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ハイティンクのベートーヴェンサイクル

4月29日バービカンホールにて。満席でキャンセル待ちが出るほどでした。

曲目
ベートーヴェン:交響曲第1番
ベートーヴェン:交響曲第9番

指揮:ベルナルト・ハイティンク(Bernard Haitink)
ソプラノ:トワイラ・ロビンソン(Twyla Robinson)
メゾソプラノ:カレン・カーギル(Karen Cargill)
テノール:ジョン・マック・マスター(John Mac Master)
バリトン:ジェラルド・フィンリー(Gerald Finley)
合唱:London Symphony Chorus

昨年から続いていたハイティンクのベートーヴェンサイクルはこれが最後のプログラムです。先日の演奏会で第4番について述べた感想がそのまま第1番にも適用できます。面白おかしく演奏できる曲でもないので、妥当なところでしょう。

第9番は全体にやや速めのテンポで、第1楽章と第2楽章は畳み掛けるような激しい演奏でした。だからといってそれが感動的かどうかは別の話ですが。第3楽章は特に思い入れもなくあっさりと流す感じで、起伏がなくやや退屈。第4楽章は3つのテーマを否定したり新しいテーマを提示する低弦が惚れ惚れする美しい演奏で導入部を引き締めます。そのあとの管弦楽も第1楽章と同様にダイナミックな演奏。

ジェラルド・フィンリーのバリトン導入部はすばらしい歌唱でした。当初歌手をチェックせずに会場に座ったらそれが平土間で、オケが邪魔して後方に位置された4人の独唱者が見えず、誰が歌っているのかわからなかったのですが、さすがにフィンリーだと後で思いました。これに比べるとテノールはかなりがっかりで、やはり世の中いいテノールは少ないんですね。ソプラノもよかったが、メゾはまあまあというところ。合唱はいつもの通り言うことなしの出来で、この曲を聴きに来る目的は成就されました。
全般的にはハイティンクは絶好調とは言いがたく、終了後の疲れようを見ると体調的にもベストではなかったことが響いているかもしれません。1929年生まれですからあまり無理が利く年齢ではないので体調管理には気をつけていただきたいものです。

翌日も同じプログラムが演奏されますが、それ以降ハイティンクはロンドンでは2007年前半までLSOを指揮することはなく、当分お目にかかれません。
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by dognorah | 2006-04-30 21:02 | コンサート

再び「神々のたそがれ」公演

今回の新演出は全部で6回しか上演されませんが、初日から10日後の3回目の公演に行ってきました。ガーディアン紙で演出にけちをつけられて星2個の評価が響いたのか、今日は空席がちらほら。
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今回はパッパーノが絶好調でオーケストラの演奏が滅法よかった。ということでワーグナーのすばらしい音楽を堪能できたのでかなり満足度の高いものでした。第3幕開始時の彼とオーケストラに対する拍手と歓声はすごいものです。
今回思ったことですが、1階の席でオーケストラの見えないところは音が悪いということです。ピットが全部見えるサイドの席はいいのですが。今日はAmphitheatreの最前列だったので音的には満足。

歌手ですが、全般的に初日よりよかったのに、藤村実穂子だけは初日の方がよかったのは残念。ブラボーは出たものの足踏みまではいたらず。
トレリーヴァンは第1幕は初日よりましだったものの第2幕は声が響かず。第3幕はよかったので調子が悪いとも思えず、第2幕は声をセーヴし過ぎたのでしょう。もう少しまじめに歌ってほしい。今日もブラボーが出なかった数少ない歌手の一人でした。
これに比べると、リサ・ガスティーンは第一声こそ首をかしげたもののその後はずっとパワー全開ですばらしいの一語に尽きます。
初日に歌の上手さで格を見せ付けたトムリンソンは声の張りが一段とよく、今日は文句のつけようがない出来で終演後の拍手、歓声、足踏みは一番。
グートルーネを歌ったエミリー・マギーも改善著しく、いい歌手だなぁと思いました。
あと、男声合唱も前回より印象的。

演出面では前回の疑問はほとんど解消されず。新たに、前回書き忘れていたり、上の方の席から見えたことは、開演前に舞台に座っているエルダの顔が頭蓋骨であったこと(「ジークフリート」でヴォータンに槍で子宮を突き刺されたことと符牒しているのか)、計画が上手く行って喜んでいるハーゲンを窓の外から群衆に見つめられてたじろぐハーゲン、グンターが不在中のギービッヒ家を守っているハーゲンのそばに砂時計が置いてあること、などです。

前回、座席の関係で気付かなかったことは、ジークフリートの旅でライン河まで来たときに彼の足元に映っている映像が3人のライン娘たちが泳いでいる姿。また、最後にライン娘のヌードに気を取られて見過ごしたものに、奥のローゲの姿。そこらじゅう燃えているのだから火の神がいて当然ですね。下の写真はアンコールに応えるリサ・ガスティーン、藤村実穂子、ジョン・トムリンソンです。
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BBCのカメラが入っていましたが、劇場側が設置して準備完了というアナウンスのあったHDカメラは一体どうしたのでしょう。何か不具合があるのでしょうか。

今日はstmargaretさんもいらしていたので長い幕間をお付き合いいただき、楽しく過ごすことが出来ました。感謝します。
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by dognorah | 2006-04-28 19:11 | オペラ

小川典子とイギリス室内管弦楽団

ロンドン在住のピアニスト小川典子さんが村中大祐さん指揮のイギリス室内管弦楽団と共演するコンサートに行ってきました。
4月24日カドガンホールにて。

ピアノ:小川典子
フルート:ウイリアム・ベネット
指揮:村中大祐
管弦楽:イギリス室内管弦楽団

プログラム
武満:How Slow the Wind
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37
モーツァルト:フルート協奏曲ニ長調K314
ラヴェル:クープランの墓

1曲目、武満らしい緊張感を伴った音による短いフレーズが組み合わされて曲が進行していく。情景的な描写は日本人である私にはよく理解できます。しかし全体の構成としてはやや冗長感が漂うのは否めない。隣のイギリス人がとても理解できないという顔をしながら「武満をどう思う?」と話しかけてきた。「私は好きだよ」と答えると、「いや、私も好きだけど・・・」と言葉を濁す。「でも、何なの?この音楽は」とあくまで理解不能の様子。昨日のリハーサルも聴いた人の話だと、この音楽は非常に難航したそう。その人はこの本番もひやひやして聴いていたという。何でそんな曲を選んだ?

c0057725_21373195.jpg2曲目は本日の目玉。小川さんはジュリアード音楽院を出たあと、1987年に開催されたリーズピアノコンクールで入賞したのが縁でその後ずっとロンドンに住んで演奏活動をしている。もう40歳ぐらいでしょうか。隣のイギリス人は「うそー、20歳ぐらいと思ったよ」と驚いていましたが。
演奏は、オーソドックスでダイナミック、確信に満ちた音で立派なもの。第1楽章のカデンツァも聴き応えがありました。ダイナミックさは先日聴いたポール・ルイスより上、ただし音そのものは彼のほうが透明感がありましたが。彼女の音はペダルの使い方なのかやや渇き気味で、もう少し潤いがほしいと思うときがありましたが、これはホールや座席による影響もあるかもしれません。オーケストラの方もピアノと付かず離れずの演奏で、格調高いものでした。演奏中はピアニストと指揮者がほとんどアイコンタクトを取っていないのにぴたっと合っているのに感心しました。写真は終演後拍手に答える小川さん。

隣のイギリス人は、演奏前に「評判の高いこのピアニストを実際にこの耳で聴いてみたくて来た」といっていましたが、この演奏に大いに満足した様子で、「世界クラスのピアニストになれる素質がある。ほとんどミスタッチがないことにも感心。」とコメント。指揮者についても、とてもいい指揮者だと褒めていました。村中さんは、ピアノを習っていたものの、大学は外国語大学出身で、卒業後にヴィーンへ行って指揮を学んだ人です。1995年にイタリアの指揮者コンクールで1位を獲得したときから指揮者としてのキャリアを積んできました。あちこちのイタリアの歌劇場でオペラを指揮したあと東京でも指揮しています。現在は横浜でオーケストラを立ち上げ中で多忙とのこと。

3曲目のフルート協奏曲はまあ標準的な演奏でしたが、ベネットのフルートの音色はあまり好きではありません。もっとやわらかく暖かい音色が好みです。
隣のイギリス人は非常に辛口で「最低だ。あんなのモーツァルトじゃない。Rubbish!」。彼が演奏中から興味をなくしていたのは私にもわかりましたが、ここまで貶すとは。

4曲目は、私はピアノ曲だと思っていたのですが、作曲者自身が後に管弦楽用も書いているということを初めて知りました。ラヴェルの音色感がよく出ていた好演だったと思います。
しかし今日のプログラムはどういうポリシーで選ばれたのかちょっと理解に苦しむ選曲です。何人かの企画者の妥協の産物という感じがしないでもない。

すべてのプログラムに対するリハーサル時間が昨日の3時間のみで、今日、本番前におさらいして終わりだったので大変だったという話が終演後のパーティで指揮者からあったが、それにしては独奏者二人との共演はよく合っていました。

c0057725_2140852.jpg終了後、ロビーに行くと真ん中部分をロープで囲って主催者によるパーティが開かれていたので参加させていただきました。出演者も参加しています。日本人聴衆が非常に多かったわけですが、10人ほど会った知り合いに聞くとほとんどの人はスポンサー企業から回ってきた切符で来ていることがわかりました。道理で第1楽章終了時に拍手が起こるわけです。左の写真は挨拶する村中さん。

2月にウイグモアホールでリサイタルをされた中嶋彰子さんもこのコンサートにいらしていることを友人から教えてもらい、早速見つけて話しかけてみました。今回ロンドンに来たのは今後の出演についての打ち合わせのためだったそうで、パッパーノとも会談したとのこと。まだ詳しくは言えない、とのことですが、どうやらロイヤルオペラ出演が近々(といっても2007/8年シーズンでしょうけれど)実現しそうな雰囲気で、大いに楽しみです。
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by dognorah | 2006-04-25 21:45 | コンサート

ピアノリサイタル(4月21日)

セント・ジェームズ教会にて。

Piano : Mari Sakata

プログラム
Sofia Gubaidulina (1931 - ) : Chaconne (1961)
Howard Skempton (1947 - ) : Selected Piano Pieces (9曲)
Elliott Carter (1908 - ) : Piano Sonata (1945-6, revised 1982)

c0057725_754481.jpgこのピアニスト、名前からして日本人と思うのですが、経歴には香港生まれで5歳からピアノを学び、マンチェスターの音楽学校を経てRoyal College of Musicを2002年に卒業とあり、日本に関する記述は一切ありません。同年、Purcell Roomでのリサイタルを皮切りに各地でソロピアニストならびに室内楽で活躍中。上のプログラムで見られるように特に現代音楽に興味があり、多くの現代作曲家と親しく交流しているようです。クラシックだけでなく、あらゆるジャンルの音楽との融合にも興味を持ち、新しい試みを音だけでなく映像なども使って表現することにも熱心だという。日本語でググってみると坂田麻里というピアニストが引っかかりますが、写真とレパートリーを比較すると別人のようです。

演奏された曲は聴いている分にはなかなか面白い音楽です。最初の曲は旧ソ連のタタール生れの女流作曲家の作品。いきなり強烈な和音で始まりますが、大暴れするわけではなく、急緩急と形式を踏んでいます。聴き応えがあります。とてもダイナミックな演奏で、彼女の性格によく合っているのでしょう。

2曲目の作曲家スケンプトンはイギリス人です。1973年から1990年までの間に作曲された9曲が演奏されました。ポピュラーソングのメロディを聴いているような感じのものなどいろいろ。私はあまり興味が湧きませんでした。

3曲目はアメリカの作曲家、カーターのもの。最近彼の特集がバービカンホ-ルであり、BBCでも放送されたので馴染です。曲自体は彼の管弦楽曲と同様、意外と古風です。2楽章構成ですが第1楽章は強烈な和音で始まり、ちょっとリストを思わせる響きです。第2楽章は少しジャズ的な要素も感じられますが基本的には古典の枠をあまりは乱すことなく、いろいろな楽想が行き交う感じです。速めのテンポでダイナミックかつ軽快に奏でられる彼女の演奏はここでも納得のいくもの。なかなかのピアニストと思います。

今日の同じプログラムで彼女は5月25日にBath International Music Festivalに出演し、それはBBC Radio3によってライヴで放送されます(午後1時から)。
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by dognorah | 2006-04-23 07:57 | コンサート

モーツァルトのオペラ「羊飼いの王様」

ロイヤルオペラハウスの2軍的存在ROH2による公演です。
4月20日、Linbury Studio Theatre(ロイヤルオペラハウス内)にて。

Il re pastore : Serenata in two acts (1775)
Music : Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
Libretto : Pietro Metastasio (1751)

Director, set designs, lighting : Lloyd Davies
Costume designs : Susanne Hubrich
Conductor : Edward Gardner
Orchestra : English Baroque Soloists

Aminta : Katie Van Kooten
Elisa : Ana James
Alessandro : Peter Bronder
Agenor : Robert Murray
Tamiri : Anna Leese
アレクサンダーの兵士たちは8人の俳優が演じる。

あらすじ
アレクサンダー大王がギリシャのシドンという町を征服したときの話。誰に統治させようかと考えていたとき、高貴な生まれなのにある経緯で羊飼いをしているアミンタという若者がいるのを聞いて彼に白羽の矢を立てる。彼は羊飼い仲間の娘エリサと恋仲なので、それを受けるかどうか思い悩むが、とりあえずアレクサンダー大王の使者(もとシドンの貴族)アゲノールのもとへ行く。一方、アゲノールは戦乱で逃げたシドンの王女タミリと恋仲であったがアレクサンダーには隠していた。アレクサンダーはアミンタを見て気に入り、行方不明となっているタミリを女王にするとバランスが取れると考える。そして彼女を探し出して結婚を実行させようとするが、タミリとエリサが共に大王に向かって真実を説明し、彼らの愛に打たれた彼は二組の結婚を許可し、すべてめでたしめでたしとなる。

この作品は一見オペラセリアのようであるが、モーツァルト自身はオペラでなしにセレナータと位置づけています。オペラのように舞台転換がほとんど必要なく、コンサート形式でも容易に上演できるようにしたことによります。

台本はもともと皇帝マリア・テレジアの34歳の誕生日に合わせて書かれたもので、当時いた5人の彼女の子供が全員演じられるように登場人物が5人となっています。作曲は当時の宮廷作曲家によってなされたのですが、その後多くの作曲家が取り上げ、モーツァルトも24年後に作曲したというわけです。その際、オリジナルの台本をいじってかなり短縮し、さらに第2幕と第3幕を合体して第2幕としました。そして初演はマリア・テレジアの一番下の息子マクシミリアン大公が1775年にヴェネチアへの旅行の途中で立ち寄ったザルツブルグで大公臨席のもとで演じられたということです。
そのときのアミンタの役はカストラートによって歌われたそうですが、今回はソプラノのヴァン・クーテンによって歌われました。あとの男性役は二人のテノールで、また二人の女性役はすべてソプラノです。

長い間忘れられていた作品ですが、1906年のモーツァルト生誕150年のときに復活上演されて以来あちこちで上演されるようになったようです。このリンベリー劇場でも2001年にプレミエを行い、今回が再演です。
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舞台は写真に示すようにとてもコージーな雰囲気で、よく出来ていると思います。舞台前面には小川が流れているのですがちゃんと水が流されていて、水遊びまでします。写真には写っていませんが、開始してアミンタとエリサが恋を語り終えるまではとてもかわいい羊のぬいぐるみがいくつか置いてあり、始まる前はスピーカーから羊の鳴き声が流されるのもいい雰囲気です。その羊たちはエリサが歌いながら触るとするするすると壁の出入り口から退出して観客を喜ばせます。モーターとコロが仕込んであるらしく、なかなか凝っています。奥のスクリーンは舞台進行に合わせて景色や文字などが投影されます。

音楽は19歳のモーツァルトでもまさしく彼の音楽で、楽しくまた美しい。筋は単純なので、歌手たちの出来がよければ素直に楽しめる作品です。
3人の女性はすべて文句なし。見ないで聴いていると誰が誰だかわかりませんが、みんな実績のある人たちなので安心して音楽に浸れます。ヴァン・クーテンは来期はメインステージでFaustのマルゲリータとLa Bohemeのミミを歌うことになっています。アナ・ジェームスは先日の「フィガロの結婚」でバルベリーナを歌ったばかり、今期はさらに「シラノ」にも出演することになっています。アナ・リースは昨年見た「ロメオとジュリエット」でジュリエットをやった人です。
これに比べて男性陣はやや物足りない。アレッサンドロを歌ったピーター・ブロンダーはウェールズ・ナショナル・オペラのヴェテランですが、声はちょっと艶が不足で魅力的ではない。アゲノールを歌ったロバート・マレーは声はそれよりましですが今日はちょっと元気がなかったような。演技はよかった。

指揮のエドワード・ガードナーはグラインドボーン・ツーリング。オペラなどで実績を積んでいる若手ですが、2007年からはENOの音楽監督に就任する人です。今回の指揮は手馴れたもので、オーケストラと歌手のバランスもよかったと思います。

下の写真は終演後のもので、左のたすきがけがピーター・ブロンダー、挨拶しているアナ・ジェームス、指揮者、ケイティー・ヴァン・クーテン、ロバート・マレー、アナ・リースです。
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by dognorah | 2006-04-22 03:55 | オペラ

ロンドン交響楽団演奏会

4月19日、バービカンホール。
指揮:Bernard Haitink
ピアノ:Paul Lewis(Murray Perahiaの代役)

プログラム
ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番
ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」作品73

来期は一度もLSOを指揮しないハイティンクは今期のベートーヴェンサイクルを最後にLSOとお別れなのでしょうか。

最初のレオノーレ序曲も次の第4番もちょっとケチのつけようがない高水準の演奏です。ベートーヴェンはこういう風に演奏するんだという見本みたいなもの。がっちりして堂々としています。変にテンポをいじったりしない全く正統的とも思える格調の高さ。

最後が皇帝協奏曲ですが、実はマレー・ペライアを聴きたくて切符を買ったのでした。病気でキャンセルというのはよくあること、嘆いても仕方がない。c0057725_7345019.jpgポール・ルイスという人、私は聞いたことがないピアニストであすが、イギリス人ピアニストでは人気があって世界の英語圏で主に活躍しているという。年齢は30代半ばに見えます。マイナーなコンクールで2位入賞程度の実績で結構もてはやされてCDも何枚か出していて、最近ではベートーヴェンのピアノソナタサイクルを引っさげて演奏旅行をして評判がよかったらしい。経歴を見てもGuildhall School of Music and Dramaに在籍したらしいけれど詳しくは発表されていません。

ともかく新しい発見があるかもしれないと期待して聴きました。とても繊細できれいな音を出す人です。音楽性は豊かと思います。しかしダイナミックな演奏をするピアニストではなく、フォルティッシモは弱いし、無理すると音も割れる感じで第1楽章半ばの盛り上がるところではちょっと興醒めです。カデンツァはとてもすばらしかった。これを聴くとピアノソナタのいくつかではかなりいい演奏が出来るだろうと思いました。第2楽章は彼にあっています。美しい演奏でした。音の透明感はなかなかのものです。第3楽章の躍動感も立派で最後はきちんと締めくくりました。でも私のこの曲に対するイメージは別のもの。
ハイティンクの指揮は前の2曲と同様、構成がしっかりした立派な演奏で、ピアノの弱さをカバーしていましたが、これはやはりペライアとの組み合わせで聴きたかった。
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by dognorah | 2006-04-21 07:36 | コンサート

ヴァイオリンリサイタル(4月19日)

セント・ジェームズ教会にて。

Violin: Ruth Palmer
Piano: Alexei Grynyuk

曲目
ショスタコーヴィッチ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 作品134
 Andante
 Allegretto
 Largo-andante-largo

c0057725_2045186.jpgルース・パーマーは20代半ばぐらいでしょうか、国内の割と有名なコンクールで優勝して以来RCMのPostgraduateの身分でありながら既に欧米で活躍し、CDも出して活発に演奏している人です。180cmぐらいの身長があると思いますが、ファッションモデルのようにすらっとしたスタイルであまり大柄という印象はありません。そのスタイルのよさでスポンサーが付いているのか、ユニークなデザインのドレス姿の写真が結構ネットで見つかります。

c0057725_2046573.jpgアレクシー・グリーンユクは1977年ウクライナ生れ。ホロヴィッツコンクールなどで好成績を収め、既に欧米や日本にまで演奏旅行に行っています。

この作品は1968年ダヴィッド・オイストラッフの60歳の誕生日のために作曲され、当然彼によって初演されました。チャイコフスキーコンクールの課題曲にもなっているようです。

演奏はとても力強いもので、隣の工事現場から絶え間なく響くカーンカーンという鉄骨をたたく騒音にもめげず集中して弾き切ります。不協和音満載のちょっと難解とも思われる曲ですが、こちらも集中して聴いているとユニークな楽想と音が楽しくなってきます。第2楽章はさらに激しく不協和音がかき鳴らされ、ここまでくると聴いている方もとても元気になります。「もっと、もっと激しく!」
「こんな騒音いっぱいの劣悪環境では仕事が出来ない」と工事関係者が仕事をほっぽりだしたのか第2楽章が終わった時点では外は静かになっていました。
第3楽章になって瞑想的でやや静かな調子になりますが、変化に富んで飽きさせない豊かな楽想が大活躍のピアノと共にとても好ましい。後半は再び不協和音の嵐となりますが、やがて下降線をたどり最後は静かに終了です。
聴き応えがありました。
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by dognorah | 2006-04-20 20:51 | コンサート

ロイヤルオペラの「神々のたそがれ」プレミエ

(4月20日写真追加)

Götterdämmerung: 4月17日、コヴェントガーデンにて。
キース・ウォーナーの新演出によるワーグナーの「ニーベルンクの指輪」は一昨年12月に「ラインの黄金」が初演されて以来16ヶ月ぶりに幕を閉じることになりました。すべてに納得のいく舞台ではありませんでしたが、いつものように感想を述べてみたいと思います。

演出について
かなり説明的でわかりやすい演出です。ジークフリートの旅立ちではその音楽が鳴っている間ヴィデオ映像を駆使して彼があちこち旅するさまが説明されるし、ジークフリートの葬送行進曲では瀕死の彼によろよろと歩かせて、音楽の終了と共に倒れるとか。
私がDVDで見たものなどは、ジークフリートの死体がギービヒ家に帰ってからハーゲンが指輪を奪おうとして阻止されますが、今回の舞台では殺した直後に指輪を抜き取ろうとしてグンターの配下に弓を向けられ、やむなく断念するという風にしているのはより自然だと思います。このハーゲンの性格付けですが、父親が違うとはいえ同じ母親から生れたグートルーネとの近親相姦を匂わせていて、これも割りと説得力があります。普段の性格としては、計画が上手くいったといって小躍りしてはしゃぎ、冗談も飛ばす陽気な男で、それをダブルの背広をきちんと着たトムリンソンが実に上手く演じています。
前作の「ジークフリート」では疑いもなく主人公はジークフリートその人ですが、「神々のたそがれ」ではブリュンヒルデです。彼女が死ぬ前に歌う場面の壮大さはなかなかの見もので、この前の記事で述べた2種類のDVDのラストの不満はここでは完全に払拭されました。壮大です。これだけ大掛かりに炎を使った舞台は初めて見ました。日本だと消防法のために実現は無理でしょう。下の写真はあちこちに火をつけて回るブリュンヒルデ。
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今回は舞台装置のデザインや衣装もよく出来ていると思いました。かなり現代風ですが、さりとて完全に現代ではない。服装は揃っていて調和が取れています。

よく理解できない点も多々あります。
・ブリュンヒルデがジークフリートに貸す馬が馬の頭蓋骨(観客からは失笑)。
・第2幕でハーゲンがアルベリッヒの訪問を受ける前に自分の鞄を開けて中身を見る場面があり、金色の高さ60cmぐらいの女性像、刃渡り70cmぐらいの剣、女のものと思しき鬘、そしてネクタイ。そのネクタイを首に巻いて結ぶでもなくそのまま居眠りする。
・そこへやってくるアルベリッヒは空中に吊るした船の中ですが、右半身怪我をして血だらけで、酸素呼吸までしている。いつ怪我をした?
・終了間際に天井から大きな金属的光沢の輪が降りてくるのですが、その輪にボーイッシュな女性が立っている。輪はRingに引っ掛けているのでしょうが、この人物は何?

パッパーノの指揮
第1幕はあまり生気がなくオケの鳴り方も悪い。ワーグナーの世界に入りきれず、始まってすぐがっかりしました。第2幕で少しましになり、第3幕では納得できる音楽となっていましたが。もう少しテンポの緩急をつけて盛り上げてほしいと思います。前作まではかなりよかったのに。10日後にもう一度見ますのでそのときに期待しましょう。

歌手について
c0057725_9334164.jpgハーゲンを歌ったトムリンソンは歌も演技もとてもよかったです(左の写真で背広姿がハーゲン、赤い服はグンター)。
ジークフリートのトレリーヴァンは第1幕は調子が上がらず、第2幕からましになったのはパッパーノの影響か?
ブリュンヒルデ役リサ・ガスティーンはいつものパワーフルな歌唱で、なかなか。ただ過去にも書いていますがこの人は数年前にイゾルデを歌ったときの声から質が変わっており、現在の声質はあまり好みではありません。煉獄的な中途半端さが感じられます。
ヴァルトラウテを歌った藤村実穂子(最初、字を間違えていましたので修正しました)はロイヤルオペラ初登場ですが、なかなか魅力的な歌唱でした。声量はリサにはかないませんが。演技もよいし、終演後の観客の拍手も大きかった。
グンターを歌ったピーター・コールマン-ライトも私には好ましい歌唱でした。
グートルーネのエミリー・マギーもまずまず。
ラインの乙女たちはサラ・フォックスをはじめそれぞれはよく歌っているのに3人がちょっとばらばらな感じで合わないところもあり惜しい。
3人のノルンはよく声が出ていたものの誰が誰だかよくわかりません。
下の写真は藤村実穂子とリサ・ガスティーンです。
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その他
第1幕、ジークフリートがグンターと契りを交わすところで、居間に既に赤い液体の入ったグラスが用意してあったのですが、トレリーヴァンがうっかり長椅子の上に倒してしまい、トムリンソンがポケットから取り出したハンカチで何食わぬ顔をして拭いていました。当然次の二人の血を絞って入れても赤い色はほとんどなし(^^;

「ラインの黄金」の始まり部分で3人のラインの乙女がヌードで登場しましたが、今回の最後、指輪を返してもらって喜ぶシーンでは煌々としたライトの下で服を脱いでヌードになりました。これから見に行く殿方は双眼鏡をお忘れなきよう。このヌード、下半身につける三角に黒い毛が描いてあったので演出家はもともと全裸にしたかったのではないかと思いますが、歌手が嫌がったので妥協したか。

さて、ようやく完成した新演出、来年はバイロイト並みにすべて通して上演する計画ですが、やはりそういう風にしないとワーグナーの意図も生きてこないし、一貫性も感じられないのでその試みは大いに歓迎します。楽しみです。

キャスト
Music and libretto: Richard Wagner
Conductor: Antonio Pappano
Director: Keith Warner
Set Designs: Stefanos Lazaridis
Costume Designs: Marie-Jenne Lecca 
Lighting: Wolfgang Göbbel
Movement Director: Claire Glaskin

First Norn: Catherine Wyn-Rogers
Second Norn: Yvonne Howard
Third Norn: Marina Poplavskaya
Brüunhilde: Lisa Gasteen
Siegfried: John Treleavan
Gunther: Peter Coleman-Wright
Hagen: John Tomlinson
Gutrune: Emily Magee
Waltraute: Mihoko Fujimura
Alberich: Peter Sidhom
Woglinde: Sarah Fox
Wellgunde: Heather Shipp
Floshilde: Sarah Castle
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by dognorah | 2006-04-19 00:00 | オペラ

DVD視聴記「神々のたそがれ」

間もなくロイヤルオペラでニーベルンクの指輪の最終章が上演されるに際し、予習のためDVDを2種類視聴しましたので感想を述べます。
ニーベルンクの指輪についてはorfeoさんが3種類ものセットも視聴して感想を書いておられますが、偶々今回のはそれらとは重複しないものです。あらすじについてはorfeoさんの記事を参照ください。

(1)ブーレーズのバイロイト盤(1980年)
c0057725_19252542.jpgDirector: Patrice Chéreau
Conductor: Pierre Boulez
Orchestra: Orchester der Bayreuther Festspiele

Siegfried: Manfred Jung
Brünnhilde: Gwyneth Jones
Hagen: Frizs Hübner
Gunther: Franz Mazura
Alberich: Hermann Becht
Gutrune: Jeannine Altmyer
Waltraute: Gwendolyn Killebrew
1st Norm: Ortrun Wenkel
2nd Norm: Gabriele Schnaut
3rd Norm: Katie Clarke
Woglinde: Norma Sharp
Wellgunde: Ilse Gramatzki
Flosshilde: Marga Schiml

(2)デ・ビリーのリセウ盤(2004年)
c0057725_19255846.jpgDirector: Harry Kupfer
Conductor: Bertrand de Billy
Orchestra: Symphony Orchestra of The Gran Teatre del Riceu

Siegfried: John Treleavan
Brünnhilde: Deborah Polaski
Hagen: Matti Salminen
Gunther: Falk Struckmann
Alberich: Günter von Kannen
Gutrune/3rd Norm: Elisabete Matos
Waltraute/1st Norm: Julia Juon
2nd Norm: Leandra Overmann
Woglinde: Cristina Oblegóon
Wellgunde: María Rodoríguez
Flosshilde: Francisca Beaumont

シュローの演出というのは出現当時は物議をかもしたらしいが、いまやあまり違和感なし。といっても、背広姿で槍を持つというのは何とかならないのかとは思う。舞台セットもかなり具象的で、観客は特に想像力を求められることもない。音楽が流れているものの筋が進行しない部分、例えばジークフリートの葬送行進曲の部分では大勢の人が葬列に参加するような厳粛な動きを舞台上で繰り広げるがそれも自然である。各人物の性格付けは納得のいくものである。ハーゲンは最後の場面で存在感をなくしてしまうが、それまでは残酷で冷徹な性格で首尾一貫している。

これに対して、クプファーの方は、バックに風景映像を使用し、かなりメカニカルな舞台構成で、観客は映像を参考にして筋に応じて歌手たちが演じる場所を想像しなくてはいけない。ギービヒ一家の性格付けもやや弱く、特にハーゲンはよくわからない。ヴァルトラウテがブリュンヒルデにヴォータンの窮状を説明する場面では、最初からブリュンヒルデは上の空で指輪を溜めつ眇めつ眺めているが、これは観客があとで知る事実を先取りしているようなものでちょっと首を傾げたくなる。この場面はシュローのほうが自然である。
なるほどと思ったのは、ジークフリートの葬送行進曲中に薄暗くなった舞台のライン河らしい溝の向こう側にブリュンヒルデが現れ、こちら側にヴォータンが折れた槍を持って現れる場面である。そして二人が静かに睨み合った後、ヴォータンは折れた槍をその溝に投げ捨てて退場する。これはなかなかいいアイデアと思う。

指揮は、安心してオペラに没頭できるのはブーレーズで、劇的で美しくまた緩急強弱自在で流れが非常にスムーズである。これに対して、デ・ビリーの指揮は随所にハッとするような美しさを感じさせてくれるが、流れのスムーズさの点がやや物足りないところもある。強弱のバランスももう少し考えてほしい気がするが、全体としては十分楽しめる水準だろう。

ジークフリートは、ユンクのほうがトレリーヴァンよりやや明るくて私は好きだが、以前ジークフリートのDVDを視聴したときにも感じたようにトレリーヴァンの調子がいまいちよくないのがそのまま続いている感じがする。
ブリュンヒルデは、ジョーンズの声が美しい。あの声が延々と続くのだからすごいものだ。愛情深いもののあまり毅然としたところのない性格付けはシュローの趣味か。ブリュンヒルデというのはもう少し強い女ではなかったかという気がする。ワーグナーにはちょっと軽いという面は否定できない。これに対してポラスキは声自体はあまり美しいとはいえないがブリュンヒルデらしい重厚さがある。
演技的にはポラスキの方が上と思う。高貴で気の強いブリュンヒルデという設定にふさわしい気品があり、グンターなどがおいそれとコントロール出来ない強さが全身から出ている。ジークフリートの死体が到着してから最後まで歌いっぱなしの部分はすばらしく、心に迫るものがある。思わず涙が出そうになった。

ハーゲンは、演技的にはシュロー盤のヒュブナーが顔の表情も含めてすばらしい。クプファー盤のサルミネンは茫洋としている感じで表情の変化にも乏しいが、声はこちらの方がしっかりしており、声質的にも私は好きだ。

「神々のたそがれ」の全曲を通して聴くのは80年代にNHKの衛星放送によるバイロイトの録画以来なので細かい筋は忘れていたが、それにしても物語的にも音楽的にもすごい作品であると改めて思った。ただ、上の両盤とも劇的に終了する一大叙事詩の最後がややあっけなく、もう少し壮大に演出できないものかと不満が残る。キース・ウォーナーとアントニオ・パッパーノのロイヤルオペラがどのような舞台を見せてくれるのか非常に楽しみだ。あと数時間が待ち遠しい。
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by dognorah | 2006-04-17 19:26 | DVD

ロンドン交響楽団来期の予定

大分前から2006/7年のスケジュールが発表されていたようですが、ようやく切符を手配しようという気になったのでちょっとレヴューしてみました。しかし私など買えない最高ランク席(£30)がほとんど売れてしまっているというのはすごい人気ですね。

2007年1月から主席指揮者に就任するゲルギエフは1月から6月の間に毎回ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ドビュッシーだけを取り上げて6回のコンサートを指揮します。それほど好きな指揮者でもないのですが、珍しい曲が結構あるので1回ぐらい行こうかと思っています。

主席ゲスト指揮者に就任するダニエル・ハーディングは3月から5月にかけて4回指揮をします。マーラーの7番と5番、ドヴォルザークの9番、ベルリオーズの幻想など。そのうち最後のものははランランとラヴェルで共演します。この人は好ましい指揮者なので全部行きたいところですがセーヴして3回ぐらいにするつもりです。

キーシンはシューマンとモーツアルトの24番を二日ずつ共演します。内田はモーツアルトの13番と21番をやはり二日ずつ。指揮はいずれもコリン・デーヴィスです。それぞれ一回ずつ行くかなというところです。

ブレンデルはジンマンと組んでモーツァルトの25番を演奏しますが、ジンマンはマーラーの9番をやります。これは迷うところ。ジンマンのマーラーって?

コリン・デーヴィスは合唱隊を駆使して、ベルリオーズの「キリストの幼時」、ヘンデルの「メサイア」、ベルリオーズの「ベンヴェヌート・チェルリーニ」の大曲を指揮します。これはぜひ行きたい。昨年好評だったエルガーの「ゲロンティウスの夢」はヒコックスの指揮で再演されます。

その他、マイケル・ティルソン・トーマスが振るマーラーの4番と2番、ガーディナーが振るドヴォルザークの8番、チョンが振るブルックナーの7番などが目立つところです。ジョン・アダムズが自作曲ばかり振るイヴェントもあります。

オルソップもマーラーの5番を振るのでこのシーズンはえらくマーラーが多い。私は既に9月に8番(ガッティ-ロイヤルフィル)、1月に9番(ハーディング-ドレスデン)を手当てしていますので、来期はマーラー尽くしです。うれしいのですが3番と6番がないのが寂しい、というのは贅沢かな。

いずれにしても少なくとも10回は行ってしまうでしょう。またまた懐が痛むのが悩ましいところですが。
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by dognorah | 2006-04-15 00:27 | コンサート