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アレヴィーのオペラ「ユダヤの女」コンサート形式

Fromental Halévy (1799 - 1862):La Juive(Karl Leich-Galland編曲)
Libretto:Eugène Scribe(フランス語)
初演:1835年パリ

9月21日、バービカンホールにて。
この作曲家の名前は初めて聞きましたが、フランス人でマイヤベーアとかオベールなどと同時代人。両親ともユダヤ人らしい。弟子のグノー、ビゼー、サンサーンスの方がはるかに有名です(ビゼーはアレヴィーの娘と結婚したそうです)。上記表示のほかFirst nameをJacquesとかJacques-Fromentalとする表示もあるようです。
今回はROHの主催ながらコヴェントガーデンではなくバービカンホールで開催されました。作品の知名度がなく、歌手もあまりビッグ・ネームの人が出ないということで客の入りは6割程度でしたでしょうか。

演奏者
指揮:ダニエル・オーレン(Daniel Oren)
管弦楽:ロイヤルオペラハウス管弦楽団
合唱:ロイヤルオペラ合唱団

エレアザル:デニス・オニール(Dennis O’Neill)
ラシェル:マリーナ・ポプラフスカヤ(Marina Poplavskaya)
ブローニ:アラステア・マイルズ(Alastair Miles)
レオポルド:ダリオ・シュムンク(Dario Schumunck)
ユードクシー:ニコル・カベル(Nicole Cabell)


管弦楽は、始まったとたん金管が音をはずしたり全体にもたもたした演奏で「何じゃこれは?」と思いましたが、しばらくして立ち直り、アンサンブルも非常によくなって劇的な音楽をよく盛り上げていました。イスラエルの指揮者オーレンは舞台上でのパフォーマンスが大きく、見ていて飽きません。彼の作る音楽はレパートリーにより様々な意見がありますが、この音楽に関しては優れた演奏だったと思います。演奏が終わってから観客の拍手に応えて出たり入ったりするのではなくいつまでも舞台上に居座って拍手を求めるのはちょっとうざったらしい感じですが。

歌手はみんなとてもよかった。特に二人のソプラノがすばらしい。ラシェルを歌ったロシア人のポプラフスカヤは昨年ROHのYoung Artists Programmeに採用されて、お披露目ではそこそこ歌っているという程度でした。それが1年でこういう主役を歌ってたくさんブラヴォーを貰えるまでに成長したとはすばらしいことです。出番が多いのに最初から最後までレッジェロ系の声の調子が維持された熱唱でした。対してユードクシーを歌ったアメリカ人カベルは2005年のカーディフ声楽コンクールの優勝者です。こちらはスピント系でしょうか、ビロードを思わせる美声がとても心地よい。
テノール二人もなかなかの出来でした。二人とも聴くのは初めてですが、オニールは太めの声で声量たっぷり。両頬に生えた髭は真っ白で写真から想像していたイメージは裏切られましたが。アルゼンチン人のシュムンクはまだ若手で、甘い声の持ち主です。バスのマイルズはROH専属のような存在ですが安定した音程と声量で迫力たっぷり。この5人の役には全てアリアが用意されていますが、みんなよく出来たアリアで聴き応えがあります。

ということで音楽的にはすばらしい出来で楽しませてもらいました。
オペラのストーリーは下記のあらすじに書きましたが、ヴェルディのイル・トロヴァトーレと類似の、相手の子供を育てて相手に殺させることで復讐を果たす、という陰惨なもので私は苦手です。ユダヤ教とキリスト教の憎み合いが今日のイラクを彷彿とさせますが、ユダヤ人作曲家にとっては書きたいオペラだったのでしょう。
写真は終演後のものです。歌手は左から、シュムンク、オニール、カベル、ポプラフスカヤです。クリックするともう少し拡大します。
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「ユダヤの女」のあらすじ
16世紀半ばのスイスが舞台。ユダヤ人男性エレアザル(Eléazar)は異端者だということで息子を殺された挙句、住んでいたローマを放逐されスイスに移住する。その途中で盗賊に襲われて炎上する家を発見し、殺された母親のそばにいた女の赤ん坊を助ける。その家をよく見ると自分を糾弾したブローニ伯爵(Brogni)の家であった。復讐の念を心に秘めてその赤ん坊を一緒にスイスに連れて行き育てる。全てを失った伯爵はローマでの公職を辞し、地元でカウンシルの長を務めている。ここまでが伏線で、オペラは宝石商を営んで成功したエレアザルの元で立派に成長した娘ラシェル(Rachel)を中心に展開する。彼女は地元のプリンスであるレオポルド(Léopold)を独身のユダヤ人男性と信じて恋に陥る。ところが彼はキリスト教徒でしかも婚約者までいることが判明し、逆上した彼女は法廷に訴える。当時の法律ではユダヤ人とキリスト教徒の交際は禁止されており、違反者は死刑になるという。父親もグルだろうということで3人は捕えられる。レオポルドの婚約者ユードクシー(Eudoxie)が獄中のラシェルに面会し、自分ひとりで罪を背負ってレオポルドを助けるように懇願する。それを受け入れてラシェルとエレアザルだけが煮えたぎる油の釜で殺されることになった。以前、スイスで再会したブローニに、実は娘はさるユダヤ人に助けられて今でも生きていると仄めかして気を揉ませていたが、ラシェルが油の釜に飛び込む瞬間にエレアザルはブローニに「あれがお前の娘だ」と教えて復讐を果たす。
by dognorah | 2006-09-22 22:36 | オペラ | Comments(6)
Commented by ロンドンの椿姫 at 2006-09-26 21:19 x
私は初日の19日に行きました。ネットで値段ダンピングしていたにも関わらず、結構空席でした。その日の評判はよかったので、21日はどっと押し寄せると思ったのですが、そうでもなかったのですね。

この日のCabellは赤いドレスだったのですね。初日は白いドレスでした。すらっとしてスタイル良い女性なので、何を着ても映えますね。

忙しくてまだブログにアッフできてない状態です。ROHのモーツァルトもバービカンのキーシンもあるのに、誰か助けて~。
Commented by dognorah at 2006-09-27 09:13
パリでは来年2-3月にこれを同じオーレン指揮アントナッチ+シコフで舞台でちゃんとやるみたいです。フランスの作曲家だから何度もやっているんでしょうね。ロンドンでは全く馴染のない演目なので客が集まらなかったのでしょう。カベルは今流行のすらっとした体型の美人歌手ですね。ちょっと気の強そうな顔をしていますが、歌はとても上手かった。
Commented by Bowles at 2006-09-27 11:40 x
>フランスの作曲家だから何度もやっているんでしょうね。

いえいえ、パリでももう随分長い間やられていないと思います。
この演目は、近年、ユダヤ人であるシコフがライフ・ワークとしていて、DVDにもなっているヴィーン、つづいて同じプロダクションを持っていったMETでの公演で、やっと評判になったぐらいです。その昔、白血病になる直前のカレーラスがヴィーンで歌った時も(CDになっていますが)、多分コンサート形式だったと思います。
Commented by dognorah at 2006-09-27 23:02
Bowlesさんも守備範囲が広いですね。シコフはユダヤ人なのですか。それにしてもこういう筋のものに情熱を注ぐというのはやはり西洋人ですね。
Commented by 助六 at 2006-09-28 07:49 x
そうそう、フランスは聴衆も研究者もベルリオーズ含め19世紀フランス・オペラに概して冷淡で、グラントペラなど「ドン・セバスチャン」といい「ユグノー」といい、ロンドンの方が余程やってますよね。19世紀仏オペラ作曲家の最良の専門家は大抵イギリス人ですよね。
パリは「ユグノー」だって長くやってないし、85年にガルニエがやったマイヤベーア「悪魔のロベール」も一部仏紙の反応は「無用の蘇演」とかズレてたそうですから。
「ユダヤ人の女」もこの種のレパートリーに無関心なモルチエがよく取り上げと思いますが、元々ガル前監督の企画だったという話もあります。
シコフは、ロシア系ユダヤ人の父親がシナゴーグのカントールだったそうだから、感情移入綿々なのでしょうね。リチャード・タッカーなんかは本人がカントールやってたというから、NY出身の歌手でこの種の家系の人は実はワンサといるのかも知れませんが。
Commented by dognorah at 2006-09-28 18:14
そういえば以前にもフランスはオペラに限らず自国の作曲家には冷淡なところがあるようなコメントをされたような記憶があります。イギリス人はその点では異なりますね。たいした作品でなくても定期的に取り上げるなどしますから。
>「無用の蘇演」・・・
ちょっと信じがたい批評です。自分を何様と思っているんでしょうかね。

こういうオペラを通してキリスト教も他宗教、他宗派に対して容赦ない残酷さを持っていたことが改めて思い出されます。他教徒にとっては忘れたくないことなのでしょうね。
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