パリオペラの「ヴァルキューレ」

2010年6月20日、パリオペラ座バスティーユにて。
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Richard Wagner: Die Walküre

Philippe Jordan: Conductor
Günter Krämer: Stage Director

Robert Dean Smith: Siegmund
Günther Groissböck: Hunding
Thomas Johannes Mayer: Wotan
Ricarda Merbeth: Sieglinde
Katarina Dalayman: Brünnhilde
Yvonne Naef: Fricka
Marjorie Owens: Gerhilde
Gertrud Wittinger: Ortlinde
Silvia Hablowetz: Waltraute
Wiebke Lehmkuhl: Schwertleite
Barbara Morihien: Helmwige
Helene Ranada: Siegrune
Nicole Piccolomini: Grimgerde
Atala Schöck: Rossweisse
Gertrud: Wittinger Ortlinde
Paris Opera Orchestra

この一週間はかなり寒い夏でしたが本日(20日)は曇り空で特に寒く、ロンドンもパリもコート姿が目立ちます。6月も下旬になろうというのに。
さて、3月の「ラインの黄金」に続いて新演出のヴァルキューレを見てきました。演出はなかなかユニークで面白いものでした。

第1幕では幕が上がると舞台中央に10人ぐらいの男女(女性は一人だけ)が固まって突っ立っています。舞台の左側にはジークリンデと思しき女性がブラインドの後ろにいます。そこへどやどやと、フンディングに率いられた武装集団が踏み込み、舞台中央の集団を皆殺しにしてしまいます。特に女性はめったつきの虐殺。ここまでは序奏が鳴っている間に演技され、すぐにジークムントが舞台下から現れて通常のストーリーが始まるというわけで、おそらくジークムントとジークリンデ兄妹の母親が殺されるシーンを下敷きとして見せたのだろうと思います。殺された人たちは第1幕終了までそのまま舞台上に転がっていて、殺した側は舞台右側に観客に背を向けて並び、フンディング帰宅の時まで沈黙しています。
帰宅したフンディングがジークムントを見てすぐに武器を隠していないかセキュリティチェックをしたり、ジークムントが部下たちと揉み合ったりあるいはジークムントが隙を見て部下の持っていたナイフを取ってフンディングを人質にして部下たちを威嚇したりと、二人の心のうちのもやもやしたものをわかりやすく直接表現しているように感じました。ジークリンデがジークムントに剣のありかを指で示唆するのを見咎めたフンディングが彼女の頬を張り飛ばしたりする場面もその一環でしょう。私はジークムントの正体が明らかになる前までのフンディングの心中のわだかまりが重苦しく表現されるほうが好きですが。

第2幕は第1幕よりはコストを掛けて大きな鏡と階段がこしらえられていて、ラインの黄金でも最後に登場したGERMANIAという大きな文字列も並べられますがこの意味はよくわかりませんでした。ヴォータンは三つ揃いの背広姿、ブリュンヒルデは最初から最後まで白い作業服のようないでたち、フリッカは派手な赤いドレス。他のヴァルキューレたちは看護婦のような白い衣装で大きなテーブル上にたくさん転がされたりんごでキャッチボールしたりお手玉で遊んだり。ヴォータンがフリッカに押し切られて鬱憤を晴らすためにテーブルをひっくり返すので、この幕は最後まで床にたくさんのりんごが転がったままです。第3場ではジークムントの剣はヴォータンではなくフンディング一味との戦いで折れてしまう設定ですが、ヴォータンがすでにその剣の魔力を抜いているということでしょう。

第3幕冒頭がまたユニークで、例の「ヴァルキューレの騎行」の音楽に合わせてヴァルキューレたちが戦死した勇敢な戦士たちを次々と運び込んでは蘇生させてヴァルハラの軍団に加えるわけです。その戦士たちが血だらけの全裸姿で5人ずつ台に仰向けに横たわり、ヴァルキューレたちが布で全身を拭いてきれいにし、最後に息を吹きかけて蘇生させ、戦士たちは台から降りて下手に引っ込むのですが、それが次々と3-4回繰り返されます。大勢の全裸男性が舞台を歩くので一部女性客から歓声が上がり、それを聞いた他の客たちが笑っていました。この場面は単にヴァルキューレたちがあの音楽を歌うだけという退屈な場面(特にROHのキース・ウォーナーのもの)しか見たことがないので今回は大変楽しめました。この作業中は紗幕の裏でダンサーたちが機械的な動作ながら踊っていますし。第3場の炎上場面は光を使って十分効果的でした。
演出として結構饒舌なので、音楽に集中するという面では希薄にならざるを得ず、その分感動も薄れてしまいました。演劇を重視しすぎると音楽的高揚感が減ってしまうということでしょう。

歌手は大方上出来で大きな不満はなかったです。ジークムントとジークリンデはいい声がよく出ていましたが、私としてはROHで体験したサイモン・オニールとエファ=マリア・ウェストブルックの凝縮したような迫力ある歌唱が強く記憶にあり、それに比べると今回はロバート・ディーン・スミスの声量がやや小さいこともあって生ぬるいもので迫力不足でした。
フンディングも悪くないですがもう少しドスの効く声でないと。
ヴォータンもブリュンヒルデもフリッカも高水準の歌唱で大変楽しめました。第2幕も第3幕もヴォータンとブリュンヒルデの対話部分はとてもよかったです。ところでヴォータンは当初ファルク・シュトルックマンが大部分の日程を歌う予定だったのに29日だけと逆転していますね。
オケですが、「ラインの黄金」ではあまり感心しなかったフィリップ・ジョルダンの指揮、今回は非常にこなれた響きで叙情性も迫力も十分で大変楽しめました。指揮者に対するブラヴォーも大変なものでした。

カーテンコールの写真はクリックで拡大します。
第1幕終了後。向かって左から Günther Groissböck、Ricarda Merbeth、Robert Dean Smith
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第2幕で姿を消す人たち。赤いドレスは Yvonne Naef: Fricka
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Thomas Johannes Mayer: Wotan
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Katarina Dalayman: Brünnhilde
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Philippe Jordanと共に。
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by dognorah | 2010-06-22 02:33 | オペラ
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