by dognorah | 2006-07-29 01:06 | オペラ

ヴェローナの街

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高速道路から街に入りましたが、出口の最初のラウンドアバウトで間違えてナヴィゲーションシステムに怒られ、その指示に従って修正を試みるも、同じところを何回も回らされていることに気付き(TomTomのシステムでは頻繁に起る)、道路標識に従って町の中心部に向かいました。途中からTomTomも回復して何とかホテルまでたどり着くも、イタリアはまだ慣れないせいか道路構造が英仏に比べてわかりにくくて何度もナヴィの指示する道を間違えて時間を食ってしまいました。

今回泊まったホテルはアレーナから1.5kmぐらい南に離れたところにある三ツ星。インターネットで探して予約したものの詳細不明で不安があったが、意外にも冷房がついていて熱波の真っ最中だっただけにホッとする。マネージメントもきちんとしているので次回もここにしようかと思っています。しかしここはチェックアウトしてわかったのですが、オペラのある日はレートがそうでない日の63%アップとなっていました。需要が高いのと、バスを仕立てて客をアレーナに送迎する経費のためでしょう。

翌日は、夜のオペラの前に簡単にヴェローナを見て回りたかったけれど、あまりの暑さ(恐らく35度以上)に歩くことを断念。そのかわりに観光バスの1時間半コースを選択。アレーナ前を出発して教会を主にいろいろな建築物を見せてくれて、街の北部にある岡の上で小休止。写真はそこから撮ったヴェローナの美しい街です。
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中心部は水量豊富な蛇行するアディーゲ河(Fiume Adige)に囲まれています。これだけ家がぎっしり建っているとあの大きなアレーナでさえ認識できず、バスの運転手に教えられて双眼鏡でやっと確認できるくらい。観光名所のCapuleti家もバスの窓から見ただけで、早々にホテルに帰ってオペラ鑑賞のために英気を養いました。
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by dognorah | 2006-07-28 08:04 | 旅行

ヴェローナのオペラ「カルメン」公演

7月18日、Arena di Veronaにて。
夏の間のOpera Festivalとして名高いヴェローナのローマ遺跡での公演を初めて観ましたが、想像をはるかに上回るすばらしさで、ほんとうに感動しました。
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Carmen by Georges Bizet (1838-1875)
Libretto: Henri Meilhac & Ludovic Helévy after Merimée


Carmen: Luciana D’Intino
Micaëla: Maria Luigia Borsi
Frasquita: Cristina Pastorello
Mercedes: Milena Josipovic
Don José: Marco Berti
Escamillo: Giorgio Surjan
Dancairo: Franco Previati
Remendado: Luca Casalin
Zuniga: Victor Garcia Sierra
Morales: Marco Camastra

Direttore: Lu Jia
Regia e scene: Franco Zeffirelli
Costumi: Anna Anni
Coreografie: El Camborio
オーケストラについては主催側資料に記述がなく、不明。

歌手
女声陣はカルメン、ミカエラを筆頭に全てよい声と歌唱でしたが、特にカルメンを歌ったルチアーナ・ディンティーノには圧倒されました。2万人が座れるというこの広い野外円形劇場はマイクを使わないのですが、彼女の美声は隅々まで響き渡ります。歌唱もすばらしいし、演技もまさにカルメンにふさわしい。すごい歌手です。
ミカエラを歌ったボルシは声量こそカルメンにはかなわないものの、そこそこの声量で歌が上手く、いいソプラノであることはすぐわかります。
ドン・ジョゼを歌ったベルティも美しい張りのある声をした、いいテノールです。やはり声量はカルメンにはかないませんが。ミカエラとの2重唱は声量的なバランスがよく取れるので両者の美声はとても聴き応えがあります。ブラヴィをたくさん貰っていました。
しかし、エスカミーリョがひどかった。いいバリトンは世界的に豊富に存在するのに何でよりによってこういう人を、と思ってしまいました。声量は並、声はあまりよくない、歌が下手、といいところなしで、闘牛士の歌も盛り上がらず。私から唯一ブーを貰った人です。他の男声陣はそこそこ上手かったので余計目立ちました。闘牛士らしい見栄えのする衣装がよく似合っていただけに惜しいことです。
合唱は大人数ですがアンサンブルがすばらしく、すごい迫力でした。

指揮者
中国人指揮者のルー・ジァは派手ではないものの音楽を手堅くまとめていました。オケの響きは歌ほどよくなかったです。歌手は舞台上で円形の壁に近いところで歌うけれど、オケは一段下がった位置で、壁の恩恵を受けないせいでしょうか。通常の第1ヴァイオリンの位置にチェロが配置されているのが変わっています。音響の点で試行錯誤した結果でしょうか。

演出
しかし、この公演を印象深いものにしたもう一つの要素はその舞台演出でしょう。全体的に伝統的なものですが、広い舞台を余すところなく使い切るデザイン、大勢の登場人物や10頭以上の馬などが無駄なく動き回る統率力、見栄えのする装置や背景、さすが名監督ゼッフィレッリの作品で、Spectacularという言葉がぴったりの出来です。ダンサーたちの踊りも見応えがありました。衣装も雰囲気を盛り上げるいいデザインです。
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次の写真は終演後の歌手たちのカーテンコールです。中央の指揮者の両隣がカルメンとジョゼ、ジョゼの隣がミカエラです。
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その他雑感
・次の写真は開演前の舞台の準備の様子ですが、遠景の山々が描かれたパネルに仕掛けがあって、下部をめくるとセヴィリアの町並みが現れます。係員が二股状の道具とロープを使って次々とめくっていくと見事に町並みに変化していくのが面白くて写真に撮ってしまいました。
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・始まる前に観客は一人一人小さなローソクに火を灯します。次の写真は舞台の正面の席の様子ですが、小さな明かりに雰囲気が感じられます。これは1913年にこのヴェローナ音楽祭がヴェルディ生誕100年を記念して始まったとき、まだ電気設備がなくて全体が暗かったこともあって、台本を読む明かりとして観客によって使われ始めたのが今日でも伝統として残っているということです。
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・カーテンコール終了後歌手達とダンサー達が舞台右袖に集まりました。そして各歌手がダンサーを相手に踊り出しました。指揮者も参加して、やんやの喝采を浴びています。
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・開演が午後9時15分、終演が午前1時15分でした。4幕物のオペラなので3回のインターヴァルがあります。手動で次の舞台をセットするのでどうしても時間がかかってしまうのです。ヴェローナは昼も夜も雲ひとつない快晴で安心して野外オペラを堪能しましたが、時には雨が降って中断や中止になることもあるらしく、その点私たちはラッキーでした。開演直後は扇子が欲しい状態でしたが終演ごろはちょっと肌寒い程度まで温度が下がりました。
・観客は玉石混交で、値段の高いアリーナ席は男女ともかなりのおしゃれ姿です(イヴニングドレス+ダークスーツ)。私の座った階段状の指定席でも女性は結構頑張っています。野外劇場だからもっとラフだろうと高をくくっていましたがとんでもない。イギリスとは違いますね。上段の自由席になってようやくGパンや短パン姿が認められました。マナーはかなり悪い人が混じっています。開演直後は携帯の呼び出し音が聞こえるし、開演から終演までひっきりなしにカメラのフラッシュ攻勢です。これはかなり気になります。
・席の予約はインターネットでやりましたが、確認電子メールのコピーを持ってオフィスに行き、切符と交換するシステムです。ところが、これからの公演を予約する人たちと一緒に行列するので、1時間も炎天下で待たされる羽目になりました。私は交換するだけなので1分で済む作業です。効率の悪さにあきれてしまいます。交換は公演当日に限られているので、何公演も予約した人はそのたびにこの行列の苦痛を味わうことになります。イタリアは郵便事情が悪いので主催側は大事をとって郵送サーヴィスをしないのです。
・今年は様子見のため1演目しか見ませんでしたが、来年はぜひ3演目ぐらい見たいものだと家内と意見が一致しました。彼女も今回の公演には大感激したのです。
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by dognorah | 2006-07-27 05:11 | オペラ

オペラ「トゥーランドット」公演

7月11日、ロイヤルオペラハウスにて。
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作品:Turandot (1924未完、1926 Franco Alfanoの補筆で完成。3幕構成)
作曲:Giacomo Puccini (1858-1924)
台本:Renato Simoni & Giuseppe Adami

キャスト
指揮:Stefan Soltesz
演出:Andrei Serban
デザイン:Sally Jacobs
照明:F. Mitchell Dana
振付:Kate Flatt

トゥーランドット:Georgina Lukács
カラフ:Ben Heppner
リュー:Elena Kelessidi
ティムール:Robert Lloyd
ピン:Jorge Lagunes
パン:Robin Leggate
ポン:Alasdair Elliott
皇帝:Francis Egerton
役人:Eddie Wade

Solteszの指揮は活き活きとして劇的、オケの音を大きく鳴らす腕はたいしたものです。
その大きな音にも負けずに声が出ていたのはトゥーランドットを歌ったLukácsのみ。彼女の高音はものすごく伸びて気持ちがいいのですが、惜しむらくは低音部が弱くてあまりいい声ではなくなることです。そのために全体として声に潤いがやや欠けている印象です。でも、トゥーランドットの歌はほとんど高音部なのでエネルギーには圧倒されました。カーテンコールのブラボーは一番たくさん貰っていましたね。容姿もまあスマートで、トゥーランドットとしてもよく似合っています。

もう一人、リューを歌ったKelessidiもすばらしい歌唱で、この人はほとんど欠点がなかった。声質は柔らかくて心地よいし歌がうまい。ブラボーもたくさん。私はこの人にだけブラボーを叫びました。

Heppnerは、初日に声が出ていなくて皆さんから散々な評判でしたが、今日は第1幕からまあまあの声が出ていました。しかし声の張りがちょっと物足りなく、ごく普通のテノールという印象でした。オケがフォルテになると声が聞こえない。ネッスンドルマもあまり上手くなかった。ブーは出なかったものの、ブラボーも全く貰えず。名声からすると、かなりの不調と思われます。立派な体格がカラフにはぴったしでしたが。

ティムールを歌ったROHの専属的歌手Lloydは今日はいい歌手だなぁとおもいました。安定していい低音が出ていましたから。
ピン、パン、ポンも誰が誰だかわからなかったですが、とても上手かった。

ということで、10数年ぶりにこの演出を見たのですが、前回よりも楽しめたし、演出そのものも前回ほど悪印象ではなかったです。
写真は、拍手に応えるLukácsです。後ろに移っている黄色い服の女性がKelessidi、男性はLloydです。
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今日の客席には、和服の女性4人と羽織袴の男性が一人混じったグループがいましたが、日本から来られたのでしょうか。他にも和服の女性がいたので、ロンドンの椿姫さんがいないのにも拘らず和服で大賑わいでした。
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by dognorah | 2006-07-12 08:16 | オペラ

シューベルトの歌曲集「白鳥の歌」

7月10日、Linbury Studioにて。

バス:Robert Gleadow
ピアノ:David Gowland

シューベルトの死後、楽譜出版者ハスリンガー(Tobias Haslinger)が彼の歌曲の遺作を集めて「白鳥の歌」として出版した。その歌曲は、第1曲から第7曲がLudvich Rellstabの詩に基づくもの、第8曲から第13曲がHeinrich Heineの詩に基づくもの、第14曲がJahan Gabriel Seidlsの詩Die Taubenpost(鳩の使い)に基づいて作曲されたものである。
現在ではそういう事情を鑑みて、歌手が比較的自由に曲順や含める歌曲の種類を変えることが多いようで、先般バリトンによるコンサートでは異なる詩人をごっちゃにしてかなり曲順を変えていたし、今日は詩人毎にまとめて歌ったものの第14曲は題名を考慮して全く違う曲(D744の白鳥の歌)を持ってきていた。ただしその曲はハスリンガーが選んだ「鳩の使い」に比べてそれほど魅力的なものとは思えない。私はDie Taubenpostの躍動するようなピアノとそれにぴったり合った軽快な歌の方が好きだ。

c0057725_7194592.jpgロバート・グリードウはROHのYoung Artists Programmeに昨年9月から参加しているカナダ人でかなりレヴェルが高いので注目しているのあるが、いつもの安定した音程と魅力的なバスの声で上手く歌っていた。さすがに上記のバリトンよりもはるかに上手い。ただし、オペラ歌手を目指している彼がどの程度歌曲に入れ込んでいるいるのか不明なので、フィッシャーディースカウのような一流と比べるのは酷であるが。

終演後、ご一緒したstmargaretsさん、Sardanapalusさんと感想を述べ合いましたが、彼がオペラで主役級の役をもらえるためには何が必要か、については結論が出ませんでした。私は今日も感じたのですが、バスにはもう少し柔らかい深みのある声が欲しいという気がします。彼の声域はそれに対してやや高い方にシフトしているがゆえにそれが出にくく、レパートリーを狭めているのかなと思っています。
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by dognorah | 2006-07-11 07:20 | コンサート

モーツァルトのオペラ「ツァイーデ」(Zaide)

作品:Zaide、二幕構成のジングシュピールの断片、K344/336b
作曲:Wolfgang Amadeus Mozart (1756-91)
台本:Johann Andreas Schachtner (after 'Das Serail' by Franz Josef Sebastiani)

7月6日、バービカンホールにて。semi-staged形式によるコンサートです。ただし、演出家の意思がきちんと反映されている分、ちょっと普通のコンサートとは異なります。バービカンとNYのリンカーンセンターとの共同制作で、今年のWiener Festwochenで公演されたものとオーケストラ以外は全て同じキャストです。

このオペラの背景
1779年、モーツァルトが23歳のときの作品だが未完のまま放置された。ドイツ語の台本に基づいている。政治的な内容で、西洋とムスリムの関係、権力者と奴隷に代表される二極対比を浮き立たせた内容である。同様のテーマで作曲しながらやはり未完に終わった同じ頃の作品に「Thamos, König in Ägypten」があり、今回の制作側はツァイーデの足りない部分をタモスの音楽で補うことで形を整えた。
それに加えて、モーツァルトは奴隷制反対の意志を貫いていたとして、このオペラを反奴隷キャンペーンの一環とし捉える解釈を示した。そのために、オペラの開始前にIntroductionと称して演出家ピーター・セラーズ自身が出てきて解説すると共に、Anti-Slavery InternationalのディレクターとThe POPPY ProjectのChief Executiveも登場させてそれぞれ一席ぶたせたのである。今更なぜ奴隷反対を声高に叫んでいるかというと、現代の西欧社会では貧困国の少女が性奴隷として強制労働させられている現実を何とかしたいということを強調したかったようだ。特にThe POPPY Project(そのような被害女性を救うプロジェクト)の人は如何に少女がイギリスに連れてこられて売春婦として働かされているかの現実を非常に細かい具体例を挙げながら微にいり細にわたり辟易するぐらい説明するものだからこのイントロダクションだけで25分もかかってしまった。オペラを聴きに来たのにそういう演説を聴かされて聴衆も少々うんざりだが、これがピーター・セラーズなんだと納得するしかない。

キャスト
Zaide: Hyunah Yu (soprano)
Gomatz: Norman Shankle (tenor)
Allazim: Alfred Walker (bass-baritone)
Soliman: Russel Thomas (tenor)
Osmin: Terry Cook (baritone)

Conductor: Louis Langrée
Orchestra: Concerto Köln
Director: Peter Sellars

原作のあらすじ
トルコのサルタンに囚われている奴隷のツァイーデとゴマツが恋に陥り、古手奴隷のアラジンの助けを借りて脱走する。彼女を寵愛していたソリマン(サルタン)は奴隷商人のオスミンからいくらでも他の奴隷を補充できるからといわれても承知せず激怒して国中を捜索して二人を捕える。ゴマツに対して殴る蹴るの暴行を加えて憂さを晴らすもツァイーデの服従は得られず途方にくれる。はたして二人を殺してしまうのかそれとも二人の愛に免じて許すのかと逡巡するところでオペラは終わる。

ピーター・セラーズは現代の工場で強制労働させられる従業員と彼らを管理する工場長(ソリマン)という設定にしています。舞台には下の写真のようにミシンが並べられ、従業員が寝るためのシュラーフが置いてあります。左端の事務机がソリマンの机です。
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歌手陣はタイトルロールが韓国生れの人ですが国籍は米国で、男性陣は全て米国籍の黒人です(これも意図的にそうしたのでしょう)。Yuのソプラノは声量がやや小さいけれど声質は甘く、高音までよく伸びる心地よいもの。Thomasのテノールはすごい。艶と張りのある強靭な声で、声量もたっぷり。METでは端役しか出ていない人らしいがぜひROHで歌って欲しい。バスバリトンのWalkerもいい声で歌も上手くすばらしい歌手です。さすがに米国はオペラ歌手も黒人がたくさんいるようです。イギリスではあまり目立たず、有名どころではWillard Whiteぐらいしか知りません。

指揮は派手ではないけれど、きっちりモーツァルトのバロック的要素を表現しています。
1幕目が終わった後かなりの客が帰ってしまいましたが、コンサート形式といえども舞台設定に不満があるのか、あるいはピーター・セラーズのやり方が気に食わなかったのか、ちょっと不可解です。
写真は、左から指揮者、演出家、ユー、シャンクル、ウオーカー、トーマスです。
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by dognorah | 2006-07-07 21:08 | オペラ

東京弦楽四重奏団(Tokyo String Quartet)演奏会(その2)

7月5日、Carpenters’ Hallにて。最終公演。このCarpenters’ Hallは、名前の通り大工さんたちが15世紀に出資して作ったギルドの本部で、現在は貸しホール的存在である。さすがに各種大工道具がガラスケースの中に展示されていて、往時を偲ばせる。ミニチュアのようなカンナがたくさんあるのが印象的である。下の写真にホールの内部を示す。文房具屋さんより大工の方が実入りが多かったと見えて、先日のStationers’ Hallよりも贅を凝らして立派である。このCity of London Festivalはこのように同じ団体の演奏会でも各回の会場が異なっており、シティの普段はあまりお目にかかれない建物を体験できるのも一つの楽しみである。伝統的なシティには実に豊富な古い建物が現代に至るまできちんと手入れよく保存されており、豊かさと歴史の重みを感じることが出来るし、またその奥深さを実感できるのである。
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本日のプログラム
モーツァルト:クラリネット五重奏
細川俊夫:弦楽四重奏第2番 “Urbilder”
ブラームス:クラリネット五重奏

クラリネット:Joan Enric Lluna
クラリネット奏者はスペイン生まれで国際的に活躍している人であるが、この弦楽四重奏とは技術的にも音楽的にもぴったしのパートナーであった。

モーツァルトとブラームスの古典的名曲2種類はアンサンブルにおいても表現の深さにおいてもレヴェルの高い演奏で音楽的に充実した名演といえる。私はブラームスの方が断然好きなのでここでもそれをより楽しんだが。

細川の音楽は以前本人の口から自分の音楽の作曲手法について聞いていたので、この音楽が始まってももう違和感はないが、初めて聞く人たちはさぞかし戸惑ったことだろう。モーツァルトの心地よい音楽で催される眠気など雲散霧消するくらい聴く方にも緊張が要求される。耳を澄まさないと聞こえないほどの細く弱いしかし緊張した音で開始されるも豊富な音に発展することなく終始無調的というか無機的という奇妙な音が続く。その垣間に日本人である私には日本の伝統的なリズムを感じることが出来てなるほどと思うのであるが。演奏時間は約15分。題名のUrbilderというドイツ語は、「原型の」という意味か。彼は主にドイツで活動しているのでドイツ語で名づけられたものと思う。

今日の客の入りはあまりよくなく、特に高い席は空席が目立つ。日本人は非常に少なかった。先日のコンサートで隣に座っていたアジア人が今日も近くに座っていたので話しかけたら香港出身の中国人だった。昨年オクスフォードからロンドンに移ったばかりで、私と同じようにコンサート狂いをしているらしい。彼はこのカルテットの全シリーズを聴いておりかなり熱心な人だ。各回一人ずつ日本人作曲家の作品が演奏されたが(武満、林、間宮、細川)、4人の中では誰が一番よかったかと訊くと、武満という答えが返ってきた。どう考えても彼が一番インターナショナルなので多数意見だろう。
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by dognorah | 2006-07-06 20:57 | コンサート

Lichtenstein Chamber Ensemble演奏会

7月3日、ROHのCrush Roomにて。
ソプラノがシューベルトの歌曲を歌うのと、ピアノ五重奏曲を組み合わせたコンサートである。歌曲の最後が「鱒」で、引き続いてピアノ五重奏「鱒」が演奏されるという趣向である。

・シューベルトの歌曲
An die Musik
Lachen und Veinen
Ganymed
Die Forelle
・シューベルト:Piano Quintet in A major, Op.114 D667

演奏
・ソプラノ:Floretta Volovini
・ピアノ五重奏:Lichtenstein Chamber Ensemble
ヴァイオリン:Tomas Tulacek
ヴィオラ:Gill Tarlton
チェロ:Babette Lichtenstein
コントラバス:Keith Hartley
ピアノ:Philip Gammon

ソプラノはギリシャ生れの人、恐らく50歳を超えている。声量はあまりなく高音もやや苦しそうであるが、声は美しいし音程はしっかり。
クインテットは名前の通り、女流チェロ奏者がリーダーとなって結成された団体で、チェコ、オランダ、イギリスの人たちで構成されている。

ピアノ五重奏曲の演奏はとても大人の演奏、格調高くきっちり仕上げられている。もう少し奔放さがあってもいいのではないかと思ったが、音楽は十分楽しい。
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by dognorah | 2006-07-05 19:37 | コンサート