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ヤナーチェクのオペラ「ブローチェク氏の旅」(コンサート形式)

2007年2月25日、バービカンホールにて。
Leoš Janáček: The Excursions of Mr Brouček
Libretto: Part 1 by the composer and others after Svatopluk Čech, Part 2 by the composer with F. S. Procházka after Svatopluk Čech

全く初めて聴く音楽で、その存在さえも知らなかったものです。しかし主席指揮者のビエロフラーヴェクはチェコ人であり、歌手も大部分はチェコから連れてきたということで本物が聴けそうです。
歌手は主役のJan Vacíkを始め概ね立派な歌唱でした。特に印象的だったのはMálinkaを歌ったソプラノのMaria HaanとWürflを歌ったバスのZdeněk Plechです。Haanは特に派手ではない歌唱ですが素直に伸びる声が終始心地よい。Plechは豊かな声量で、音域の広いこの役を見事に歌っていました。

このオペラは、Part 1が1908-13年に完成し、Part 2は1916-17年とちょっと間があいていますが、それもあって両曲はかなり印象が違います。
Part 1(演奏時間約65分)ははっきりいってちょっと出来が悪く、リズム、メロディ共にやや単調で退屈さを覚えます。多分台本で協力者がなかなか得られなくて苦労したせいでしょう。
しかしPart 2(演奏時間約60分)はすばらしい音楽で、物語の筋と共にシュトラウスの「ティル・オイゲンシュピーレル」を髣髴とさせるようなところもあります。ビエロフラーヴェクもPart 2でより奔放な音楽作りで、かなり乗っていました。

ということで音楽的には結構楽しめましたが、台詞が多いのでなかなか字幕を読みきれなくて筋的にはちょっとストレスがあります。バービカンの字幕は舞台の一番奥にやや小さめの活字で表示されるのもつらいところです。

出演
Jiří Bělohlávek: conductor
Jan Vacík: Mr Brouček (tenor)
Peter Straka: Mazal/Blankytný/Petřík (tenor)
Maria Haan: Málinka/Etherea/Kunka (soprano)
Roman Janál: Sacristan/Lunobor/Domšík from the Bell (baritone)
Zdeněk Plech: Würfl /Čaroskvoucí/Councilor (bass)
Ivan Kusnjer: The apparition of Svatopluk Čech/Second Taborite (baritone)
Lenka Šmídová: Housekeeper/Kedruto (mezzo-soprano)
Martina Bauerová: Young Waiter/Child Prodigy/Student (soprano)
Jaroslav Březina: Painter/Duhoslav/Vojta from the Peacocks/Voice of the Professor (tenor)
Aleš Briscein: Composer/Harfoboj/Miroslav the goldsmith (tenor)
Václav Sibera: Poet [Prague]/Oblačný/Vaček Bradatý (baritone)
Edward Goater: Poet (tenor)
Christopher Bowen: Another poet (tenor)
Charles Gibbs: First Taborite (bass)
*最後の3人はBBC Singersのメンバー。

BBC Symphony Orchestra
BBC Singers
Stephen Betteridge: chorus-master

Concert staging by Kenneth Richardson
字幕:Paula Kennedy

写真は、帽子をかぶっているのが主役のJan Vacík、右端の女性がMaria Haan、左端の太った人がZdeněk Plechです。
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あらすじ
Part 1:ブローチェク氏の月への旅行
1888年のプラハでアパートの家主であるブローチェクはビールが大好きで、今晩もWürflの経営するバーでしこたま飲んで帰る途中アパートの入居者であるMazalと恋人のMálinkaに出会う。MálinkaはMazalと諍いを起こし、結婚するならブローチェクがいいと言って結婚してくれと頼む。ブローチェクはいったんはいいよと引き受けたものの前言を撤回して、わずらわしい世間よりもっと素敵な世界に行きたいと言って月に旅する。
月はしかし俗物で教養のないブローチェクにとって最も軽蔑すべき芸術家たちの集まる場所だった。そこではプラハでおなじみの隣人たちが名前を変えて登場し、Málinka扮するEthereaがMazal扮する恋人を振ってブローチェクを追いかける。二人で月の寺院に行くと別の芸術家集団がいて食事に花の香りをかいでいる。そんなものは食えないとブローチェクがプラハから持ってきたソーセージを食べるとパニックを引き起こし追放されてしまう。
プラハでは夜が明けてきたのでMálinkaはMazalと帰途に着く。アパートに着いたとき若いウエーターが、ブローチェク氏が泥酔して運び込まれたと告げる。

Part 2:ブローチェク氏の15世紀への旅行
バーで飲み仲間たちと議論しているときに誰かが中世プラハの地下にトンネルが掘られているんだと話す。千鳥足で家に帰ったブローチェクはそのトンネルを探す。そこで過去の亡霊に出くわし1420年代のプラハに連れて行かれる。そこではドイツからの攻撃を受けている最中で街をこぞって防衛に大童。出会う人たちはやはり普段の隣人たちが名前を変えて登場している。当然ブローチェクも武器を取って戦うことを強要される。しかし死にたくない彼は戦場で敵に命乞いをして逃げる。戦いはチェコ軍の勝利に終わりみんなは戦勝のお祝いをするが、逃げたブローチェクは糾弾され、裁判でビヤ樽に詰めて死刑と宣告される。
1888年のプラハのバーでブローチェク氏がビヤ樽の中で寝ているのが見つかる。自分は一人でプラハを救ったんだと言いながら帰途につく。
by dognorah | 2007-02-26 21:09 | オペラ | Comments(4)
Commented by ゆうこ at 2007-02-27 01:03 x
私もこれを昨日バービカンできいていました。個人的な理由でとても疲れましたが、まれにしか演奏されないものが聞けたのは面白かったですね。
Commented by dognorah at 2007-02-27 19:47
私もPart 1では疲れましたが、Part 2で生き返りました(笑)
ベロフラーヴェクならではのプログラミングでしたよね。
Commented by 助六 at 2007-02-28 05:09 x
さすがBBCは意欲的プロを組みますね。ヤナーチェク上演が日常的になった今でも、私はこの作品の生演奏にぶつかったことはありません。
話の時空の拡がりが大きいし、SFからコミカルまで内容の振幅が破格だから、やはりブロウチェクを歌うテノールに巨大な包容力が要求されるせいかもと想像します。
確かに1部・2部間にある種のギャップがあると思いますが、それさえも好意的に見れば、作品の巨大さの一つなのかも知れません。
「マクロプーロス事件」もここ10年来、シリヤ、マルフィターノ、デノーケとか外国人ソプラノが盛んに取り上げるようになったから、ブロウチェク役も表現面に意欲のあるテノールはこぞってやりたがる日が来るのではと期待しています。
ビエロフラヴェクは20数年前、チェコ・フィル振った録音で俊英として期待されたけど、その後鳴かず飛ばずと言うか(笑)、仏国立管への2回の客演も冴えませんでしたが、2年前のバスティーユ「ルサルカ」は中々良かったです。気が付いたらそびえ立っていたという尊敬すべきタイプの指揮者になってくれたらと期待してます。
Commented by dognorah at 2007-02-28 19:49
>ブロウチェクを歌うテノールに巨大な包容力が・・・

ドイツのどこかの歌劇場で公演したとき、演出家はさるテノールが主役をやるならと引き受け、全く彼を想定して舞台を作ったそうですから、かなりのキャラクターが必要なんでしょう。今夜のテノールはビア樽のようなおなかをした体型で演技の上手さも合ってぴったりという感じでした。
ビエロフラーヴェクはそれほど聴いてはいないのですが、今まで概ね好演していたと思います。並以上の指揮者であることは間違いないと思っていますが、大曲で感動がほしいです。4月にマーラーの3番がありますので期待しているところです。以前聴いた9番は好演ではあったものの絶賛するほどのものではありませんでしたので。
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