Queen’s Galleryは恐らく10年ぶりぐらいの再訪でした。現在の特別展は17世紀オランダ絵画です。英国王室ではチャールズ1世以降ジョージ4世ぐらいまでオランダ絵画を蒐集する趣味があったようです。そのため、オランダ絵画だけで200点ぐらいのコレクションになっています。今回の特別展はその中から約100点ぐらいが展示されていました。もちろんフェルメールとレンブラントが含まれているので再訪したわけです。
そのフェルメールは、「A Lady at the virginals with a gentleman」別名「Music lesson」という題名のものです。大きさは74x64cmでフェルメールにしては大きめの部類です。彼が32ないし35歳のときの作品で、非常に精緻な描き方でかなりのエネルギーを感じます。左側と奥の壁に注目すると、光に応じた微妙な壁の色の変化の表現法に圧倒されます。画面真ん中にある椅子の青色は彼が好んだ色で、有名な「真珠のイアリングをつけた少女」のターバンと同じ色だそうです。その同じ系統の薄い色がvirginalsの影になっている壁にも使われ、椅子の唐突な青が和らいでいます。手前のテーブルにかけてある織物のなんと精緻に描かれていることか。この絵を顕微鏡で調べた研究者によると、絵全体が細かい点描のような手法で描かれているそうです。相当な時間がかかったでしょう。 右上にはこれもよく使われるキューピッドの姿が半分描かれています。二人の男女の関係を暗示しているのでしょうか。この絵では珍しく鏡もあります。向こうを向いている女性の顔を映すのはわかりますが、フェルメールのイーゼルも映っているのです。これは何を意味するのでしょう。鏡の向こうの世界でその女性に思いを寄せるフェルメールを表現したかったのでしょうか。この鏡を使うという方法はベラスケスの「宮廷の侍女たち」が有名ですが、このフェルメールより30年ぐらいあとなので、この絵の影響を受けた可能性もありますね。 とにかく飽きずに観察できる絵です。どこをとってもただただ感心するばかり。これでロンドンにある4枚の絵はすべて再鑑賞したわけですが、この絵に最も感銘を受けました。UKには後一枚がエディンバラにありますが、初期の作品でしかも宗教画なので私はあまり興味がなく、そこまでもう一度見に行く気はありません。
by dognorah
| 2005-06-01 09:08
| 美術
|
Comments(10)
これは傑作ですよね。dognorahさんの解説がまた素晴らしい!
>左側と奥の壁に注目すると、光に応じた微妙な壁の色の変化・・・ この微妙な色彩は、オリジナルを見ないと分らないですね、、、。もう一度じっくり見てみたいです。 >「真珠のイアリングをつけた少女」のターバンと同じ色・・・ そう言われて、改めて眺めてると、青が浮き上がってくるような、、、。 >この絵を顕微鏡で調べた研究者によると、 フェルメール研究は細かい、、、。この織物の青も椅子の青に通じるような気がしますね。きめ細かいだけでなくとても綺麗です。 >ベラスケスの「宮廷の侍女たち」・・・ フェルメールはベラスケスに先んじていたわけですか。 確かにUKでは一番の傑作かもしれませんね!
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dognorah at 2005-06-02 04:57
今まで記事にした3枚に比べると惹きつけられる力が違いました。今週のイギリスはハーフタームといって学校が休みなのでガキンコが周りをばたばたワーワーとうるさく騒ぎまわっていましたが、それにもめげずこの絵はオーラを放ち続けていました。
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tetsuwanco at 2005-06-04 00:47
フェルメールは、よく楽器を使ってますよね。この絵でも、ヴァージナルを取り上げてますが、これは、女性がヴァージンであることを暗示しています。更に、男性の右にある壷は、ワイン壷なんですが、これは男性の下心を意味しているとされています。
そして、ヴァージナルには、確か、ラテン語で何か書かれていたはずなんですが、忘れちゃいました。
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dognorah at 2005-06-04 05:24
なるほど、そういう解釈もあるんですね。ヴァージナルに書かれているラテン語の英訳は、Music is a companion in pleasure and a balm in sorrow.らしいです。さらに、部屋の中央に横たわっている楽器はアンサンブルによるハーモニーの可能性を暗示しているという説があります。男性はこの女性に思いを寄せているけれど、成就するかどうかはわからない、というところでしょうか。
この絵はいつも観られません。
うらやましいです。。。 http://www.d7.dion.ne.jp/~oldcity/MusicLesson.htm ここのページの製作者は「かなり」の人物です。 フェルメールの空間構成理解に関しては 個人的に随分とお世話になっています。
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dognorah at 2005-06-07 08:42
Yakさん、興味深いサイトの情報ありがとうございます。
2度も振られてしまってほんとに残念でしたね。この絵はイギリスにあるフェルメールの最高峰です。次回の楽しみとして期待してください。
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助六
at 2005-06-09 09:39
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96年ハーグでの回顧展で見ましたが、フェルメール作品の中でも際立った出来で、強く印象に残っています。
Queen's Galleryの展観方式はどうなっているのでしょうか。特別展の時だけ公開?あるいは常設展もあるのでしょうか?ロンドンに行った時には、ミシュランに「コレクションは順次展示替え」とか書いてあったので、あっさり諦めた記憶がありますが、やはりフェルメールはいつでも見れる訳ではないということですね。
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助六
at 2005-06-09 09:39
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鏡に画家の顔やイーゼルを映して見せるというテクニックは、フランドル絵画では15世紀から存在しており、フェルメールのこの作品もその伝統を引いていると思います。ナショナル・ギャラリー所蔵ヤン・ヴァン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」(世界美術の中でも小生は一番好きな作品の一つです)とか、ルーヴル所蔵マサイスの「金貸しとその妻」とかが直ぐに思い浮かびます。人文主義的教養を背景に「知識人」「芸術家」としての「個」の自覚に目覚めた画家の誇らかな「サイン」という意味合いがあるようです。ヤン・ヴァン・エイク作品の場合は「結婚の証人としての絵描きのサイン」の意も含まれていて「ヤン・ヴァン・エイクここにありき」という書き込みまであります。何故か同時期のイタリア絵画では、同様の例を見ない気がしますが。
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dognorah at 2005-06-09 23:54
Queen's Galleryは、今やっているような特別展を訪問する以外に見る方法はないようです。恐らく展示スペースの問題だと思います。したがってこのフェルメールを確実に見たい場合は、今年10月30日までに訪問することです。
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dognorah at 2005-06-10 00:14
ご教示ありがとうございます。そうですね、鏡を使う手法はより古い時代に探せばいろいろあるようですね。鏡を使う手法がフェルメールのオリジナルであるような書き方はまずかったと思います。、ヴェラスケスについても然り。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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