美術史上、ドイツ表現主義絵画で重要な画家といわれるGabriele Münter(1877-1962)の1906年から1917年の間に描いた油彩画21枚を回顧する展覧会がCoutauld Institute of Art Galleryで開催中なので見てきました。まとまって展示するのはイギリスで初めてのことだとか。右の絵はカンディンスキーが描いた彼女の肖像である。
彼女は、1901年にミュンヘンに来てカンディンスキー(Wassily Kandinsky)が新しく開いた絵画学校に入学する。そして両者は親密になり、学校は1年で閉じてしまったが恋愛関係はそのまま続き、彼の奥さんが別居すると、内縁の妻として同棲する。この関係は1914年に世界大戦を理由にカンディンスキーがロシアに帰国するまで続いた。 彼女の作風は当初は当然ながらカンディンスキーの完全なる影響下にあったが、次第に独自の境地を発展させてドイツ表現主義芸術の先駆の一人となるとともに今度は逆にカンディンスキーが彼女の影響を受け始める。そして1911年にはカンディンスキーやマルクと共に芸術家集団Der blaue Reiter(青騎士)を組織して、非具象画を推し進める。 左の絵はミュンターの作品で上から、 Gegen Abend 1909年 Jawlensky & Werefkin 1909 Village Street in Winter 1911 Meditation 1917 である。 カンディンスキーの1908年から13年ごろの作品を見るとミュンターの作品かと見まごうものがある。彼にはそれが耐えられなかった。彼女から影響を受けたことなど絶対に自分からは認められなかった。彼女が依然として彼を愛していたにもかかわらず、戦争勃発を理由に彼は強引に同棲生活に終止符を打ち、それ以降は一人で模索しながら独特の抽象画を物するようになった。恐らく芸術家としての自分を確立するのに危機を感じたのであろう。ミュンターの方はそれ以降はあまりスタイルは変わっていない。 右の絵は、カンディンスキーの作品で、上から、 Autumn Landscape 1908年 View of Murnau 1908年 である。ミュンターの画風に酷似しているのがわかる。 表現主義の手法は、対象物体からオリジナルの色を剥ぎ取り、自分のイメージを表現するために考えた色を代わりに与えることだとギャラリーの学芸員が解説してくれたが、ミュンターの特徴としては、オブジェの形から音楽的リズムを、色からハーモニーを奏でさせる表現法らしい。派手な色使いながら、絵全体から暖かい詩と音楽が感じられる。私は特に1917年のMeditationに惹かれた。
by dognorah
| 2005-07-20 03:32
| 美術
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Comments(9)
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kalos1974 at 2005-07-22 19:58
記事を拝見して、カンディンスキーとミュンターの暮らした、ムルナウにいきたくなりました。レーンバッハ美術館も最近ご無沙汰しているので、帰国前にいっておかねば・・・。
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dognorah at 2005-07-22 20:18
ぜひ行って記事をアップしてくださいな。レンバッハには表現主義の絵画が一杯あるのでしょう?
おっと、ムルナウのスペルを間違えている。直さなくちゃ。
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hummel_hummel at 2005-07-25 18:45
ロンドンでもミュンターの特別展ですか!近年再評価が進んでいるようですね。当時のカンディンスキーとミュンターは、どちらがどちらに影響を受けたというよりも、ほとんど共同制作といっていい位、同じ画風に思えてしまいます。
ムルナウで二人が暮らした家にも行きました。のどかな風景に囲まれ、花でいっぱいの庭付きの一軒家。家中、明るい色彩で塗られて、とても楽しい家です。それだけに、ひどい別離が悲しく思えますが。 カンディンスキーはミュンターには一度も会おうとしませんでしたね。弁護士を通しての手紙で、全ての作品の返却を要求した際は、さすがのミュンターも怒り、彼も反省して、ほとんどの絵を彼女のもとに残しました。お陰で今でもレンバッハハウスで当時の絵をまとめて観ることができます。
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dognorah at 2005-07-26 00:04
ムルナウも行かれたのですか!フンメルさんは芸術家ゆかりの地をほとんど網羅していらっしゃいますね。カンディンスキーのそのような仕打ち、初めて知りました。相手がまだ自分を愛していることは認識できなかったのかなぁと悲しくなりますね。カンディンスキーが別の女性と結婚したニュースにショックを受けて3年ぐらい絵を描かなかったそうです。
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kalos1974 at 2005-07-26 06:40
ミュンヘンは今日も雨でした。こういう日がつづくと、なかなか遠出する気になれません。ムルナウは数年まえに一度いったきりで、しかも駆け足だったので、ぜひゆっくり見物したいのですが・・・。
もし表現主義の絵画がお好きでしたら、シュタルンベルガー湖畔のブーフハイム美術館もよいかもしれません。風光明媚なところですし、半日遠足には最適です。 しかし、刻一刻と帰国の日が近づくのはさみしいものですね。大学が休みをくれなければ、今度ドイツにこれるのは、来年の9月か12月です・・・。
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dognorah at 2005-07-26 23:29
kalos1974さん、情報ありがとうございます。ミュンヘンは昨年11月に仕事で行きましたが、果たして今度はいつ行けるかちょっと予測がつきません。
そちらも今は雨が多いのですか。ヨーロッパの夏も今は小休止というところですね。 帰国は8月でしたっけ?ミュンヘンの音楽情報が読めなくなるのはとてもさびしいです。残りの滞在を十分お楽しみください。
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paul-ailleurs
at 2005-07-31 08:26
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はじめまして。先日1日だけ滞在したロンドンで、偶然この美術館に入りました。入ってみて素晴らしい絵が沢山あり、ミュンターの存在を知ることができ、ミュンターからカンディンスキーを見直すこともでき、感動しました。またいろいろと紹介していただければ幸いです。
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dognorah at 2005-07-31 19:54
paul-ailleurs さん、一日だけの滞在でここに来られる人は少ないと思いますが、規模的にも短時間で見るのにちょうどいいですよね。作品数は少なくても厳選された名作ばかりという感じで満足度も大きいと思います。ミュンターを展示していたスペースは数ヶ月に一回の割合でテーマに沿った模様替えがされますので、私もそのペースで訪問しています。でも、行く度に前に見た絵から新しい何かを発見できるので、芸術というのは奥が深いものだと実感します。今後ともよろしくお願いします。
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at 2005-11-21 16:44
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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