ボストリッジ+内田の「冬の旅」

2008年10月21日、バービカンホールにて。

Schubert: Winterreise, D911

Ian Bostridge: tenor
Mitsuko Uchida: piano

ボストリッジの歌唱はすばらしく、内田のピアノも控え目ながらつかず離れずの息の合ったもので感動しました。
ボストリッジは感情のほとばしりをそのまま歌にぶつけるような激しさもあれば息を潜めて細やかな思いを伝える声のコントロールも完璧で、心から詩と歌に共感した表現が見事。ピアノの前で体を動かしながらそれぞれの曲の思いを伝えるため発声はあっちを向いたりこっちを向いたりでしたが、聴いている方はじっと立って歌うより面白いです。
舞台の割と奥で歌ったので唾も飛んでこず比較的前の方にいる客に向かって歌う仕草が多かったので私もロンドンの椿姫さんやPrimroseさんのように最前列の席を確保するんだったとちょっと後悔。
内田さんは眼鏡をかけて譜面を見ながらの演奏でしたが、抑えめながらいつもの百面相的表情で、しかも歌詞に合わせて本人もぱくぱく口を動かしていました。まさか声は出ていなかったでしょうけれど。私の隣に座っていたイギリス人の年配の男性はコンサート前にプログラムを見て「え?ピアノは日本人だって?何で?」なんてつぶやいていましたが、終了後は私の耳元で「あの日本人ピアニストはすばらしいね!」と言っていました。多分この高名なピアニストのことを全く知らなかったのでしょう。
この曲は今までレコードでしか聴いたことがなく、実演を聴くのは今回が初めてでしたが、やはり実演がずっとすばらしい。私はこの曲の演出付きのボストリッジのDVD(ピアノはJulius Drake)も持っていますが今回の演奏の方がいいです。
今夜の客は9割以上入るという人気コンサートで、通して演奏される24曲の合間に多くの人から咳が無遠慮に出てちょっとうるさいなぁという感じではありましたがそれでも演奏者と同じ空間を共有出来る実演がいいです。内田さんはそんな咳にお構いなしに次の曲の冒頭をさっさと弾いて咳を止めていましたが、そうでもしないと間があきすぎてしまいますね。
今回は歌詞の対訳を見ながら詩の内容もじっくりと読みましたが、シューベルトが感動しただけに詩もすばらしいもので、ヴィルヘルム・ミューラーという詩人に俄に興味が湧きました。「美しき水車屋の娘」と共に失恋ばっかりしていたような印象ですが、1794年生まれで1827年に亡くなっていますから33年しか生きていません。死因はちょっと調べたのですが分からず。一方のシューベルトは1797年生まれで1828年に亡くなっていますから、やはり31歳という若死に。こちらは死因は分かっていて腸チフスとのこと。この人は梅毒にもかかっていたそうでシューマンと同様若い頃に遊びすぎたのでしょうか。ミューラーとはほぼ同年代で共感することが多かったのでしょう。プログラムの解説によると、最初はミューラーの詩を12だけ入手して作曲後、更に12の詩があることが分かって詩の内容が前後しているものの先の12曲が既に出版屋に回っている事情から内容は無視して後の12曲を付け足したものということのようです。従って詩だけ読んでいくとちょっとちぐはぐな印象になります。

写真は終演後、花束を受け取って挨拶するMitsuko UchidaとIan Bostridgeです。ボストリッジの花束にはなぜか季節外れのあじさいがあるのが変ですね。
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by dognorah | 2008-10-22 23:29 | コンサート
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