40年前の映画をDVDで観た感想を。チャイコフスキーのバレー「白鳥の湖」 オデット/オディール:マーゴ・フォンテーン(Margot Fonteyn) ジークフリート王子:ルドルフ・ヌレエフ(Rudolf Nureyev) ヴィーン国立歌劇場バレー団 管弦楽:ヴィーン交響楽団 振付:ルドルフ・ヌレエフ 指揮:ジョン・ランチベリー(John Lanchbery) 撮影年:1966年 美しい映像で音も想像以上によい。舞台での演技をそのまま撮ったものであるが観客はいない。ヌレエフの演出はプティパなどとはかなり変わっていて、宮廷の友人とか道化役とかがいない。また悪魔はあまり踊らない。要するに男性ダンサーでまともに踊るのは王子だけ。主役の自分が振付けるとこうなるのだろう。見ているほうは他のダンサーの妙技も見たいのだが。最後も王子だけが溺れ死ぬ筋にしてある。 まあとにかく絶頂期のヌレエフはたっぷり堪能できる。セクシーで美しい人だ。フォンテーンだってまだまだすばらしい踊りである。両腕の動き一つ取ってみても完成された技を感じる。これの7年ぐらい前に撮影された「火の鳥」を映画館で見たときは漲る若々しい生気に圧倒された記憶があるが、さすがに年はとっている。 第3幕の有名なオディールの32回転は数えてみたら28回転ぐらいではあるが見事。しかしそのすぐ後に王子が20回転以上やる。これがすごくてぞくぞくする。回転スピードが恐ろしく速いのにピシッと決まっているのだ。こういうのはあまり観たことがない。二人のすばらしいバレーに感銘するが晩年の悲惨さに至る過程を思い出しもし、つい涙ぐんでしまう。 1961年にソ連から西側に亡命したヌレエフは62年にフォンテーンとジゼルで初の共演をしてお互いに魅かれ、63年からロイヤルバレーを中心にペアを組むようになる。1919年生れの彼女はもう引退を考えていたが19歳年下のの天才ダンサーに出会って啓示を受け、さらに数年間ペアを組んでバレーを続けることを決意。引退したのは70年代になって、パナマの外交官である夫に従ってパナマに行ったとき。政敵に撃たれて体の自由の利かなくなった夫の世話で財産を使い果たし、心身とも疲れ果てた彼女は癌にかかって1991年に死亡。一方のヌレエフは男色にふけったのか、AIDSにかかって93年に死亡。ペアを組んで活躍中の二人は公私とも親密になって彼女は妊娠もするが流産してしまう。もし流産しなければ二人のその後はかなり違った人生になっただろう。
間もなくロイヤルオペラでニーベルンクの指輪の最終章が上演されるに際し、予習のためDVDを2種類視聴しましたので感想を述べます。
ニーベルンクの指輪についてはorfeoさんが3種類ものセットも視聴して感想を書いておられますが、偶々今回のはそれらとは重複しないものです。あらすじについてはorfeoさんの記事を参照ください。 (1)ブーレーズのバイロイト盤(1980年) Director: Patrice ChéreauConductor: Pierre Boulez Orchestra: Orchester der Bayreuther Festspiele Siegfried: Manfred Jung Brünnhilde: Gwyneth Jones Hagen: Frizs Hübner Gunther: Franz Mazura Alberich: Hermann Becht Gutrune: Jeannine Altmyer Waltraute: Gwendolyn Killebrew 1st Norm: Ortrun Wenkel 2nd Norm: Gabriele Schnaut 3rd Norm: Katie Clarke Woglinde: Norma Sharp Wellgunde: Ilse Gramatzki Flosshilde: Marga Schiml (2)デ・ビリーのリセウ盤(2004年) Director: Harry KupferConductor: Bertrand de Billy Orchestra: Symphony Orchestra of The Gran Teatre del Riceu Siegfried: John Treleavan Brünnhilde: Deborah Polaski Hagen: Matti Salminen Gunther: Falk Struckmann Alberich: Günter von Kannen Gutrune/3rd Norm: Elisabete Matos Waltraute/1st Norm: Julia Juon 2nd Norm: Leandra Overmann Woglinde: Cristina Oblegóon Wellgunde: María Rodoríguez Flosshilde: Francisca Beaumont シュローの演出というのは出現当時は物議をかもしたらしいが、いまやあまり違和感なし。といっても、背広姿で槍を持つというのは何とかならないのかとは思う。舞台セットもかなり具象的で、観客は特に想像力を求められることもない。音楽が流れているものの筋が進行しない部分、例えばジークフリートの葬送行進曲の部分では大勢の人が葬列に参加するような厳粛な動きを舞台上で繰り広げるがそれも自然である。各人物の性格付けは納得のいくものである。ハーゲンは最後の場面で存在感をなくしてしまうが、それまでは残酷で冷徹な性格で首尾一貫している。 これに対して、クプファーの方は、バックに風景映像を使用し、かなりメカニカルな舞台構成で、観客は映像を参考にして筋に応じて歌手たちが演じる場所を想像しなくてはいけない。ギービヒ一家の性格付けもやや弱く、特にハーゲンはよくわからない。ヴァルトラウテがブリュンヒルデにヴォータンの窮状を説明する場面では、最初からブリュンヒルデは上の空で指輪を溜めつ眇めつ眺めているが、これは観客があとで知る事実を先取りしているようなものでちょっと首を傾げたくなる。この場面はシュローのほうが自然である。 なるほどと思ったのは、ジークフリートの葬送行進曲中に薄暗くなった舞台のライン河らしい溝の向こう側にブリュンヒルデが現れ、こちら側にヴォータンが折れた槍を持って現れる場面である。そして二人が静かに睨み合った後、ヴォータンは折れた槍をその溝に投げ捨てて退場する。これはなかなかいいアイデアと思う。 指揮は、安心してオペラに没頭できるのはブーレーズで、劇的で美しくまた緩急強弱自在で流れが非常にスムーズである。これに対して、デ・ビリーの指揮は随所にハッとするような美しさを感じさせてくれるが、流れのスムーズさの点がやや物足りないところもある。強弱のバランスももう少し考えてほしい気がするが、全体としては十分楽しめる水準だろう。 ジークフリートは、ユンクのほうがトレリーヴァンよりやや明るくて私は好きだが、以前ジークフリートのDVDを視聴したときにも感じたようにトレリーヴァンの調子がいまいちよくないのがそのまま続いている感じがする。 ブリュンヒルデは、ジョーンズの声が美しい。あの声が延々と続くのだからすごいものだ。愛情深いもののあまり毅然としたところのない性格付けはシュローの趣味か。ブリュンヒルデというのはもう少し強い女ではなかったかという気がする。ワーグナーにはちょっと軽いという面は否定できない。これに対してポラスキは声自体はあまり美しいとはいえないがブリュンヒルデらしい重厚さがある。 演技的にはポラスキの方が上と思う。高貴で気の強いブリュンヒルデという設定にふさわしい気品があり、グンターなどがおいそれとコントロール出来ない強さが全身から出ている。ジークフリートの死体が到着してから最後まで歌いっぱなしの部分はすばらしく、心に迫るものがある。思わず涙が出そうになった。 ハーゲンは、演技的にはシュロー盤のヒュブナーが顔の表情も含めてすばらしい。クプファー盤のサルミネンは茫洋としている感じで表情の変化にも乏しいが、声はこちらの方がしっかりしており、声質的にも私は好きだ。 「神々のたそがれ」の全曲を通して聴くのは80年代にNHKの衛星放送によるバイロイトの録画以来なので細かい筋は忘れていたが、それにしても物語的にも音楽的にもすごい作品であると改めて思った。ただ、上の両盤とも劇的に終了する一大叙事詩の最後がややあっけなく、もう少し壮大に演出できないものかと不満が残る。キース・ウォーナーとアントニオ・パッパーノのロイヤルオペラがどのような舞台を見せてくれるのか非常に楽しみだ。あと数時間が待ち遠しい。
Abbé Prévostが書いた「L’Histoire du Chevalier des Grieux et de Manon Lescaut」という小説に基づいてHenri Melhac & Philippe Gilleという二人のフランス人が脚色したものにJules Maaenetが1884年に作曲したものです。
プッチーニの「マノン・レスコー」は、同じ原作に基づいて5人のイタリア人が共同で作った脚本に作曲したもので、マスネーより9年遅い1893年でした。 二つの台本は、大筋ではもちろん同じような内容ですが、原作からピックアップした内容は、マノンが追放処分になるまでのエピソードはマスネーのものの方が多く、そのかわりマノンはアメリカに行く前に収監されているル・アーヴルで死んでしまいます。しかし内容はより複雑なので、舞台で見るには断然こちらの方が面白いと思いました。 あらすじ (第1幕)パリの南にある町アミアンの宿屋で裕福な二人の男モルフォンテーヌとブレティニーが女性をはべらせて食事しているところに修道院に入る途中のマノンが到着し、いとこのレスコーと落ち合う。彼女を見初めたモルフォンテーヌは言い寄って駆け落ちを持ちかけるが、断られてもあきらめきれず、いざというときのために馬車を用意しておいて食事を続ける。そこへ、父親のデ・グリュー伯爵と会うためにナイトの称号を持ったデ・グリューが現れるが二人はお互いに一目惚れし、モルフォンテーヌが用意した馬車をこれ幸いと使ってパリに駆け落ちする。それを知ったモルフォンテーヌは激怒し、復讐を誓う。 (第2幕)二人はパリのアパートで暮らしているがデ・グリューは父親に手紙を書いて二人の結婚を認めてもらおうとする。そこへ二人の居場所を掴んだレスコーがブレティニーと共に現れ、レスコーがデ・グリューを詰問している間にブレティニーが、デ・グリューは父親に強制的に連れ戻されることになっているという情報を漏らしながら金の力で彼女を誘惑する。デ・グリューはその後早々に拉致される。 (第3幕)贅沢なサロンでモルフォンテーヌ、ブレティニー、マノンなど社交界の人々が集まってパーティをしている。その中にデ・グリューの父親もいて息子を牧師に成らせるために修道院に入れたという立ち話をし、それを盗み聞いたマノンはその修道院にはせ参じる。そこではデ・グリューはほとんど浮世をあきらめて修行しており、マノンを見ても、帰ってくれ、というばかり。しかしマノンはあきらめずに誘惑し、まんまと彼を連れ出すことに成功する。 (第4幕)社交場では人々は賭けに興じており、そこへデ・グリューを連れてきたマノンは、人生は楽しまなくて、それには金が必要、と彼に賭けをやらせる。復讐心に燃えるモルフォンテーヌはチャンス到来とばかりにデ・グリューに賭けを挑むが負け続けてしまう。悔し紛れにこれはイカサマだと難癖をつけ、周りの人を味方にして警察にマノンとデ・グリューを逮捕させてしまう。 (第5幕)ル・アーヴルの囚人収容所の外で、父親の力で釈放されたデ・グリューとレスコーがマノン救出を相談しているがうまく行かず、レスコーは看守を買収してマノンを一時開放してデ・グリューに会わせる。マノンは非常に衰弱しており、過去の楽しかったことをいろいろ語り合うが力尽きて彼の腕の中で死ぬ。 このDVDは2001年にバスティーユのオペラ座公演を録画したものです。 キャスト Manon Lescaut : Renée Fleming Le Chevalier des Grieux : Marcello Alvarez Lescaut : Jean-Luc Chaignaud Le Comte des Grieux : Alain Vernhes Guillot de Morfontaine : Michel Sénéchal Monsieur De Brétigny : Franck Ferrari Conductor : Jesus Lopez-Cobos Orchestra & Chorus : Opéra National de Paris Director : Gilbert Deflo 舞台は天井の高い空間に簡素なセットですが登場人物の服装は古典的で華麗なもので、視覚的にもとても楽しめます。フレミングとアルヴァレスは絶好調といっていいくらいのよい出来です。絶叫部分もすばらしいけれど、細かい感情の動きもとてもよく表現されています。マスネーの美しい音楽とこの二人のたっぷりのアリアでオペラとしてはプッチーニのものより楽しめると私は思います。ロペス-コボスの指揮もマスネーの透明な感じのメロディをほんとに美しく演奏していて、見始めたら席を立てないお勧めのDVDです。 Claudio Abbado: Lucerne Festival OrchestraSoprano: Eteri Gvazava Contralto:Anna Larsson Chorus:Orfeón Donostiarra 2003年に収録したもの。このオケはベルリンフィルなどあちこちの団体のトップ奏者を集めて編成されているそうで、確かに見たことのある人たちがたくさんいる。寄せ集めにしてはしっかりしたアンサンブルで、一流の音色とともに心地よい演奏だ。独唱陣と合唱も声、歌唱ともにすばらしい。要するに演奏者は理想的なくらいレベルの高い人たちが集められているように思える。弦楽器配置は、第1、第2ヴァイオリンが左側、右手前がヴィオラ、その後ろ中央寄りにチェロ、さらにその後ろの右壁際にコントラバスというちょっと変わったもの。 アバドは指揮振りを見る限り快調そのもので、やや速めのテンポでダイナミックにぐいぐいとドライブをかける現代人好みの表現だが、間はしっかりと取り、心にずしっと来る力強さを感じる。しかも叙情的な部分はうっとりする美しさ。エネルギーが凝縮した密度の高い演奏だ。コントラルトのアナ・ラーソン(左の写真向かって右)は声もいいが滋味溢れる歌唱が心を打つ。以前、キャプラン指揮の実演を聴いたときのことを記事にし、コメント欄に手持ちのCDがいくつかあることを述べたが、長い曲ゆえなかなか比較することもままならずそのままになっている。今回はその中でテンシュテット指揮ロンドンフィルのものを聴いて、このDVDのアバドと比較してみた。 テンシュテットはアバドとは対照的な演奏で、ゆったり目のテンポで巨人の歩みのように始まるが、そのテンポは速いところはすごく速くて緩急の差が激しい。全体としては朴訥と言える独特の雰囲気もあって味わい深い演奏である。あまり主張は強くなくやや強引さがあるアバドとは違うが、これはこれで名演と思う。演奏時間は、スコアが違うかもしれないので一概に比較は出来ないが、アバドが81分そこそこに対してテンシュテットは88分とかなり長い。
しばらくコンサートの予定がないので最近見ているDVDの感想です。
これは1998年ライブ収録ですが、なかなかのお勧めです。このオペラは舞台では見たことがなく、筋の方はバレーの「マノン」の印象が強いのですが、全編を見てみると大筋は同じでも細部はずいぶん違うことを認識しました。筋としてはバレーの方が肉付けがよく楽しめますね。 Riccardo Muti指揮ミラノスカラ座管弦楽団 Director:Liliana Cavani Manon Lescaut:Maria Guleghina Renato de Grieux:José Cura Lescaut:Lucio Gallo Geronte di Ravoir:Luigi Loni ![]() マノンもグリューも歌がうまいし、容姿もよくなかなか見栄えがします。8年前ですからホセ・クーラはさすがに若くてハンサム、この役にぴったりでしょう。マノンは二人の男をうまく操るしたたかさがよく出ていますが、その分純愛風の最後の説得力が弱いか。ほんとにグリューのことが好きだったの?と訊きたくなります。演出の問題でしょうけれど。舞台セットはスカラ座らしい丁寧な作りで見栄えがします。 ムーティの指揮はとてもすばらしく、叙情的な部分の美しい歌わせ方と劇的な部分の対比が印象的で、胸にぐっと来るものがあります。当時は人気も絶頂期だったでしょう。カーテンコールで主役二人よりも大きな拍手をもらっています。 あらすじ パリへ行く途中のレスコー兄妹はとある町で一泊します。そのホテルにたむろしていた学生のグリューは美しいマノンに一目惚れ。しかし、ビジネスで宿泊していた裕福な老人ゲロンテも彼女に目をつけ、兄と取引して金の力で自分のものにしようとします。気づいたグリューは彼女と逃げますがすぐに兄の知りところとなり、連れ戻されて彼女はパリで老人と住むことになりますが、すっかり贅沢な生活に満足している風です。 そこに現れたグリューはここを抜けようと説得するも、裕福さに慣れた彼女は言を左右にして動こうとしません。いちゃついているところを帰ってきたゲロンテに見つかり、激怒した彼は権力を使って彼女をアメリカに放擲させます。グリューも一緒に船に乗り込み、共にアメリカを放浪しますが、疲れ果てた彼女は荒野で死んでしまう。
今度グノーのこの題名によるオペラを見に行くことになっていますので、DVDで予習しました。シェークスピアの非常にポピュラーな戯曲はいろいろ形を変えて音楽の世界に登場していますので、私自身の頭の整理も兼ねてまとめておきます。
・オペラ この題名ではグノーが1867年に作曲した5幕物が唯一のものらしい。台本はJules Barbierによるものでフランス語です。 そのほかにベルリーニの「I Capuleti e I Montecchi」というオペラがあり、内容はこの物語を踏まえているようです。 ・バレー プロコフィエフが1938年に作曲したバレー音楽のみです。 ・器楽演奏のための音楽 チャイコフスキー作曲「幻想序曲ロメオとジュリエット」 ベルリオーズ作曲「劇的交響曲ロメオとジュリエット」 プロコフィエフのバレー音楽を管弦楽組曲にしたものと10曲のピアノ組曲にしたもの さて、今回鑑賞したDVDは、1994年にコヴェントガーデンの舞台を記録したものです。ロメオ:Robert Alagna ジュリエット:Leontina Vaduva キャピュレット卿:Peter Sidhorn 指揮:Charles Mackerras 演出:Nicolas Joël オペラの筋はほとんどシェークスピアの戯曲で知られるとおりです(と言っても、まともに原作を読んだことはないですが)。 ロメオ役のアラーニャがすばらしい歌唱を聞かせてくれます。11年前の彼、今より面長でなかなかハンサムです。ロメオにぴったりですね。ひょっとして声も今より滑らかに高音域が出ているのではと思うくらいです。対するジュリエットを演じるヴァデュヴァ、かなり肉付きがいいのが惜しいけれど顔もまあまあ美人の方で、歌も演技もうまくacceptableと言うところでしょう。脇役陣も特に文句はなく、特にキャピュレット卿のシドホーンと坊さんを演じるRobert Lloydの二人のバスはなかなかすばらしい。写真左の上がロイド、アラーニャ、ヴァデュヴァの3人、下はシドホーンとヴァデュヴァです。 舞台は各幕であまり変化はしないものの大理石の質感などきちんと作り込んであって劇の内容にふさわしい雰囲気を十分に醸し出しています。 マッケラスの指揮するロイヤルオペラ管弦楽団の音楽も時には劇的に、時には繊細に、歌と溶け合う感じに歌手を包み込んでいます。 今度見るのは、British Youth Operaというイギリスの若手オペラ歌手による公演なのでこのDVDに比べるわけには行かないのは重々承知の上です。
イタリアのオペラ作曲家Giovanni Paisiello(1740-1816)の「Nina, o sia La pazza per amore」というオペラです。
![]() あらすじ ニーナにはリンドロという恋人がいたが、父親の伯爵が金持ちの貴族と結婚させようとしたために、その男たちが決闘する羽目になり、リンドロは重傷を負う。リンドロが死んだと思ったニーナはショックで記憶を喪失し、家族を含め周りの人間を識別できなくなる。そこへ傷が癒えたリンドロが戻り、今は後悔している父親共々彼女の記憶を呼び戻す努力をし、最終的にそれがうまくいって二人はめでたく結ばれる。 キャスト ニーナ:Cecilia Bartoli リンドロ:Jonas Kaufmann スザンナ:Juliette Galstian 伯爵:László Polgár 指揮:Adam Fischer 管弦楽:Opera House Zurich 演出:Cesare Lievi 初期のモーツアルトを思わせる古風な音楽にあまり場面展開のない舞台で単純な物語が進行するが、なんと言ってもバルトリとカウフマン(右の写真)の歌が聴きものである。バルトリは、期待通りの歌唱で、ルチアを思わせるような狂乱の場もあって結構ダイナミックなう歌いっぷりである。 カウフマンは以前ロイヤルオペラの演目「La Rondine」でRuggero Lastouc役を聴いて以来注目してきたテノールであるが、この人も思った通りの甘いよく伸びる声で満足。 スザンナや伯爵も十分なうまさ。アダム・フィッシャーの指揮も軽やかな音楽をそつなくまとめている。
1998年のミュンヘンオペラを記録したものである。
キャストは次の通り。Tristan: Jon Fredric West Isolde: Waltraud Meier King Marke: Kurt Moll Kurvenal: Bernd Weikl Brangane: Marjana Lipovsek 指揮:Zubin Mehta 管弦楽:The Bavarian State Orchestra 演出:Peter Konwitschny トリスタンを歌うWestは終始すばらしい声を聞かせてくれる。 イゾルデのマイヤーもさすがにうまいのだが、時々声がかすれるところがありこの舞台では絶好調とはいえないのが残念である。 マルケ王のモルは文句のつけようがない。堂々たるものだ。もっと歌う場面があればいいのにと思うくらい。 私は2002年にロイヤルオペラで実演に接しているが、イゾルデ(Lisa Gasteen)以外の歌手はすべてこちらの方がいい。あのときのリサ・ガスティーンはちょっと忘れられない名唱だった。 あちこちで話題のコンヴィチュニーによる演出は、すごい軽い乗りで重々しい音楽に対してかなり戸惑うところがあった。第1幕の船は遊覧船みたいだし(左の写真上)、トリスタンが髭を剃るための石鹸の泡をつけたまま長々とイゾルデと愛の交歓をする場面はどういう意味なんだろう。この石鹸を髭につける場面は第3幕でも登場するのでコンヴィチュニーは何か意味を込めているはず。第1幕ではトリスタンはイゾルデを馬鹿にして髭を剃る途中の格好のまま彼女に会いに行って恋愛関係になったことを思い出し、再会直前にまた石鹸を塗ってみたというところか。第2幕ではトリスタンがイゾルデと座るためのソファーを舞台袖口からずるずると引っ張り出してくるのが笑える(写真中)。観客から特に失笑の声は漏れてなかったようだが。 第3幕は現代のアパートの一室みたいな部屋(セントラルヒーティングのラジエーターまである)でトリスタンがオーヴァーヘッドプロジェクターのヒモコンを操作してセピア色のスライドを壁に映している。 トリスタンが死ぬ場面はなく、最後は二つの棺桶の前にマルケ王とブランガーネの二人が祈りを捧げるシーンで幕となる(写真下)。これはトリスタンの死体の前でイゾルデが愛の詩の歌を歌う通常の舞台に比べて新鮮であり唯一感心した場面だ。 メータの指揮はこのオペラにふさわしく濃厚で格調の高いなものであった。
Jacques Offenbach(1819-1880): Les Contes d’Hoffmann
![]() 詩人ホフマンが、お目当てのプリマドンナが公演を終えて出てくるのを待つ間の酒場で求めに応じて過去の3人の女性遍歴を話して聞かせるが、酔いつぶれてこの歌手も逃してしまう。落胆しているとミューズが現れて、また詩を書きましょうよと慰められ、気を取り直す。 主なキャスト Hoffmann: Neil Shicoff Lindorf, Coppelius, Dr Miracle, Dapertutto: Bryn Terfel La Muse, Nicklausse: Susanne Mentzer Olympia: Desiree Rancatore Antonia: Ruth Ann Swenson Giulietta: Beatrice Uria-Monzon 演出:Robert Carsen 指揮:Jesus Lopez-Cobos 管弦楽と合唱:Orchestre et Choeurs de Opera National de Paris 私は2004年にコヴェントガーデンでこの演目を見ているが、伝統的な作りこんだ舞台だったので、それに比べるとこれは簡素で現代的である。なかなか良く出来ていて、各場面ともそれにふさわしい雰囲気を出している。指揮も舞台によく合ったしなやかな演奏である。 歌手陣では、主人公を演じるシコフは歌も演技もしっかりしている。女性陣ではアントニア役のスウェンソンがうまい。しかしなんと言ってもターフェルが抜群である。ドスの効いた歌と演技がこのオペラにしっかりとした輪郭を与えている。同様の感想を「ファウスト」のメフィストフェーレ役で感じたが、彼はあの風貌が悪役はとてもよく似合う。 DVDとしてのカメラワークもまあまあと思うが、各歌手のアップはこんなに多用する必要はないのではないかと思う。特にターフェル(^^;
2002年のグラインドボーンフェスティヴァルで公演されたものの録画である。DVDにBBCと共にNHKの名前も記されているので恐らく日本でも放映されたのであろう。
![]() キャストは次の通り。 Carmen: Anne Sophie von Otter Don José: Marcus Haddock Micaëla: Lisa Milne Escamillo: Laurent Naouri Conductor: Philippe Jordan Director: David McVicar Set Designer: Michael Vale Costume Designer: Sue Blane London Philharmonic Orchestra The Glyndebourne Chorus このDVDには主なキャストによるコメントが入っているので、どういう意図で舞台が作られたかがよくわかって興味深い。監督の意図、それに沿った衣装作りとダンスの振り付け、各歌手の役に対する取り組み方、など。David McVicarは言う。「このオペラはみんなが知っているポピュラーな歌が続くミュージカルのようなものだ。今回は伝統的な舞台づくりを行ってその効果を高めたつもりである。 カルメンは他のどんなオペラの登場人物よりも現代的な性格で、男をすべて飲み込むような性格だ。裸足で大地に立ち人生を手で掴み取るようなところがある。Anne Sophie von Otterはそれを実にうまく演じてくれて満足だ。 ドン・ジョゼ(注:日本ではドン・ホセと書かれることが多いが、このオペラは原作も台本もフランス語であり、この役はドン・ジョゼと発音される)は激しい性格で、ギャンブルが昂じて喧嘩で人を殺したりしているが、一方では心には敬虔な部分もあり、それは彼に牧師になってほしいと願っていた母親に育まれたものである。彼にとって母親は特別な存在だけれどもその関係は不健康であるがゆえに女性に対するコンプレックスが生じた。劇の進行と共に性格はどんどん残虐な方向へシフトしていく。ミカエラはその母親の敬虔な代理人みたいなもので、いわばマリア様。本人はドンのことをお兄さんみたいに思っている。残念ながらセックスアピールに欠けるためドンを惹きつけることが出来ない。」 このオペラは「サロメ」と同様にヒロインによる歌いながらのダンスが求められるのが自然で、このDVDでもフォン・オッターさんがダンサーと共に振付師の指導の下、スペイン風ダンスの練習に励む姿が収められている。 衣装は監督の指示で赤と黒を主体に暗めの色調でデザインされたとコメントされている。闘牛士さんはマドリードまで衣装合わせに行ったらしい。 舞台は過不足なくよく出来ていると思う。演出はとても自然で納得できる。第4幕で、カルメンとドンが二人きりになるところで、ドンがカルメンのところに現れるのではなく群集が闘牛場の中に移動したらその中にまぎれていたドンが一人取り残されて結果的にカルメンと二人きりになる演出などいいなと思う。しかし、第2幕でカルメンがドンを接待する場面ではMcVicarならではのもう少しエロティックな演出を期待していたが、それほどでもなくちょっとがっかり。 指揮者はとても張り切っていて、序曲からこの調子でいって最後までもつの?と言うくらい力強くダンディな振り方だ。音楽はとても切れがよく劇的でもあり聴いていて気持ちがよい。 カルメンのフォン・オッターはちょっと年増なのが難点だけれど(この舞台では47歳)歌も演技もそしてダンスもうまい。そういうことでは、ドン・ジョゼのハドックもあまり風采が上がらない人だけれど歌は十分うまい。 ミカエラは監督の意図がよく表現されているし、これも歌はとてもうまいと思う。これに比べてエスカミリオはちょっと頼りない闘牛士という印象で、要するに優男過ぎる。歌の方はまあまあだが。 私は昨年このプロダクションにアプローチしたけれど、ちょっと出足が遅く切符が取れずに泣きを見た。DVDでこれだけ満足したから舞台はきっとよかっただろうと思うとちょっと悔しい。なお、このDVDはこのオペラ劇場の周りの聴衆がピクニックできるガーデンが詳しく紹介されていてそれも一見の価値がある。 < 前のページ次のページ >
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。 検索
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