(12月4日追記)
(2006年8月16日、指揮者の名前標記修正) 12月2日に日本から帰ってきて、翌日早速バービカンホールで開催のBBC交響楽団定期演奏会に行ってきました。 指揮はプラハ・フィルを創立してその桂冠指揮者となっているビエロフラーヴェク(Jiří Bělohlávek)というチェコ生まれの方です。2006年7月からBBC交響楽団の主席指揮者に就任することになっています。 マーラーはボヘミア生まれですからこの指揮者にとっては同郷ということでしょうか。15歳でウイーンに出てきて音楽教育を受け、37歳でユダヤ教からキリスト教に改宗した後ウイーン宮廷オペラの音楽監督に就任します。この仕事が多忙を極めたため、作曲活動は夏の休暇中に集中することになりました。 この第9番はというと、1907年にウイーン宮廷オペラの音楽監督の座を追われ、やむなくNYへいってメトロポリタンオペラとNYフィルの仕事をした後、休暇で帰ってきた1909年夏から作曲が始められました。この曲には、ウイーンで職を失ったこと、長女の死、若い奥さんアルマとの不仲、心臓病の兆候、など多くの不幸な出来事が影を落としていると言われています。第4楽章のアダージョは自分の死の予感もあって書かれたことでしょう。完成後も作曲意欲は衰えず、第10番に着手しますがそれもアダージョからというのはそのときの精神状態をはっきり現しているような気がします。残された最後の娘を連れて実家に帰ってしまった妻アルマが不倫をしたという事実が引き金となって1911年に心臓発作で死亡します。 ビエロフラーヴェクの指揮ぶりはとてもしなやかで、第1楽章冒頭の弱音での始まりからピーンと緊張の糸が張られながらも緩急自在に美しくダイナミックな音楽が奏でられます。長い第1楽章も最後まで集中して聴かせますが、もう少しスケール感が出るともっとよかったかもしれません。第2楽章の冒頭は第2ヴァイオリンの合奏で始まります。すぐに第1ヴァイオリンが加わって美しい弦楽の競演が続きますが、メリハリもあってなかなか楽しめる演奏です。ただし後半はちょっとだれ気味だったのが惜しいところ。しかし第3楽章はまた持ち直してやや速めのテンポでダイナミックな演奏。第4楽章は弦のアンサンブルもよく、思いっきり美しいアダージョ。とてもよかったと思います。曲が終わって指揮者が腕を下ろし、さらに楽団員に向かって軽くお辞儀をし終わるまで拍手がなかったのも余韻たっぷりでいいことでした。全体としてはやや小ぶりにまとまっていたとはいえ、なかなかいい演奏で、楽しめました。 終演後、指揮者と楽団員2名が出席のもとで聴衆とのコミュニケーションを図る「Meet the Musicians」というイベントがあり、100名程度の聴衆が集まりました。その中で、今日の楽器配置が話題になりました。普段のBBCの配置ではなく、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれる例のやつです。指揮者が、この曲ではこの配置がいいという解説があり、身振りを交えて左右の弦を振り分ける効用を説いていましたが、聴衆の間からもよかったというコメントが多数出ていました。しかし、次から次と聴衆の間から発言があるし、楽団員(ティンパニー奏者とコントラバスーン奏者)もよくしゃべるので、あまり長時間にならないように司会者が適当なところで打ち切りました。 感心したのはすべての発言者がなんかしらの落ちを付け加えてみんなを笑わせることです。さすがイギリス人です。こういう中で、まじめ一方の質問なんかとてもする気にはなれません。 ビエロフラーヴェクは割りとまともな英語をしゃべる人ですが、やはりときどき聴衆の英語が聞き取れないみたいで、司会者が説明したりしていました。 来年はマーラーの3番を同じ組み合わせでやるそうです。それも楽しみにしましょう。
by dognorah
| 2005-12-04 10:56
| コンサート
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