7月18日、Arena di Veronaにて。
夏の間のOpera Festivalとして名高いヴェローナのローマ遺跡での公演を初めて観ましたが、想像をはるかに上回るすばらしさで、ほんとうに感動しました。 Carmen by Georges Bizet (1838-1875) Libretto: Henri Meilhac & Ludovic Helévy after Merimée Carmen: Luciana D’Intino Micaëla: Maria Luigia Borsi Frasquita: Cristina Pastorello Mercedes: Milena Josipovic Don José: Marco Berti Escamillo: Giorgio Surjan Dancairo: Franco Previati Remendado: Luca Casalin Zuniga: Victor Garcia Sierra Morales: Marco Camastra Direttore: Lu Jia Regia e scene: Franco Zeffirelli Costumi: Anna Anni Coreografie: El Camborio オーケストラについては主催側資料に記述がなく、不明。 歌手 女声陣はカルメン、ミカエラを筆頭に全てよい声と歌唱でしたが、特にカルメンを歌ったルチアーナ・ディンティーノには圧倒されました。2万人が座れるというこの広い野外円形劇場はマイクを使わないのですが、彼女の美声は隅々まで響き渡ります。歌唱もすばらしいし、演技もまさにカルメンにふさわしい。すごい歌手です。 ミカエラを歌ったボルシは声量こそカルメンにはかなわないものの、そこそこの声量で歌が上手く、いいソプラノであることはすぐわかります。 ドン・ジョゼを歌ったベルティも美しい張りのある声をした、いいテノールです。やはり声量はカルメンにはかないませんが。ミカエラとの2重唱は声量的なバランスがよく取れるので両者の美声はとても聴き応えがあります。ブラヴィをたくさん貰っていました。 しかし、エスカミーリョがひどかった。いいバリトンは世界的に豊富に存在するのに何でよりによってこういう人を、と思ってしまいました。声量は並、声はあまりよくない、歌が下手、といいところなしで、闘牛士の歌も盛り上がらず。私から唯一ブーを貰った人です。他の男声陣はそこそこ上手かったので余計目立ちました。闘牛士らしい見栄えのする衣装がよく似合っていただけに惜しいことです。 合唱は大人数ですがアンサンブルがすばらしく、すごい迫力でした。 指揮者 中国人指揮者のルー・ジァは派手ではないものの音楽を手堅くまとめていました。オケの響きは歌ほどよくなかったです。歌手は舞台上で円形の壁に近いところで歌うけれど、オケは一段下がった位置で、壁の恩恵を受けないせいでしょうか。通常の第1ヴァイオリンの位置にチェロが配置されているのが変わっています。音響の点で試行錯誤した結果でしょうか。 演出 しかし、この公演を印象深いものにしたもう一つの要素はその舞台演出でしょう。全体的に伝統的なものですが、広い舞台を余すところなく使い切るデザイン、大勢の登場人物や10頭以上の馬などが無駄なく動き回る統率力、見栄えのする装置や背景、さすが名監督ゼッフィレッリの作品で、Spectacularという言葉がぴったりの出来です。ダンサーたちの踊りも見応えがありました。衣装も雰囲気を盛り上げるいいデザインです。 次の写真は終演後の歌手たちのカーテンコールです。中央の指揮者の両隣がカルメンとジョゼ、ジョゼの隣がミカエラです。 その他雑感 ・次の写真は開演前の舞台の準備の様子ですが、遠景の山々が描かれたパネルに仕掛けがあって、下部をめくるとセヴィリアの町並みが現れます。係員が二股状の道具とロープを使って次々とめくっていくと見事に町並みに変化していくのが面白くて写真に撮ってしまいました。 ・始まる前に観客は一人一人小さなローソクに火を灯します。次の写真は舞台の正面の席の様子ですが、小さな明かりに雰囲気が感じられます。これは1913年にこのヴェローナ音楽祭がヴェルディ生誕100年を記念して始まったとき、まだ電気設備がなくて全体が暗かったこともあって、台本を読む明かりとして観客によって使われ始めたのが今日でも伝統として残っているということです。 ・カーテンコール終了後歌手達とダンサー達が舞台右袖に集まりました。そして各歌手がダンサーを相手に踊り出しました。指揮者も参加して、やんやの喝采を浴びています。 ・開演が午後9時15分、終演が午前1時15分でした。4幕物のオペラなので3回のインターヴァルがあります。手動で次の舞台をセットするのでどうしても時間がかかってしまうのです。ヴェローナは昼も夜も雲ひとつない快晴で安心して野外オペラを堪能しましたが、時には雨が降って中断や中止になることもあるらしく、その点私たちはラッキーでした。開演直後は扇子が欲しい状態でしたが終演ごろはちょっと肌寒い程度まで温度が下がりました。 ・観客は玉石混交で、値段の高いアリーナ席は男女ともかなりのおしゃれ姿です(イヴニングドレス+ダークスーツ)。私の座った階段状の指定席でも女性は結構頑張っています。野外劇場だからもっとラフだろうと高をくくっていましたがとんでもない。イギリスとは違いますね。上段の自由席になってようやくGパンや短パン姿が認められました。マナーはかなり悪い人が混じっています。開演直後は携帯の呼び出し音が聞こえるし、開演から終演までひっきりなしにカメラのフラッシュ攻勢です。これはかなり気になります。 ・席の予約はインターネットでやりましたが、確認電子メールのコピーを持ってオフィスに行き、切符と交換するシステムです。ところが、これからの公演を予約する人たちと一緒に行列するので、1時間も炎天下で待たされる羽目になりました。私は交換するだけなので1分で済む作業です。効率の悪さにあきれてしまいます。交換は公演当日に限られているので、何公演も予約した人はそのたびにこの行列の苦痛を味わうことになります。イタリアは郵便事情が悪いので主催側は大事をとって郵送サーヴィスをしないのです。 ・今年は様子見のため1演目しか見ませんでしたが、来年はぜひ3演目ぐらい見たいものだと家内と意見が一致しました。彼女も今回の公演には大感激したのです。
by dognorah
| 2006-07-27 05:11
| オペラ
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Comments(14)
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stmargarets
at 2006-07-27 06:49
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お帰りなさいませ!
早速の記事でヴェローナの様子が分かって楽しいです。 私も来年辺り、是非行かねば!
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dognorah at 2006-07-27 08:01
stmargaretsさん、今年はザルツブルグに振られてこういう結果になりましたが、行ってほんとによかったです。これほどとは思いませんでした。ザルツブルグも恐らく同じように感激するでしょう。感想を楽しみにしていますね。
ベローナ行かれたんですか。
私は昨年行きました。(URL参照) チケットの交換、そんなに混みませんでしたが 人気があったんでしょうか? 僕はアイーダを見て、ルーランドットを雨で流しました。 ザルツブルグ、チケット取れているのかと思っていたのですが 違っていたんですね。
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Matthew
at 2006-07-27 22:32
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dognorah at 2006-07-28 08:19
Matthewさん、ザルツブルグは切符が取れなかったのです。ネトレプコ人気で非常に狭き門でした。それで急遽ヴェローナに変更した次第です。Box Officeが込んでいたのは二日後のアイーダ人気のせいだったと思います。
昨年の記事を読ませていただきました。あのアイーダの舞台装置がアレーナの外に野ざらしになっていました。仕舞うところがないから仕方ないですね。次の公演は二日後だし。 昨年も雨が降ったのですね。そういうリスクがあるのなら今年のように熱波で暑くても雨は一切心配ない方がいいですね。しかし切符の払い戻しでまたすごく手間がかかりそうですね。 ところで、ローマのコロッセウムは今は中に入れないんですか?私が昔行ったときはちゃんと中を見学できました。
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助六
at 2006-07-28 08:32
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土産話、待ってましたよ!南仏・伊は猛暑だったのではとかチラリと気になったりしてました。
完売ではありませんでしたか?伊人主体の公演だけど台詞の処理はどうしてました?もしかしてレチタティーヴォ版?なんてことはないと思いますが。 >オーケストラ モノの本には必ずイタリア常設オケの選抜メンバーと書いてあるけど、実際にはどの辺のオケの人が入るんでしょうね。フリー・学生なんかも入るんでしょうか。ちゃんと調べたことがありません。 >エスカミーリョ スルヤンは80-90年代ムーティがよくスカラで起用してたし、ペーザロでも常連で、ロマン派ベルカントを主なレパートリーにしてましたね。まあ当時からソツなく務めてます以上の印象はありませんでしたが、基本的にバスの人ですし、今エスカミーリョはキツそう。
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助六
at 2006-07-28 08:34
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>第1ヴァイオリンの位置にチェロ
ピットのオケ配置は、物理的制約・劇場の習慣・指揮者の意向で実に様々ですね。バスティーユも通常配置だったり、チェロが左に来てることも多いです。クライバーが振ったときのスカラも変わった配置だった記憶がありますが、他のときはどうだったか記憶にありません。それがヴェローナのスタンダード配置なんでしょうかね?>まだ電気設備がなくて なるほど、当時は野外劇場に電気設備はなかったでしょうね。上演中明かりを落とす習慣が定着するのは、特にイタリアでは遅かったようで、1874年に「アイーダ」ヴィーン初演の指揮のためにヴィーンを訪れたヴェルディがヴィーンでは明かりを落としてるのに驚いてるほどです。しかし写真拝見すると、やはりイタリアの夏の夕空は美しそう…(羨)。 >3回のインターヴァル 90年代初めまでのスカラは「フィガロ」も「オテロ」も「ドン・カルロ」も幕間3回入れて延々とやってましたが、今のイタリアはどうなんでしょう。
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助六
at 2006-07-28 08:35
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>もっとラフだろうと
そうですか、野外でもねぇ。チケットも結構高いですしね。ただドイツ人が多いせいとかはありませんか?80年代のペーザロとか高級レストランなんかも、夏はとにかく暑いし、ラフで気楽で助かった記憶があるのですが、やはり場所によりけりということでしょうか。 >効率の悪さにあきれ 歓喜と同じくらい苦痛が多いところがイタリア、イタリアを彩るファンタジーのひとつ、個々人に卓越した人は多くても社会の組織能力に欠けるギャップがイタリアの魅力の源泉…などとは昨今はさすがに思えなくなってます(笑)。 以上諸点、Bowlesさんのコメントも期待してます。
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Matthew
at 2006-07-28 21:56
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ローマのコロッセウムは入れるんですか?
私が行ったときは鍵がかかっていた。 たまたまかな? 日本に帰って最も心残りなのが10月のネトレブコの公演です。 はっきり言って、オペラ歌手では最も好きです。 また聴きたいなぁ~。ちょっと前に日本でも歌ったんですよね。 入れ違い。。。。 そういえば、来週からはアリーナ・コジョカルが日本で踊りますが。 手に入るチケットは平日午後6時開演って、これサラリーマン 見れないっす。
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dognorah at 2006-07-28 23:53
助六さん、早速のコメントありがとうございます。
いやー、暑かったです。どこかで38-9度でした。 カルメンの席は私の回りは空席がありませんでしたが、アリーナの高い席はちらほら空いていました。 公演は、地の台詞が入ったもので、私の持っているDVDやCDと違和感がなかったのでレシタティーヴォはついていなかったと思います。私の周りにフランス人の団体がいたので、イタリア人の発音について訊いてみましたがかなり理解できるフランス語で歌っているといっていましたね。 スルヤンは私が知らなかっただけで結構有名な人だったのですね。 服装ですが、何をするにもイタリア人はおしゃれというのが私の印象です。ついでフランス人だろうと思います。コヴェントガーデンでもおしゃれな人はそういう外国人です。しかし、エクスでもヴェローナでも炎天下できちんとスーツを着ている人たち(多分、多くはビジネスマン)が結構いるのにはびっくりします。こちらはTシャツに半ズボンでもヒーヒー言っているのに。 会場では当然各国人が大勢いますが、特にドイツ人が多いという印象はなかったです。
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dognorah at 2006-07-28 23:59
Matthewさん、ネトレプコは絶対日本の方がロンドンより頻繁に聴けますよ。
しかし平日の6時からバレーの公演ですか。主催側は何を考えているのでしょうね。やはり、休暇ですよ。あるいは早退して見に行きましょう。まさか帰国したらがむしゃらの働き蜂ってことはないでしょうね。
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canary-london at 2006-07-30 09:11
ヴェローナは今月初旬にミラノへ行ったときに日帰りで訪れ、残念ながら公演は見られなかったのですが劇場には足を運び感銘を受けました。
野外劇場であるため音響については周囲は賛否両論だったのですが、dognorahさんのエントリを見てすっかり行きたくなりました。 来シーズンは是非行ってみます!
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dognorah
at 2006-07-30 18:31
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canary-londonさん、公演をご覧になれなかったのは残念ですね。来年ぜひ行ってみてください。音については当然室内劇場に比べるべくもありませんが、意外にいけるのですよ。
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清水直喜
at 2023-04-16 23:58
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プロフィール
ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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