日本映画「それでもボクはやっていない」

2012年2月11日、ICAにて。
周防 正行監督2007年作品
英語題名: I Just Didn't Do It

ロンドンの海外交流基金(Japan Foundation)の企画で9本の現代日本映画がロンドンを始めイギリスのあちこちを巡回します。今回はその中から周防 正行監督と坂口香津美監督も来英し、対談と質疑応答のイヴェントも開催されました。周防さんの対談イヴェントに出席し、今回映画も見ましたので感想を述べたいと思います。彼は映画の上演に際しても来館し挨拶と質疑応答をこなしました。この人の過去のヒット作には「Shall we ダンス?」というのがあり、私もDVDで見たことがあります。
今回の作品は過去の娯楽的映画と違って、かなり深刻な日本の裁判の問題点を描いて、これでいいのか?と見る人に訴えるものになっています。映画開始前に監督が、これは日本の現実であり、決してコメディではない、と強調していました。映画制作まで3年かかって日本の司法制度を勉強し、多くの人にインタヴューして自分でシナリオを書いたそうです。
上映開始時に監督から「日本的な儀式を行いたい」というアナウンスがあり、観客は何が起こるのかと緊張して見ていたら彼はやおらポケットからカメラを取り出して「May I take a photo?」といいながら壇上に上がって我々の姿を撮ったのでした。館内は大爆笑。

ストーリーは、超混雑の朝の通勤電車内の出来事。主人公は痴漢行為をされた女子中学生から誤認逮捕され、警察で否認し続けた結果起訴され裁判にかけられる。無実を訴え続け、彼はやっていないという他の女性証人もいたにもかかわらず有罪になってしまう。その課程を逐一映像にしたものですが、最初から有罪という心証で公判を続ける裁判官や被告に有利な証拠は隠滅するという警察や検事の姿が明らかにされます。全く不愉快な事実ですが日本では本当なんでしょう。深刻な内容にもかかわらず家族や友人達の挙動で笑いを誘う場面も結構あり、映画としては見応えのあるものになっています。

上映後、場内から多くの質問が寄せられ、監督から淀みなくコメントが引き出されてこれも興味深いシーンでした(すべて通訳を介してのやりとりです)。なぜこういう映画を作ったのかという質問がありましたが、ある日新聞で、一審で有罪になった痴漢事件が二審で無罪になったという報道があり、冤罪事件はかなり多いんではないかと興味を持ったのがきっかけだそうです。日本では痴漢行為が多いという事実はここロンドンでも有名で、監督からも一日に何千件とあるでしょうという裏付けコメントが出されて更に有名になった感じです。会場からのコメントでは、こういうひどい裁判は別に日本だけに限った訳じゃない、世界中で横行している、というのがありましたが、権力側のやり口はどこでも一緒ということでしょう。監督はこの映画の後政府内に設けられた新しい司法のあり方を検討する会議の委員に任命されたそうですが、権力にたてつく人を権力側に取り込む作戦でしょうか。彼自身も懐柔されないように気をつけたいという発言がありました。なかなかユーモアもある人で、この映画を作る前は娯楽映画を作る監督という印象を持たれていたために、警察や検事あるいは裁判所などインタヴューが非常にやりやすかった、といって笑わせてくれました。今はもう警戒されて本音は聞けないでしょう。

日本の映画は里帰りのために乗る長距離便でしか見ないので、なかなか貴重な経験でした。監督の話が聞けたのもよかった。こういう企画は大変ありがたく、海外交流基金に感謝したいと思います。
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by dognorah | 2012-02-14 22:49 | 観劇
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