2007年3月25日、パリオペラ座(ガルニエ)にて。
市川海老蔵(11代目)と市川亀次郎(2代目)は昨年6月にロンドンで公演していますが、今回は海老蔵の父である團十郎(12代目)を始め多くのメンバーを揃えてのパリ公演です。会場に着いて驚いたのは着物を着た女性がものすごく多く、恐らく日本から駆けつけたファンに相違ありません。インターネットでこの公演の切符が発売と同時に売り切れたのは日本からのアクセスのせいであったとは。観客も4割ぐらいは日本人と思われます。その割には会場からの掛声が少なかったのは歌舞伎ファンというより海老蔵ファンだからでしょう。ロンドンでは複数のイギリス人が「ナリタヤ!」と叫んでいたのとは大違いで、フランス人で声を出した人は皆無と思われます。モルティエ総裁の依頼で実現した公演の割にはパリではあまり歌舞伎ファンはいないようです。なお、舞台はロンドンと違って花道は造られず、代わりに客席中央通路に舞台から行けるようにしてそれを花道代わりに使っていました。 演目 (1)勧進帳 武蔵坊弁慶:市川海老蔵 九郎判官源義経:市川亀治朗 富樫左衛門:市川團十郎 常陸坊海尊:市川團四郎 他 さすがに成田屋歌舞伎十八番の一つ、とても楽しめました。上の写真は弁慶の六尺棒と富樫の刀があわや火花を散らすかというクライマックスですが様式的にも美しく、歌舞伎ってすばらしい芸術だなぁと感心させられる場面です。市川親子の仕草は見事でした。下の写真は殴ってしまった義経に詫びを入れる弁慶。体格がいいこともあって海老蔵の弁慶はなかなか見応えがあります。以前から見たいと思っていたこの演目をこのようなすばらしい役者で見ることが出来て幸せです。 (2)口上 主立った出演者が上の写真のように正装してずらっと並び、観客相手に一人一人が挨拶するものです。9人並んでいますが、約1名を除き全員がフランス語で挨拶したのは立派。それも結構長い台詞で、フランス人観客にとても受けていました。しかしちゃんと字幕も出るので、口上だけだとどの程度通じたかは謎ですが。下の写真は長々とフランス語をしゃべりまくった團十郎です。 (3)紅葉狩り 更科姫(後に戸隠山の悪霊):市川海老蔵 平維茂(たいらのこれもち):市川團十郎 山の神:市川亀治朗 他 海老蔵は弁慶という偉丈夫を演じた後は一転して美女役、そして悪霊の役と芸達者なところを遺憾なく見せてくれます。上の写真は将軍、平維茂の前で挨拶する更科姫の場面。このあと次の写真のように悪霊に変化します。ここでも團十郎との立ち回りのコンビはすばらしい。舞台装置も衣装も美しく、舞踊と荒事の両方を堪能できるおもしろい演目と思いました。 最後の写真はカーテンコールで勢揃いした主な出演者たちです。 3月28日にフランス政府から團十郎と海老蔵に対してChevalier dans l'Ordre des Arts et des lettreという勲章が贈られたそうです。團十郎に対してCommandeur、海老蔵にはChevalierという格のものが授与されました。 今回の公演は昨年のロンドン公演より遙かに力が入ったもので、次回はロンドンでもちょっと大がかりな演しものを期待したいところです。 私は切符を入手できなかったのですが、sottovoceさんから1枚譲っていただき、このすばらしい公演をよい席で見ることが出来ました。またまた感謝です。
by dognorah
| 2007-03-29 19:41
| 観劇
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Comments(10)
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Sardanapalus
at 2007-03-29 20:13
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おや、またパリ?(羨ましい!)と思ったら、メインは歌舞伎でしたか!日本でもニュースになってましたよ。海老蔵の弁慶の日に行かれたのですね(親子で役を日替わりなんです)。
フランス語での口上は聞いてみたいような、ちんぷんかんぷんなので日本語でいいような…(^^)2作品とも楽しまれたようで良かったです~。でも、日本人が半数を占める上に大向こう無しとは、ちょっと複雑な心境です。そこはサクラを入れておいた方がいいと思うんですけどね。
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日本人がそんなに多かったと聞いて驚きです。でもそれではフランス人に観てもらえないわけですから、パリ公演の意味があるのでしょうか?観たくても切符が買えなかったフランス人は多いでしょうに。パリ旅行とタイアップして皆さん日本から来たのでしょうし、そのために旅行社や成田屋さん自身が自ら切符を確保したにちがいないのでしょうが、これはちょっと問題ですよね。私も、着物イベントして行こうかとも考えていて邪道だったのですが、きっと切符買えなかったでしょうね。まあ私は里帰りしたときに歌舞伎座に行けるからいいのですが。実際、去年12月に歌舞伎座で海老蔵の紅葉狩りは観ました。
ロンドンの歌舞伎公演は規模が小さくて田舎の芝居小屋みたいだったし、今回は日本人ばかりだし、とこの手のイベントは難しいですね。それに、フランス語の口上なんて、まるでイタリア語のオペラを英語でやるようなもので、私は反対です。 でも、dognorahさんは楽しまれたようで、よかったですね。
3/23の公演がすぐ3/25のBS-hiで放送されました。まだサワリしか見ていませんが、フランス語の口上が受けていましたね。今回の放送は勧進帳のみでしたが、4月下旬には残りの演目が放映されるようです。
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dognorah at 2007-03-30 01:24
Sardanapalusさん、親子で日替わりとは知りませんでした。團十郎の弁慶も年季が入っているだけにひと味違うのでしょうね。
大向こうもわずかにあったのですが、隣のフランス人女性があれは日本ではノーマルなのか?と訊いてきました。ロンドンのように大勢が声を出すと自然にそれがノーマルだとわかるんですがね。
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dognorah at 2007-03-30 01:30
ロンドンの椿姫さん、本当に切符はフランス人のために確保するべきですよね。日本にいる方はいつでも見れるのにわざわざパリまで来なくても・・・と思うのですがそれがかっこいいということになるのかも。また、主催側も切符は売れるだろうか、という不安はあったでしょうね。だから誰でも無制限に売ってしまったのでしょう。
口上は余興だから今回のでいいのではと思いますよ。
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dognorah at 2007-03-30 01:35
ご~けんさん、NHKも珍しもの好きですね(笑)。成田屋が提案したのかもしれませんが。パリの聴衆の反応は気になるでしょうからニュース的価値はあったでしょうね。
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助六
at 2007-03-30 07:06
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私は、どうせなら團十郎の弁慶で見たいと思い、初日に行きました。恰幅と茶目っ気がある團十郎に弁慶はぴったりですが、相変わらず言葉が不明瞭で勧進帳読上げは聞き取れないし(ガルニエは歌舞伎座より響かない由)、最後の飛び六法の引っ込みは、花道がないこともあるけど、もっともっと凄みが欲しかったです。結果的には若さのある海老蔵の弁慶も面白かったかなとか思いました。團十郎は「息子の発案でダブルにしたが、ガルニエで弁慶5回は大変なことだったと分かり、感謝している」とのこと。花道設置はオペラ座側が技術的に無理と言い(と言っても定期会員が押さえてる平土間席を潰せないということでしょう)、團十郎は舞台上で六法踏みましたが、海老蔵は諦め切れず、通路を使うことにしたそうです。
團十郎によれば「切符は日本人向け販売数は制限されてると聞いている」とのことでしたが、確かに平土間は大半仏人だったから、定期会員優先は間違いないと思います。
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助六
at 2007-03-30 07:10
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しかし声掛ける英人が複数とは、イギリスはやはりフランスとはレヴェルが違いますね。初日はかなり声掛かりましたが、全声日本人でした。90年の歌舞伎シャンゼリゼ劇場公演なんかは、無知な仏人客が掛け声に「シーッ」と返す始末でしたから。
口上の歌舞伎風発音仏語は亀治朗が圧倒的にうまく、彼だけは字幕見なくても殆ど聞き取れ、拍手も一段と大きかったです。「オペラ座の怪人が好きなもんで」なんて大受け。仏人も彼は良く分かったと言ってました。他は字幕見てましたが。亀治朗は「小中高(暁星?)大と14年仏語やったが、まるで忘れてて、動詞活用なんかは少し思い出してきた」なんて言ってましたが、抑揚の的確さからして、これは謙遜だと思います。大変勉強家・インテリ肌と言われてるようですね。
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助六
at 2007-03-30 07:11
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やっぱり仏人には舞踊の「紅葉狩」の方が分かりやすかったようですね。90年は歌右衛門の「隅田川」でしたが、これも踊りで、話も子を失った母の狂気だから分かりやすく、大受けでした。悲哀・狂おしさ・優美など歌右衛門の芸の違いは、70過ぎて足が弱ってたとは言え、素人の私にも分かる位だったから、仏人にも分かる。今回どころではない凄まじい拍手とブラヴォーでした。
しかし字幕は助かりますね。仏人も「台本の文学的価値も想像できた」と言ってました。オペラ座の「カルメン」も仏語字幕付くから、歌舞伎座で日本語字幕はまずいですかね(笑)。
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dognorah at 2007-03-30 19:41
助六さんは團十郎の弁慶でしたか。花道に対する対応が二人で違ったというのはおもしろいですね。團十郎のコメントなどパリならではの情報をありがとうございます。フランス語の上手い下手は私などには全くわかりませんが、やはり仏語14年というのは差が出るものでしょうね。亀治朗がそういうインテリ肌というのは知りませんでした。
字幕というのはあらゆるシーンで役立つものですよね。イギリスでも英語オペラはほとんど字幕が出るようになりましたし。私など映画館の音響装置の欠陥で俳優の台詞が上手く聞き取れないことがあって日本映画でも字幕がほしいなと思うほどです。 歌舞伎座だって絶対あった方が理解度は深まると思うのですが、経費がかかっても設置しろという意見がどれだけあるかでしょうね。ロンドン公演の時は字幕でなしに希望者にイヤフォン装置による同時通訳的なものを配布していました。これも字幕の方が煩わしくなくていいと思います。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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