メシアンの四重奏曲演奏会 - 7月13日

City of London Festival(7月4日の記事参照)のプログラムのひとつに参加した。午後6時から約1時間のタイムスロットに行われるコンサートで、場所はSt Bartholomew-the-Greatというシティにある小さな古い教会である。ここは知人が数年前に結婚式をあげたところで、訪問したのはそれ以来となるが、相変わらず幽霊が出そうな簡素ではあるが古びた、まるで廃墟の内部にいるような雰囲気。祭壇を横に見て、通路を挟んで聴衆が向かい合う形式で、約200人ぐらいが座れる。満席であった。

さて、今日のプログラムは、メシアン作曲のQuartet for the End of Time(時の終わりのための四重奏曲)である。
演奏は、次の4人によるもので国際色豊かである。この4種類の楽器で演奏する4重奏はあまり多くないであろうから、今回のコンサートのために集まったものと思われる。
 ヴァイオリン:Catherine Leonard(アイルランド人)
 チェロ:Christian Poltera(スイス人)
 クラリネット:Martin Frost(スエーデン人)
 ピアノ:Simon Crawford-Phillips(イギリス人)

1940年に軍隊に召集されていたメシアンがフランスに侵入してきたドイツ軍に捕らえられ、ポーランドにある収容所に送られた。数千人いた捕虜の中にヴァイオリン奏者、チェロ奏者、クラリネット奏者がいることを発見し、音楽家ということでお互いに親しくなる。そこで、この曲を作ることを思い立ち、音楽に理解のあった収容所の所長に紙を提供してもらう。そうして1941年に出来上がったのがこの曲である。所長の更なる好意があったのであろう、5000人の捕虜たちを聴衆としてコンサートが開催されることになった。それがこの曲の初演である。

この予備知識があったせいでもあるが、とても厳粛な気持ちにさせる音楽である。当時の聴衆は久しぶりのコンサートに、イメージとして持っていたであろう音楽概念が満足される音を期待していたに違いないと思う。しかしこの音楽は20世紀音楽そのものである。力作である。佳作である。が、メシアンは捕虜を癒そうと思って書いたわけではないと確信する。通常の自分の作曲活動の延長であったと思う。演奏者を選択する余地がなかったわけなので、各奏者の技量が曲に反映されているとも思う。クラリネットはすごいテクニシャンであったのだろうと想像される。耳を済ませないと聞き取れないようなピアニッシモから力一杯のフォルテまで一気に吹き上げるパッセージがいくつもあり、全身の力を振り絞って幅の広い表現を長時間にわたってソロ演奏する場面があった。彼のために、その楽章が終わった後1-2分の小休止を取っていたくらいだ。チェロとヴァイオリンにも(これらはピアノも参加するが)それぞれ独奏する場面があり、これは作曲家の配慮なのであろう。中音域以上しか使わないチェロの独奏も哲学的音楽だが、過去のある時期に体験した何かを思い出させる雰囲気がとても印象的だった。

演奏がこれまたすばらしかった。上にも書いたように普段まとまって演奏活動しているわけではないのに、すごいことだ。各奏者が並々ならぬ実力を持っている上でのこの完璧なアンサンブル。終了後は惜しみないブラボーと拍手で奏者をねぎらった。

私はこの曲を聴きながら、以前聞いた「音楽と戦争」という講演を思い出した。そのことに関しては記事にもしたが、戦時下では音楽は体制側に利用されるだけの存在になる、という趣旨であった。にもかかわらずそこにいた人々にとっては心の糧になったのは間違いないのだ。今回は作曲したということで後世にそれが残ったのだが、貴重なメッセージが伝わったと思う。
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by dognorah | 2005-07-15 00:05 | コンサート
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