ティペットのオペラ「真夏の結婚」(11月3日)

ロイヤルオペラの公演です。
ティペット(Michael Tippett, 1905-1998)は、ロンドンで生まれRoyal College of Musicを卒業したイギリスの作曲家でいろいろなジャンルで作品を残していますが、生誕100年の今年はPROMSでも管弦楽曲が各種取り上げられましたのも記憶に新しいところです。
オペラは全部で5つの作品があり、今回上演されたものは1955年に自ら台本を書いて作曲したもので、彼の最初のオペラです。初演は同じ年にロイヤルオペラでなされ、今回の上演は1996年の3度目のプロダクションの再演です。彼の生誕100年と作曲されてから50周年という節目があって久々に上演されることになったようです。

あらすじ
(第1幕)朝
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駆け落ちした若い二人マーク(Mark)とジェニファー(Jenifer)が結婚するというので真夏の美しい日に、とある森のそばの寺院周辺に友人たちがピクニック姿で集う。しかし寺院から出てきたのはAncientと呼ばれる見知らぬ男女とその下に仕える10人ほどのダンサーたち。陽気なマークは彼らに議論をするも埒があかず。そこに現れたジェニファーは浮かない顔。人生いろんな選択肢があるというのになぜ私はこれを選ばなければならないの?と土壇場になって結婚に懐疑的になり、寺院付属の螺旋階段を上がって空のかなたに消える。マークはショックを受けてじゃあ自分は日陰にと逆に地下に潜る。
そこに娘ジェニファーを探しているKing Fisherが秘書ベラ(Bella)を伴って現れる。接触するすべての人とのやり取りで全く娘の居所情報を得られなかった彼が癇癪を起こしていると、そこへ突然マークとジェニファーが出現するが、二人共にまだ納得が行かないまま父親を無視して再び別の方向に姿をくらます。

(第2幕)昼
ベラとその恋人ジャック(Jack)が愛を語り合い、森の中でよろしくやっている間に先ほどのダンサーたちが登場して「The Earth in Autumn」「The Waters in Winter」「The Air in Spring」という3つのダンスを連続して踊る。

(第3幕)夕方と夜
ようとして行方の知れなくなった娘を案じてKing Fisherは、人々に命じて千里眼の利く女Ssostrisを捜してくるように要請する。彼女が登場して、お花畑にいる二人の状況を伝えるが、彼女はさらに神聖な結婚の儀式についてとうとうとしゃべりだすと我慢できなくなったKing Fisherは彼女のベールを剥がそうとする。Ancient達から危険な行為であると注意を受けたにもかかわらずそれを実行する。
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すると寺院が蓮の花のように開き、中にマークとジェニファーが立っている。怒りのあまりマークを射殺しようとしたKing Fisherは突然死亡してしまう。その後ダンサーが再び登場して「Fire in Summer」という踊りを披露する。夜が明けて人々は朝日の来る方向に向いて合唱しているとどこからともなくマークとジェニファーが現れ、人々の祝福を受けながら結婚する。

出演
マーク:Will Hartmann
ジェニファー:Amanda Roocroft
キング・フィッシャー:John Tomlinson
ベラ:Cora Burggraaf
ジャック:Gordon Gietz
ソソストリス:Elena Manistina
He-Ancient:Brindley Sherratt
She-Ancient:Diana Montague
指揮:Richard Hickox
演出:Graham Vick

このオペラは神話、伝承などいろいろな素材が噛み合ったもので、心理劇、真理探究劇、魂(Soul)の探索といった要素もありちょっと複雑怪奇です。あまり分けのわからいまま二人は結婚してもいい心理状態になってオペラは終了するわけですが、終わった後何か心に響くものが感じられ、先般観たニールセンの「Maskarade」などとは深さが違います。
音楽はなかなかすばらしく、合唱が多用されていますが(時にはうるさいぐらい)すごく効果的です。今回も合唱の質がすばらしい。
マークを歌ったWill Hartmannはタミーノ役で好演したのを覚えていますが今回も陽気な若人の役を過不足なく歌っています。いい声でした。対してジェニファー役のAmanda Roocroft、私は3年振りですが(前回はマイスタージンガーのエヴァ)、第1幕前半はやや高音域が掠れていてこれをずっと聴くのはいやだなと思っていたら再登場したときには直っていてほっとしました。全体としては悪くなかった。キング・フィッシャーのJohn Tomlinsonは先日ジークフリートのヴォータンで感心したばかりですが、今日もすばらしい声で大満足です。この人は来月もBilly Budd(ENOでの公演)に出るのを聴きに行くのでこのところずっとイギリスで活躍ですね。
ベラを歌ったCora Burggraafは、私が切符を買ったときには名前がなく、いつの時点かで代役になったものと思われますが、ロイヤルオペラ初登場です。なかなかすばらしい歌唱を聴かせる人で、今回のうれしい発見です。オランダ人らしい背の高さですが、美人で愛くるしい人です。音楽はイギリスで学んでおり、Royal College of Musicを卒業しているのでティペットの後輩ですね。ジャックを歌ったGordon Gietzもそこそこいい歌でした。Elena Manistinaも登場時間は短いものの、うまい歌手でした。すごいデブですが。
Richard Hickoxの指揮はとても手堅く、淀みなく魅力的な音楽作りです。

舞台は3幕とも基本的に同じで、段差のある四角い舞台が角を手前にして置かれ、左奥に寺院を現す球形の部屋が置かれ、右手前に途中で千切れた螺旋階段が置かれています。第2幕だけは、ダンスのスペースを確保するためでしょう、球形の部屋が上に吊り上げられ、螺旋状の階段がなくなっています。寺院の奥は巻紙を破いたようなデザインで壁が作られ、その向こうに木立や田園風景が広がっています。照明とも相俟ってなかなか幻想的な空間に仕上がっています。

第2幕は男女10人によるダンスシーンが観ものになるわけですが、3種類のダンスとも振り付けが一本調子でやや退屈なのが惜しまれます。

オペラは全編にわたって、ティペットが言わんとしたことはかなり豊富に仕込まれている感じがします。
まず、幕が上がると音楽はまだ開始されず、子供時代のマークが出てきて球形の寺院を50センチぐらいの大きさにしたボールを拾って遊びます。すると、螺旋階段に寝そべっていたAncient Dancerの一人(これも子供という設定)が参加してボールの奪い合いとなる。第1幕中にマークは友人たちにあのAncientsというのは何者?と訊かれるのですが「よくわからないけれど、子供のときからこの辺で出会っていた人たちだよ」と答えるのはこれを下敷きにしているわけです。

音楽が始まると友人たちが集まって合唱するわけですが、この人たちはごく普通の人たちを代表しているのでしょう。最後まで主役たちの観衆であり、ピクニックで酔いつぶれて喧嘩したりもしますが基本的に善良な市民的振る舞いをします。

Ancientsは黒い服に黒い帽子でみんな仙人の杖みたいな長い棒を持っています。ダンサーは全員裸足です。この連中とSosostrisは神話的、霊魂的、神聖なものを代表しているようです。

King Fisherは権力を表現したものでしょう。なんでも自分の思い通りにならないと怒り、力ずくででも意志を通すところがあります。

そして2組の若いカップル。ベラとジャックはごくありふれた男女ですが、主役のマークとジェニファーは共に何か形而上的なパワーに触れて意識が変化します。

これを全部理解するにはもう少し勉強してさらに観る必要があると感じました。見る価値のあるオペラであることは確かです。
プログラムを見ていたら、ティペットの記事と共に次のような一連の水彩画がが散りばめてあり、不思議とこのオペラの雰囲気を感じさせるものでした。作者はSimon Palmerという1956年生まれの画家です。
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左:The Novices Searching for their Souls
中:Two Images of Himself in the Future
右:Pagan Rites of Spring
特に左の、「自分の魂を探す修道士達」という題名がオペラの内容と重なるような気がします。
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by dognorah | 2005-11-05 04:35 | オペラ
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