ピカデリー通りにあるRoyal Academy of Artsで開催されている展覧会に行った。
テーマはHis Art & His Textilesといって、彼が絵を描く前から影響を受けていた地元の織物模様と絵画の関係を視点にしたものである。 展示はその織物のサンプルとともにそこから影響を受けたパターンなどと並べて数10点の絵画やデッサンで構成されている。 私はもともと余りマチスの絵は好きではなかったが、今回の展示によりなぜ彼の絵の背景に壁紙のような模様が多用されているのか理解できたし、もっとうれしいことにそうして見ているうちにとても彼の絵が好ましくなってきたのだ。特に色の使い方が大胆なのに全く破綻せずに独自の世界が描かれている点がすごい。 一人の画家の作品が何十枚と展示される場合はその人の画風の変遷をたどることが出来る分、より理解が深まるのは当然ながら、全部見終わってもああそうかという程度の印象しか持たない場合も結構ある。ところが今回は自分が今まで気付かなかったその画家のよさを発見できた。入場する前は切符売り場のやや長い行列を見て、Textileなんてあまり興味ないし、非常に好きでもないマチスということで一瞬逡巡したのだが、思い切って入ってほんとによかった。 展示品は欧米の美術館から借りてきたものであるが、特にセント・ペテルスブルグにあるエルミタージュ美術館からよい作品が来ているようだ。写真はその中の一枚で「花瓶とビンと果物」という題。 このエルミタージュ美術館というところはよほどの目利きがコレクション担当にいたのではないかと思うぐらい名品が揃っているようであるが、webで覗いてみるとマチスだけでもすばらしいコレクションだ。ぜひ訪問してみたい美術館である。 ところで、今回は写真しか展示されていなかったが、ピカソが買ったマチスの絵というのがある(次の写真)。彼は死ぬまでそれを手元においていたので、今はパリのピカソ美術館にあるが、私はこの絵はマチスの数ある傑作の中でも傑出した一枚と思う。
by dognorah
| 2005-03-17 19:10
| 美術
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Comments(7)
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助六
at 2005-03-18 09:39
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大変面白そうな展覧会ですけれど、やはり行列なのですね。
私も西洋美術を見るようになってから、マティスに魅了されるまでに20年以上の時の経過がありました。93年のポンピドゥー・センターでの1905-17年の130枚を集めた回顧展の際も「きれいで楽しいねー」以上の感慨はなく、南仏のヴァンスを訪れた時も、有名なマティス礼拝堂さえ、暑い日で町外れだったこともあり、面倒で見なかった程でした。02年にパリで「マティスとピカソ」なる展覧会が、エルミタージュやMOMAの名品を揃えていて文字通り「開眼」となりました。装飾的画面の色彩配分の絶妙さもさることながら、知的に考え抜かれた古典的構成を通して浮かび上がる、画家の世界へ向けられた享楽的であると同時に透徹した眼差しに心から感動しました。
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助六
at 2005-03-18 09:39
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並行して展示されていた2人の天才の絵達が、打ち消しあうのでなく、照射し合って高め合っていたのにも感心しました。晩年のピカソは「ボケてしまった」という言い方も可能かもしれませんが、マティスは視力の衰えた晩年でも、強い知的緊張感を保っていると思いました。今は西洋美術史上でも最大級の画家だと考えています。
エルミタージュ所蔵のマティスは本当に素晴らしいですね!(行ったことはありませんけど) 第一次大戦前のモスクワの大収集家セルゲイ・シチューキンのコレクションを革命政府が没収したものがエルミタージュとプーシキン美術館に入ったものだそうで、近年返還を要求する子孫との係争もあったようです。第一次大戦前で、ピカソ51枚、マティス38枚、ゴーギャン16枚、セザンヌ8枚を一度に見れる場所は、モスクワ以外には、ヨーロッパにも無かったと言います。
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dognorah at 2005-03-18 22:39
私が西洋美術を見るようになったのは日本で開催されたルーブル美術展からですので、マティス開眼まで助六さん以上に時間がかかっている勘定になります。しかし遅ればせながらも非常によかった。
エルミタージュの大本はセルゲイ・シチューキンという人なのですね。第1次大戦前のコレクションとは恐れ入りました。まさに慧眼の持ち主ですね。未だあまり世間で注目されていなかったがゆえに名品も集めやすかったことでしょう。 ところで助六さんはパリ在住ですか?
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助六
at 2005-03-19 07:41
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はい、そうです。「フランスドライブ旅行」のエントリも、大切に少しずつ楽しませて頂いております。
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wellfrog4 at 2009-12-29 11:10
dognorah様。
初めまして。 素晴らしいブログですね。 今後も時々、このブログを読ませていただきます。 マティスがこんな絵を描いていたのかと感動しました。 事後になって申し訳ありませんが、絵画を私のブログ 新型感染症の予防接種、公費で負担…法改正へ http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2009/12/26 の中に転用させていただきました。 by wellfrog4
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dognorah
at 2009-12-31 07:23
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wellfrog4さん、ようこそ。この絵の実物は今年の夏パリにあるピカソ美術館を訪問して、見てきました。写真の色よりもずっとくすんだ色でした。
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desire_san at 2023-07-25 18:00
こんにちは。
私は東京のマティス展を鑑賞してきましたので、大変興味を持ってブログを読ませていただきました。 エルミタージュ美術館から今まで見たことのないマティスの作品が来ているようですね。フォービズムの絶頂期の作品でしょうか。 マティスは、フォービズム以降、形態ではなく、色彩でデッサンをすることで、色彩表現を現実から解放し、色彩の純化を追求したようです。独自の色彩の世界観で、色彩を単純化させていき、色彩によって造形や継体を 現実から解放し、並外れた色彩感覚や造形感覚で充分に絵に意味を持たせ、既成概念を超えた真にクリエイティブな発想で作品を制作しているところは凄いと思いました。 私は、今回のマティス展で見た作品に加え、今までに来たマティスの傑作、海外の美術館で見たマティスの傑作の全貌を、マチィスの画風の変化に分類して整理して、マティスの芸術の世界の全貌を整理してレポートしてみました。 https://desireart.exblog.jp/241852545/ ぜひ一度読んで見てください。 ご感想・ご意見などありましたら、ブログにコメント頂けると感謝いたします。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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