ニーベルンクの指輪・ヴァルキューレ

2007年9月26日、ROHにて。

Die Walküre
First day of Der Ring des Nibelungen, in three acts
Music and libretto: Richard Wagner

Siegmund: Simon O'Neill
Sieglinde: Eva-Maria Westbroek
Hunding: Stephen Milling
Wotan: John Tomlinson
Brünnhilde: Lisa Gasteen
Fricka: Rosalind Plowright

(Valkyries)
Gerhilde: Geraldine McGreevy
Ortlinde: Elaine McKril1
Waltraute: Claire Powell
Schwertleite: Rebecca de Pont Davies
Helmwige: Iréne Theorin
Siegrune: Sarah Castle
Grimgerde: Clare Shearer
Rossweisse: Elizabeth Sikora

いやー、すばらしい公演でした。演出が手直しされ、トップクラスの歌手が6人揃うとこんなにも大きな感動を与えてくれるんだと実感しました。ロンドンはこの秋初めて夜の気温が一桁になり、今まで暑くもなく寒くもない快適な気候だったのがバスを待っている間は風に当たるとさすがの私も少し寒いぞと感じましたが、心の中はぽかぽかと暖まり、ベッドに入ってからも興奮してなかなか寝付くことができませんでした。それぐらい凄かったヴァルキューレなのです。

今回の主要歌手のうちで初めて聴く人はサイモン・オニールだけですが、いいテノールを出演させてくれました。柔らかい高音の艶と伸びが魅力的で歌も演技も上手く、ぞっこん惚れました。1971年ニュージーランド生まれでまだ36歳、アメリカで主に活躍しているようです。このジークムントの相手役はエファ=マリア・ウェストブルックですが、これまたすばらしい歌唱で、同じ1971年生まれですから双子の兄弟としても理想的な配役です。彼女があちこちでいろんな役を歌っている公演報告を聞いても皆さん絶賛していますね。私は「ムツェンスク郡のマクベス夫人」ですばらしいカーチャ役を聴いただけですが、安定して美しい声が出せるソプラノで、この人が出るなら間違いないという感じです。彼女も歌だけでなく演技が上手い。これに加えて2年半前のフンディング役に更に磨きをかけたスティーヴン・ミリングが絡み合って類い希な第1幕となりました。もう、舞台に釘付けです。そして驚きなのが管弦楽。あのオケがヴァーグナーを濃厚で芳醇な音と極めてレヴェルの高い演奏で圧倒してくれました。パッパーノも2回目で一皮むけたか。

第2幕は冒頭のブリュンヒルデが登場する部分をちょっと演出変えていました。ブリュンヒルデ役のリサ・ガスティーンを最後に見たのは昨年4月の「神々の黄昏」ですが、それまで見る度に太っていった彼女、今回はちょっと痩せた印象です。少なくとも太るのはストップしましたね。舞台の一部を横切っているトネリコの根っこをひょいと飛び越えたりして身軽さをアピールしていました。そのせいか声も金属的な響きが少なくなっていい方向です。今日は声も滑らかで好調だったと思います。
フリッカ役のロザリンド・プロウライトは、前回と同様亭主に小言ばかり言ううるさい奥さんを好演。彼女の声質がヒステリックなフリッカにはぴったしです。それを受けるヴォータン役のジョン・トムリンソンも辟易しながらも一理あることを言われて彼女の意見に従わざるを得ない状況に陥る苦悩の様を好演。更にその後ブリュンヒルデと二人きりになって苦しい胸の内を吐露する場面ではすばらしい歌唱と演技力で舞台の緊張感を高め、存在感十分。この辺は演出もきめが細かくなったのかもしれませんが、引き続き凄い音を出す管弦楽との調和も含めて完成度の高い舞台となっています。この場面のリサ・ガスティーンの歌唱も賞賛以外の何者でもない出来です。

第3幕では嫌いな回転する衝立と馬の骨が前回と変わりなく出てきて改善が見られないのは残念だし、ヴァルキューレ達の騎行の音楽では例によって歌手達のヴォリュームが大きすぎて興醒めでしたが、後半のヴォータンとブリュンヒルデが二人きりになる場面ではまたしても二人の歌唱と演技で見応え聴きごたえのある舞台となりました。第2幕と第3幕を見る限りブリン・ターフェルが降りてジョン・トムリンソンになって我々観客にとってかなりよかったかもしれないと思いました。それにしても9月のはじめに急に代役が振られてよくここまで説得力のある演技ができるものだと感心しました。さすがに過去にヴォータンを歌ったことがあるヴェテランですね。今日はラインの黄金と違ってプロンプターボックスが置いてありましたが長丁場なのでやむを得ないことでしょう。

前回どうだったか記憶がないのですが、ヴォータンとブリュンヒルデが父娘なのに長いディープキスを交わすシーンがあり、前回見た「神々の黄昏」でもハーゲンとグートルーネの関係の描写を見てもわかりますが、演出家キース・ウォーナーはこの楽劇の中にincestのテーマが普遍的にあると確信しているのでしょう。そういえばフリッカがジークムントとジークリンデの近親相姦を道義的に問題だとヴォータンを責める場面で、ヴォータンが「お互いに愛し合っているんだから自然なことじゃないか」とかわす場面がありますが、フリッカはジークムント達のことと同時にヴォータンとブリュンヒルデのことも責めての言葉だったのかもと思い当たります。

写真は左からAntonio Pappano、Lisa Gasteen、Simon O’Neillです。
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by dognorah | 2007-09-27 21:41 | オペラ
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