パリの「トリスタンとイゾルデ」公演

2008年11月6日、Paris Opéra Bastilleにて。

指揮:Semyon Bychkov
演出:Peter Sellars

トリスタン:Clifton Forbis
イゾルデ:Waltraud Meier
マルケ王:Franz-Josef Selig
クルヴェナール:Alexander Macro-Buhrmester
ブランゲーネ:Ekaterina Gubanova
メロート:Ralf Lukas
若い水夫/牧人:Bernard Richter
舵手:Robert Gleadow

この演目を見るのは2月のマドリード8月のバイロイトに続いて今年3回目ですが、何度見てもいいものだと思いました。ヴァーグナーの中では一番好きな演目と言えそうです。

さて、開演前のキャスト表でマイヤーの出演を確認してやれやれと思ったら、マイクを持った人がステージに出てくるではありませんか!
やはりマイヤーのことで、彼女は調子が悪いけど歌うとのこと。
でも、第1幕が始まると「これで調子が悪いって?」とびっくりするぐらい快調そのもの。品のある美しい声でした。最初からそんなに飛ばして大丈夫?
第2幕も悪くなく、ニュアンス豊かな歌唱に惚れ惚れしました。ここでの高音は特に美しい。
ところがところが第3幕開始直前にまたマイク男が現れたのです。彼女は口パク演技をし、舞台袖で代役が歌うという形式となってしまいました。代役さんの名前は聞き取れませんでしたが(隣のフランス人も聞き取れないと言っていました)恐らくアンダーでしょう。マイヤーの2倍くらいありそうな立派な体格で、声はよく出るもののちょっと叫びすぎの感あり。しかし愛の死では抑制が利いてまあまあ。それにしてもマイヤーで聴きたかった。マイヤーは多分最初から第3幕を歌わないつもりだったのであれだけ第1幕と第2幕に力を注げたのでしょう。

トリスタンを歌ったクリフトン・フォービスはアメリカ生まれのテノールで、かなり頭は薄くて一見老けて見えますが年齢は恐らく40代後半か。私は初めて聴く人だと思います。第1幕ではよい面と悪い面が混交している感じでしたが、第2幕ではかなりよく、第3幕は非常によかった。死に際にそんなに声を張り上げられるかと言いたくなるほどの大声量ですばらしい歌唱でした。

ブランゲーネを歌ったエカテリーナ・グバノワは潤いのある美声で声量もあり、終始文句のない声を響かせてくれました。
クルヴェナールを歌ったアレクサンダー・マクロ=ブーメスターはごく普通のバリトンで印象は薄いです。
マルケ王を歌ったフランツ=ヨーゼフ・ゼーリッヒは昨年9月のROHのラインの黄金でFasoltを歌ったドイツのバスです。第2幕では立派な歌唱で大いに満足しましたが、第3幕はごく普通の出来であまり感心しません。
二役をこなした若いテノールはとてもいい声をしています。舵手というほんのちょい役に何とROHの研修生だったロバート・グリードウが出ていてびっくり。必死で歌えるところを探しているんでしょうね。ちゃんとカーテンコールにも出てきました。

指揮のセミヨン・ビシュコフ、音楽の自然な流れがとてもまっとうなもので、いい出来だったと思います。

ピーター・セラーズの演出は90%がヴィデオによるもので、舞台そのものは真っ黒な壁だけです。小道具はダブルベッドサイズの台だけで、それが船の中ではイゾルデの居室になり、第2幕では二人の居場所になり、第3幕ではトリスタンの死の床になります。従ってコンサート形式とあまり違いません。ただ、歌手や楽器を左右のバルコニー席またはその近くで演奏させて空間的効果は結構ありましたが。ヴィデオはなかなか手が込んでいて、トリスタンとイゾルデを表す二人の俳優が主に出てきます。共に全裸になって禊ぎを受けたり水の中で戯れたりしますが、そこへ至る過程で遠方から手前に向かって規則正しく歩いてきたりするなど、実際の舞台に合わせていろいろ表現していますが、時には非常に具体的に舞台を表しているだけというシーンもあります。わかりやすい内容と思いますが観客は舞台とスクリーンの両方を見ないといけなくてフランス人のように字幕も読む人は結構忙しいですね。ヴィデオの内容は特に第1幕は演出家の冴えが感じられて悪くありませんが、私はやはり舞台上で舞台装置を使って演出して欲しいと思います。
照明は全般的に大変暗く、カーテンコールでもそのままなので写真はあきらめました。その代わりカーテンコールのヴィデオを紹介します。
指揮者のビシュコフが入る前では、左からリヒター、マクロ=ブーメスター、ゼーリッヒ、フォービス、マイヤー、代役ソプラノ、グバノワ、ルーカス、グリードウです。


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by dognorah | 2008-11-11 04:14 | オペラ
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