内田光子ピアノリサイタル

ロイヤルフェスティヴァルホールで開催されたピアノリサイタルに行った。

内田さんは私の大好きなピアニストだが、リサイタルを聴くのは久しぶりである。

実は、同じ日時にバービカンホールではチャイコフスキーコンクールで優勝という女性では前代未聞の快挙を成し遂げた上原彩子さんとロンドン交響楽団による協奏曲の演奏会があり、どちらに行くか迷った。上原さんはまだ見ていないからぜひこの機会にと思ったし、ほんとに決めかねて最後は鉛筆を倒して、というのは冗談だがえいやーで内田さんを選んだ。ロンドン在住の方なのでこれからも頻繁に聞くチャンスはあるのだが、今回はベートーベンのハンマークラヴィアを聴いてみたかったことが大きかった。彼女はモーツアルトを極め、シューベルトも完了したあと、今はベートーベンに没頭しているという自身のコメントをどこかで読んだからだ。

今日の曲目は、
1.ブーレーズ作曲: 12 Notations
2.シューベルト作曲: Sonata in C D840
3.ベートーベン作曲: Sonata in B flat Op.106(ハンマークラヴィア)

最初の曲は、10分程度の短い曲であるが、ドビュッシーの曲を髣髴とさせる音使いでまあ楽しめた。3月26日がこの作曲家(兼指揮者)の80歳の誕生日で、それを祝福するために内田さんが選んだ曲目。よい祝福だったと思う。

2曲目は、独自の世界を形作るシューベルトのピアノ音楽の特徴がここでもよく現れているが、シューベルトでは恐らく地味な作品と思う。比較的やわらかいタッチの演奏で、心地よい音が響く。同じ作曲家の作品でももっと聞き応えのするものがあるが、恐らくプログラム全体のバランスを考えての選曲と思われる(後述の内田さんのコメント参照)。

休憩を挟んで今日のメインプロが演奏される。この曲を何度聴衆の前で演奏されたのかは知らないが、内田さんはちょっと緊張気味というか張り詰めた精神状態で舞台に出てこられた。挨拶もそこそこに椅子に座るやいなや激しいタッチで演奏を開始。聴衆も固唾を呑んで緊張を共有する。

私はホールの右サイドに座っていたので彼女の表情もよく見えたが、シューベルトのときよりも豊かな表情の変化が見て取れた。完全に曲にのめりこんで我を忘れての熱演だ。ダイナミックレンジの広い第1楽章、一音一音が大事に奏でられる第2楽章、曲に秘められたエネルギーを保持したような第3楽章、聴くほうにもすばらしい緊張を持続させてくれる佳演だった。堪能した。終わるとブラボーの声とともに大きな拍手が持続する。

来てよかった。上原彩子さんのほうもきっとよかっただろうけど、それは仕方がない。

参考までに、プログラムにこのコンサートに関する内田さんのコメントが載っているので転載しよう。

「私たちの時代の最も重要な音楽家の一人、ピエール・ブーレーズが2005年に80歳の誕生日を迎えます。私の個人的なお祝いとして今夜のプログラムに彼の初期の作品であるDouze Notationsを加えました。

これによりプログラムが刺激的で挑戦的になります。現代作曲家ブーレーズを聴いたあとでは、死後長い時間の経ったベートーベンがそれよりさらに先鋭的であるかもしれないと考えうるでしょう。

ハンマークラヴィアソナタは彼の32曲のソナタのうちでもっとも壮大で、恐らくもっとも野心的なものです。そのフーガはスケールの点でも表現の点でも巨大で、技術的に難しいことは言うまでもありません。その作品の構成は聴衆に畏怖の念に満ちさせます。しかし緩除楽章にこそこの曲の本質があるのです。ベートーベン以外の誰もそのような深みのある曲を作らなかったのです。

これと対照的にシューベルトは簡素に思われるでしょう。それでも彼の奇妙なスピリットはひとつの違った世界に連れて行ってくれます。

3人の偉大な作曲家。

誕生日おめでとう、ブーレーズさん」
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by dognorah | 2005-03-24 20:15 | コンサート
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