2009年1月24日、チューリッヒ歌劇場にて。
Semele - Händel In English with German surtitles Opera after the manner of an oratorio Music by Georg Friedrich Handel (1685–1759) Libretto by William Congreve Conductor: William Christie Producer/production: Robert Carsen Chor der Oper Zürich Orchestra: La Scintilla der Oper Zürich Semele: Cecilia Bartoli Ino: Liliana Nikiteanu Juno :Birgit Remmert Iris :Rebeca Olvera Jupiter/ Apollo: Charles Workman Cadmus/ Somnus: Anton Scharinger Athamas: Thomas Michael Allen 新年になってコヴェントガーデンはバレーは頻繁に上演していますが、オペラは昨年12月からのトゥーランドットの残りを上演しているもののその他はなく、27日になってようやく「死の都」が始まるというスロースタートに我慢できず、チューリッヒへ見に行ってしまいました。これが私の今年初オペラです。 チューリッヒオペラはこれが初めての訪問です。以前、ガラちゃんことbibingaさんから日曜のマチネーが狙い目で、日帰りで行くもよし、土曜日にもう一つ見て一泊すれば「一粒で二度おいしい」思いが出来る、と聞いていたのでチャンスを窺っていたのでした。今回は24日(土)の夜に「セメレ」を、25日(日)の昼に「シモン・ボッカネグラ」を見てその日のうちに帰ってきました。 さて、その「セメレ」ですが、ストーリーは単純で前に見たオペラ「カリスト」と似たような内容で、ギリシャ神話の神ジュピターが例によって女性を見初めて我がものにし、奥さんの怒りを買ってその女性が仕返しを受けるというものです。「カリスト」では女性が熊にされてしまい、哀れを催したジュピターによって死後は星座にして貰えますが、今回は焼き殺されてしまうのです(因みに神話では彼女の胎児はジュピターに助けられて、後に酒の神バッカスになるそうです)。本来悲劇のはずですがリブレット上でもあまり悲劇的な扱いではなく、ロバート・カーセンはこれを喜劇仕立てにしてセメレの死を誰も気にしない結末になっています。 演出は例によって舞台装置はシンプルで時代設定も現代風すが、衣装が凝っていて美しいし光の使い方が上手いしで、大変よくできていると思います。舞台だけでなく出演者も省エネで、最後にアポロが登場するはずが、ジュピターが「アポロがこう言っていたよ」とアポロの台詞を歌ってしまい、アポロ役をカット。また、Juno役のメゾが大柄な女性で、Iris役がとても小さいソプラノで、凸凹コンビにして二人で笑いをとる仕草が軽妙で感心しました。また、鷲に変身したジュピターがセメレをさらっていくシーンでは何もなく、ただ人々が芸能紙の一面トップで二人の中をゴシップ記事に仕立てたものを広げて読むことで置き換えたり、Juno達がいざジュピターがセメレを囲っている場所に飛んでいこうというときに、BAのティケットをハンドバッグから取りだして見せたり、なかなかアイデア一杯で楽しめます。また、合唱隊が扮する群衆の扱い方も上手くて感心しました。合唱の出来もとても良かったです。 La Scintillaというオーケストラは余りよく知りませんが多分この劇場付きのバロック管弦楽団なのでしょう。とても上手いし、クリスティの指揮がすばらしくて心底楽しめるヘンデルでした。 歌手では、タイトルロールのバルトリが期待通りの歌唱で、時折声が掠れる場面があるもののそれは小さな瑕で、終始例の声が瑞々しく響いてすばらしいものでした。彼女のあまり大きくない声にはこの小さな劇場(1100席しかないそうです)はとてもふさわしいもので、好んでここで歌う理由がよく分かります。 ジュピター役のアメリカ人テノール、チャールズ・ワークマンも絶好調で、滑らかな美声がとても気持ちのいいものです。ジュノ役のドイツ人メゾ、ビルギット・レンメルトも感心した歌手の一人で、輪郭のはっきりした声が好ましく声量もたっぷり。イリス役のメキシコ人ソプラノ、レベカ・オルベラも悪くない歌手です。イノ役のメゾはあまり感心しません。アタマス役はカウンターテノールかと思うような声でしたが、普通のテノールのようです。茫洋とした声はあまり好みじゃないです。カドムスとソムヌスの二役をやったバス歌手はまあまあ。 全体としてはとても楽しめた公演で、急遽見に来た甲斐がありました。 下の写真はカーテンコールでのCecilia BartoliとWilliam Christie。 次の写真はJupiterに扮するCharles Workman。 次はJunoに扮するBirgit Remmertです。 このオペラ劇場は上に書いたようにとても小さくて、雰囲気はいいのですが今回私が座った3階正面(Parkett Galerie)の4列目は柱の関係で3列目の客がいないにも拘わらずその前2列のお客の頭が邪魔でとても見難い席でした。これで220フランはちょっと酷い。最高額は320フラン(約25000円)でした。翌日の「シモン・ボッカネグラ」が最高270フランでしたので、バルトリのギャラがいかに高いか分かります。しかし4月のネトレプコが出演する「椿姫」は380フランなのでネトレプコのギャラはバルトリを凌ぐようです
by dognorah
| 2009-01-27 21:56
| オペラ
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Comments(12)
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kametaro07
at 2009-01-28 00:04
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お久しぶりでございます。私もチューリッヒのセメレ見ました。お粗末ながらブログも始めましたので、お暇な折にご覧いただけたらと思っております。
私もアレンはカウンターテノールかと思いました。時々ファルセットで歌っていたように感じました。 ところで、クリスティーが指揮をしながら時折演奏していた小さいピアノのような古楽器は何だかご存知でらっしゃいますか?ヴァージナルぐらいしか思い出せなかったのですが・・・・。
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こじんまりとしてオペラハウスでバルトリが聴けるなんて最高の贅沢ですね。羨ましいです。
セメレは、ROHでは2003年にやってくれたのですが(Ruth Ann Swenson)、それ以来一度もやってくれませんね。中世風の綺麗な衣装だった記憶がありますが、セメレはやっぱりENOの現代風のヒット・プロダクションの方が良いと思います。Junoの女王様衣装がENO版と同じような気もするので、この頃は同じプロダクションをあちこちで使うことも多いし、もしかしたら同じプロダクションかしら?大きなベッドが出てきて、ジュピターは最初白いスーツ着てませんでしたか?
こういう公演が観れて、うらやましい限りです・・・やっぱり声楽は、ヨーロッパに居ないとだめですね。
「省エネ」の各アイディア、面白く読みました。 チューリヒ歌劇場のヘンデル「オルランド」のDVDを持っていますが、やはりオケはLa Scintilla、カッコ内に「チューリヒ・オペラ管弦楽団」と日本語で書いてあります。映像を見ると、ヴァイオリンは弓が現代のとバロックのと混じっているようです。たぶん劇場付きオケのメンバーが、古楽系レパートリーを演奏する時は、La Scintillaという団体名を使っているのではないかと思います。
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dognorah at 2009-01-28 09:53
kametaro07さん、ブログはちょっと覗かせていただきましたが、時間のあるときにじっくり読ませていただきます。昨年ご覧になったオペラでは私と随分同じものを見ていらっしゃいますね。しかしパリもロンドンもネトレプコに振られてしまって残念でしたね。妊娠中だったせいですから、これからはそれほどキャンセルはないと思いますよ。
私の席からは指揮者は見えなかったので目で確認したわけではありませんが、プログラムによるとクリスティは指揮とチェンバロ担当なので、その楽器はチェンバロだと思います。
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dognorah at 2009-01-28 10:03
ロンドンの椿姫さん、バルトリはROH出演がこのところありませんね。2005年の「イタリアのトルコ人」が最後かしら?
私は2003年のROHのセメレ公演はパスしちゃったので今回が初体験です。ENOのも知りませんが、恐らく同じ演出でしょう。スーツの色は明るいベージュでしたし大きなベッドでした。ベッドの空間の星空が綺麗に実現されていましたが記憶にあります?
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dognorah at 2009-01-28 10:09
REIKOさん、予告通りチューリッヒに行ってきました。出演者に好きな人が出ていたらもう一度行ってみたい劇場です。
La Scintillaの解説ありがとうございます。私も演奏者は同じかも、とは思いました。別の団体を抱える予算を確保するのは難しいですからね。
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kametaro07
at 2009-01-28 15:43
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仰るとおり、プログラムよく見てみたら書いてありました。ありがとうございます。
そうです、そうです。やっぱりENOと同じプロダクションでしたね。
セメレの衣装はスリップで、映像にもなってるENOのローズマリー・ジョシュアのは超ミニでほとんど裸のようでしたが(実際に後姿だけオールヌードになりました)、バルトリのは丈も長くてその下に下着も着てますね、やっぱりwww ENOでも歌手の体型に合わせてちょっとづつ違うみたいです。
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sarahoctavian
at 2009-01-29 15:30
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チューリッヒオペラいいですね。色んなオペラ歌手のスケジュール追っていくと、チューリッヒに行き着くケースよくあります。ウィーンやロンドンと並んでちょっと気にになる劇場。5月のカサロヴァとミヤノヴィッチ(彼女たちにとってはホームなんですよね?)出演のアグリッピナが見てみたいな~。あ、これはロンドンへも一回だけお引越し上演するそうで、ロンドンの方々がうらやましいです。。。
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dognorah at 2009-01-30 03:24
sarahoctavian さん、ロンドンでのアグリッピナは5月17日ですね。演奏会形式です。同じ日にホグウッドが別のホールで「Arianna in Creta」をやるのです。私は先に発売されたホグウッドの方を買ってしまったので残念ながらアグリッピナは見れないんですよ。
素敵な写真入りのレポート、楽しく拝読しました。私もチューリヒのオペラハウスは大好きです。1週間、どこでも好きな劇場にはりついていろといわれたら、チューリヒに行きたいと思います。あのコンパクトな空間が院ティメートで素晴らしい。
バルトリという歌手はほんとに化け物ですね。彼女によって、オペラのレパートリーがどれだけ復活したことでしょう。 小畑恒夫さんは、バルトりは、レパートリーの復興という観点から見ればマリア・カラスの後継者なのだ、とおっしゃっていました。 そのバルトリよりネトレプコの方がギャラが高いというのは、個人的には世も末だなあ、という気分です。 加藤浩子
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dognorah at 2009-01-31 21:52
加藤浩子さん、レパートリーの復活という点では凄い貢献なんですね。それを舞台に上げてくれるということからもチューリッヒは彼女にとって好ましい場なんでしょう。私も珍しい演目を録画した彼女のDVDを持っています。以前、ブログで紹介しました。http://dognorah.exblog.jp/2488407/
バルトリが頻繁に出演するせいでしょうか、彼女が出るというのに満員にはならないようです。ところが更に高い入場料が設定されているネトレプコの椿姫は完売です。ビジネス的観点ではやはりポピュラーな演目でホールを満席に出来る歌手が大事なのでしょうね。
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ロンドンに在住です。オペラ、バレー、コンサート、美術展などで体験した感動の記憶を記事にし、同好の方と意見を交わしたいと思っています。最新の記事はもちろん、過去の記事でもコメントは大歓迎です。メールはここにお願いします。
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