2002年のグラインドボーンフェスティヴァルで公演されたものの録画である。DVDにBBCと共にNHKの名前も記されているので恐らく日本でも放映されたのであろう。
キャストは次の通り。 Carmen: Anne Sophie von Otter Don José: Marcus Haddock Micaëla: Lisa Milne Escamillo: Laurent Naouri Conductor: Philippe Jordan Director: David McVicar Set Designer: Michael Vale Costume Designer: Sue Blane London Philharmonic Orchestra The Glyndebourne Chorus このDVDには主なキャストによるコメントが入っているので、どういう意図で舞台が作られたかがよくわかって興味深い。監督の意図、それに沿った衣装作りとダンスの振り付け、各歌手の役に対する取り組み方、など。David McVicarは言う。「このオペラはみんなが知っているポピュラーな歌が続くミュージカルのようなものだ。今回は伝統的な舞台づくりを行ってその効果を高めたつもりである。 カルメンは他のどんなオペラの登場人物よりも現代的な性格で、男をすべて飲み込むような性格だ。裸足で大地に立ち人生を手で掴み取るようなところがある。Anne Sophie von Otterはそれを実にうまく演じてくれて満足だ。 ドン・ジョゼ(注:日本ではドン・ホセと書かれることが多いが、このオペラは原作も台本もフランス語であり、この役はドン・ジョゼと発音される)は激しい性格で、ギャンブルが昂じて喧嘩で人を殺したりしているが、一方では心には敬虔な部分もあり、それは彼に牧師になってほしいと願っていた母親に育まれたものである。彼にとって母親は特別な存在だけれどもその関係は不健康であるがゆえに女性に対するコンプレックスが生じた。劇の進行と共に性格はどんどん残虐な方向へシフトしていく。ミカエラはその母親の敬虔な代理人みたいなもので、いわばマリア様。本人はドンのことをお兄さんみたいに思っている。残念ながらセックスアピールに欠けるためドンを惹きつけることが出来ない。」 このオペラは「サロメ」と同様にヒロインによる歌いながらのダンスが求められるのが自然で、このDVDでもフォン・オッターさんがダンサーと共に振付師の指導の下、スペイン風ダンスの練習に励む姿が収められている。 衣装は監督の指示で赤と黒を主体に暗めの色調でデザインされたとコメントされている。闘牛士さんはマドリードまで衣装合わせに行ったらしい。 舞台は過不足なくよく出来ていると思う。演出はとても自然で納得できる。第4幕で、カルメンとドンが二人きりになるところで、ドンがカルメンのところに現れるのではなく群集が闘牛場の中に移動したらその中にまぎれていたドンが一人取り残されて結果的にカルメンと二人きりになる演出などいいなと思う。しかし、第2幕でカルメンがドンを接待する場面ではMcVicarならではのもう少しエロティックな演出を期待していたが、それほどでもなくちょっとがっかり。 指揮者はとても張り切っていて、序曲からこの調子でいって最後までもつの?と言うくらい力強くダンディな振り方だ。音楽はとても切れがよく劇的でもあり聴いていて気持ちがよい。 カルメンのフォン・オッターはちょっと年増なのが難点だけれど(この舞台では47歳)歌も演技もそしてダンスもうまい。そういうことでは、ドン・ジョゼのハドックもあまり風采が上がらない人だけれど歌は十分うまい。 ミカエラは監督の意図がよく表現されているし、これも歌はとてもうまいと思う。これに比べてエスカミリオはちょっと頼りない闘牛士という印象で、要するに優男過ぎる。歌の方はまあまあだが。 私は昨年このプロダクションにアプローチしたけれど、ちょっと出足が遅く切符が取れずに泣きを見た。DVDでこれだけ満足したから舞台はきっとよかっただろうと思うとちょっと悔しい。なお、このDVDはこのオペラ劇場の周りの聴衆がピクニックできるガーデンが詳しく紹介されていてそれも一見の価値がある。
by dognorah
| 2005-06-19 04:25
| DVD
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Comments(9)
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おさかな♪
at 2005-06-20 22:30
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Anne Sophie von Otterさん、大好きです。
カルメンDVDのパッケージ写真も色使いが素敵・・・♪
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dognorah at 2005-06-21 06:47
この出演がもっと若いときだったらもっと素敵だったかもしれません。オペラの世界はなかなか理想的には行かないですね。
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助六
at 2005-06-21 07:18
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フォン・オッターは、リートは素晴らしいと思うけれど(ガーディナー指揮で聴いた「大地の歌」など、私が生で聴いた中ではルートヴィッヒやファスベンダーに勝るとも劣らぬ名唱でした)、個人的にはオペラでは品が良すぎて引っ込んでしまう印象があります。でも昨年10月パリで観たヤコープス指揮マクヴィカー演出の「ポッペア」での彼女のオッターヴィアには、オペラで初めて感心させられましたし、カルメンはきっと仄かなエロティシズムがあって良いでしょうね。アバズレ女の面は出ないかもしれませんが。
マクヴィカーは機能的で器用な舞台を作る人だと思いますが、売れっ子ということもあってそろそろマンネリ化の危険に差し掛かっているように思います。 >指揮者はとても張り切っていて 彼は、オヤジのアルミンを既に追い越してしまったと思います。
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助六
at 2005-06-21 07:19
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>ちょっと年増なのが難点だけれど
小生はこれ位の年齢の女性は嫌いではありません!大学生の頃、当時これ位の歳だったベルガンサを「魅力的」と言ったら、仲間からは変態扱いされてしまいましたが。 >ちょっと出足が遅く グラインドボーンのチケットは早く申し込めば取れるものなのでしょうか?日本人の知人からは、ウエイティング・リストに登録して数年待ちとか聞いたことがありますが。高いですし、スモーキングも持っていませんので(行った仏人からは、確かに90%は正装だったが、ノーネクタイも2人見たと聞きました)、取りあえず出掛けてみる気はありませんけれど
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hummel_hummel at 2005-06-21 19:25
フォン・オッター、いいですね!リサイタルも素晴らしかったですが、クライバーの「バラ騎士」オクタヴィアン役が映像でも何度も見たので印象に残っています。
一度TVで彼女のドキュメンタリー番組を見ましたが、ああ、北欧、ムーミンの世界で暮らしている人なんだと思ってしまいました。素顔は思いのほか老けて、太ってました、、、年齢を考えれば当然だったのですが、舞台に立つと、若々しく輝いて見えるものですね!
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dognorah at 2005-06-21 20:19
助六さん、カルメン役のオッターは仄かなエロティシズムどころかあばずれ女振りもすごいですよ。マクヴィカーの指示を忠実に守ったのでしょう。
Jordanは父子2代目なんですね。知りませんでした。来シーズンはロイヤルオペラで「エフゲニー・オネーギン」を振ります。 年増といえば、大年増のフェリシティ・ロトあたりはいかがですか? グラインドボーンのチケットは早めに申し込めば取れます。ネットの受付開始日を逃さないことです。ドレスコードはありませんので通常の服装でなんら問題ありません。ただ自分の居心地が悪くなりますが。男はタキシードさえ着ていればその点は気楽ですが、女性は見栄も張りたいから大変でしょうね。
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dognorah at 2005-06-21 20:24
フンメルさん、私もそのDVD持ってます。気品が前面に出ていますよね。今回のDVDに収録されている彼女のインタヴューによると、役の性格などをきっちり考察して演技に臨んでいる様がよくわかります。舞台ではメーキャップの効果もあって若く見えますね。
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Sardanapalus
at 2005-06-29 10:01
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はじめまして!マクヴィカーの演出のカルメンということで、マクヴィカーについて書いた記事をTBさせていただきました。残念ながらこのカルメンは未見なのですが、歌手に演技力を要求する彼の演出は大好きです。
>母親は特別な存在だけれどもその関係は不健康であるがゆえに女性に対するコンプレックスが生じた こいう解釈をしっかり説明してくれると演出を見たときに面白さが倍増しますね。確かに、毎回この超マザコンの親子関係は異常だと思ってましたので、納得です。
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dognorah at 2005-06-29 20:03
マクヴィカーは3-4年前に初めてリゴレットで体験したのですが、それ以来私もファンになっています。リゴレットのときもTVに出演して演出の意図を詳しく解説してくれましたのでわかりやすかったです。
ところで、現代日本においてもこの種の息子が一杯いてひどい犯罪を犯し、末恐ろしいですね。「すべての犯罪の温床は母親にあり」というところでしょうか。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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