普段客席からしか見ていないこの劇場の裏側を見せてくれるツアーに参加してみました。お客は20数名が集まって盛況です。ただ、まだ本番が上演される時期なのでオーケストラはリハーサルの最中で、本日の見学コースはかなり制約を受けたようです。歌手もあちこちの部屋を使って声の調子を整えていました。
最初に見学させてもらったのは、衣装部です。プレミエをやるたびにすべての衣装は新着されるわけですが、準備は1年前からするとのこと。いろんな種類の生地が用途によって使い分けられますが、歌手や俳優の採寸から始まる完全オーダーメードです。デザイナーの指定する色が特殊な場合は、染色部門で染めることまでやります。何度も使うので、オペラハウスの中に大きな洗濯機や乾燥機まであるそうです。 次はステージの裏側ですが、本日もスタッフが活動していますのでこれはガラス越しに見せてもらえるだけです。ちょうど目の前に、先日私が見たリゴレットの舞台装置が置いてありました。近くで見ると想像以上に巨大ですね。 ここで、コヴェントガーデンの舞台の構成法について詳しい説明がありました。聞いてびっくりです。私が今まで客席から見た事実から想像していたやり方とは全然違いました。どうするかというと、ワゴンシステムということで、各演目および各幕で必要な舞台をあらかじめワゴンの上に作っておき、それをレールの上を転がして表舞台の位置に移動させ、いくつかのワゴンを組み合わせてひとつの舞台を構成するのです。ひとつのワゴンは15x5メートルくらいなので、最大の面積を要する舞台はワゴンを3つ使うわけです。天井までせりあがる舞台とか、逆に地下に沈み込む舞台などはその動作専用のものをあらかじめ作っておくわけです。このワゴンが全部で26あるそうです。そのうち、バレー用は6つぐらい。移動はもちろんすべてコンピューター制御です。 それから、舞台の上はタワー状になっており、背景に使う造作物やライトを下ろしたり上げたりするわけですが、高さは37メートルあり、物をぶら下げるバーが106個というスケールにまたびっくり。 とにかく広い。我々の見ている舞台の何倍もの広いスペースが奥や上下左右にあります。ひとつの公演が終わると、制作した舞台装置はばらばらにしてコンパクトにまとめ、次の公演まで倉庫に保管されたり、他のオペラ劇場との共同制作の場合は貸し出したり(あるいは借りたり)します。保管する場所は土地代が安いウエールズの専用倉庫です。 ロイヤルバレー団は現在シンガポール、香港、東京と回るアジアツアーの真っ最中で、立派な練習室には誰もいませんので、そういうところは入れてもらえます。コヴェントガーデンの舞台は15メートル四方ですが、練習室も全く同じ大きさで、ダンサーが最も怪我をしにくい快適な温度に保てるように設備されています。床も特殊なクッション材で、足への負担が軽くなるように配慮された設計です。本番の舞台もこれと全く同じで、したがってオペラ用とバレー用の舞台は共用できないのですね。これも今回初めて知りました。 私はウイーン国立劇場の舞台裏は見学したことがあるのですが、方式は全く違いました。過去の記事のどこかで書きましたが、あちらは大きな円の4分の1が客席から見える舞台で、場面転換はその円を回転させることですばやくできるものです。でもコヴェントガーデン方式の方がよりフレキシブルにまたきめ細かく舞台が作れるような気がします。やはり1997年という割と最近に改装した分、よりハイテクが使えたのでしょうね。
by dognorah
| 2005-07-14 09:43
| オペラ
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Comments(12)
こんにちは。
バックステージ・ツアーは面白いですよね。私もよく行きました。でも、ワゴンシステムってのは初めて聞いたような気がします。へ~え、そうなんだあ。今度ロイヤル・オペラのDVD観るとき、ちょっと注意して見てみようと思います^^;;
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dognorah at 2005-07-14 23:29
Orfeoさん、実際の舞台を見てもDVDを見てもこれは全くわからないと思いますよ。でも、何か特殊な仕掛けのある舞台装置を見られたときは、そのワゴンのお出ましだなー、と思ってみてください。
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ponchikrin at 2005-07-15 22:12
こんにちは。コヴェントガーデンのバックステージツアーも面白そうですね!私は数年前にMETのツアーに参加したことがありますが、やはり舞台周辺のスペースの広さには驚きました。裏から見ると広いこと!セットはMETでも元々組み立ててあるものを移動させるシステムだということでしたが、コヴェントガーデンはそのシステムも最新式なのでしょうね。ところでそのツアー中、ガイド氏が「今日は動物は出ないようだね」と。何のことかと思ったら、生きた動物を使うときには舞台に出る通路に紙が敷き詰められているとのこと。落し物しますものね。。。
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おさかな♪
at 2005-07-15 22:43
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ふおぉぉ~・・・。そうなんですか。。。
こういう記事が読めるところが、dognorahさんのブログのすごいところです♪
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dognorah at 2005-07-16 06:48
ponchikrinさん、最近バレーネタがなくて申し訳ないです。秋の公演はまたマノンを取ってしまいました。今度はギエムですが。メトの舞台裏も面白いでしょうね。私はメカにも特段の興味があるのできっと楽しめるだろうなーと思うのですが残念ながらNYに行くチャンスはありません。
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dognorah at 2005-07-16 06:51
おさかな♪さん、変なところに感心されて恐縮です(^^;
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助六
at 2005-07-17 10:10
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バスチーユの舞台機構も最新式を誇り、本舞台の左右と後部に計5個の本舞台と同一の交換舞台があり、舞台装置を載せたワゴンをセットしたまま待機させ、しかも舞台全体をそのままエレベーターで地下6階のアトリエ(ここでワゴンをセットする)まで上げ下げできるようになっています。これで瞬時の舞台転換、毎日違う演目の上演が可能という訳です。
バスチーユ構想時に個人的コネから関わったディットマンという人物が、独中小劇場を渡り歩いて来た人で、独型レパートリー劇場をイメージして考案したシステムなのですが、バスチーユのような基本的にスタジョーネ・システムの劇場では、宝の持ち腐れという面もあろと言います。また特に最初はコンピュータ制御のワゴン・システムもエレベーターもうまく動かず、フランスのお家芸「アイデア倒れ」とか言われたりしていました。エレベーターによって可能なセリ上がり舞台も殆ど使われておらず、最新舞台機能が十全に活用されている訳ではないと言うのは皮肉なことです。
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dognorah at 2005-07-18 08:47
バスチーユはそうなんですか、ちょっともったいないですね。でも、スタジョーネにするかどうかはオペラ座の総裁が決めるようなことを聞いたことがありますので、将来はレパートリー方式になる可能性もあるのでしょうね。ところで、旧オペラ座は今でもバレー専門なのでしょうか?
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助六
at 2005-07-19 08:03
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パリ・オペラ座の運営については、文化省が決める「運営方針cahier des charges」が存在し、総監督もそれに従う事になっていますが、事後審査制のため厳格に守られている訳ではなく、総監督の裁量余地も大きいと言えるようです。「運営方針」に「レパートリーの構築」という記載があり、「ボエーム」等の人気演目は毎年のように再演されていますが、独墺型の日替わり演目のレパートリー・システムが採用される可能性は無いと言われています。要するにロンドンのシステムに近付いていますね。
バスティーユは89年の開幕時には、「民衆のためのオペラ座」を新オペラ座建設のアリバイに掲げたミッテランの政治的意向を受け、当時のベルジェ監督(ミッテランの友人)は、ブルジョワの社交場とのイメージが一般には強い「旧オペラ座ではもうオペラはやらない」と明言していましたが、同監督任期中の92年には、もう旧オペラ座での上演が少数ながら復活しました。
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助六
at 2005-07-19 08:04
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今シーズンですと、オペラは旧座5本、新座13本、バレエは旧座10本、新座5本となっています。容量に1900席と2700席の差が有り、集客力からも芸術的にもそれぞれに相応しい演目がある訳ですから、当然の成り行きでした。旧座でのオペラ上演はやはり人気が高いです。
バスチーユ開場後15年を経て、演目数は格段に増えたにも拘わらず、客席占有率は全く落ちておらず、特に30-40代の若い女性客が増え、地方からの客も10%から25%に増えたとのことで、オペラ観客の層拡大という当初の意図は、確かにある程度達成された形で、小生の実感もそうです。
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dognorah at 2005-07-19 18:49
>ロンドンのシステムに近付いて・・・
ロンドンでは毎日異なる演目を上演していますので独墺型の日替わり演目のレパートリー・システムと理解していますが。例えば、先週は月曜がミトリダーテ、火曜がワルキューレ、水曜がリゴレット、木曜がミトリダーテといった具合です。現在アジアツアーに行っているバレー団がいるとこれにその公演も組み込まれます。 バスチーユも当分スタジョーネということであれば確かにその設備はもったいないですね。それにしてもオペラ専用の大きなホールが二つもあるとはすごい。同じ日に違った演目をやることもあるのでしょうか? これに加えてシャトレーなどもあるわけですから選択の余地が多くてうらやましい面があります。
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助六
at 2005-07-20 04:24
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ロンドンも随分多くの演目を平行して上演しているのですね。小生が出掛けた時は、いつも1週間に2演目程度だったような気がしていたもので(私の思い違いかも知れません)、カン違いしてしまいました。
パリ・オペラ座は、バスチーユとガルニエ(旧オペラ座)で、同時にオペラ2演目を上演する事も珍しくありません。来シーズンですと、例えば9月12日には、19時30分からガルニエで「コジ」、バスチーユで「ルサルカ」が同時にオペラ座管弦楽団の参加で上演されます。ですから現在オペラ座管は170名の楽員を擁しています。それでも足りずに、バレエではコロンヌ管や、パリ室内管も起用されています。
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