8月19日、ロイヤル・アルバート・ホールにて。
出演 ヴァイオリン:ワディム・レーピン(Vadim Repin) バス:ミハイル・ペトレンコ(Mikhail Petrenko)(Sergey Alexashkinの代役) 合唱:マリインスキー劇場合唱団(Mariinsky Theatre Chorus) 指揮:ワレリー・ゲルギエフ(Valery Gergiev) プログラム リャードフ(Anatoly Lyadov):From the Apocalypse シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 ショスタコーヴィッチ:交響曲第13番 変ロ短調 作品113 “Babi Yar” リャードフ(1855-1914)という作曲家の名前は初めて知った。リムスキーコルサコフの門下で、当時の多くの人から将来を嘱望される才能があったらしいが生まれつきのサボり癖のために演奏時間10分以上の作品は残さなかったという。 今日の作品も約10分程度のものだが、さすがにリムスキーコルサコフの薫陶を受けてオーケストレーションはなかなかすばらしい。そして、管弦楽団もかなりの実力を持っていることもわかった。完全にゲルギエフの手足となっている感じでもある。 ヴァイオリンのレーピンは1971年生れ。演奏を聴くのは昨年4月以来。あまり派手な動作をしないで、とてもノーブルな音色を出す人だ。演奏も中庸を得た模範的とも思えるスタイルである。伴奏とともに特に面白味は感じられないものの、格調の高い演奏であった。実演ではもっとエキサイトする方が私の好みではあるが。今日はTV中継もされていたので写真は録画したものからキャプチャーした。 メインのショスタコーヴィッチ13番は初めて聴く曲だ。エフゲニー・エフトゥシェンコの詩に基づいて1962年に作曲された。内容はBabi Yarという場所でナチスがユダヤ人を虐殺した事実を悼んだものであるが、スターリン共産党も同様のことをしていたことを糾弾する内容となっている。当時は雪解けのフルシチョフ時代であったが、既に旧守派の圧力に抗し切れない事態になっていた彼は、第1楽章で使われている歌詞を書き換える命令を下した。にも拘らず、今回内容を見るとかなり刺激的な言葉がそのまま残っており、よく演奏が許可されたものだと思う。ショスタコーヴィッチも取引が上手く、10月革命を讃えた交響曲第12番を発表する褒美として、交響曲第4番の初演、オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の再演、およびこの第13番の初演を許可することを当局から引き出した。 曲は冒頭から最後までバス独唱とバス合唱団が歌う形式が取られている。第1楽章は印象としてはレクイエムで、ことのほか充実した音楽を感じる。第2楽章は彼によくあるちょっと陽気なリズムであるが歌詞的にはかなり深刻である。第3楽章以降は暗い雰囲気がずっと持続する。政治的メッセージを別にしても、虐殺された人々を悼む強い意思が音楽から感じられる。 バスのペトレンコはやや明るい声質で、ちょっと曲にそぐわない面もあったが、代役としては十分な歌唱であった。ちなみにこの人はえらくもてはやされる存在で、このPROMSでは翌日も予定されているので都合4回も出演する。 ゲルギエフの指揮はまず文句のつけようがない。かなりレヴェルの高いものであろう。 写真は、終演後のペトレンコとゲルギエフ。
by dognorah
| 2006-08-21 08:00
| コンサート
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Comments(8)
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Sardanapalus
at 2006-08-21 12:42
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あ、代役君だ(笑)ぺトレンコは、私が行ったPROM2でもバスの代役でした。譜面を持ちながら一生懸命動きまわってバルトロを歌っていたのを良く覚えています。
>えらくもてはやされる存在で、このPROMSでは翌日も予定されているので都合4回も出演 本当は2回の予定が、大忙しですね(^^)1年に4回も出るなんて歌手として新記録じゃないですか?
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dognorah at 2006-08-21 22:37
そうですよね。あの時はジョヴァンニを地獄に引き落とす石像の役もしていました。この時期、暇でずっとロンドンにいたのでしょうね。
しかし、この日降板したバスが翌日、他の人の代役で出ていたのがちょっと不思議でした(次の記事に書きますが)。
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助六
at 2006-08-25 07:03
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レーピンのシベリウス、彼が19歳の時にデュトワ/ロンドン・フィルのバックで聞いたことがあります。最近の進境振りは目を見張るものがあり、何故か協奏曲は冴えず、ソロが圧倒的にいい人という印象です。プログラムもいつもシュトラウスやヒンデミットのソナタとか珍しいものをいつも一曲入れるのにも感心します(五嶋みどりもそうですね)。ヴェンゲロフとは正反対で内向的かつ内容感があり、もう大演奏家の時代は終わったと思っていたけど、ブラームスのソナタなど、「彼は今後もしかしたら…」と思わされるスケール感溢れる出来でした。私の予想は当たりませんが(笑)。
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助六
at 2006-08-25 07:05
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バビ・ヤール。仏オケで聴いたことがありますが(指揮・ソロは失念!)、胃が痛くなるような重苦しさでしたね。ナチ批判の名を借りたスターリン批判の色彩が濃厚という印象を受けました。
>ショスタコーヴィッチも取引が上手く 信条を貫いて作曲できない状態に追い込まれた人もいた中で、自らの変節さえ自己嘲笑の対象みたいに作品化してしまったところがある彼の態度は、そうしたアイロニーが彼の音楽スタイルの本質的部分でもあるがゆえに、どう評価するか難しいですね。最近のG・グラスを巡る論争とか思い出します。死後30年を経て彼の高評価は最終的に定着しつつあるけれど、ソ連史料とか使った精緻な伝記が出れば、論争再燃とかもあるかも知れませんね。
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dognorah at 2006-08-25 08:47
レーピンは昨年4月にも聴いて記事に書きましたが、同じく協奏曲よりもソロがいいという印象を持ちました。今回はアンコールはなかったので協奏曲だけですが、好印象でしたのでこの点でも心境があるのかもしれません。
ヴェンゲロフは先日登場してモーツァルトの弾き振りをしていたのをTVで見ましたが、協奏曲はなかなかのものだと思いました。
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dognorah at 2006-08-25 09:08
ショスタコーヴィッチは弱冠28歳のときに「ムツェンスク郡のマクベス夫人」でこっぴどくスターリンの批判を受けてオペラ作曲の筆を折ることになったのが相当痛手だったのだろうと思います。ということで私は非常に同情的です。圧力のない環境で才能を思う存分発揮できたら我々はもっとすばらしい音楽を享受できたのでは、と思うと残念です。
でも、当局におもねる態度をとやかく言う人はいるでしょうね。グラスの問題も難しいです。そのうち、詳細な事実関係が明らかになるのでしょうけれど。
お久しぶりです。以前何度かコメントさせて頂いたものです。古い記事へのコメント失礼します。
拙ブログにて、只今ショスタコーヴィチの13番の特集をしているのですが、Youtubeにこちらで紹介されているプロムスの映像が上がっています。 元の情報がキリル文字で書かれていたので、検索をかけてみたら、こちらの記事に辿り着きました。 URL欄にリンクした記事内で、言及させて頂きましたので、ご報告に上がりました。不都合があれば、仰って下さい。
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dognorah at 2009-11-17 07:33
ヴァランシエンヌさん、久し振りのコメントありがとうございます。またご丁寧に報告いただきまして恐縮です。YouTubeも3年前の演奏を今年になってから投稿したロシア人がいるんですね。何を思ってこんな古いのをと思いましたが他になかったんですね、きっと。
私はと言えば、このコンサート以来この曲は聴いていないです。滅多に演奏されないんですね。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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