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パリオペラの「ラインの黄金」

2010年3月28日、バスティーユにて。

Paris Opera Bastille, 28 March 2010.

Das Rheingold
Musique et Livret de Richard Wagner

PHILIP JORDAN: Direction musicale
GÜNTER KRÄMER: Mise en scène
ORCHESTRE DE L'OPÉRA NATIONAL DE PARIS

EGILS SILINS: Wotan
SAMUEL YOUN: Donner
MARCEL REIJANS: Froh
KIM BEGLEY: Loge
PETER SIDHOM: Alberich
WOLFGANG ABLINGER-SPERRHACKE: Mime
IAIN PATERSON: Fasolt
GÜNTHER GROISSBÖCK: Fafner
SOPHIE KOCH: Fricka
ANN PETERSEN: Freia
QIU LIN ZHANG: Erda
CAROLINE STEIN: Woglinde
DANIELA SINDRAM: Wellgunde
NICOLE PICCOLOMINI: Flosshilde

パリの新制作Ringの序夜です。最終日。ヴォータンはダブルキャストの人で、ファルク・シュトルックマンではありません。エジルス・ジリンスは2007年にヴィーンでオランダ人を歌ったのを聴いたことがあります。今回もかなりいい線いっている歌唱でした。彼に限らず、歌手は不満を感じる人はいなくてレヴェルは高いと思いました。これまで何度も聴いているペーター・シドムなど上手いなぁと思います。

演出はアイデア盛りだくさんで、まあ楽しめましたが、何か哲学を提示するというほどのものではないとも感じました。幕が上がるとヴォータン達が地球を俯瞰するような構造物の上にいるのですが、奥の方では大勢の作業員がパイプで作った足場のようなヴァルハラ城の建築に携わっています。
変わっているなと思ったのは、巨人族がヴァルハラ城完成の代償にフライアを連れ去ろうとする場面で、応じようとしないヴォータンに業を煮やしたファゾルトの合図と共に作業に携わっていた巨人族が大勢歓声を挙げ赤旗を振りビラを撒きながら舞台や観客席になだれ込んで来るところです。フランスの労組を揶揄したものでしょうか?
また、ヴォータンがアルベリヒの指から無理矢理黄金の指輪を奪おうとする場面で、指を切断してしまうところ。えらく残酷な神様です。これもあって怨念に満ちた呪いをかけるということなんでしょうね。
最後はヴァルハラ城が前面にせり出してきてヴォータン達が高い階段を上っていって終了します。全般に煙を多用するのは頂けない。刺激が少ないものなんでしょうけれど、客席に漂ってきたら私なんか少し咳が出てしまいました。舞台は見難くなるし、嫌いです。
衣装はちょっと変わっていて、下の写真のように女性の場合はぱっと見た瞬間はどきっとするものです。

ジョルダン指揮の音楽は美しい響きで、あまり強音を強調しない大人しめという印象です。最後の方でドンナーがもやもやした空気を払拭する場面でもあまり金属音を使わないでティンパニーがちょっと強めに鳴るだけでした。このシリーズ、6月のヴァルキューレまで見てその後続けて見るかどうか決めようと思っています。

写真はクリックで拡大します。
黄金を払ってフライアを救ったあとホッとするフリッカとヴォータン。煙のためぼやけていますが。後方に写っているのがヴァルハラ城。SOPHIE KOCH and EGILS SILINS
パリオペラの「ラインの黄金」_c0057725_21221872.jpg


カーテンコール。左から、ANN PETERSEN、SOPHIE KOCH、EGILS SILINS、MARCEL REIJANS、SAMUEL YOUN、PETER SIDHOM、WOLFGANG ABLINGER-SPERRHACKE
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SAMUEL YOUN, PETER SIDHOM, KIM BEGLEY, WOLFGANG ABLINGER-SPERRHACKE, GÜNTHER GROISSBÖCK, IAIN PATERSON
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by dognorah | 2010-03-29 21:26 | オペラ | Comments(6)
Commented by Maintochter at 2010-03-30 16:06 x
ワーグナーづいていた3月でしたね。衣装、本当に一瞬ドキッとしてしまいます~(^^; ローゲ以外の神々は「裸の王様」とでも言う感じなのでしょうか?以前、ラインの乙女が本当にオールヌードという演出もありましたが・・。歌い手さんも大変ですね!
演奏はなかなか質が高かったとのことで良かったです。RINGの演出はポストモダンやら近代史の風刺やらSFやら(?)もう行くところまで行ってしまった感じですね。次は3Dの「アバターRING」など登場したりして(笑)
Commented by dognorah at 2010-03-31 02:01
Maintochterさん、裸の王様ですか、なるほどいい線いっているかもですね。さてこれからどういう展開になっていくでしょうか、楽しみではあります。
Commented by 助六 at 2010-04-14 09:16 x
巨人族は赤旗を振り回しますけど、覆面で腰にダイナマイトみたいなものを巻いてましたから、共産主義革命の民兵みたいなもんだと思います。仏人は共産党系労組「労働総同盟(CGT)」ではなく、憲兵隊特殊部隊(GIGN)を直ちに連想するそうです。ニーベルング族も当然労働服姿でしたが、神々から建設を請け負って労働代価を執拗に請求する巨人族も被抑圧階級というわけでしょう。
バクーニンと接触があって三月革命シンパだったヴァーグナーがこうしたが問題意識を投入してるのは確かと思え、シェローその他ドイツ劇場のヴァーグナー演出が40年来繰り返してきたモチーフで、間違いではないし演劇的リアリゼーションでも器用とは思うんですが、「またか」と言う感情も拭えませんでした。
「器用だけどまたか」と言うのは今回のクレーマー演出の基調音で、「階級闘争」「娼婦のようなラインの乙女」幕切れに登場する「ナチ」「クラウン」であるローゲとか、すべて根拠はあって巧みに舞台化されてはいるものの既視感のあるシーンの連続にやや白けてしまう。そうしてこうした個々のアイデアを整合的にまとめていく力が今回の演出には決定的に不足している。
Commented by 助六 at 2010-04-14 09:18 x
クレーマーはもう70歳だし、90年代初めにハンブルクで指環演出の経験もある才能豊かな演出家ですから、今回の「ラインの黄金」も、表面的筋でも背景のイデオロギー的解釈でも、間違ったところはなく分かりやすくて「説明的」と言う意味で、良く練れたベテランのプロの仕事とは思います。ただ新たな発見があって記憶・演出史に残るような物とは言い難い。私も最中はそれなりに楽しませてもらったものの、もう忘れ始めてます。
指揮も同じで、可も不可もない大人しいものでしたね。序奏には流動感もアーティキュレーションも神秘感もないし、「ワルハラへの入場」は何とも脆弱。
Commented by 助六 at 2010-04-14 09:20 x
歌い手さんも全般的に不足はないレヴェルだけど、一頭抜けた人も皆無。私が観た初日はシュトルックマンのヴォータンでしたが、かつて見事なテルラムントを聞かせてくれた彼にしては、何とも薄っぺらで平板な大神でした。ブランゲーネの好評が伝えられてたコッシュにはとても期待してたんですが、1-2月にバスティーユでカウフマンと一緒に歌った余りに感動的な「ウェルテル」のシャルロットと比べるまでもなく、声もドラマも何か引っ込んでましたね。ロンドンのブランゲーネと比べて今回の彼女のフリッカはどうでしたか?
パリの指環舞台上演もここ20数年で4サイクル目で、今までは切符も楽だったので甘く見てたんですが、国立オペラ座での指環は超久し振りのせいか非常な人気で、私もチケット苦労しました。「ネトレプコ詐欺」はケシからんですが(笑)、シリーズ券を予約されて正解だったと思います。
Commented by dognorah at 2010-04-15 09:18
助六さん、演出の解説をありがとうございます。被抑圧階級云々の話はまったく知りませんでした。言われてみてバクーニンや三月革命のあたりを調べて、ヴァーグナーの行動の一面を初めて知るという無知な状態でこの楽劇を今まで見てきたのでした。やはり演出家はものすごく深く考えた末にいろいろアイデアを盛り込んでいるんですね。
コッシュですがブランゲーネの方がきっちりいい仕事をしてはいましたが、フリッカも歌唱的には楽しめて次のヴァルキューレでのうるさいかみさん役が期待できそうと思いました。ドラマとしては何をするでも無くうろうろしているだけという場面がちょっと不思議でしたが、これは演出家の問題でしょうか。ヴェルテルのコッシュは感動的によかったのですか。来期のロンドン公演が楽しみになりました。
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