先般コベントガーデンのRoyal Opera Houseにてこのオペラを鑑賞した。バイロイトと違ってここでは1年かけて「ニーベルンクの指輪」4部作を上演する。今回はその第1部であり私は非常に楽しみにしていた。
ところが当日はハプニングがあり、主役ともいうべきWotanの役をするBryn Terfelが風邪を引いて声が出なくなってしまった。オペラ開始時に係りの人が舞台に出てきてこの事実を告げたとき、観客席からは失望のため息がユニゾンで漏れた。劇場側は当日の朝ドイツにいたDonald McIntyreというベテランのWotan役に連絡を取り、急遽ロンドンに来てもらうことにした。当日は強風でフライトが遅れ、到着した空港もロンドンから最も遠いGatwickであったが何とか開演時間は遅らせずにすんだ。しかしそういう状況だから舞台で演技できるわけがなく、彼はオーケストラピットの中で歌うだけで、舞台上では声の出ないBryn Terfelが口パクをやるという苦肉の策が取られることに。その説明が進行する間、観客席からは、McIntyre代役のニュースに拍手、ピットで歌うことに再び失望、Terfelの口パク出演に笑いと拍手で何とかこのアレンジを受け入れた。 悪いことにその日が最終公演でBBCがTVカメラを持ち込んで録画する予定であった。それより以前の公演日にも録画取りをしていたなら問題ないけど、この日だけだとどうする気だろうとちょっと心配になった。ピットで歌う歌唱は観客には迫力がなかったけど、録音ではレベル調整ができるからあるいはそのまま放送するかもしれない。まだ放送する日が発表されていないがぜひ結果を確かめてみたいものだ。 さて前置きが長くなったが、オペラそのものはWotanの迫力不足を除き見事なできばえだった。音楽監督で今回の指揮者でもあるAntonio Pappanoも任期中の一大イベントだからさぞ張り切っていたことだろう。構成ががっちりしながらもしなやかな演奏だった。主な出演者は次のとおり。 Wotan: Bryn Terfel (Donald McIntyre) Albelich: Gunter von Kannen Fricka: Rosalind Plowright Freia: Emily Magee Fasolt: Franz-Josef Selig Fafner: Phillip Ens Loge: Philip Langridge 舞台構成はフローレンスのMaggio Musicale原作らしいが実によくできている。2時間半の公演を休憩時間なしにぶっ通しでやれるのはこのオペラ劇場の優れたメカニズムによるもの。ウイーン国立劇場では円形舞台の4分の1だけが観客に向いており、場面転換はその舞台をくるっと90度回転するだけでできる。ここロンドンでは、舞台全体が天井までせりあがることで下に用意した次の場面が現れる仕掛けになっているが、実に効果的にそのテクニックが使われ、目の前で実現される場面転換のスマートさに観客は大満足である。 最近は欧州各地の歌劇場(時にはアメリカ)と提携して舞台を共同制作することで経費を節約する例が多いが、少ない予算で豪華な舞台が実現できるのでわれわれ観客にとっても歓迎すべきことである。 このオペラではラインの黄金を守る水の精たちが最初に登場するが、薄暗がりの中とはいえヌードで登場する。オペラに登場する人物は歌手と舞台俳優で構成されていて、今までは俳優たちが全裸になるシーンはたとえばリゴレットなどで見受けられたが、実際に歌ういわゆるオペラ歌手が裸になるのを見たのは今回がはじめてである。映画化されたオペラではそういう場面は何回か見ているが、おそらく世界的にそういう傾向なのであろう。ちなみに、今回の登場人物たちの衣装はかなり現代的で、おそらくこれは4部ともそういう方針で貫かれるのであろう。これも世界的にすべてのオペラでそういう傾向にあり、バイロイトの公演でもビデオで見る限りかなり前からそうなっている。 歌手たちは総じて十分楽しませてくれる水準にあり、これでBryn Terfelが万全な状態だったらどんなにかすばらしかったことだろう。彼はウエールズ出身のバスで歌のうまさと演技力を併せ持った逸材で安心してオペラに没頭させてくれる偉大な歌手である。ラインの黄金の前には昨夏グノー作曲のファウストでメフィスフェレス役を演じていたのを見たがAngela GheorghiuやRoberto Alagnaを圧するすばらしいパフォーマンスで終演後は私も他の観客とともにブラボーを連発した記憶がある。 来月はこれの第2部、Warkureの公演があるが、非常に楽しみである。Brunnhilde役には私が最高の賛辞を捧げているオーストラリアのソプラノLisa Gasteenが出演するので二重の楽しみである。そのときはまたここで報告しようと思っています。
by dognorah
| 2005-02-19 07:05
| オペラ
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Comments(3)
はじめまして。読み応えのあるblogを見つけ喜んでおります。ラインの黄金は、私も最近だけで3箇所(ミュンヘン、シュトゥットガルト、ヴィースバーデン)で聴いたオペラですが、さすがコヴェントガーデンはレベルの高い公演ですね。Terfelの口ぱくにはびっくりですが。リサ・ガスティーンのブリュンヒルデは、コンサート形式で当地ハンブルクフィルで聴いたばかりですので、記事をTBさせていただきます。これからもよろしくお願い致します。
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dognorah at 2005-03-10 19:37
フンメルさん、こんにちは。ご来訪いただき光栄です。同じクラシック音楽ファンですね。これから情報交換いろいろいたしましょう。
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jurassic_oyaji at 2005-04-28 19:52
TBありがとうございました。
このブログにリンクさせていただきましたので、今後ともよろしくお願いいたします。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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