先の記事からちょっと時間が経ってしまいましたが、その後編です。
シッカートはフランスにいる間、ドガ以外にも多くの画家たちと付き合っているわけですが、彼のヌードをテーマにした作品にはドガやホイッスラーの影響も認められると共に、ボナール(Pierre Bonnard)やヴィヤール(Jean Edouard Vuillard)との共通性も認められているようです。それは、室内にモデルを配して、その部屋との心理的関連性を表現しようとしたことです。ただし、この3人のアプローチの仕方は異なり、ヴィヤールはアトリエや室内のモデルを描くときはヌード以外の室内の家具調度に対しても何らかの意味を持たせる表現をするのに対して、シッカートとボナールはモデルに特殊なポーズを取らせて、そのモデルに対するイメージを最大限に膨らませた表現と言われています。そして、この二人にもまたかなり異なる点があるのですが、それはボナールが若い肉体を賛美するポジティヴな描き方なのに対して、シッカートは逆に醜さとか不潔さを喚起させるような描き方をしていることです。モデルにしても、ボナールが自分の奥さんを使っているのに対してシッカートは娼婦を使うことが多いようです。シッカートに似た傾向は、彫刻家のロダンの当時の作品にも見られます。比較のために、会場には小さなブロンズ像Study for ‘La Muse Nue, bras coupes’(1905-6)も並べられていました。この作品はモデルが片足を上げて陰部を強調する姿勢を取っています。左の写真は、上から、ヴィヤールの「An nude in the studio」、ボナールの「The mirror」、シッカートの「Hollandise」、ロダンの「Study for ‘La Muse Nue, bras coupes’」です。 この、人物と部屋の中の様子を心理的に関連付ける様式はさらに進んで、心理描写そのものが主題になって行きます。この面においてもドガには「Interior」という先駆的作品(写真右)があり、それと対比する形でシッカートの「Ennui(倦怠)」(写真右下)が最後の展示室に掲げられています。ドガの絵は室内の男女に何があったかの説明はなく、ただ二人の間に暴力を含む何らかのいさかいがあり、その後の重苦しい空気が表現されています。 シッカートのものは、一見平和そうに見える二人の男女の間に救いようのない倦怠感が漂っている様がはっきり感じられる作品となっています。 シッカートはこの後イギリスに戻り、彼の元に集まったイギリスの画家たちと独自の会がグループを形成して行くので、ドガに代表されるフランスの画家たちと直接結び付けられる作品の紹介はここで終わっています。全体としては、後世に残る傑作の展示というよりは、絵画史の一面を解説的に繰り述べた地味な展示であるといえます。それもあってか、私が訪問した2回とも会場は客の入りが少ない静かな雰囲気で、これが会期中の来年の1月中旬まで続けば、失敗企画という評価になるかもしれません。 もともとドガもトゥールーズ・ロートレックもあまり好きな画家ではなかったのですが、今回もそれを再確認しました。シッカートもまとめて見たのは今回が初めてですがあまり好みの作品は見つけられませんでした。この展覧会では、前回述べたようにジョージ・クローセンのような好きなタイプを見つけることが出来て収穫もあったのですが。
by dognorah
| 2005-10-23 21:30
| 美術
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Comments(2)
以前にアドバイス頂いたおかげで?無事に公演が終了いたしました。
心配していたような本格的なモノでなくて、雰囲気だけで乗り切れました!ありがとうございました。 http://plaza.rakuten.co.jp/taihoo/diary/200510230000/ で、写真付きで報告させていただきます。
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Commented
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dognorah at 2005-10-24 00:02
たいほーさん、無事終了されたようでよかったですね。お写真拝見させていただきましたが、場面に応じて雰囲気を変化させていらっしゃる様子がよくわかりました。一連の公演に全部同行されるのですね?
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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