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セルゲイ・ハチャトリアンのヴァイオリン演奏

BBC PROMSでショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲第1番を演奏したときのTV中継放送(7月29日)を見ての感想を。

演奏曲目:Shostakovich Violin Concerto No.1 in A minor
ヴァイオリン:Sergei Khachatryan
指揮:Vassily Sinaisky
管弦楽:BBCPhilharmonic

c0057725_195926.jpg今年のQueen Elisabeth音楽コンクールでダントツのパフォーマンスで優勝した二十歳のヴァイオリニストである(コンクールの様子についてはここが詳しい)。アルメニア生まれだが、同国の有名な作曲家と血のつながりがあるのかどうかは知らない。左の写真は演奏中のハチャトリアン。

まだあどけなさが認められる若さだが、演奏中は深い思索の顔になり、曲の表現に没頭しているさまが伺われる。ゆっくりしたテンポで思いっきり美しい音色を響かせるが、音色だけでなく洞察に満ちた深淵な表現でショスタコーヴィッチはこれ以外の解釈はありえない、と断言するがごとくの確固とした演奏である。非常に印象的で、この曲がショスタコーヴィッチの代表作の一つであることを強く納得させてくれる。先般、木嶋真優さんによる同曲のリハーサルを聴いたが、リハーサルであることを割り引いてもセルゲイの方が一枚上かなと思わずにはいられない。なお、管弦楽もヴァイオリンにぴったりと合わせた格調の高い演奏で、曲想をより盛り上げていた。

上記コンクールで優勝したおかげで、褒美として日本音楽財団所有のストラディヴァリウスを4年間貸与されているそうだ(参照)。
アンコールに無伴奏を一曲弾いてくれたが、それも哲学的な表現ですばらしかった。

ヴァイオリンをこの大ホールで聴くのは無謀と思って実演には行かなかったが、小さめのホールでやるときにはぜひ聴いてみたい。
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by dognorah | 2005-07-30 20:03 | 音楽

メトロポリタンオペラの映画「フィガロ」

先日の記事で紹介した映画をバービカンホールで見てきました。
フィルムは、1999年制作でやや古く、舞台をそのまま撮影したものなのでやや暗め、しかも音もそれほど良くはなかったのですが出演者の魅力で最後まで楽しく鑑賞できました。

キャストは次の通り。
フィガロ:Bryn Terfel
スザンナ:Cecilia Bartoli
ケルビーノ:Susanne Mentzer
アルマヴィーヴァ伯爵:Dwayne Croft
伯爵夫人:Renee Fleming
バルトロ:Paul Plishka
マルチェリーナ:Wendy White

指揮:James Levine
演出:Jonathan Miller

録音がベストでないとはいえ、各歌手の歌のうまさは十分伝わります。さすがにバルトリとフレミングに対する拍手は熱狂的なものがありましたね。みんな演技もうまく、特にターフェル、バルトリ、クロフトは目の動きひとつとってもすばらしい。ミラーの舞台も伝統的な作りながらあまり古めかしくもなく、各場面ともよい雰囲気で抵抗なく受け入れることが出来ます。
これにレヴァインの生き生きとした軽快な音楽がまたすばらしく、6割方入ったバービカンの観衆からも拍手が出るくらい満足できるパフォーマンスでした。
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by dognorah | 2005-07-29 20:13 | オペラ

ストラヴィンスキーのオペラ「ナイチンゲール」

ロンドンで7月15日から9月10日まで開催中の音楽祭BBC PROMSでは期間中毎日少なくとも一回のコンサートが公演されるが、普段あまり聴けないイギリス初演や世界初演を含む珍しい曲もいっぱい演奏されるので目が離せない。また、大規模な合唱団を含む曲なども積極的に取り上げられる。23日までの9日間に開催された12回の公演の中だけでも、
 Tippett: A Child of Our Time
 Gilbert & Sullivan: HMS Pinafore
 Purcell: The Fairy Queen
 Vaughan Williams: A London Symphony (original version)
 Vaughan Williams: A Sea Symphony
 Stravinsky: The Nightingale
といった大曲が演奏された。

今日はこの中で、ストラヴィンスキーのオペラ「ナイチンゲール」のコンサート形式の公演をTVを通して聴いた感想を述べることにする。

これは1908年から13年ごろに書かれた上演時間50分程度の短い3幕形式のオペラで、アンデルセンの物語を基にロシア語で書いたものである。舞台は中国である。短かすぎて普通のオペラ劇場では上演しにくい演目だろう。DVDでも本編50分に対してBehind the Sceneなどのフィーチャーが50数分付いて、苦労している様子だ。

1908年に第1幕を完成した後、ニジンスキーの急な依頼で「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」の3大バレーの作曲に没頭せざるを得ず、オペラの完成は5年後にずれ込むのである。この5年間に、リムスキーコルサコフの忠実な生徒から大作曲家に変身したために後半部はストラヴィンスキーの特長が良く出た作品となっているようだ。春の祭典に使われたメロディなども出てくるし。

オペラのあらすじ
漁師がナイチンゲールの美しい歌声を聞いて心の平安を感じているとき、皇帝からその鳥を捕まえて来いと命令を受けた宮廷の人たちが現れ、ナイチンゲールを連れ帰る。皇帝はその声を聞いて魅了されるが、そのとき日本の天皇からの使節が到着し、贈り物として機械仕掛けのナイチンゲールを進呈する。人々がその精巧な出来に目を奪われている様を見てナイチンゲールは宮廷を去る。しばらくして、皇帝が重い病に倒れ、人造ナイチンゲールの声では癒されない気持ちでいるときに再び本物のナイチンゲールが現れ、その声により死の床から脱する。皇帝はお礼に何でもするので宮廷に留まってほしいと懇願するが、ナイチンゲールは自由を選んで元の場所に戻り、漁師は再び心の平安を取り戻す。

演奏は、
 Nightingale: Olga Trifonova
 Cook: Ailish Tynan
 Fisherman: Evgeny Akimov
 Emperor: Sergei Leiferkus
 Chamberlain: Darren Jeffery
 Bonze: Daniel Borowski
 Death: Irina Tchistyakova
 合唱:BBC Singers
 管弦楽:BBC Philharmonic
 指揮:Gianandrea Noseda

c0057725_2314527.jpg今回初めて聴いた曲だが、ほとんどロシア系と思われる歌手達が充実しているし、管弦楽もすばらしい演奏でとても楽しめた。特にナイチンゲールを歌ったソプラノのOlga Trifonova(左の写真のトップ)に深い感銘を受けた。高音まで楽々と出る美しい声でニュアンス豊かな表現だ。既にこの役でCDを出しているので第一人者なのだろう。イタリアオペラなども聴いてみたいものだ。
同じくソプラノのAilish Tynan(左の写真の上から2番目)は、以前ロイヤルオペラの「魔笛」でパパゲーナをやっていた人で、舞台で小さい人だなぁと思っていたけど、今回ほかの歌手と並ぶとほんとに小さい人であることがわかる。とても愛らしい声を出す人だ。
テノールのEvgeny Akimov(写真上から3番目)も印象的な声だ。このオペラの冒頭はこのテノールによる漁師の歌なのだが、美声でぐっと引き込まれた。
皇帝役のバリトンSergei Leiferkus(写真上から4番目)もあまり印象はないがロイヤルオペラの「ボリス・ゴドゥノフ」で聴いたことがある。本日、陰影に富んだうまい歌だけどもう少し声量がほしいと思った。もう若くなさそうなのでこれ以上無理かな。
マンチェスターを本拠地とするこの管弦楽団の常任指揮者Gianandrea Noseda(写真一番下)はイタリア人らしいが、セント・ペテルスブルグのマリンスキー劇場の主席客演指揮者も勤めていて、オペラのレパートリーも広いらしい。しっかり音楽を作る今日の指揮振りを見て私の好感度はとても高くなった。いい指揮者だ。
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by dognorah | 2005-07-24 23:24 | 音楽

地上波デジタル放送録画装置

ロンドンでは夏の音楽祭PROMSが始まり、その模様は少なくとも今月一杯は毎日地上波デジタル放送のひとつであるBBC4のTVで中継放送されている。

c0057725_18551018.jpgこれを契機に、前から欲しかったgadgetであるPCに録画できるチューナーを購入した。商品名はHauppaugeというブランドのWinTV Nova-T-USB2といって、雑誌などで評判のいいやつ。実はこれで録画したBBCの音楽番組がネットに投稿されている例を見て、その画質の良さに食指が動いたというところである。

写真がそれで、大きさは15x9x3cmぐらい。リモコンつき。PCとはUSBケーブルで接続するだけ。電源はもちろんそのUSBから供給されるので、後はアンテナを接続しておしまい。

PC側はドライバーとソフトをインストールして、ソフトを立ち上げると直ちにスキャンを始め、受信できるチャンネルをすべて記憶する。録画のためのスケジューラーも付属しているので普通の録画機と同様に扱えばよい。ファイルフォーマットはMPEG2でエンコードはソフトウエア方式である。信号が最初からデジタルなので、アナログ放送を録画する場合と違って処理は早く、ソフトウエアエンコードで全く問題はない。
期待にたがわず、すばらしい画質で、放送波を直接受信したものと全く変わらない。アスペクト比もオリジナルの16:9で、ほぼDVD画質である。音はPCMステレオだけであるが、これも満足できる音質である。

c0057725_18555117.jpg

早速昨日のPROMSを録画してみたが、上の写真は画面の一例である。
ちなみに、Osmo Vänskä指揮BBC交響楽団によるニールセンの交響曲第4番はimpressiveな好演であった。

今後、オペラの中継放送などをこれで録画してDVDを作成するつもりである。
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by dognorah | 2005-07-21 19:02 | テレビ放送

ガブリエレ・ミュンター展

c0057725_326730.jpg美術史上、ドイツ表現主義絵画で重要な画家といわれるGabriele Münter(1877-1962)の1906年から1917年の間に描いた油彩画21枚を回顧する展覧会がCoutauld Institute of Art Galleryで開催中なので見てきました。まとまって展示するのはイギリスで初めてのことだとか。右の絵はカンディンスキーが描いた彼女の肖像である。

c0057725_3265284.jpg彼女は、1901年にミュンヘンに来てカンディンスキー(Wassily Kandinsky)が新しく開いた絵画学校に入学する。そして両者は親密になり、学校は1年で閉じてしまったが恋愛関係はそのまま続き、彼の奥さんが別居すると、内縁の妻として同棲する。この関係は1914年に世界大戦を理由にカンディンスキーがロシアに帰国するまで続いた。
彼女の作風は当初は当然ながらカンディンスキーの完全なる影響下にあったが、次第に独自の境地を発展させてドイツ表現主義芸術の先駆の一人となるとともに今度は逆にカンディンスキーが彼女の影響を受け始める。そして1911年にはカンディンスキーやマルクと共に芸術家集団Der blaue Reiter(青騎士)を組織して、非具象画を推し進める。
左の絵はミュンターの作品で上から、
Gegen Abend 1909年
Jawlensky & Werefkin 1909
Village Street in Winter 1911
Meditation 1917
である。

c0057725_328851.jpgカンディンスキーの1908年から13年ごろの作品を見るとミュンターの作品かと見まごうものがある。彼にはそれが耐えられなかった。彼女から影響を受けたことなど絶対に自分からは認められなかった。彼女が依然として彼を愛していたにもかかわらず、戦争勃発を理由に彼は強引に同棲生活に終止符を打ち、それ以降は一人で模索しながら独特の抽象画を物するようになった。恐らく芸術家としての自分を確立するのに危機を感じたのであろう。ミュンターの方はそれ以降はあまりスタイルは変わっていない。
右の絵は、カンディンスキーの作品で、上から、
Autumn Landscape 1908年
View of Murnau 1908年
である。ミュンターの画風に酷似しているのがわかる。

表現主義の手法は、対象物体からオリジナルの色を剥ぎ取り、自分のイメージを表現するために考えた色を代わりに与えることだとギャラリーの学芸員が解説してくれたが、ミュンターの特徴としては、オブジェの形から音楽的リズムを、色からハーモニーを奏でさせる表現法らしい。派手な色使いながら、絵全体から暖かい詩と音楽が感じられる。私は特に1917年のMeditationに惹かれた。
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by dognorah | 2005-07-20 03:32 | 美術

METのフィガロの結婚

ロンドン在住の方にしか意味のない情報ですが、メトロポリタンオペラで上演される「フィガロの結婚」の映像がバービカンホールで上映されます。

日時:7月28日(木)午後7時より10時半まで
入場料:無料(Box Officeで席を予約、電話02076388891)

出演
 フィガロ:Bryn Terfel
 スザンナ:Cecilia Bartoli
 伯爵夫人:Renee Fleming

しかし、さすがにメト、すごい出演者たちですね。
私は既に席を予約しました。
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by dognorah | 2005-07-19 08:10 | オペラ

Mostly Mozart Concert – 7月18日

ロンドンで一番音のいいコンサートホール、バービカンホールでは今月8日から31日までMostly Mozart Festivalというのをやっている。オーケストラはAcademy of St Martin-in-the-fieldsで、文字通りプログラムはほとんどがモーツアルトである。
あまり行く気はなかったのだが、本日のプログラムを見た同居人が、以前TVで見たことがあるピアニストが出ているので行きたいと言う。それがベンジャミン・グロヴナーという13歳の少年で、昨年開催されたBBC主催の若手音楽家コンテストで並み居る青年たちを尻目に優勝し、世間をあっといわせた。そのときは誕生日の関係でまだ11歳。まあ天才なんでしょう。

演奏者は次の通り。
 ヴァイオリン:Renaud Capuçon
 チェロ:Gautier Capuçon
 ピアノ:Benjamin Grosvenor
 指揮:Alexander Briger
 管弦楽:Academy of St Martin-in-the-fields

プログラム
 モーツアルト:「後宮からの誘拐」序曲
 モーツアルト:Sinfonia Concertante
 モーツアルト:ピアノ協奏曲第13番ハ長調 K415
 ハイドン:交響曲第104番「ロンドン」

c0057725_1904278.jpgで、お目当てのベンジャミン君、モーツアルトらしい丸い音で大過なく弾ききりました。いい音楽を作っていたけれど、かなりソフトなタッチで時には弱々し過ぎるという印象です。ただ、カデンツアでは結構生き生きと弾いている。今までの経歴を読んでみると、ウイグモアホールでリサイタルをやっているけれど、ひょっとしたらこれが初の協奏曲かも。オケの方ががっちりした構成でがんがん飛ばす演奏だったので余計弱々しさが目立ったかもしれない。拍手でステージに呼び出されること2回であっさりアンコールを弾いてくれた。何の曲か知らないけれど、これで本来の彼の実力を出したのではないかというくらいダイナミックで溌剌とした演奏だった。協奏曲で燃焼し切れなかった鬱憤を独奏曲で晴らした感じです。

本日一番楽しめたのは2曲目の協奏交響曲。独奏者二人は若いフランス人兄弟で、兄が29歳でヴァイオリン、弟が24歳でチェロを弾く。この二人がとてもよく、特に第2楽章などとてもしっとりした雰囲気を出していた。恐らくこの二人が指揮者にかなり注文をつけて音楽を作ったはず。というのは「後宮からの誘拐」序曲にしろ、ピアノ協奏曲にしろ、およそモーツアルトらしからぬテンポの速いしかもベートーベンのようにがっちりした演奏だったのが、この曲ではこれぞモーツアルトと納得できる繊細な響きをたっぷり出していたから。
このBrigerという指揮者、あちこちで招聘されてモーツアルトのオペラを指揮するようだが私にはちょっと疑問。指揮はとてもうまい。オケの実力と相俟って彼は作りたい音楽をちゃんと演奏できたはず。ただ、その音楽がバリバリ飛ばす中味のないものに思えたのだ。ある意味すごく現代受けする指揮かもしれないな、とも思いましたが。彼のスタイルだと、モーツアルトより最後に演奏したハイドンのロンドン交響曲の方が合っている。スケールが大きくダイナミックな演奏で、これは楽しめました。
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by dognorah | 2005-07-18 19:01 | コンサート

モーツアルトの歌劇「ポント王ミトリダーテ」

7月14日のロイヤルオペラ公演Mitridate, Re di Pontoに行ってきました。モーツアルトが14歳のときに作曲したオペラセリアです。オペラセリアというのは物語の内容が深刻なものを指すようですが(喜劇的なものはオペラブッファ)、紀元前1-2世紀にアナトリア地方でローマに対抗して勢力を張っていたポント(黒海の南側の地域で、現在はトルコ領)の王ミトリダーテ6世に関わる物語です。ミラノのスカラ座の前進である劇場Regio Ducal Teatroの依頼を受けて作曲したのですが、14歳にしてそういう劇場から作曲を依頼されるというのはやはりたいしたものですね。

この作品はあまり上演される作品ではなくコヴェントガーデンでも1991年に初めて上演しました。2年後に再演され、今年が3度目です。この日でたったの16回目の公演でした。隣に座った人は14年前の初演時に購入したプログラムを持ってきていました。見せてもらうと中味はほぼ変わっていない!出演者の紹介欄が違う程度です。これも舞台装置や衣装と同様次のプレミエまで持たせるつもりのようです。

あまりなじみのない作品ですのであらすじを書いておきます。
ローマ軍との会戦に敗れた王は婚約者アスパシアと二人の息子ファルナスおよびシファレをクリミア半島のニンフェウムという港町に残していったんポントに引き返す。そういう状況で二人の息子は共にアスパシアに恋をしてしまい、お互いに張り合う。戦略的にもファルナスはローマとの融和策を、シファレは徹底抗戦を主張している。そこへ突然王がファルナスに娶らせるためのギリシャ王の娘イスメネを連れて帰還する。ファルナスは昔は好きだったイスメネにはもう興味がない。アスパシアに恋をしていることをニンフェウムの責任者アルバーテの報告で王に知られ、しかもローマと通じていることもばれて裏切り者として逮捕される。一方、アスパシアとシファレが相思相愛であることも暴かれ、王はアスパシアも息子二人も殺害してしまおうとする。そこへローマ軍が攻撃を仕掛けてきたのでとりあえず戦いに専心する。ローマ軍は牢のファルナスを解放して内部から反乱させる作戦だったが、自由になったファルナスが思い直してローマ軍を攻撃し、港は持ち直す。しかし、王は重傷を負い、死ぬ間際にアスパシアとシファレの結婚を許可し、さらにファルナスも許す。ファルナスはイスメネとよりを戻す気になり、めでたく二組のカップルが誕生する。

キャストは、
指揮:Richard Hickox
演出:Graham Vick
デザイン:Paul Brown
照明:Nick Chelton
振り付け:Ron Howell
Aspasia:Aleksandra Kurzak
Sifare:Sally Matthews
Farnace:David Daniels
Ismene:Susan Gritton
Mitridate:Bruce Ford
Arbate:Katie Van Kooten

音楽は既に完全にモーツアルト以外の何物でもない旋律です。第1ヴァイオリンが6人というこじんまりした編成でしたが当然このオペラにはふさわしいものです。流麗な演奏で飽きません。
歌手のうち、ちゃんとした男声はミトリダーテとローマ軍司令官だけで、ファルナスはカウンターテノール、後はすべて女声です。ちょっと宝塚歌劇的ですが、モーツアルトの指定がそうなっているのでしょう。

歌手はみんなとてもすばらしい歌いっぷりでした。特にアスパシアを歌ったAleksandra Kurzakは、結構美人だし目立っていました。初演以来この役を務めているBruce Fordも抑制が効いてまあよかった部類でしょう。カウンターテノールというのは実演では初めて聴きましたが、出来については今一わかりません。私にはあまりこの声の存在意義が感じられなかった。アリアの後やカーテンコールでは結構盛大な拍手を受けていましたが。

この舞台で特筆すべきはその衣装でしょう。華やかながらも統一した色使いが視覚的に喜びを与えてくれます。ただ、デザイン的には小アジアというのを意識したのでしょうが、かなりアジア趣味が入っています。c0057725_9193348.jpg軍人のよろいなどぴかぴかの美しいものですが明らかに日本の戦国時代の鎧の影響が見て取れます。イスメネの衣装は中国かどこか東南アジア的です。イスメネ以外はみんな横が張り出したようなスカートを身に着けていますがユニークです。一例としてアスパシア役のAleksandra Kurzakの写真を左に示します。
下の写真はカーテンコールに応える出演者たちです。c0057725_9211264.jpg

後、主役以外の動作が太極拳や体操を思わせる独特のダンスで振付けられていて、失笑している人もいたけれど私はとてもよかったと思います。オペラ全体を通してそれが統一されていて一種の様式美的雰囲気を出していましたし。

舞台装置はきわめて簡単で、赤く塗った(床もですが)壁が折れ曲がったり伸びたりするだけのもので、経済的には衣装の方が高かったでしょう。衣装に観客の目を向けさせる意図からするとそれでいいのだろうと思います。

モーツアルトの初期作品ということでそれほど期待していなかったのですが、意外に楽しく、見る価値は十分ありました。
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by dognorah | 2005-07-16 09:24 | オペラ

テロの犠牲者に捧げるヴェルディのレクイエム –-- 7月13日セントポール大聖堂に於いて

City of London Festivalの終わりを飾るコンサートです(実際はテロの起こった夜のコンサートがすべて中止になったのでそれらを後日開催するものもありますが)。

場所は、先日ブルックナーを聴いたセント・ポール大聖堂です。切符はすべて売り切れていたのですが、キャンセルがあるかもしれないと思って、メシアンのコンサートが7時過ぎに終わった後会場に駆けつけて行列に並びました。20名以上並んでいたと思いますが、幸いにして確保できました。その時点で7時40分。開始までまだ20分あります。出て、近くを見回すとMarks & Spencerがまだ開いていました。サンドイッチと飲み物を求めて店の外のスペースで大急ぎで食べました。これが今夜のディナー。何とか数分前に席に付くことが出来た次第です。座ると隣のサラリーマン風のおじさんが、「おお、ワシが返した切符を買ったようだね。これで確実に返金が保証されたわい」と仰ってました。

コンサート開始にあたって、主催者ならびに演奏者の総意で、今夜のレクイエムは7月7日のテロの犠牲者に捧げる旨アナウンスがあり、全員起立して1分間の黙祷を捧げました。

演奏者
 ソプラノ:Tamar Iveri(グルジア出身)
 メゾソプラノ:Ildikó Komlósi(ハンガリー出身)
 テノール:Stuart Neill(アメリカ出身)
 バス:Orlin Anastassov(ブルガリア出身)
 合唱:London Symphony Chorus
 管弦楽:London Symphony Orchestra
 指揮:Colin Davis
c0057725_209139.jpg

独奏者は国際色豊かですが、コリン・デーヴィスが集めたのでしょう、4人ともすばらしい出来でした。特に二人の女性歌手の声はこの大聖堂の音響効果と相俟ってうっとりするような響きです。写真は、左上がソプラノ、以下時計回りにメゾソプラノ、テノール、バスの順です。
ロンドンの合唱隊はいつどんな場面でもすごい歌唱を聴かせますが今夜も例外ではありません。そして、コリンデーヴィスはしっかりとオケを統率して陰影に富んだダイナミックな音を醸し出します。私はカラヤン指揮スカラ座管弦楽団のすばらしい演奏を記録したDVDについて記事にしたことがありますが、実演でこの曲を聴くのは初めてです。どんな曲でも実演で聴いてこそ本来の姿を理解できるわけですが、こういうスケールの大きい曲は特にそれを感じます。あの事件の後でこういう場所で聴くと聴く側もことさら感受性が高まっている状態ですし、何よりも演奏する側だって気負い方が違ったでしょう。貴重な体験をしました。
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by dognorah | 2005-07-15 20:15 | コンサート

メシアンの四重奏曲演奏会 - 7月13日

City of London Festival(7月4日の記事参照)のプログラムのひとつに参加した。午後6時から約1時間のタイムスロットに行われるコンサートで、場所はSt Bartholomew-the-Greatというシティにある小さな古い教会である。ここは知人が数年前に結婚式をあげたところで、訪問したのはそれ以来となるが、相変わらず幽霊が出そうな簡素ではあるが古びた、まるで廃墟の内部にいるような雰囲気。祭壇を横に見て、通路を挟んで聴衆が向かい合う形式で、約200人ぐらいが座れる。満席であった。

さて、今日のプログラムは、メシアン作曲のQuartet for the End of Time(時の終わりのための四重奏曲)である。
演奏は、次の4人によるもので国際色豊かである。この4種類の楽器で演奏する4重奏はあまり多くないであろうから、今回のコンサートのために集まったものと思われる。
 ヴァイオリン:Catherine Leonard(アイルランド人)
 チェロ:Christian Poltera(スイス人)
 クラリネット:Martin Frost(スエーデン人)
 ピアノ:Simon Crawford-Phillips(イギリス人)

1940年に軍隊に召集されていたメシアンがフランスに侵入してきたドイツ軍に捕らえられ、ポーランドにある収容所に送られた。数千人いた捕虜の中にヴァイオリン奏者、チェロ奏者、クラリネット奏者がいることを発見し、音楽家ということでお互いに親しくなる。そこで、この曲を作ることを思い立ち、音楽に理解のあった収容所の所長に紙を提供してもらう。そうして1941年に出来上がったのがこの曲である。所長の更なる好意があったのであろう、5000人の捕虜たちを聴衆としてコンサートが開催されることになった。それがこの曲の初演である。

この予備知識があったせいでもあるが、とても厳粛な気持ちにさせる音楽である。当時の聴衆は久しぶりのコンサートに、イメージとして持っていたであろう音楽概念が満足される音を期待していたに違いないと思う。しかしこの音楽は20世紀音楽そのものである。力作である。佳作である。が、メシアンは捕虜を癒そうと思って書いたわけではないと確信する。通常の自分の作曲活動の延長であったと思う。演奏者を選択する余地がなかったわけなので、各奏者の技量が曲に反映されているとも思う。クラリネットはすごいテクニシャンであったのだろうと想像される。耳を済ませないと聞き取れないようなピアニッシモから力一杯のフォルテまで一気に吹き上げるパッセージがいくつもあり、全身の力を振り絞って幅の広い表現を長時間にわたってソロ演奏する場面があった。彼のために、その楽章が終わった後1-2分の小休止を取っていたくらいだ。チェロとヴァイオリンにも(これらはピアノも参加するが)それぞれ独奏する場面があり、これは作曲家の配慮なのであろう。中音域以上しか使わないチェロの独奏も哲学的音楽だが、過去のある時期に体験した何かを思い出させる雰囲気がとても印象的だった。

演奏がこれまたすばらしかった。上にも書いたように普段まとまって演奏活動しているわけではないのに、すごいことだ。各奏者が並々ならぬ実力を持っている上でのこの完璧なアンサンブル。終了後は惜しみないブラボーと拍手で奏者をねぎらった。

私はこの曲を聴きながら、以前聞いた「音楽と戦争」という講演を思い出した。そのことに関しては記事にもしたが、戦時下では音楽は体制側に利用されるだけの存在になる、という趣旨であった。にもかかわらずそこにいた人々にとっては心の糧になったのは間違いないのだ。今回は作曲したということで後世にそれが残ったのだが、貴重なメッセージが伝わったと思う。
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by dognorah | 2005-07-15 00:05 | コンサート